斂の軌跡~THE MIXES OF SAGA~ 作:迷えるウリボー
「リィンさんに、頼みたいことがあります」
エマのその言葉は、リィンの中で何か大きな衝動を起こすものだった。
たった二言、頼まれただけ。文武共に優秀な成績を収めるリィンは学院の中でも頼れる存在だが、だからと言って常日ごろから事を頼まれるわけではない。
気心知れた仲間ではない、寂しく表現すれば他人である少女から言われたこの言葉が、一体何の引き金となったのか。
「……俺はどうすればいい?」
文字に起こせば頼りない疑問符。だが、リィンのそれは意図が違う。頼みを引き受ける是非ではなく、聡明な少女に対して、頼みたいことをなすために何をすればいいのか、と言う次の段階の思考。
「この二ヶ月間……結局、私たちはお二人の仲を取り持つことはできませんでした」
それは言うまでもなく、先ほど説得できずに食堂を後にしたマキアスとユーシスのことについてだ。
トールズ士官学院は、そもそもが貴族生徒と平民生徒がその違いをまざまざと感じさせられる仕組みがある。貴族制度が残る帝国において、その善し悪しはもはや問題ではない。リィンやエマ、そしてラウラたちは実感していないが、多くのトールズ学院生は卒業時には平民・貴族の違いなく友情を築いている者が多い。
それでも、それは今までのクラス分けによってなされるトールズでのこと。あらゆる事象が一新された特科クラスⅦ組は、その限りとはまだ言えない。
特科クラスⅦ組。貴族と平民が共に歩くことを強制されるこのクラスでは、マキアスとユーシスの衝突は必至だった。
どんな理由があるのかは判らないが、出会った初日から、マキアスはⅦ組という存在に疑問を呈し、「貴族生徒と共に授業をするなど」と罵り、そしてそれに反応したユーシスと口喧嘩をかました。ユーシスへの対抗心からつられてⅦ組参加を表明したが、聞けば聞くほどどうしてⅦ組に参加したのかと疑問を呈してしまう。
どちらにせよ、マキアスもユーシスも共存することを選んだ。ならば中途半端な結果は、Ⅶ組そのものが許さないだろう。
Ⅶ組としてのカリキュラムには、定期的な実技教練や、小規模であるもののそれを実際の場で発揮するための特別実習というものが、不定期で行われるらしい。先月は帝国南方、サザーラント州のパルムという紡績町に向かったのだとか。
学院を飛び出して生の帝国の現状を知るために動く。そんなところにも、リィンは彼らに親近感を感じる。
エマ、ラウラ、マキアス、ユーシス。彼ら以外にもあと二人、Ⅶ組には生徒がいるのだという。
現状の特別実習の成績は、順調ではないらしい。そもそもテスト段階の《ARCUS》を使っていることに加え、出会って一ヶ月程度の生徒たち。加えてうち二人は反発しあう問題児ときた。
「正直……悔しいです。私たち四人は、何もできなかった」
エマは少し思いつめた表情だった。
エマとラウラや、まだ見ぬ二人も、それぞれ価値観の違いはあっても協力しできているという。しかし穏やかな人々が多いためか、彼らの誰もまだ、個々人にはともかく、マキアスとユーシスの二人の間に割り込むことはできていない。
「きっと、マキアスさんも判っているんだと思います。ユーシスさんも悩んでいるんだと思います」
エマが言った通り、マキアスは実直で、そして誰にでも厳しく優しい。貴族が嫌いだというが、ラウラの性格もあって彼女とは話せるようになってきている。でもだからこそ、ラウラと話せてユーシスとは話せない矛盾が彼を悩ませているのかもしれない。
ユーシスの性格も理解している。御曹司ゆえか多少鼻にかけたような態度も目立つが、それは自然体がなせる業で彼こそ身分の差など気にしていない。マキアスに対しても、ほとんど皮肉を言う様子はこの二日間で見えなかった。
いずれにしても、エマの見立てはこうだった。
誰もいなかったのだ。そして何もなかったのだ。彼ら二人を焚き付けるような、大きな外力が。それは彼ら二人にとっての外力でもあり、トールズⅦ組にとっての外力でもある。
きっと、きっかけが必要なのかもしれない。
ヨシュアが言った言葉を思い出す。
『ある時、ある瞬間に、ある場所で。理不尽で暴力的なまでの感動を伴う答えを得る時がある』
それは、ある意味
「判った。乗りかかった舟だ」
リィンがその外力になるという、男子二人にとってははた迷惑な行いだ。
エマだって苦渋の決断だろう。聡明な彼女だからこそ、いわばよそ者であるリィンに任すことが何より悔しいはずだ。だからこそ、リィンは受けることにした。
ラウラに視線を向けるが、その表情に異論は見られなかった。彼女も彼女で思うところがあるのだと、そう思えた。
リィンは少し緊張の表情を浮かべる。
なにも、カギを握るのは自分だけではない。
「でも、彼らも俺がでしゃばるだけじゃ納得がいかないだろう。俺は、みんなの『中心』じゃないからな」
リィンはユーシスの皮肉を繰り返したが、特に胸が軋むこともない。彼の言うとおり、自分はⅦ組ではないのだから。
リィンの言葉に、エマがハッと顔を上げる。
「だから、ラウラ、エマ。二人を変えるのは、君たちだ。俺はあくまで助けるだけだ」
あくまで主体はⅦ組なのだから。そして願うなら、その時間を共にすることができた自分に、少しでもその一助を。
ラウラとエマは、それぞれ力強く真摯な顔つきだった。
「是非もない。何より同じ学院の友のためだ」
「はい。私も……Ⅶ組の委員長ですから」
人数は減ってしまった。たかが三人。だが、こればかりはヨシュアやトワ、同期たちの力を借りようとは思わなかった。
とにもかくにも指針は必要だ。まだ交換留学期間はある。今日は夜の帳もおりている。行動開始はまた後日として、今日はここでお開きとすることになった。
「ラウラも、エマも。今日はありがとう。寮まで送るよ」
それぞれカップを片付けて、リィンは二人にそう帝国男児の気概を見せる。
「ラウラさん、リィンさんと仲直りできてよかったですね」
「ああ。マキアスたちを焚き付けてしまったが、後悔はしていない。清々しい気分だ」
「はは……」
実直なラウラとの関りも、もとから物腰柔らかいエマとなら、もう心配はなさそうだ。
前を歩く少女二人。ポニーテールの青髪と、三つ編みおさげの紫髪が揺れていた。
リィンは一つ、気になることがあった。
「エマ」
少し突拍子もない声掛けだったから、エマだけでなくラウラも振り返る。
「どうしたんですか?」
素朴な微笑みだった。
「えっと、どうでもいいことを聞くんだけど」
人数は少なく他の同期も少ないとはいえ、隣にはラウラもいる。リィンは恥ずかし気に頬をかいて、聞いてみた。
「俺たち……どこかで会ったことないか?」
その質問は、少し冷ややかな学院の夜空に溶ていく。
交換留学はおおむね順調に進む。
二回生は受け入れる側のリベール生も含めて勝手知ったるもので、アンゼリカなどは去年も交換留学に選ばれている。学校を超えた友情は伊達ではなく、ヨシュアを中心とした二回生は日々のカリキュラムを順調にこなしていた。
風向きが怪しいのが一回生だが、トールズ側の四人は仮にも代表、多少のわだかまりはあっても授業や教練そのものは問題なく進んでいく。
授業や実技教練の場において、リィンはマキアスとユーシスに話しかけざる負えなかった。そもそも彼らと時間を共にする立場だ。こればかりは妥協できない。ユーシスもマキアスもどことなく対応に棘がある。だが子供そのものでもなく、不自然な緊張が過ぎる。
そして、時間が過ぎていく。
交換留学、五日目の夕方。授業を切り上げた学生たちの中から一団が校舎正門へと向かう。集まったのはリィンにヨシュア、そしてトールズの交換留学生八人。
やいのやいのと、学生らしい騒ぎを起こしつつも、総勢十人の学生たちは歩き続ける。やはり一団の中のたった二名は、極端に口数が少なかった。
空が茜色に変わる頃には、一同はレイストン要塞前までたどり着いた。リベール領邦軍の最終防衛線、かつて百日戦役では、州都グランセルとならび最後まで武力制圧を受けなかったリベール州の要衝だ。
ヨシュアが代表として門兵に来団を告げる。身分証明を済ませた後、一同は中に入る。案内役の兵士に連れられ、辿り着いたのは司令本部。
さらにその中の複雑な道を行き、やがては広い部屋に辿り着く。
そこには豪奢な長机があり、軍事施設とは縁遠いような格式高い装飾品が軒を連ねていた。貴族の部屋とまではいかないものの、導力灯も職人のガラス細工品に改められ、無機質な雰囲気とは離れている。
広い部屋のその奥には、リベール領邦軍の軍服を纏った壮年の男性がいる。
「トールズ士官学院、交換留学生の諸君。よく来てくれたな」
見間違えるはずもない。彼の姿を見て、ある者は息を吐き、ある者は背筋をただし、ある者は緊張の面持ちで正対する。
「今日はリベール士官学院、理事長としての立場で挨拶をさせてもらおう。無骨な要塞内部ですまないが、晩餐会を開くとしようか」
交換留学における重要な催しの一つ。受け入れ側の理事長が主催する晩餐会の始まりだった。
────
リベール領邦軍の体制は着実にエレボニア帝国正規軍の影響を受けつつあるが、この十余年の動きや役割も相まって、大筋は旧リベール王国軍と大差ない。
帝国正規軍は常在戦場を意識させるためか食事が質素で、お世辞にもおいしくないのが有名であったりする。
対して旧リベール王国軍は、帝国に比べると日々の食事がとても豪勢だというのが有名だった。
今日の晩餐会は、一軍事施設の中で行われる。主催するカシウスが純粋な軍人だけあって国賓レベルのもてなしなどはできないが、そもそも彼らは士官学院に属する士官候補生だ。そこに立場の違いはない。軍属でない来賓を迎えるための応接室を使っているだけ、晩餐会としては十分体裁を保っているといえた。
カシウスは上座に腰を掛け、各人に茫洋たるまなざしを向けている。
若者たちは会話を続けつつも、出てくる庶民的なメニューに舌鼓を打っていた。
「どうだね、ユーシス君、アンゼリカ君。四大名門の血脈たる君たちにとっては、どうにも武骨なメニューだろうが」
「いえ。バリアハートは穀倉物が有名ですが、貴族の食とは違い、暖かみを感じる素晴らしい食事です」
「今は私もユーシス君も、一士官候補生の身。どうか気にせず扱っていただければ幸いですよ、カシウス理事長」
アンゼリカもユーシスも、よく平民が想像する傲岸不遜な貴族とは違い、本質を見ようと努力する価値観を持っている。それはこの場においても変わらない。さすがに貴族の会合で出るようなメニューとは違うが、それでもユーシスが例えた『暖かみ』は、まさしくリベールの気風を表現するものだった。
「トールズ士官学院も寮制度があると聞くが……食事は寮母が用意するのか?」
「いえ」
答えたのはトワだった。
「第一学生寮はその限りではないですけど、基本的に朝夕は自分たちで用意することが多いです」
カシウスは頷いた。
「ただ、トールズはほとんど
リベール士官学院の場合、学生寮は学院の敷地内にある。時間に余裕があればツァイスの街中に繰り出すこともできるが、学生寮で食事をいただくことが多い。
説明したトワを見て、カシウスは物腰が柔らかくなる。
「こちらには生徒会制度はなくてな。オリヴァルト皇子殿下ともお話して、取り入れられずとも見習いたいとは思っている」
「はい。私たちの生徒会は忙しいけれど……毎日がとても充実しています」
「嬉しいことを言ってくれるな。学園きっての才媛、どうか実のある一週間を送ってくれ」
トワはその小さな身からすれば肝が据わっているだろうが、帝国内で指折りの軍人の前だ。緊張は隠せず、カシウスがジョルジュに目を移してから息を盛大に吐いていた。隣に座るアンゼリカと何かしら言葉を交わした後、顔を膨らませて目尻を上げた。
「ジョルジュ君は本職に劣らず導力技術に精通していると聞いたが、《ARCUS》というのはリベール士官学院でも試用できると思うか?」
「そうですね……運用そのものは、不可能ではないかと思いますよ。問題は技術面よりも政策的な問題のほうが強いかと思いますが」
「そうか。リベール領邦軍としても、有用な技術は迎え入れたい。ルーレ工科大学出身の君に話を通せば、少しは融通も利くのかな?」
「ははは、理事長も冗談がお好きですね。ヴァンダイク学院長とも話が合いそうです」
「それは最高の誉め言葉だな」
話の対象はマキアスに移る。
「君の父上……レーグニッツ帝都知事とは以前お会いしたことがあってね」
「父さんと!?」
マキアスは思わず手に持つフォークを落とした。慌ててそれを取り直し、ばつが悪そうに顔をしかめて、しかし何とか表情を整える。
「失礼しました、そうでしたか」
「鉄道の状況や財政計画の類似もあって、リベール州と帝都は交流も進んでいる。彼がリベール州の視察に来た折だ。いろいろなことを話した。初の平民出身の知事の卓見は伊達ではなかった。」
招待される側をたてるために無言であることが多かったリィンは、カシウスとマキアスの会話を耳に入れながら考える。
この場にいるのは、多くが帝国の政治に興味がある面々だ。四大名門のユーシスとアンゼリカ、学生会長の慧眼を持つトワ、帝都知事の子息マキアス、それぞれ目的があるヨシュアとリィン。他の者も、この場に招待される以上並々ならぬ可能性を持っていることには変わりない。
空気の変化には気づかないわけがない。カシウスも知っていて平然としているのだろう。
マキアスの父であるカール・レーグニッツは、革新派のナンバー2とも目される人物だ。四大名門が中心となる貴族派に対抗する革新派。帝都は革新派を支持する声が強くそしてリベール州との交流があり、実質両地域の代表格ともいえる二人が親身に話す機会があったという。
だとすれば、鉄血宰相と通じているというあの噂は本当なのか。
「彼に負けず劣らず、君もその頭脳をいかんなく発揮してくれ」
「ありがとうございます。このリベールでの留学、もっと見分を広めたいと思います」
「そして秀才という意味では……エマ君は一回生の主席と聞くが」
エマはそう前に出る性格ではないので恐縮続きだ。
「実技教練の多い
「はい」
それについては心配がなく、すでにエマはユーシスと共に学院生徒の注目の的である。
リィンは食事を続けつつエマを見た。
彼女は帝国西部出身と聞いた。高等教育に興味があり、奨学金制度も充実しているという理由でトールズを選択したと言っていた。総合高等学校としてのトールズの門戸を叩いたわけだが、とはいえ魔導杖の扱いにも長けている。
リィンは、フォークを口に運びつつ考えた。
どうして、自分はエマにあんなことを聞いたのか。
思索を続けていると、リィンとエマの間にいたラウラがずいっと前に出る。
「つかぬことをお聞きします、理事長。八葉一刀流についてなのですが」
ここにいる生徒の情報を知らないカシウスではない。ラウラのことを見て、カシウスは盛大に笑う。
「ほう? てっきりリィンと話を進めていると思ったが」
「はい。リィンとはさっそく、剣の道について話し、意見をぶつけました」
ラウラがリィンを見たので、少年もまたそちらに意識をとらえなければならなくなった。
「そうなのか? リィン」
「はい。八葉一刀流やアルゼイド流を超えた剣の道としての心構えです」
「ふふ、この間に俺から一方的に教えなくてよかっただろう」
それは交換留学のことを明かされたときのことだ。別にカシウスから何かを聞いてもリィンにとっては得たものがあっただろうが、きっとそれではこの短い期間で、ラウラとの友情を築くことはできなかった。
「心根を言えば少し歯がゆいですけど、切磋琢磨できるこの時間を続けたいと思います」
「いい心がけだ」
「私にとっても貴重な経験でした。ですが私にとって《剣聖》である貴方と会えるこの場は、前々から楽しみにしていました」
「ふふ……アルゼイド流か。ヴィクター殿とは、私もいつか会ってみたいものだ」
《剣聖》と《光の剣匠》の邂逅。武の世界に立つ人間なら、きっと誰もが待ち望むものだろう。
ラウラは高揚した面持ちで、よどみなくカシウスと言葉を重ねている。リィンは同門だけあって意識して本質的な問答を避けているが、ラウラは状況が別だ。
その話を続けながら、他の者たちはそれぞれ話を続けている。
「おいヨシュア。あのオッサン……さすがの身のこなしだな。隙がありゃしねえ」
そんなことを言っていたのは、カシウスから遠い席に座っている
「クロウ。君は今すぐ、不幸な目に合えばいいと思う」
ヨシュアは極めて侮蔑するような表情をしている。彼がこんな若者らしい表情をしているのはなかなか見ない。不真面目なクロウと接しているだけあって、彼の普段見えない部分が引き出されているのか。
そしてそれを感じているのはカシウスも同じなようで。
「君が年頃の少年らしく悪態をつくとは、ずいぶんといい出会いに恵まれたな」
「ええ。この学院にきてからの、貴重な財産です」
ヨシュアは胸に手を当てた。クロウに限らず、トワも、アンゼリカも、ジョルジュもまた、彼にとっては同じ存在だろう。
「君は、クロウ君だったかな。アンゼリカ君に劣らず、戦闘力には光るものがあると聞いているよ」
「うっす。それなら理事長さんと戦ってみたいもんですねえ」
「俺など所詮一人の軍人、良くて一介の剣士に過ぎないさ。若者たちの可能性にはかなわんよ」
彼の実力をよく知るリィンとヨシュアにとっては卒倒ものの発言だ。トワはこの場でなければまたクロウの頭を叩こうとしているだろう。
「ちょ、ちょっとクロウ君!」
カシウスはおおらかに笑う。このあたりの懐の深さも彼が慕われる理由だ。
「なに、かまわんさ。俺も君たちぐらいの年の娘がいるが、よく『不良中年』と文句を言われる。将軍も家に帰れば形なしというわけだ」
それぞれが聞きたいことを聞く。話したいことを話す。特に二回生を中心に、緊張がありつつも堂々とした受け答え。また生徒同士も、リィンとトールズの二回生、ヨシュアとトールズの一回生と、滅多に合わない組み合わせでの会話に花が咲いた。
それらを穏やかに見つめて、カシウスが口を開いた。
「改めて思う。それぞれ可能性のある者たちばかりだな」
生徒たちは唐突に変わった雰囲気に、並行せざるしかなかった。
「リベール州は帝国領の中でも特殊な立ち位置だ。誰もこの土地を、『さあ帝国の大地だ』と気兼ねなく言うには抵抗もあるだろう。穿った見方をすれば、この場のすべての者が、間接的にリベール州と因縁を持っているといってもいい」
それは逆に言えば、リベール州が歪な形で帝国と同化してきているということ。
「この交換留学を提案したのは、トールズ理事長を務められるオリヴァルト皇子殿下だった。帝国本土とリベール州。百日戦役を境に繋がった二つの場所は、もはや若者たちにとっても無関係とは言い切れない。交換留学によってこれからの帝国を考えるための糧としてほしい。それが皇子殿下の御意思だ」
少なくとも一回生においては、初めて聞くことだ。まだ見ぬ故国の皇子の意思。
二か月後、トールズへの交換留学に選ばれる者は、理事長であるオリヴァルト皇子と会うことができる。きっとそこで、彼の真意が聞けるのだろうか。
「私にとっても、この提案は渡りに船だった。帝国領となった以上、もはや州にとどまり続けることはできない。だからこそ私にも生徒たちにも、考える場所と時間が必要だった」
リィンは、カシウスが自分に目を向けたのに気づく。茫洋たる瞳は、すべてを飲み込みそうな渦が見えた。
「先ほどのラウラ君とリィンを筆頭に、どうか互いの心をさらけ出してほしい。今はまだ、意味も意義もわからないかもしれない。必要を感じないかもしれない。感情を揺さぶってしまうかもしれない。いい影響も、悪い影響もあるだろう」
二人が息を呑んだのが判った。その二人が誰であるかは、全員が判りきっていた。
「だが、それも縁だ。縁は深まれば絆となる。遠く離れようと、立場を違えようと、何らかの形で存在し続ける」
リィン、ラウラ、マキアス、エマ、トワ、ユーシス、クロウ、ヨシュア、ジョルジュ、アンゼリカ。
他にも、きっとたくさんの生徒たちが、人間たちが触れ合う時が訪れる。
数奇な運命をたどる彼らがリベールという気風を併吞したこの帝国で、一体どんな軌跡を辿るのか。
「何度も言うのは、それが俺の本心であるかに他ならない。どうか実りある学院生活を送ってほしい」
今はまだ、誰にも判らない。
晩餐会の特殊反応
ラウラ:数日間でライバル剣士と父上に並ぶ剣聖に会えてテンションMAX。
トワ:トワトワしそうな挙動で緊張。
ジョルジュ:導力技術にも精通した様子に納得。
アンゼリカ:実力が剣だけではないと肌で感じて武者震い。
マキアス:「父さんとも親しいなんてやはりあの噂は……?」
ユーシス:「……剣聖か」
エマ:「剣聖ですか……」
クロウ:「剣聖の娘か……」←斬首刑フラグ
次回、交換留学もクライマックス……!