斂の軌跡~THE MIXES OF SAGA~   作:迷えるウリボー

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7話 霧と激震~境界線~③

 

 南ボース街道。リベール州の中心に存在するヴァレリア湖に向かう街道。霧は未だ存在しており、昏睡被害も相まって異様な雰囲気を見せている。

「改めて……シェラザード・ハーヴェイ。リベール州で活動している遊撃士よ」

「ジン・ヴァセック。共和国からちょっとした用があってな、帝国入りした。まあ、よろしく頼むぜ」

 そんな中、少年二人は二人の遊撃士と会っていた。この場への案内役を果たした少年は既にボース市へと戻っており、この場にいるのは四人だけだ。

「僕たちの名は……言う必要もなさそうですね」

「よろしくお願いします。シェラザードさん、ジンさん」

 リィンとヨシュアはそれぞれの回生の中では文武共に優秀な人間だが、それでも実力が道半ばであることを自覚している。その二人が見て《銀閃》と《不動》、二人の纏う雰囲気は歴戦の実力者のそれだった。

「リベール士官学院の実地演習の噂は聞いてるぜ。他の青少年もそうだし、前途有望な若者たちじゃねえか」

 武術家、それでいて熊のように大男のジン。その目線表情はにこやかなものだが、決して油断というものをしていないのが判る。豪快な表層とは裏腹に、経験に裏打ちされた繊細な空気感だ。

 そのジンは少年二人に向けて問う。

「こちらから誘っといて何だけれど、よく乗ってくれたな。信用されるかどうか、微妙な所だったが」

 ある意味、当然の問だ。

「それはこちらの台詞でもあります。リベール若手遊撃士のリーダーである《銀閃》、そして共和国のA級である《不動》……お二人が一学生の話に耳を傾けるとは思いませんでしたが」

 遊撃士に与えられる称号の中でA級とは公式に与えられる最上級を指す。戦闘技術、交渉術、人脈……どれをとっても一級品の実力者たちだ。ジンもそれに違わない。

 シェラザードは階級こそC級だが、徐々に州内で頭角を表しつつある若手実力者。

 ヨシュアは普段学生に対するときよりも、教官と会話するときよりもなお冷静な表情を貫いている。

「よせよ。俺はA級の中でも下っ端の小童さ。別に事件を予見してボース市に来たわけでもないしな」

仲介役となった先の少年の談では、遊撃士たちはあくまでルーアンでの動向を把握しておきたいという理由はあるだろうが。それでもルーアンでアガットと協力体制を敷いた時と同じだ。そう簡単に緊張を解くことはできなかった。

 軍人と遊撃士、関係性が恵まれているリベール州。とはいえ。仲良しこよしというわけでもない。それに軍人がただの士官候補生であればなおさらだ。加え、市民レベルはともかく国家間では緊張を強いている共和国の人間までいる。

 口を開いたのは紅一点、シェラザードだ。

「学生とはいえあくまで自らの立場を軍属と定め、敵対もせず民間組織との交渉に従事する。相手は遊撃士協会。頭ごなしに否定的に上層部に報告はぜず、まずは己の脚を持って情報の出所に飛び込む……」

「……何か、至らないところがありますか?」

「あら、ごめんなさいリィン。さすが、って思っただけよ」

 訝し気な目線を送るリィンに対して、遊撃士たちの素性を知るヨシュアはなおもシェラザードを注視していた。

 ジンが手を叩いた。

「リィン、それにヨシュア。積もる思いは色々とあるだろうが、何にせよ俺たちは支える籠手であり、リベールの翼である訳だ。この間の白い影の事件以上に、人々や国を守ろうとしている。そういった立場として、協力はできないか?」

 リィンとヨシュアは目線を送り合った。例によって、正規の軍人としては異端寄りの思考。それは学生である二人だからこそできるもの。

 何より不良であるアガットとも協力をした二人だ。遊撃士たちの提案に乗らないわけがなかった。

 元々ハーケン門は州境の関所としての役割が強い。軍事機密でないものは話せない道理はない。そしてボース市の状況は軍人・遊撃士双方動いている。

 情報交換の結果、濃霧とそれによる昏睡騒動はボース市に限局されていることが判明する。少なくとも、現在においてはだが。

 シェラザードとジンは、既にボース周辺の状況も把握しているらしい。濃霧においてはボース市からヴァレリア湖上の川蝉亭に至るまでの縦長の範囲で発生している。そしてその範囲に存在する町村はボース市のみであり、必然昏睡被害も市内に留まっている。

「縦長に……不自然な発生の仕方ですね」

「ええ……リベールにもう長いこと住んでるし、依頼でちょくちょくボース市にも来るけどね。隣のロレントならいざ知らず、この開けた土地で濃霧ってのもおかしいのよね」

 ヨシュアは一年前にリベールにやってきた。リィンは数か月前、ジンに至ってはごく最近だという。必然、最もリベールという土地を経験しているのはシェラザードになる。

「それじゃ、こんな場で何だけど、ルーアンでのことも聞かせてもらえるかしら?」

 シェラザードの願いを断る必要もなかった。上層部や学院の教官から口外するなと言われたわけでもない。

 白い影のあらまし、背後に存在していた結社と執行者の存在を語る。遊撃士たちもある程度の情報収集はできていたようだが、さすがに執行者の存在が怪盗紳士だ、ということまでは予想できていなかったようだった。

 また、ハーケン門での自身の被害も伝える。

「それにしても、お前さんたちは随分と勇敢なもんだな」

 それはルーアンに続きボースでもこうやって学生の範疇を越えかねない動きをしていることに由来した感想だろう。最も、自分たちは別に賞賛が欲しくて優等生を気取っているわけではない。

「俺たちには、リベールにきた目的があります。そのために、自分のできることをやりたいと思っています」

「……それに、今回の騒動にはボース市に演習できた同級生たちも被害にあっている。だから彼らに報いるためにいる。それだけです」

「そう……」

 シェラザードは、一見して弟ほどの彼らを心配するように見つめた。

 ヨシュアは、シェラザードに答えるために彼女の瞳を見つめた。

「そう……彼は『鈴の音』があったと言っていた」

「鈴の音?」

「ええ」

 その会話を境に、黙り込むシェラザードとヨシュア。沈黙に耐えかね、リィンは聞いた。

「ヨシュア先輩、気になっていることが?」

「いや……どちらかといえば、将軍の言葉も腑に落ちてきたところでね。地震と濃霧が発生したそれぞれのタイミング。随分作為的だと思って」

 ヨシュアの考えはこうだった。地震騒動が少し前から発生していれば、当然ボース市や周辺の軍人・遊撃士たちは警戒態勢をとる。仮に人為的なものだとして、犯人たちはカシウス・ブライト将軍の推理力も当てにしているのか、ハーケン門に特大の地震を起こしてそこに意識を集中させた。そうさせた果ての、無防備な市民がいるボース市への昏睡被害。これはもう、誰かの意図が絡んでいるとしか思えないのだ。

「加えて地震も濃霧も、人に被害を加えることにためらいがない。それは、白い影と大きく違うところだと言えます」

 今度はジンまで黙ってしまった。四人の中では一番未熟なリィンがどうしたものか、と思ったところで、自分たちに向けられた存在への悪寒を感じた。

「避けてっ!」

 リィンの言葉の前に既に回避行動をとっていたのは、さすが実力派の遊撃士だった。四人は四方に散開し、自分たちに向けられた銃口の数々を見渡す。

 魔獣などではない。とはいえ人でもなかった。鋼鉄の体に、歪な機械音を響かせる、人形兵器とでも形容するべき兵器たち。

 それが四体。数としては大したことなく、動きも鈍重そのもの。

「リィン、行くよ!」

「はい!」

 学生たちは即座に抜刀、それぞれの得物を持って人形兵器群に突撃する。

「なるほど、将来も有望と来たか。負けられんな、シェラザード!」

「判ってますって、ジンさん!」

 リィンの八葉の太刀が一刀のもとに切り伏せた。シェラザードが手に持つ鞭をしならせて人形へ機の銃口を鈍らせ、その隙にヨシュアが機関部を叩ききる。残る二体、ジンがその手に覇気を宿らせて、一息に衝撃波を放つ。

 戦いは一分もしなかった。四人の攻撃を前に、大した敵でもなかった。問題は、知る者には人形兵器とも呼ばれるその存在が、このリベール州内に現れたという事実だ。

 それぞれ得物を修め、周囲にこれ以上の敵影がないことを確認。沈黙の後、ジンは二人に話しかけた。

「……当たり前のことを聞くが、リィンにヨシュア。リベール領邦軍ではあんな機械兵器を運用はしていないな?」

「はい」

 リィンは即答した。帝国内においても安定した統治を敷いているアウスレーゼ家と領邦軍だ。人形兵器に頼る必要などない。

 もっとも、これは雑談のような物だ。四人全員が、それぞれの立場でよく判っている。

「だったら話は早いな。これは『挑発』だよ。お前さんたちがかつて会った結社からの」

 ジンの予想に再びリィンが答える。

「こんなに明白にですか……? 怪盗紳士は言動こそおかしなものでしたけど、ここまで好戦的な訳じゃなかった」

「結社《身喰らう蛇》っていうのは、協会にもそれなりに情報が集まってきていてな。社会の裏で度々協会とはもめ事を起こしているんだよ。その実働部隊である執行者……一癖も二癖もあるやつばかりってのが協会の認識だ」

 それに人形兵器もな、とジンは付け加える。

「さっき戦った人形兵器。シェラザードも初めてにしちゃあよく戦った」

「いえ」

「あれは結社が裏社会に流している機械兵器だが、リベール州内でそんな代物を運用しそうな組織もない。だったら、考えることは一つだろうさ」

 確証がある訳ではない。だが予想、仮説、あらゆる可能性が告げているのだ。ジンの言うとおり、結社からの挑戦状だと。一度それを体験したリィンとヨシュアが否定できないほどに。

「四人とも!」

 不意に、ボース市の方角から人影が見える。特に驚くことはない、案内役を務めてくれた茶髪の少年だ。

「今すぐボース市へ戻れますか……!? 地震が起きたんです! ()()()()()!!」

 衝撃。今までボース市の東方面で生じていた地震が……今度は濃霧にまみれた市内そのものに襲い掛かったということ。

 リィンたちがボースへやってきてまだ数日、それでも世界は彼らの速度を追い越していく。しがみつかなければ行けない。

 シェラザードが言う。

「ついに市内まで地震が来ましたね。どうします? ジンさん」

「昏睡被害が起きている中での地震だ。場合によっちゃ結構な被害かもしれん。一刻も早く犯人を見つけなきゃならんが……」

「ラヴェンヌ村」

 急にヨシュアが口を開いた。ここにいる人間は全員が頭が回る。リィンも経験がないだけで独特の視線を持っている。

「敵の位置は、ラヴェンヌ村付近ではないでしょうか」

 案内役の少年を含めた全員が、ヨシュアの言葉にあっけにとられたのだ。

 近くには魔獣もいない。ヨシュアは全員の視線を、自らの鞄から取り出した地図に注目させる。

「ボース市の地図を見てください」

 今回の実地演習に向けて用意したのだろうボース市の地図。リィンも数刻前に見せてもらったそれは、震源地を始めとした各種情報が網羅されている。そしてたった今、広大なボース市街の被害状況の上に濃霧の範囲が丸で囲まれた。

 明らかに、ボース市を境に東側に書かれる情報量が多い。

「ここ最近のボース市以東地域での地震は明らかにハーケン門へ意識を向けたものでした。当然、軍の警戒はそこに向く。そこにきてボース市への濃霧と昏睡。場合によっては、軍も遊撃士も『ハーケン門をおとりにボース市を狙ったもの』だと考えるでしょう」

 そして、明らかに代わり映えの無いボース市以西に指を動かす。

「ですが僕たちをはじめ、軍も何人かは人為的な可能性に気づいている。だとすれば……()()()()()()()()()()犯人が居場所を悟られないための囮なのでは?」

「つまり……」

「見るべきは被害が起こっている場所ではない。むしろその逆です」

 ボース市で注目すべき人の集まりは、いくつかある。ハーケン門然り、ボース市然り。そしてボース市の西にはリベール北西のクローネ峠の関所と、そしてリベール州最北の村であるラヴェンヌ村だ。

 ジンは興味深げに頷いた。

「ラヴェンヌ村か。リベール州とサザーラント州の州境はほとんどが山岳地帯……確かに、身を隠すことができるならこれ以上の場所はない。どうだ、シェラザード?」

「個人的にはハーケン門東の霧降峡谷も気になりますが、それでも犯人の思考に沿った筋としては合っている。ヨシュア……貴方、怖いくらいに頭が回るじゃない」

 その推理を否定する者はいなかった。

「行きましょう! ラヴェンヌ村に!」

 逸る気持ちを抑えきれず、リィンは告げた。

 既に多くの被害が出ている。中には、リィンとヨシュアの同窓もいる。これ以上の被害を起こさせる前に、迅速に犯人を見つけなければならないのだ。

「さて……人形兵器との戦いと推理、図らずもお互いの実力を知ることになったわけだが」

 徐々に精神を張り詰める若者たちを前に、ジンは落ち着いて、それでいて笑う。

「リィン、ヨシュア。俺とシェラザードはお前さんたちと協力したいと思っている。お前さんたちとなら、真実に近づける。どうだい?」

 先の怪盗紳士との戦いを思い出す。ヨシュア、リィン、アガット、三人がいても殆ど歯が立たなかった敵と相対するかもしれない。それなら、目の前の二人の遊撃士と協力しない手はなかった。

 軍に戻って情報を伝達する必要もあったが……。

「……リィン。ここからは別行動を取ろう」

「先輩?」

「僕は彼と共にボース市へ行く。遊撃士協会と軍駐屯地、それぞれ報告するよ」

 ヨシュアの視線の先には。案内役の少年がいた。

「ボース市にはむしろ領邦軍がいるから、自分たちは迅速に犯人を見つけるべきだ。それは僕も同じ意見だ」

 可能性がある限り向かうべき。しかし仮に怪盗紳士と同格の執行者がいるとすれば、少人数も危険だ。だから一刻も早く援軍を求める必要もある。

「たぶん、軍も僕のほうが提案を聞いてくれると思う。君に執行者と対面する危険を押し付けることになるけど……」

 そんなヨシュアの言葉に、リィンは頷く。

「大丈夫です、先輩」

 震えもある。だがリィンはその震えに向き合う必要があった。おのれにまとわりつく震え。怪盗紳士との戦いの時に感じたあの力を、自分は何とかしなければならない。

「先輩の判断です。悪いことなんて起こらない。俺が、ジンさんとシェラザードさんと一緒に、先行します」

 

 

────

 

 

 リィン、ジン、シェラザードはボース市でヨシュアたちと別れ、そのまま西へ。リベール最北の村、ラヴェンヌ村へと向かう。市内は地震も発生したため相当な混乱が起こっていた。リィンたちは民間人を助けたいという思いもあったが、ヨシュアたちに後事を任せる。

 ラヴェンヌ村に到着する。村に限っていえば地震も濃霧も起きておらず平和そのものだった。ただ被害の話は届いているようで、警戒している村人もいた。

「遊撃士のお二人も、軍人さんも、よう来てくれましたなぁ」

 村長であるライゼンは、三人を快く迎えてくれた。事情を説明し、ここ最近の変わったことがないかを訪ねる。

「そんな話は村人からも特には……いや、あれがあったか」

 村長は一拍置いた。

「一週間ほど前かね。不思議な身なりの旅行者だと思うんだが。村をひとしきり見学したと思ったら、泊まるでもなく消えた」

「不思議な身なり?」

 ジンが聞いた。

「明らかにリベール州や、帝国でもないな。あれは共和国首都や中東の服装じゃよ」

「それはどんな服装だったかな、村長」

「逆立った茶髪にサングラス……細見にしては随分と鍛え上げられた体なのが、黒伏の上からも判った」

「逆立った茶髪……」

「中東部の服装っていうのは?」

 今度はシェラザードだ。

「そうだね。踊り子……ちょうど君のようなものだ。私のようなおいぼれはともかく、村の若造共は気が気でなかっただろうな」

「踊り子……」

 理由は判らないが、シェラザードとジンが二人して黙り込んでしまった。リィンが代わりに続ける。

「村長、この村の近くに、どこか人気のない、けど人の行ける場所はありますか?」

「そうだね……あるとしたら、廃坑の露天掘りだろう」

 村長が言うには、使われなくなった廃坑が村の北にあるのだという。とても人が継続して住める環境ではないとのことだが、怪盗紳士は旧校舎の地下なんて言う場所に潜伏していたのだ。可能性はある。

 三人は村長宅を後にし、許可を得て廃坑へ向かう。遊撃士二人は廃坑内に人の通った形跡があることも発見する。

道中魔獣もいたが、このあたりの魔獣はそこまでの脅威ではなかった。それも相まって、リィンたち三人は自然と世間話をかわすことになる。

「驚きました。まさかシェラザードさんが、カシウス将軍の知り合いだったとは」

「元々私は外国の生まれなんだけど、リベールに身を寄せる時にお世話になってね。今はカシウスさんの実家にお世話になってるの。そうそう、カシウスさんの娘さんも、遊撃士なのよ」

「剣聖と称される東方剣術の腕前、そして百日戦役で帝国軍をあと一歩の所まで追い詰めた稀代の軍略家か。この目でお目にかかってみたいもんだ」

 シェラザードは元々リベールの生まれでなく、大陸中東の出身だったのだという。旅芸人一座の娘として活動していた時にリベールでカシウスとの縁を作り、一座が解散した時はその縁を頼った。

 ジンは共和国のA級遊撃士だけあり、カシウスを直接見はせずとも情報は持っていた。彼自身は泰斗流という共和国の三大拳法の一つを修める実力者だ。

 遊撃士となった理由はそれぞれ。だが、どちらも平凡な身の上ではなかった。

 リィンは己の暗い部分や出自等は明かさなかったが、リベール士官学院に来た目的を大まかに話すことになる。八葉一刀流の流派のこと、そこでカシウスの話が出た。

 ジンはともかく、シェラザードとは意外なところで縁が繋がっていた物だ。不思議な感覚を覚える。

「俺はまあ、今回は公都とツァイスに用があってきただけなんだがな。これも縁だ、よろしく頼むぜ」

「ええ、俺も学ばせてもらいます」

「ところで、リィン。もう一度聞きたいんだけど、『鈴の音』を確かに聞いたのね?」

 シェラザードの神妙な声。リィンは話の趣旨も判らず肯定した。

「は、はい。実際に聞いたのはヨシュア先輩の同期生ですが」

「そう」

「あの、なにか?」

「いえ……一筋縄じゃ行かないなって思って」

 シェラザードの目は、廃坑を進むほどに険しくなってきている。そして表情はにこやかなままでも、ジンも同様に人形兵器との闘い以上に気を張り巡らせている。

 ハーケン門到着から、深夜の地震発生。翌日の濃霧騒動に遊撃士たちとの邂逅、ボース市への地震と疑われる敵の居場所。ルーアンでの調査以上に忙しい展開だ。

 だが、そんな気軽な感傷は抱けなかった。目の前にある廃坑の出口、そこに光だけでなくかつてない殺気を感じるから。

 地震と濃霧による昏睡。白い影とは比較にならない、直接的な殺意。ヨシュアが言っていたそうなっては欲しくなかった可能性。それが判っているから、ジンもシェラザードも緊張を解けないでいる。

 自分もそうだ。手に持つ太刀の柄が汗ばむ。

 己を奮い立たせる。自分の役目は、敵を明らかにし、可能であれば拘束すること。死なないこと。

 大丈夫だ、問題ない。隣には頼もしい遊撃士がいるのだから。そう、頼れる先輩がいない空白を埋める。

 廃坑を抜けると、そこは広々とした露天掘りだった。ここには霧もなく、日中の日差しも穏やかに届く。

 だが。

「ようやく来たわね。再会を喜びましょう、シェラザード」

「待ちくたびれた所だが……まさかてめえが来るとはなぁ? ジン」

 しなやかなで豊満な体躯を隠さない、踊り子然とした妖艶な美女。そして細見な外見とは裏腹に盛り上がった筋肉とサングラスの向こうのぎらついた瞳が目立つ男。

「やっぱり、ルシオラ姉さんだったのね」

「感動の再会とは言えないな、ヴァルター」

 遊撃士がそれぞれ言い放つ。

 《瘦せ狼》ヴァルター。そして《幻惑の鈴》ルシオラ。

 身喰らう蛇が執行者が、三人の前に立ちはだかる。

 

 







例によってだいぶ遅れております、迷えるウリボーです……

あ、催促です。黎の軌跡発売前考察へのURLになります。

https://note.com/uribostudy/m/m63a90ed81879

よろしくお願いします!(偉そう)

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