斂の軌跡~THE MIXES OF SAGA~   作:迷えるウリボー

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5話 燻る影②

 

 各種依頼を重ねて、少しずつではあるが遊撃士としての研鑽も重ねていく。四人のケルディックでの日々は、おおむね順調だった。

 署名の依頼も、ごくまれにしか顔を見せない商人を除けば多すぎるほどに集まった。これだけあれば、オットー元締めも満足してくれるに違いないだろう。

 その『事件』が発生したのは、ケルディックにきて二週間がたとうとしていた時。四月下旬のことだった。

 時刻は夕方。書類を渡すために元締め宅へと向かおうとしたとき、四人の空気は朗らかなそれから変わり緊張を帯びる。大市のほうから冗談では済まされなさそうな喧噪が聞こえてきたからだ。

 サラの指示を仰ぐまでもなく、四人は同時に大市のほうへ動いていた。フィーは少し反応が遅れたが。

 大市は正方形とも円形ともいえるような敷地の中に、外周と内周に屋台造りの商店が連ねている。青空市場は開放的なのだが。

 市場の出入り口付近だ。商人が二人で正対して、まるで決闘を始める寸前のような雰囲気で仁王立ちをしている。少し余裕もなく、ほかの商人たちもおいそれと仲介できていない。

「ふざけるなよ! この場所は俺の店が開く契約だぞ! ショバ代だって払ってんだ!」

「それはこちらの台詞だ。許可証も持っている。嘘はやめてもらおうか……!」

 ともに男性、身なりからして地元の商人である若者らしいと都市部からやってきたと思えるビジネススーツの男。

 エステルは近くにいる女性に聞いてみた。当人たちの言葉端からも予想はできるが、どうやら許可を得た場所をめぐってのトラブルらしい。

 ともかく、今目の前の二人はお互いの胸ぐらをつかんだ。

 支える籠手の本文は市民の安全を守ること。暴力行為は許すわけにはいかない。

 サラが壮年の商人ハインツの腕を制する。ガイウスは後ろから若者マルコを羽交い絞めにした。

「はいはい。お二人とも、少しは熱を覚ましなさいな」

「……ぐ」

「女神も人を傷つけるのは良しとしないだろう。落ち着くといい」

「……なにを」

 幸いにもまだ沸点には達していないらしい。長身のガイウスと、女性とは言え覇気のあるサラが割って入ったのもあるだろうが、商人二人は大人しくなった。

 だが、怒りそのものは収まってはいないようで。

「ずいぶんとガキが多いが……なに邪魔しやがる!」

「身分を名乗ってもらおうか? そうでないと納得はできない」

 サラを中心に、エステルとガイウスが身につけた紋章を指し示した。

「あら、ここ二週間はケルディックにいたのだけれど」

「私たちは、遊撃士協会の者です。準遊撃士のエステルといいます」

「ガイウス・ウォーゼル。同じく準遊撃士だ」

「あらら、頼れる後輩だこと。──サラ・バレスタインよ。A級遊撃士、とでも言ったほうがいいかしら?」

 A級とは、遊撃士の階級における公式の最高位を指す。大陸に二十人いるかと言われるその実力者たちは、たとえその界隈の人間でなくとも勇名が轟くものだ。ただでさえ遊撃士は、少なくとも一般市民にとっては頼れる味方なのだから。

「フィー・クラウゼル。遊撃士じゃないよ?」

 最後にフィーが余計な茶々をいれた。そのせいで周囲の者たちも「はぁ……?」と微妙な空気になるが、ともあれ支える籠手がこの場にいる効力は計り知れない。

「ガキとは言うけれど、なら大人としての態度を見せてもらいたいですね」

 エステルがきつく言う。サラほどではないが、少女のジト目は男どもに効いたらしい。こんなときは猫かぶりを身につけてよかったと思える。

 状況は察した通りのもので、商売をするための許可証、そこに記された商店の設営場所が重なっていたらしい。最近の情勢もあり、もともと殺気立っていた商人たち。そこへこういったミスがあれば、トラブルも起こりえるか。

 自分たち遊撃士にできるのは、せいぜい暴力行為を止めること。

 やがてオットー元締めがやってきて、同じ商人の目線で見れる彼に諫められたことで、市場はようやく落ち着きを取り戻すのだった。

「すまんのう……まだ君たちを呼ぶほどではない程度で治められていたから、黙っていたのだが」

 依頼の署名書類を渡すのと、そして先ほどの出来事の仔細を確かめるため、四人は再び元締め宅へ訪れていた。

 元締めであることも起因してか、あるいはこういった出来事が増えてきているからなのか。オットー元締めは疲れたような様子だった。

 こうしたトラブルは一ヶ月ほど前から増えていたらしい。最初は商人同士で解決もできていたが、数日に一度は元締め直々に諫めに行っている。

 そういうことこそ遊撃士に頼ってもらっていいのに、とエステルは思った。

 だが経験あるサラは、別の視点から物事を見る。

「そういえば、オットー元締め。領邦軍兵士はどうしているのですか」

 帝国は広い。遊撃士はあくまで市民の平和を守り抜く。こういったとき本来治安を守るのは、治安維持部隊たる軍人の役割のはずだ。そしてここは四大名門のお膝元。正規軍ではなく、クロイツェン領邦軍になるのだが。

 問題はそこだった。最近は大市の問題に対して、まったく領邦軍が仲裁に来ないのだという。

「ふむ……それはどういうことだ? ノルドでは、連絡役の正規軍が駆けつけてくれることもあったが」

 ガイウスはピンと来ていないらしい。それに対して解説するのはサラやエステルだが、珍しく口を開いたのはフィーだった。

「税収の陳情を取り下げるまでは領邦軍は治安維持に介入しない。マッチポンプと言うか、よくある戦略だよね」

「ほほ……聡明な子じゃな。遊撃士ではないといったが」

「……ども」

 フィーの眼は揺れているが、疲れているとか、めんどくさいとかいう否定的な感情ではない。例によってエステルとサラだけが判る。オットー元締めに褒められて照れている。

 それはそうと、暴かれた真相にガイウスも複雑な表情だ。

 納得がいかない様子の少年少女に、元締めは穏やかに笑いかけた。

「心配してくれて嬉しく思うよ。だが、遊撃士には遊撃士の領分があるじゃろう? そこを蔑ろにしてはならん」

 ここまで来て、サラが前に出ない理由はそれだった。

 遊撃士はあくまで、人民保護を原則としている。その大原則をなすために、遊撃士協会は国政への不干渉を掲げている。領邦軍組織に何を言える立場でもないのだ。彼らが市民の命を脅かすような行為でもしなければ、たとえ違法行為だとしても、遊撃士は目をつぶるしかない。

「依頼は本当に感謝しているよ。忙しくなければ、ケルディックの町を楽しんでいってくれ。サラ君、エステル君、ガイウス君、フィー君」

 一人一人を見つめ、元締めは優しげに笑うだけだった。

 オットー元締めと別れ、四人は宿酒場へ向かう。

 夕方のケルディック。いつもは四人の後ろを歩く少女が、今日は先頭を歩いていた。

 エステルがフィーに話しかける。

「珍しいわね、フィー。あんたがあそこまで言うなんて」

「別に。ここの人たち、いい人たちだったから」

「え」

「ちょっと納得いかないだけ」

 そう言って前を歩き続ける。

 エステルは微笑ましかった。平坦な彼女だが、いろいろなものに触れて、少しずつ活気が出てきている。

 一方ガイウスは、後方で思案顔をしていた。彼が後ろを歩くというのは珍しくはないのだが、いつも以上に考え事をしているようだ。

「考えてるわねー、青少年。どうよ、調子は?」

「……税収とは無縁だった。だから実感はない。それでも、元締めたちが困っているというは判る」

「ええ、そうね」

「人との交流が進めば……ノルドもこうなっていくのだろうか?」

「断言はできないわ。ケルディックとノルドじゃ取り巻く環境があまりにも違うから。でも社会と繋がるいうのは、良いも悪いも繋がっていくものよ」

「そう、ですか」

 ここにいる全員、思うところがある。特にエステルとガイウスは、自分の故郷を重ねて考えている。

 そこに何かしらの糧を得られることを、サラは望んでいた。

 宿酒場の前について、四人は話を囲む。

「さて、これで私たちが頼まれた本筋の依頼は終わったわけだけど……」

 望んでいたからこそ、サラはそう言った。

「どうする? あんたたち。ケルディックに残るか、帝都に戻るか」

 準遊撃士二人を監督するのはサラだ。基本的にはサラの一存でことが進む。今回の依頼を受けたのもサラだった。だが、サラは彼らを育てる立場である。遊撃士を育てるということは、ただ命令に従わせるだけではない。限られた情報や戦力の中で、あくまで主体的に行動すること。だから、サラは次の行動を彼らにゆだねた。

 少年少女の意見は同じだった。これについてはお互いの意思が考えるでもなく判った。

 代表してエステルが答えた。

「当然、残るわ。『ちょっと納得がいかない』から」

 

 

────

 

 

 四人がケルディックに残って数日は様子を見ると決めた、次の日。まるで示し合わせたかのように、さらなる事件は発生した。

 昨日の時点で怒り心頭だったものの、元締めの仲裁によりなんとか落ち着きを取り戻した商人マルコとハインツ。不幸というかなんというか、彼らに悪意そのものが振り下ろされたのだった。

 早朝。なおも続く喧噪。

 両者の商店の屋台が、完全に破壊されていたのである。もはや原型をとどめている部位を探すほうが難しく、無機物でしかも他人である商人たちの店なのに、言いようのないもの悲しさをエステルは覚えた。

「いい加減にしろ! もう怒ったぞ!」

「それはこちらの台詞だ! どうせ君がやったんだろう!?」

 すでに一触即発。近くに備える元締めの仲裁も、もう役には立っていない。

「はいはいそこまでよ! ……昨日も言ったわねこの台詞」

 さすが、この程度の喧噪ではものともしないA級遊撃士だ。繰り返しのような台詞に溜息を吐いていたが。

「またあんたらか!?」

「今度ばかりは放っておいてくれたまえ!」

 だが、これでも男性二人は腹の虫がおさまらないといった様子だ。あれだけ無残な様子なのを見ればその気持ちも判るが。

「犯罪だ犯罪! 器物破損だけじゃない、盗難もだぞ!?」

「あくまで君がやったのだろうが! このうえ私に罪をかぶせようというのかね!?」

 と聞いて、少年少女は経緯を聞くことにした。二人体と主観に寄りすぎるため、オットー元締めからだ。

 結論から言えば、被害はマルコもハインツも同じ程度のものを受けている。目に見えてわかるような商店の破壊と……そして商品の盗難だという。

 真相は判らない。だが明らかに事件だ。調査は必須だが──不穏な影が燻るケルディック、順調にはいかせてくれない。

「そこまでだ」

 固い、冷たい男性の声。大市の入り口から響く。

 そこにいるのは五名の兵士だった。

 白色のニッカポッカに澄んだ青色の軍服。クロイツェン領邦軍であることを示す衣装。先頭で無遠慮に人波をかき分けるのは、同じく青色だが外套を纏っている小隊長。

 彼らは一直線に、渦中の二人の前へとやってくる。

「こんな早朝から何事だ! 騒ぎを止めて、即刻解散しろ!」

 ある意味、商人二人よりもやかましい声だった。小隊長でなく、隊員たちもまた威圧的だ。

 領邦軍とはいえ、それでも商人たちは簡単には引き下がれない。暴力に賛成などできないが、彼らからすれば納得がいかないのは当たり前だ。

 そんな様子の商人二人を侮蔑の視線を返しつつ、小隊長は遊撃士と同じように、オットー元締めに説明を求めた。

 昨日大市を閉じる前に生じた商人二人のいざこざと、深夜のうちに発生したと思われる商品の盗難・商店の破壊事件。互いに互いを犯人だと考えていること。そろって自分が犯人ではないと叫んでいること。

 事のあらましを受けた小隊長は言った。

「なるほどな。ならば話は簡単だ。貴様ら()()が犯人だろう」

 領邦軍兵士を除く全員が絶句した。

「互いの屋台が破壊され、商品までもが盗まれた。いがみ合う二人の商品が同じ事件を同時に起こした。そう考えれば辻褄が合うだろう」

 暴論、それに尽きる。子供が聞いても呆れるほどの論理。周囲が騒然とする。

「……バカ?」

 フィーが呟いた。その言葉が周囲のざわめきに混じっていてよかった。聞こえていたら何どんな視線を向けられたか判ったものではない。

 少女の心境には十割同意するが、エステルもサラもどうするか決めかねている。

 そこで声をあげたのは、以外にもガイウスだった。

「……すまないが、聞いても構わないだろうか」

「なんだ? 貴様は」

「ガイウス・ウォーゼルという。遊撃士だ」

 兵士たちと小隊長はにわかに訝しな目線と、明らかに嫌がるような目線をそれぞれガイウスに向ける。その結果、その後ろにいるエステルとサラにも、同様に遊撃士の証である支える籠手の紋章を見つけられた。

 ガイウスは続ける。

「現場検証や証拠の確認をしていないが、犯人を断定できるのか?」

「領邦軍にはこんな小事に手間を割く余裕はない。観光気分の遊撃士とは違ってな」

「……」

 今度はエステルの瞳が冷たくなっていく。

「事件を調べるとでも? 確かに事件ではあるだろうな。だが領邦軍、政体の決定に貴様ら(遊撃士)がたてつくというのか?」

 沈黙。

「さてどうする?そのまま騒ぎを続けるならそのように処理するだけだが」

 商人たちに対し、今回の事件をなかったことにしろ。そうしなければ今の論理で強引にでも逮捕してやる。

 暗にそう言っている。

 納得のいかない遊撃士たちだったが、当人ではないため()強引にはできない。当人たちは権力に脅されては、冷静な判断ができない。黙っているしかなかった。

 その様子を見届けた小隊長は強引に笑う。

「それでいい。今後はあまりトラブルを起こさぬよう気をつけたまえ」

 兵士たちは去っていく。どうにも釈然としない早朝の一幕だった。

 

 

────

 

 

 三十分後。例によって三度目の元締め宅である。

 全員が腰かけ、少し重い空気を漂わせる中。それぞれの建前の言葉も待たず、エステルは言った。

「今回の事件、私たちに調べさせてもらえませんか?」

 驚くは元締めだけ。遊撃士チーム四人は、当然といった様子だった。めんどくさがり屋なフィーまでもが、だ。

「私たちは支える籠手。困っている人を見過ごすわけにはいきません」

「エステル君……」

「領邦軍の小隊長はああ言ってけど、元締めが『依頼』をしてくれれば、『真相を知るだけ』なら、できるとは思うんです」

 遊撃士は、国の政府に口を出すことはできない。その制約を守るからこそ、遊撃士は国家の枠を超えて大陸中に支部を持つことができた。

 だが依頼となれば、そしてそれが政府にたてつくようなものでなければ話は別だ。

「自分も同じ考えです、元締め」

 ガイウスが言った。

「何もなかったことにするのはできない。協力させてください」

「私も」

 フィーも言った。

「商人さんたちも怒鳴ってたのは反省してたし。あのままじゃ納得いかないだろうしね」

 あれだけ慈悲の無い扱い。納得できるはずがない。あれもきっと、陳情を取り下げない大市に対する仕打ちなのだろう。いくら何でも力のない民草をいたぶりすぎている。

 ケルディックで時を過ごして二週間がたとうとしている。心優しい人をたくさん見てきた。彼らのために、何かがしたかった。

「オットー元締め、どうですか? うちの後輩たちはこう言っていますけど」

「頼もしい限りだ。何よりも嬉しい言葉だよ」

 サラの言葉に、元締めは微笑み返す。沢山の商人を見てきたゆるぎないリーダーの、人を信じることができる真摯な瞳だった。

「あくまで君たちに不利益がかからぬ程度だ。その範囲の中で、どうか今回の事件を調べてほしい」

 協力は取り付けた。四人たちは外へ出る。一目散に、現場検証と事情聴取をすることにした。関係者はもちろん、当事者であるマルコとハインツも協力してくれた。

 事件内容は明らかに、器物破損と物品の盗難。被害者は二人、マルコとハインツ。前者は帝都からやって来て装飾品を売っており、後者はここケルディックで食料品を売っている。この二人は昨日から既に場所取りの件で喧嘩をしており、両者は互いに互いを犯人だと疑っていた。

 発見者が事件に気づいたのは早朝、大市の準備をしていた時とのことだ。つまり早朝には既に店も壊されており、犯行は深夜に行われたことになる。

 一応は容疑者である二人の行動も聞いてみる。エステルたちが聞いた限りでは、両者ともにアリバイがあった。加えて彼らを知る人物がそれを証明してくれたため、超能力の類でもなければ彼らが犯人である線は限りなく低い。二人とも犯行をしたというのも、都合がよすぎる話だろう。

 そもそも一方が犯人ならどうして自分の被害まであれほど大きくする必要があるのだ。偽装工作にしても、両者ともに甚大な被害なのに。

 そうなれば、可能性としてあり得るのは第三者による犯行だということ。

 一通りの調査を終えた四人は、互いの意見を交換し合う。二人が犯人である可能性は低いだろう、という意見は一致している。

「第三者としても、他の商人はどうだろうか」

「ガイウス、それはないと思う。ただでさえ商人たちは躍起になってるのに、恨みでもなければ大市を混乱させるメリットはない」

「私も同じかな。恨みって線でも、やっぱりこれだけ事態をややこしくすれば、本当なら疑いの目は向けられるだろうしね」

 三人は少しづつ可能性をつぶしていく。愉快犯の短絡的な行動だと考えても、短絡的な行動にしてはやたらと計画的だ。

 サラの鶴の一声。

「あくまで予測にはなるけどね。計画的な犯人なら、必ずそこには目的があるでしょう? なら今回の犯人は、どんな『得』があるのかしら?」

「サラ。時間がないし早く教えて」

「三人とも知っているでしょう? 今回、これだけの被害を大市に出すことで得をする可能性のある人たちが」

 その勢力は、むしろ大市が混乱することを望んでいた。だから事件が起きても沈黙を貫き、面倒ごとには首を突っ込まない。そして最近の『増税の取りやめの陳情』に業を煮やし、今日のような洒落で済まされない事件に限って出しゃばり、ろくに調査もしないくせに『同じタイミングで互いが互いの店を壊した』という暴論を持って、強制的に逮捕しようとしたのだ。

 つまり領邦軍が今回の真相を知っていて、あくまで不干渉を貫いたということ。加え、彼らが主犯だとすれば自分の手を汚すとも考えにくいので、まったく関係のない誰かしらに商品を盗難させているということ。

「そりゃ、あくまで仮定の話だけどね。でも、その可能性で調べてみる価値はあるんじゃない?」

 結論がない状況だが、状況証拠だけを見れば明らかに黒に近いグレー。やれ「犯人だ」やれ「責任を」など騒ぎ立てるわけでもない。その線で調査をするには十分な理由だ。

 問題の盗まれた物品だが、全く知らない人間が犯人なら町内にあるとも思えない。盗まれた商品は大量にあるという。ならすぐに列車で遠くに行った、ということもないだろう。それも制限時間はありそうだが。

 次は証拠を集めるため、および商品そのものを商人たちへ返すため、商品を見つけなければならない。

 そのための盗品の手がかりは、すでに四人とも得られていた。

「ルナリア自然公園、かな」

 帝国有数の規模を誇る森林、ヴェスティア大森林の一区画を観光用に整備した自然公園。この二週間、手配魔獣やの依頼で四人は何度か訪れていた。だが昨日と一昨日の二日間だけは、設備不良などの理由もなしに閉められていたのである。

「ルナリア自然公園はヴェスティア大森林とつながっている。自然公園が休みでも、大森林は遊撃士が入っても大したことは言われないでしょう。さっそく、調査開始と行きましょうか」

 大市の人たちは、みんないい人たちだった。彼らを混乱させて、四人全員が少なからず怒りの灯を胸に泳がせている。

 彼らに恩返しを。そのために、ルナリア自然公園へ。

 

 

 

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