斂の軌跡~THE MIXES OF SAGA~ 作:迷えるウリボー
リィンがリベール士官学院に入学してから一か月余りの時間が過ぎた。
五月上旬。最初の一か月、そして多くの学院生徒たちが最初の実地演習を終えている。リィンとヨシュアのように市内を中心に演習や奉仕活動をした者。各関所に配属されひたすら業務に明け暮れた者。中にはレイストン要塞本部やヴォルフ要塞へと配属され最新の設備やリベール領邦軍の中枢に近づけて興奮しきりの同期もいた。定期的な報告会にて各々の成果を語り合い、学院生徒はいずれも自分の見聞を広めていく。
授業も本格的に進み始め、学院生活は俄かに忙しくなる。
今日も今日とて、リィンは戦術史や帝国史の授業に明け暮れる。
そんなある日、リィンは講義の後に担当教官から呼ばれた。
「シュバルツァー、話がある」
「はい」
年を重ねているが、かつては類まれなる斧槍の使い手としてリベール軍で名を馳せた教官は、落ち着いた様子でリィンに報告した。
「この後、学院長室に行きなさい。学院長がお呼びだ」
「判りました。……あの、何かありましたか?」
「ん? ああ、別にお叱りを受けるというわけではない。安心しなさい」
担当教官は朗らかに笑う。
「いくつか所要はあるようだ。お前は、先の実地演習で成果もあげたことだしな」
そう言われては、リィンは苦笑いを浮かべるしかなかった。
国際犯罪組織、結社《身喰らう蛇》の先兵、怪盗紳士ブルブランとの邂逅。その事件の関係者となったリィンは、ヨシュアと共に学院の注目の的となった。事情聴取と共に、しばらくは学院生徒からしきりに話しかけられたものだ。その時の忙しなさを思い出しての苦笑だった。
放課後、まだ世界が赤く染まらない時間。リィンは教官棟へ訪れ、その最奥、学院長室へ入る。
その扉の前に控えていたのは、見知った先輩だった。
「あれ、ヨシュア先輩」
「お疲れ様、リィン」
教官からの説明で薄々察したが、例の事件が関わっていたヨシュアも控えていた。彼もまた、ある意味この事件で時間を奪われた犠牲者だが。
「また事情聴取でしょうか」
「うーん、学院長には教官たちを含め一度話してあるからね。その可能性は薄いと思うけど……僕としては、理由はもう一つあると思う」
「もう一つ、ですか?」
「ああ。実はちょうど一年前にも、学院長室に呼び出されてね。それと同じ理由じゃないかと思う」
一年前は当然あの怪盗紳士の事件など起きていない。ヨシュアが不祥事を起こしたとは考えにくいし、そういう意味でリィンが今日疲弊するなんてことはないだろう。
「その時は、いったいどうして呼び出されたんです?」
「はは、それは見てのお楽しみだ。さあ行こうか」
世間話もそこそこに、二人は学院長室へ入る。ヨシュアがノックをすると、奥から返事が返ってくる。
『入りたまえ』
時折聞いている学院長の声だ。
部屋へ入り、二人は順に声を発する。
「失礼します。二回生ヨシュア・アストレイです」
「同じく一回生、リィン・シュバルツァーです」
そして、二人は目の前に立つ人たちを目にした。
厳しくも優しい風貌の学院長と、そしてもう一人。
「なっ……!」
その人物を見て、リィンは驚愕した。思わず声が出てしまうほどに。
「ご苦労。まあそう畏まらないでくれ」
望洋とした艶のある声。聞く人の意識をつかんで離さない覇気。
茶髪、整えられた髭、リベール領邦軍の所属であることを占める深緑の軍服に、帝国正規軍将校であることを示す紫の外套。
「まだお前さんたちは軍人じゃない。そういった意味では、単なる中年親父との話だと思ってほしいからな」
リィンは、隣に立つヨシュアを見てしまった。彼は多少態度が変わっているものの、驚きはしていないようだ。
「まずは応接室に行こう。さあ、付いてきてくれ」
帝国正規軍、リベール特区独立警備軍将軍。《剣聖》カシウス・ブライトがそこに立っていた。
────
リベール士官学院の応接室にリィン、ヨシュア、学院長、そして学院の理事長でもある将軍カシウスがいる。四人は豪奢な机を挟んで椅子に座る。
「日々の講義で忙しいだろうに、すまないな。二人とも、学院生活は楽しめているか?」
柔らかい笑みを浮かべる《剣聖》。
こんなに早く、目標の人物に会うことができるとは。リィンは予想外すぎる状況に、ただただ驚きを隠せないでいる。
カシウスの言葉に、最初に返したのはヨシュアだ彼も少し緊張しているようだが、それでもカシウスと面識があると言っていただけあって落ち着いている。
「ご無沙汰しています、将軍閣下」
「君は相変わらず首席のようで、面白みがないんじゃないか?」
「そんなことはありませんよ。始まった《実地演習》も、学院の仲間たちも。おかげで毎日が充実していますから」
茫洋たる声は今、少年二人に向けられている。ヨシュアは笑い返した。
「頼もしい後輩にも恵まれましたからね」
「ふふ……君の進む道の糧になっているのなら僥倖というものだ」
そうして、カシウスはリィンを見た。
「そして、君がリィン・シュバルツァーだな」
「お初にお目にかかります……将軍閣下」
「ああ。だが君が察している通り、俺は君のことを知っている。数少ない弟弟子の一人だからな」
カシウス・ブライト。リィン・シュバルツァー。二人は共に《剣仙》ユン・カーファイを師として仰ぐ八葉一刀流の剣士だ。
八葉一刀流は武の世界ではともかく、一般的にはそう有名な流派ではない。だからと言うわけではないが、八葉の剣士はそう多くない。
「老師から聞かされている。俺よりも才能を持つ将来有望な若者のことをな」
「……初伝で修業を打ち切られた未熟者です。もっと、研鑽を重ねなければ」
「ふむ」
カシウスは顎に手を当てて少年を見た。
「……色々と積もる話もあるだが、それはまたの機会としようか。老師のことや世間話なんかは、酒でも交わしながらゆっくりとしたいところだからな。
君にとっても、今は俺と話そうという心持ちではないだろう?」
「……はい」
リィンが学院に来た目的の一つだ。はやる気持ちは当然ある。
だが、リィンもよくわかっている。剣は技術や力だけではない。心が、精神が伴わなければ昇華されない。
リベール士官学院に入学して一か月。まだ自分は変わってはいないのだから、今カシウスと話しても何も得ることはできない。
一目見ただけでリィンの真意を察する洞察力を見せるカシウスに脱帽する想いを抱く。歯がゆさを覚えながらも、リィンはヨシュアと共に自分を呼んだ、本題に注視することにした。
「今日君たちを呼んだ理由は二つある。一つ目は、君たちが出会った怪盗紳士という男についてだ」
リィンとヨシュアは背筋を正す。
「君たちの精細な報告書には感謝している。情報を持たない君たちはあまり実感がないだろうが、《結社》の出現とあれば警戒をしないわけにはいかない。俺も直接君たちから情報を聞きたかったからな」
リィンとヨシュアは互いを見た。そして頷き、まずヨシュアが口を開く。
「改めてご報告させていただきます。ルーアン市での事件について」
二人は順々に報告していく。今まで何度も話したことだ。その言葉はよどみなく、カシウスもまた最後まで二人の説明を無碍にせずに真摯に聞き続ける。
ルーアン市での実地演習に始まり、白い影を目撃したこと。その情報をめぐってアガット・クロスナーと戦い、彼の協力や一定の信頼を得たこと。その果てに、怪盗紳士ブルブランと対峙したこと。
リィンはカシウスに問うた。
「将軍閣下は……知っているんですか? 怪盗紳士のことを」
「怪盗Bのことなら小耳には聞いているがな。知っているのは、どちらかといえば身喰らう蛇のほうだ」
《身喰らう蛇》、またの名を《ウロボロス》。一般人が知ることはまずない、裏社会に出没する秘密結社だという。
《盟主》とよばれる存在の下に幹部や戦闘部隊が集まり、自分たちの目的のために大陸各地で暗躍を続ける謎の組織。
主に遊撃士が民間人を守るため、その五十年程の歴史の中で幾度か交戦を繰返し敵対してきた。そう、その筋にもコネクションを持つらしいカシウスは言う。
また大陸各国の軍隊も、機密事項故にその矜持にかけて戦ったこともあるかもしれない。しかし未だに組織の規模や目的など、ありとあらゆる情報が掴めていないのだという。
結社の目的は、未だ謎に包まれている。屈強な武人だけでなく、怪盗紳士を始め風変わりな人物も多いらしいが、その存在は確実に勢力を伸ばして大陸に影響を与えてきている。
「何か、例えば《猟兵》のような明確な危険があるわけではない。だが、結社を無視することは決してできない」
ヨシュアは無言のまま、カシウスの言葉を待っている。
「帝国を……リベール州を守るため、情報を集めなければならない。どんな情報でもだ」
剣聖カシウスがそこまで警戒するほどの組織。リィンはブルブランの存在を対峙したうえで只者でないと感じていたが、組織としての彼らの得体の知れなさを実感するのだった。
「まあ、そんなわけで君たち二人には、礼と労いの言葉を伝えたくてな。ルーアンでの実習、本当によくやってくれた。
そして、結社と出会ったらくれぐれも無茶をするな。士官候補生である以上軍人としての矜持は必要だが……同時に君たちは、道を見定めている若者でもあるからな」
カシウス・ブライト将軍はリベール特区独立警備軍を指揮する。それは帝国において二つないし三つの機甲師団を指揮することに匹敵するが、その前身はリベール王国軍だ。小国とは言え一国の軍隊を指揮していることに他ならない。
だが、そんなリィンとヨシュアにとって天の上の存在であるはずの二人は、武の理に至った人間らしく懐の深い対応をしてくれた。
「ま、年長者としてのお小言を伝えるというのが、君たちを呼んだ理由の一つ」
そして一転して、カシウスは口調をおどけたようなものにした。
「二つ目の理由は、学生らしく喜んでくれていいかもしれないな。『トールズ士官学院との交換留学について』だ」
ヨシュアとリィンは、順に反復した。
「トールズ士官学院との」
「交換留学?」
トールズ士官学院。その言葉に、リィンは無言ながらも縁を感じずにはいられなかった。何を隠そう、その学院はリィンがリベール士官学院と並び入学を悩んでいた学院なのだ。
帝国中興の祖といわれる《ドライケルス大帝》が創設した士官学校。現在は名門高等学校としての色合いも強く、卒業生は軍人のみならず多彩な道を選択していく。
「トールズ士官学院はそうした背景もあって、皇族男子はトールズに入学するのが習わしとされ、また現在の理事長職は皇帝陛下の長子であるオリヴァルト皇子が勤められている」
皇帝ユーゲントⅢ世陛下の長子、オリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子殿下。長子だが庶出のため皇位継承権を放棄しており、また皇族にも拘らず社交界やメディアに積極的に顔を出し、その飄々とした言動と民を思いやる行動力から、帝国臣民から《放蕩皇子》 の愛称で呼ばれている。
「私は理事長として、かつてオリヴァルト皇子とお会いする機会があった。その縁あって提案され、去年より始まったのがトールズとの交換留学制度というわけだ」
それぞれ帝国本土と属領リベール州、軍人としての色が強いリベール士官学院と高等学校としての多彩な勉学に励むトールズ士官学院。交換留学の目的としては、その両校の交流の意味合いが強いものとなっている。
機会は二回。五月下旬にトールズ側の留学生がリベール士官学院へ、そして七月下旬はリベール側の留学生がトールズ士官学院へ行くことになる。
「今回君たちは、トールズ側留学生を迎え入れ、案内する各学年の代表として選ばれた」
留学対象の生徒は基本的な成績の他、それまでの武術教練や特別に成し遂げた何かしらの成果によって選ばれるらしい。ヨシュアは文武両道の首席生徒として二回生の代表に。そしてリィンは普段の成績に加え先日のルーアン市での事件への貢献が評価され、一回生の代表に選ばれたらしい。
「留学期間は例外はあるが、基本的に一週間程度。その間、受け入れる側の君たちには学院の案内やリベール側生徒との橋渡し、また講義含め共に行動してもらい、彼らとの交流を深めてほしいと考えている」
この学院に来てから、リィンは本当に日常が変わったと思う。充実した学院生活も、緊張を強いられるような実地演習も。
そしてまた、新たな出会いを予感させてくれる、この交換留学も。
「頼まれてくれるか?」
そうやって問うたカシウス自身、まったく断られるとは思っていないような不敵な笑みだ。
リィンより早く、ヨシュアが淀みなく告げた。
「僕は昨年度も交換留学に参加させていただきました。喜んで、引き受けさせていただきます」
その言葉で、ようやくリィンは学院長室にはいる前のヨシュアの態度に合点がいった。彼はその聡明さで交換留学の打診を予想していたということだ。
彼に断る理由はないだろう。帝国とリベールを繋ぐもの、それを経験することはそのまま彼の血肉となる。
そして、それはリィンにとっても同じだ。リィンは『自分の道』を見つけるために、士官学院への入学を決意した。そして、カシウスがいなければまず間違いなく入学を決意したトールズ士官学院。関りを持たないなんて、そんなもったいないことはできる筈がない。
「俺も同じです。ぜひ、引き受けさせてください」
カシウスは笑った。
「決まりだな。細かい日程や詳細は、また追って知らせる。
君たち二人は帝国本土出身だが……それでも、きっと実入りのある一週間となるだろう。楽しみにしていてほしい」
────
リィンとヨシュアは揃って学院長室を後にした。夕焼けが生える、静けさを湛える教官棟で、リィンは少し面白くないように呟く。
「ヨシュア先輩も、判っていたなら教えてくれれば……」
「初めて聞かされた時の気持ちを君にも味わってもらいたくてね」
逆に愉快な表情をヨシュアはしている。この優しい先輩に久々に一杯食わされた気分だった。
「去年も僕は代表として受け入れたし、トールズへ留学もした。あっちの学生たちも面白くて、それでいて頼もしい人たちだった。すぐに仲間になれたよ」
「仲間……」
「真面目な子、破天荒な生徒、一見して不真面目な生徒……もちろん
ヨシュアをしてそこまでの濃密な時間だと言わしめる交換留学……リィンとしても期待は高まる。
確かな高揚を胸にして歩いていると、ヨシュアが「聞きたいことがあるんだけど……」と、リィンは神妙に呟く。
「え?」
「怪盗紳士と戦った時のあの力……後遺症、みたいなものは大丈夫なのかい?」
ぐっと、自分の腹が重くなったのを感じた。即座に返答せずにあからさまに沈黙した空間を感じて、ああこれはごまかせないな、と悟る。
「お互い、気にかけているだろう? 戦いの時に感じた、まるで自分ではないような違和感を」
それは肯定するしかなかった。
ヨシュアに対する、今までの彼と少し違うように感じた違和感もある。彼の琥珀の瞳が冷たく輝いたのを、はっきりと覚えている。
そして、自分にとってはやるせない思いを感じている。自分の中に渦巻く、怒りとも思えるような衝動を。
その遠因を知る自分でさえ、向き合うのを恐れるもの。今こうして考えることすら、不安を呼び起こす。
そうして沈黙を続けていると、ヨシュアは頭をかいた。
「聞いた僕が言うのもおかしいけれど、強引に暴くつもりはないよ。君が話してくれるまではね」
その言葉は夜の月のような、暗闇に迷うような優しさを備えていて、頼もしいと感じる半面、心苦しかった。
ヨシュアは『互いに』と言った。彼が自身のことを話していないという言い訳があるにせよ、それでもリィンは自分の身に宿るその危うさを感じていた。ヨシュアの戦いを見て感じた違和感は、違和感だけだ。けっして彼の実力の埒外から生まれ出たものだとは思っていない。
だが、自分のそれは違う。思い出すことすら恐ろしいそれは、周りすら傷つけてしまうかもしれないのに。
「けど……それをヨシュア先輩に話さないことは、きっと貴方を傷つけることにもつながるかもしれない」
「ねえ、リィン。こう考えるのはどうかな?」
ヨシュアは言う。
「僕らはそれなりに信頼関係を築けていると思う。それは確かだ。けど、きっと、だから全てを明かそうというものじゃない。
『この人には全てを話せる』、『この人となら一緒にいられる』。それはきっと、理屈だけじゃないんだ。諦めずに探しているなら、ある時、ある瞬間に、ある場所で。理不尽で暴力的なまでの感動を伴う答えを得る時がある」
「先輩は、得られたんですか? 答えを」
問うリィンに、ヨシュアは「まだまだ一番見つけたいものは、見つけてはいないけどね」と嘆息してから続けた。
「さっきの話に戻るけど、僕もトールズの仲間たちに会った時に。確信したんだよ。彼らには僕を変える何かがあるって」
きっと自身がそうすべきだと、そうしたいと感じた時に打ち明ければいいのだと。
ヨシュアが言っているのはそういうことだ。
「カシウス将軍も言っていた。『君にとっても、今はその時じゃないだろう』と」
先輩だから、兄弟子だから、率先して言わなければいけないものではない。
リィンはまだ学ぶ立場にある学生の身だ。道は、無限に広がっている。
「少しだけお節介みたいなものさ。後輩をそこまで無理させてしまった。申し訳なく感じていたから」
「ありがとうございます、先輩」
迷いは変わらずある。怖さは今まで以上にある。
だが、その不安を飲み込むほどの暴力的な確信が持てた。今は、これでいいのだと。
「一先ずは、気ままに頑張ろう。この学院生活を」
そのために。
「はい。まずは、交換留学を成功させましょう」
先輩、そして後輩として。
そしてそれ以上に、道を共に迷う仲間として、二人は拳を重ねるのだった。
そして日々は過ぎ去り、七耀暦千二百四年、五月下旬。
リベール士官学院の玄関口に、リィンとヨシュアは立っている。後ろには、交換留学担当教官と学院長も並び控える。
リィンとヨシュアは、向かいから近づく一団を見た。
同じく交換留学担当教官だと思われる人物を先頭に、その後ろには計八人の年若き男女が、それぞれ白と緑の制服を見に纏っていた。
彼らが完全に話せる距離まで近づいてから、ヨシュアが前へ出る。対応するかのように、一団の中から緑の制服の、幼女と見紛うような可愛らしい女生徒が現れた。
少女とヨシュアが握手を交わす。
「ようこそ、トールズ士官学院の皆さん。学生代表として挨拶を申し上げます。リベール士官学院二回生、ヨシュア・アストレイです」
「この度はお招きいただきありがとうございます。トールズ士官学院学生代表、二回生トワ・ハーシェルです」
その挨拶を皮切りに、リィンが前へ出た。
「リベール士官学院一回生、リィン・シュバルツァーです」
担当教官はいるが、あくまで生徒の自主性に任せるという両校の方針。故に、始まりの合図を斬るのは、リィンの役目だった。
その場の全員を見る。担当教官とヨシュア、そしてまだ名前と顔も一致しない、初めて出会う生徒たち。彼らは緊張している者、自分を観察する者、含みある笑みを浮かべる者、様々な者がいる。
彼らが、自分にとっての何かを変える確信になるのだろうか。
それはまだ、判らない。けれど、この選択が意味あるものを告げると信じて、迷うと決めた。
リィンは叫ばずとも、快哉をあげるような声色で告げた。
「本日より、リベール士官学院とトールズ士官学院。以上二校による、交換留学の開催を宣言します!」
なーんでこんな交換留学が開かれたんでしょうねえ……