斂の軌跡~THE MIXES OF SAGA~   作:迷えるウリボー

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7話 霧と激震~境界線~①

 

 五月下旬。リィンとヨシュアの二度目の実地演習の舞台は、二人の目の前に大きく広がっていた。

「旧リベール王国とエレボニア帝国を分けていた、十二年前の境界線」

「ハーケン門……俺が鉄道で見た景色より、ずっと大きいです」

 百日戦役で、エレボニア帝国と旧リベール王国の開戦の狼煙が上がったのはこの場所だった。当時、それほど大きくない壁門だったこの門は攻撃開始と同時に壊された。リベールが帝国領となったことで外敵を守る門としての機能は必要なくなったが、それでも改修と共にまるで軍事帝国の一員であることを示すように、大きな門構えとなっている。

 山脈と山脈の間の道を阻むようにそびえる門の、リベール州側の威容を見上げ、リィンとヨシュアは自分の精神が震えていることに気づく。

 五月にトールズ士官学院代表生徒の交換留学を終え、一息ついたのも束の間。二人は教官陣より二度目の実地演習の要項を受け取った。

 現地の情報収集を図書館にて行い、前回の実地演習の経験をもとに準備を行った。鉄道でもこの場に行くことは可能だったが、リィンたちは()()()飛行船を用いて商業都市ボースに降り立ち、そこから徒歩で東ボース街道を経て、北のハーケン門へとやってきた。

 リベール州で最も帝国本土に近い場所。この門を徒歩で潜れば、帝国‐旧王国間の緩衝地帯を経てサザーランド州南端の《タイタス門》へと辿り着く。ヨシュアの生まれ故郷である地方だ。

 リィンとヨシュアは、帝国とリベール州の関係に思うところがあって、リベール士官学院の門を叩いた。また二人でなくともリベール士官学院の生徒のほとんどはリベール州出身だ。『始まりの地』とも揶揄できるこの地で行う実地演習に、感傷が起こらないわけがない。

「さあ、リィン。何はともあれ、着任報告だ」

 例によって、まずは駐屯地責任者への着任報告。ハーケン門の兵士に敬礼をし、多少の待ち時間の後に司令室へ呼び出される。

「君たちがルーアン市の事件に立ち会った生徒たちか。ようこそハーケン門へ。この瞬間より君たちはある意味で一兵士たちと変わらぬ存在となる。贔屓はできないが、それでも歓迎させてもらおう」

 物腰柔らかなハーケン門の司令を務める中佐は、しかし油断を感じさせない人物だった。

「さっそくだがハーケン門がボース地方にある関係上、ここへの着任報告はボース市の行政長と、また遊撃士協会にも行う必要がある。手間をかけさせるが、列車に乗ってくれたまえ。哨戒任務はその後、夕刻より行うこととしよう」

 質問もそこそこに、いきなりの移動。リィンたちは宿舎に荷物を置くと、さっそく外へ出ることとなった。

 前回のルーアン市ではなかった、地方の行政長への挨拶。まずはボースへ行く必要がある。

 中佐の言う通り手間がかかるが、けれどそれほど落胆するほどのものでもなかった。

「本当に便利になった。鉄道を使えば、ここからボースまでは二十分もかからない」

 ヨシュアがほっと胸を撫で下ろし、リィンも同意する。そして、二人はハーケン門の一角にある《駅》に向かうのだった。

 導力列車というものは自体が、どちらかといえば近代文明の産物である。元々リベールは山岳地帯が多く、平地が少ないために移動手段としては専ら飛行船が重宝されていた。だが帝国領となったことで本土で主流となっている導力列車をリベールにも普及させる流れが向いてきた。

 そうして百日戦役後の復興がひと段落したころ、帝国政府が鉄道会社と共同でサザーランド州の鉄道をタイタス門よりリベールへ延長する『リベール支線』計画が発表された。その数年後、タイタス門‐ハーケン門を中継した、リベール州ボース市までの一般運行が始まった。

 地形の関係と元来の飛行船の発達具合の関係でリベール州の五大都市全てへの延線は見送られたが、千二百年に入ると平坦な地形のヴァレリア湖沿岸を走り、ボース市‐州都グランセル‐レイストン要塞を繋ぐ路線が開通する。その恩恵を受けられない都市や飛行船会社からの反発は多少なりとも存在したものの、世論の流れのままに鉄道は運行されることとなったのだ。

 列車に乗り込み、疎らな乗客たちを眺めつつ二人は会話を続ける。

「……こういった経緯も含めて、リベール州は確実に帝国と化している。そんな印象はありますね」

「そうだね。空の旅以外にも、大陸横断鉄道ならぬ、大陸西部縦断の手段がたくさんできたわけだ」

 ノーザンブリア自治州‐帝国領ジュライ特区‐ラマール州オルディス‐リベール州ルーアン市を中継点とする海運。ジュライ特区からラマール州オルディス‐帝都ヘイムダル‐サザーランド州‐リベール州の鉄道の旅。大陸西部の人の流れは、この十年でさらに加速している。

 こういった経緯もあって、リベールの併合による帝国の経済事情は好調であったし、帝国人も、リベール州民もまた独立の機運を積極的に高めようとはしなかった。

「そういえば、そろそろ自由行動日に外出する余裕も出てきた頃だろう? 息抜きはできるようになったかい?」

「ええ、ツァイス市とエルモ村には同級たちと足を運びました」

 入学して三ヶ月が経とうとしている。実技教練や座学で班を組む仲間たちと、たまには許されるだろうとツァイス地方内での外出を計画した。

 導力技術の粋が集う工房都市に興味を引かれた仲間もいたが、リィンが一番魅力を感じたのはヴォルフ要塞の近郊に存在しているエルモ村だった。

 エルモ村の最たる特徴は、天然温泉がある所だろう。地理的にカルバード共和国が近いだけあって、リベール州の中では東方の血を人間も多い。そののどかでゆったりとした空気もあって、逗留場所としての人気は高かった。

 リィンが惹かれるのは、自分の故郷もまた温泉が有名だからだ。

「ユミルは温泉郷と謂われるぐらいですし、俺も自他共にと言えるほどには温泉好きですから……ああ、本当によかったです」

「……君がそこまで言うのも珍しいね」

 普段が真面目なリィンである。彼の顔がここまで崩れたのを初めて見たヨシュアは、乾いた笑いを浮かべるのだった。

「けど……さすがにヨシュア先輩のように演習地を予習、とはいきませんね」

 ヨシュアも別に勉強しているばかりではないが、それでも彼の勤勉さは末恐ろしいの一言だ。彼は、既にハーケン門およびボース市の情報を人に説けるほどに知り尽くしている。

「どうしてだろうね。やっぱり、これが僕の道だとも思うんだよ」

 ヨシュアはリィンから視線を外し、鉄道の外へ顔を向ける。陽光に光が当たる様は世の女子から見れば恍惚の反応も出るだろうが、この三か月間で少なからず彼のことを知ったリィンとしては、心のざわつきも感じる者だった。

 世間話もそこそこに、二人はボース市に到着する。

 ボース市は、王国時代はグランセルに続くリベールの第二都市として栄えた街だ。商業都市の触れ込みの通り、リベール州としては広大な街面積の中に多数の商店が軒を連ねる。

 なんと言っても、極めつけは街の中央にそびえ立つ商業施設《ボースマーケット》だろう。帝国内に存在する交易町や経済特区と同じく、一定の関税が緩く商売を行いやすい都市。そこでは、自然人々の賑わいも活気づく。

 そんな中でリィンとヨシュアの二人が最初に向かったのは、当然ながらこの都市を管轄する市長の邸宅だ。

「あら、お二人が今回着任する学生の方ですのね? どうぞ、楽になさってください。大して歳も変わらない小娘なのですから」

 青色の髪の侍女がつく人物は、あろうことか年頃の娘だった。彼女が言う通り、見た目にもヨシュアと十も離れていないだろうが、このうら若き娘がボース市の行政長であることは疑いようがない。

 メイベル市長。前任の市長であった父親亡き後、その跡を継いで現在の地位についたリベールの才媛だ。リベールにおいて州都グランセルに次ぐ都市であるボース市を、その商業的な立場としても引っ張っていく彼女は、とても優秀らしい。会話の端々から、頼もしさと良い意味での未熟さが見て取れた気がした。

 リベール士官学院の実地演習は、リベール軍が主導となりその責任を負うもの。行政長が何かの仕事を任されるわけでもなく、しかもほとんど権力もない学生を受け入れることなど、そこまで嫌がることもなかった。

 メイベル市長自身とても視野が広く、世間話もそこそこに二人は歓迎される。彼女も忙しいので、行政長への着任報告はとんとん拍子で進んだ。

 市長邸を辞し、大通りに出てからリィンとヨシュアは向き合う。

「さて、次は遊撃士協会への着任報告だね」

「……今更なんですけど、どうしてわざわざ遊撃士協会に着任報告をするんでしょう?」

 リィンは疑問符を浮かべた。その理由は、特にリベール州に来て日の浅いリィンならではのものだった。

 基本的に国の軍隊と遊撃士協会の両組織はあらゆる面で相いれないものが多い。国と言う基盤をもとに、法制度にを核にして国民と国土を守る軍は、規律が重視され縦割りの指揮系統を持つ。対して遊撃士協会の核は『人民保護』の原則にあり、当然規則はあるが個人個人の判断も重視され、縦割りよりも横のつながりと連携に長けている。

 要するに護るものが同じでも、その方法が正反対なのだ。遊撃士から見た軍は命令がなければ動けない鈍重な組織だし、軍から見た遊撃士は責任もなく好き勝手に領地に入り込む邪魔者となる。

 リィンは帝国本土の出身で、帝国正規軍はゼムリア大陸最大規模の軍事組織だ。軍人の色が強く、実際両組織の犬猿の仲という認識は帝国本土では当然のものだった。

 そんな認識のリィンを見て、ヨシュアは笑いながら説明する。

「うん、それが普通だね。ただ、このリベール州じゃ、少し勝手が違うんだ」

 先ほどの認識は当然だが、それはお互いがお互いの強みを疎ましく思えばの話だ。事このリベール州においては事情が異なり、リベール領邦軍を統括するカシウス・ブライトは遊撃士協会の姿勢にとても友好的だった。リベール軍人の全ての人が友好的というわけではないが、それでも将軍の意向により、両組織のある程度の連携が可能となっている理想的な地域ともいえるだろう。

 実際に百日戦役の時の遊撃協会リベール支部は王都のみだったが、現在は州都グランセルに加えてボース市とと、帝国正規軍の管轄である属州にしては遊撃士協会が好待遇を受けているのだ。

 そして、この都市には遊撃士協会支部がある。一学生が実地演習のみで報告ということに大仰な感覚を覚えなくもないのだが、いずれにせよ明確な手順として必要なものだった。

 ハーケン門に戻ればすぐに哨戒任務に就くだろう。二人は足早に遊撃士協会へ向かう。市長邸からも近かったので、数分もかからなかった。

「ようこそ、遊撃士協会へ。……あら」

 扉を開くと、視界に見えるのは三人の人物だった。

 一番奥のアッシュブロンドをミディアムヘアーとした女性が、受付だと思われる机の奥にいてリィンとヨシュアの存在に声を漏らす。彼女と話をしているのが、二人の男女だった。

 リィンとヨシュアは直感した。この二人が遊撃士だと。

「あら、このあたりじゃ見ない顔ね。リベール士官学院の制服……なるほど、貴方たちか」

 一人、銀髪のロングヘアーを褐色の肌になびかせ、踊り子を思わせる扇情的な衣装に身を任せた女性が微笑む。

「ほぉー……ま、俺と同じくよそ者ってわけか」

 二人目は熊を思わせる大柄な男だった。東方のような拳士服、一目見ても達人だと思えるほどだった。

 決して歓迎していないわけでもない、敵対的なわけでもない。それでもこの遊撃士二人は、確かに油断させない圧のような何かを放っている。少年二人は直感した。

 ヨシュアは佇まいを整え、三人に敬礼する。リィンも続いた。

「失礼します。リベール士官学院二回生ヨシュア・アストレイ、並びに一回生リィン・シュバルツァーです。この度はハーケン門への実地演習に当たり、ボース市への着任報告に参りました」

 毅然と、堂々と。二人は前へ進む。物珍しく二人を見るような男女をよそに、受付の女性は優しく微笑む。

「これはご丁寧に。私はアイナ・ホールデン。帝国遊撃士協会ボース支部の受付を任されています。歓迎するわ、前途有望な学生さん」

 ヨシュアとリィンは姿勢を少し緩める。

「もう知っていると思うけど、貴方たちの着任報告は、あくまでも連携の一環としての話でね。書類とか、あるいは堅苦しい講義もないから、少しでもくつろいで頂戴」

「歓迎いただき、感謝します」

「くくっ、真面目だねえ、お二人さん」

 リィンの言葉に、大男が反応した。リィンの身長は男子でも低くはないが、大男と比べればとても小さく感じる。

 また、彼はリィンとヨシュアの得物にもそれとなく視線を送っていた。居心地悪く沈黙すると、銀髪の女性が大男に向かって言う。

「こら、ジンさんがそんなに近づいたら青少年が怖がるでしょう」

「あらら……こりゃお兄さんは辛いぜ」

「それよりも貴方たち、ヨシュア・アストレイとリィン・シュバルツァーって言ったかしら」

「? はい」

 肯定したヨシュア。

「そうか……。『ルーアンの事件解決に尽力した二人の学生』の話、遊撃士協会でも噂があったのよ」

 なんのことか言わなくとも判る。だが、それを一介の遊撃士までが知っている。ここに辿り着く前にリィンとヨシュアが話題に挙げた遊撃士の横の繋がりの深さ、それをまざまざと感じた。

「ルーアンで活動している後輩の準遊撃士が教えてくれてね。『自分の身内の話も聞いてくれた』って感謝してたわ。私からも、礼を言わせて頂戴」

 あの時、事件で話を伺ったのはレイヴンの一人や関所の軍人……それに、孤児院の子供たちもいたか。レイヴンの身内に遊撃士らしき人物はいなさそうだし、そうなると軍人か孤児院のどちらかか。

 ともあれ油断ならない遊撃士たちは、しかし歓迎してくれて入るようだった。

「活動範囲はハーケン門か。残念ながら私たちとはニアミスしそうだけど、それでも、君たちの活躍を楽しみにしているわ」

 

 

────

 

 

「先輩」

「どうしたんだい、リィン」

「いや、なんというか……広い、ですね。ハーケン門は」

 時刻は夕暮れになろうとしている。太陽が沈むとき、しかしリィンの視界には陽光を遮るような建造物はなく、自然の山脈も一望でき、ともすれば観光名所となれるほどの美しい夕陽を拝むことができている。

 遊撃士への着任報告も終え、不真面目でもない二人は早々にハーケン門へ帰投した。帰るとすぐにハーケン門における業務のオリエンテーションが行われ、小休止を挟んで早々に哨戒任務が始まった。ルーアン市内ではそのまま市内を担当した関係上、市民との接触も多かった。しかしここは関所という機能を除いては完全に軍事施設であり、門の周辺、渡航者の待機用の宿舎などを除いては、一般人と話す機会もほとんどなかった。あるいは列車の貨物ホームであれば技術者や帝国正規軍の鉄道憲兵隊とのミーティングもあるかもしれないが、学生が通常の業務を行っている限りはその機会もなさそうだ。

 リィンとヨシュアは他の兵士たちと持ち回りで施設内の哨戒を行っている。休憩をはさみ、一日も終わりになるかという時間帯だった。もっともそれは一般人の感覚で、リィンたちにとってはこれから夜間哨戒もあるので気は抜けない。

 今、リィンたちはハーケン門の屋上にいた。地上の兵士たちは米粒とまでは言わないが小さく見え、そしてリベール州側、サザーランド州側の両方を見渡せる場所だ。

 山々が見えないわけではない。だが高い場所にいる以上視界を遮るものは極端に少なく、遠目にボース市やタイタス門、旧緩衝地帯の平原が見えている。ハーケン門の勤務は単調だが、この景色に飽きるまでは毎日やりがいがあるのだと、一人の兵士が教えてくれた。

「そうだね。この門を除いて遮るものも何もない空間だ。でもこの場所は、百日戦役の始まりの場所でもある」

 七耀暦一一九二年、四月。《ハーメルの悲劇》を受け、エレボニア帝国政府は旧リベール王国政府に宣戦布告を行った。その報が届く時間を計算し、為政者がまさに物理的に書簡を呼んだ瞬間にハーケン門への砲撃を開始するという、現在でも極めて物議をかもす開戦の方法だった。

 それによりハーケン門は境界線の機能を失い、帝国正規軍の侵攻を許すことになった。その後の経緯は、リベール州の子供たちでも知っている。

 リィンとヨシュアを帝国本土から属州に導いた出来事、その分岐点ともいうべき場所に、自分たちは立っているのだ。感傷に浸れないはずがなかった。

「複雑だね。本土の人間としては」

「……はい」

 戦争が始まった当時でさえ、この場に兵士や市民はいただろう。その人たちは帝国正規軍の攻撃を目の当たりにした……いや、正面から受けてしまったかもしれない。

 複雑な経緯はあれど、戦没者や殉職者を弔うための慰霊碑はある。その中には、やはり享年一一九二年の者たちが確かにいたのだ。

 そんな感傷は、休憩を経て夜になっても収まることがなかった。

 暗闇になると、今度は人々の営みのみが近代的な光を表すことになる。とはいえ、リベール州は基本的には自然豊かな田舎なのだ。遠くに見えるボース市と、そして反対側に見えるタイタス門。それそ除いては、点在する都市が小さな星のようにしか見えない。

 五月、夏になりきっていない世界の夜は薄ら寒い。リィンとヨシュアは身震いした。

 二人は哨戒ルートの関係上、持ち場は近いものの会話をするには離れすぎていた。他の兵士もいるため活発な会話もできるわけではないが。

 哨戒事態はなんら問題なくできている。そもそもの話、ここは巨大な門だが実体は各地域を隔てる関所に過ぎない。サザーランド州とリベール州。複雑な関係性ではあるが、現在何かを争うこともなく、むしろ両地域は経済的にも友好的な歩みを進めているのだ。

 だから、何かが起こることなど通常はあり得ないのだ。それでもリィンが緊張を隠せないのは、一つの予想が感じてもいない危機を告げているからだった。

「……ちょうど、こんな時だったよな」

 ルーアンでの実地演習。緊張があり、気を張りつつも予想外の戦いへと身を投じることになった。《身喰らう蛇》の執行者である《怪盗紳士》との対峙によって。

 この平和なリベール州。そこに、あの剣聖カシウス・ブライトの目を掻い潜って侵入している犯罪者たちがいる。それだけで、それを実感しているだけで、体を強張らせるには十分すぎた。カシウス・ブライトほどとはいわないだろう、それでもそれなりに戦える自分やヨシュアやアガットを子供のようにあしらった実力者がいる。

 そして、自分位はよくわからないあの装置を使って《実験》をしていたらしいが、ならば何のための実験だったのか? そして、その実験はあの一度きりで終わるのか? あれだけの技術力を持つ組織が、怪盗紳士ただ一人を忍び込ませたのか?

 想像は尽きない。またあれだけの実力者が現れた時、リベール領邦軍はどうするのか。そして、自分はどうすことができるのか……?

 嫌な鼓動が、早く明日になってくれと願ってしまった、その時。

「ん?」

 自分の声ではなかった、ここの兵士のものだ。

「おい、どうしたんだ?」

「いや……なんか、揺れてないか?」

 その会話を聞いて、リィンも周囲に意識を広げる。剣仙の下で鍛えた気配察知や空間認識はお手の物だった。

 そうしていると、ヨシュアが近づいてきた。

「リィン」

「判っています。確かに、揺れていますね」

 その揺れはわずかなものだった。だが、リィンが揺れを認識してからものの数秒で、貨物が入っている樽同士が音を立てるほどに激しくなる。

 リベール州では珍しいが《地震》だ。だがこれはおかしい。通常は初期微動という小さな揺れが長く続くのだが、これは異様に強まるのが早い。

 そして──世界がぐらついた。

「うわっ!」

「なぁ!?」

 周囲の兵士が転んだ。リィンもヨシュアも、たまらず膝をつく。地鳴りが響き、平衡感覚を惑わせ、簡素な家屋なら木製だろうが石造りだろうがまとめて破壊してしまうほどの、大きな揺れ。荒ぶる大地。

 震度5レベル相当。激震が、深夜のハーケン門に襲い掛かった。

 

 







今回の変化
・導力鉄道、リベール支線
・遊撃士協会支部がボース・グランセルのみ
・受付であるアイナの所属支部
・微妙に構造の異なるハーケン門



黎の軌跡が発表されましたね!
いろいろと妄想が捗りますが、二次創作者としてはこんなことを考えました。
斂の軌跡の序章題名であり、キーワードでもある『収斂の勇士たち』。
これはとある小説の章タイトルからもじったのですが、そのタイトルが『黎明の勇士たち』なのです。

別に珍しくもありませんが、ちょっと感慨深かったです。

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