TS 盾役従者は勇者に付いて行けるのか?   作:低次元領域

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 おっさんくさいTS女はさっさと窮地に陥り雌にも堕ちろ


4.対照実験

 旅に必要なものは何かと言われ、一般的な冒険者は何を想像するだろう。

 強い仲間、気配りが利くバランサーの存在、そして崇高な目的……いやいや、それよりももっと必要なものがある。

 

 それは、

 

「ふふふ……やっぱ美味いなぁこのベーコン」

「おっ、そう思うか?」

「おぅ。適度な筋切りと主張しすぎない香りづけ。少し塩抜きを緩めてあって酒のまろやかさと合わせて……たまらねぇな! それとこれは……ネルシャ村のワインだな?」

「……ほぅ話が分かるじゃねぇか嬢ちゃん。もっと飲むか」

「おおこれはこれはおっとっと……」

 

 美味い飯と酒だ。間違いない。

 この二つさえあればどんなにつらい戦いだって耐えられるだろうことも間違いない。

 ……いや嘘を吐いた。流石に人智を超えたレベルは無理だ。いくら一般的な冒険者の成長をしたところで限度がある。

 

 まぁとにかくだ、記憶にあった楽しい宴会が二度目でも至極楽しいのはありがたい事だ。少しだけホワホワして来た意識の中で思った。

 

 赤ワインを呷り、分厚いベーコンを口に含み、油と塩っ気をまた酒で流す。添え物と置かれているマスタードや黒コショウ、ディップとより取り見取りな味変物のおかげも相まって飽きることもない。

 少し薄めに切りカリカリに焼いたベーコンも美味い。

 

「(あ゛~さいこう。ネルシャ村のワインは今のうちにさっさと飲んでおかねぇとな)」

 

 旅を止めたらまずあまりお目にかかれない、そこそこにお高いワイン。

 それが今はタダで飲める、極楽か?

 

「すいませ~んお酒お代わりー!」

「はーい!」

 

 このためだけにゴブリン穴付近の村では酒を飲まなかったといっても過言ではない。

 酒は毎日飲んでも美味いが、溜めて溜めて飲むのもよしだ。ついで、毎日飲んでるとヤシドに怒られちまうしな。リュックの中に酒入りのボトルがあったりすると咎められるし。

 

「しかしいいのか嬢ちゃん? こんなおっさん共と一緒に飲んでて……」

「いーの、だって……あっちの席じゃ楽しめないしなぁ」

 

──ほほほ、勇者様この村では精肉が盛んでありまして……ぜひどうぞ

──ああこれはどうも……お、多いですね?

──勇者様、村の娘たちにぜひ旅のお話を

 

「ガハハ、違いねぇ!」

 

 ……ま、今夜もそれもないんだがな。チラリ、遠目で歓待の波に飲み込まれている勇者様を見やる。

 勇者が村に訪れると大抵こうなる。今はまだ武勇も何もないお飾りに近いもんだが、これでも王宮に話を届けられるし、ネームバリューは高い。

 そんな勇者に「あの村の〇●はよかった」って言ってもらえれば箔が付くって訳だ。

 

 俺? 俺はしょせん勇者のパーティーと言えどなんかの武器に選ばれた訳でもないしな。

 そのように取り繕ったから村長なんかも俺の優先順位は低い、こうして酒の席目当てで来たおっさん達と飲んでても何も言われん。

 

「……テオ、ちょっと

 

 どうしたヤシドこっちをじっと見て口パクなんぞして。

 ふふ、ある意味貴重な時間だからゆっくり接待されてもらえ。そう目配せを送っておいた。

 

「……気が付いてるだろこの薄情者~!

 

 睨まれた、何故だ。

 だがそんなことはどうでもいい、酒もツマミも美味いからな。

 せいぜいこちらに来ても酒飲み共の相手になるだけだから助けにも行けない、勘弁しておくれ勇者様。

 

「ははは、後で勇者様から叱られそうだな! それで? お姫様はなんて仰ったんだ?」

「ああそうだったな、えーと「二つの太陽と見間違うほどの紅き輝きを放つ勇者様、旅のご無事をお祈りしています」ってな。あれはちょい惹かれておりましたね」

「へー! あの綺麗なお姫様がねー」

 

 そうそう、会話はもっぱら王宮での話。この村の人々じゃまず入る機会が無いからか皆楽しそうに聞いてくれる。

 やれ王様の髭が長かったとか柱にゴーレム由来の建材が使われていたとかな。あと出てくる料理が薄味だったとか。ここの料理の方が美味いっていえばそんなことあるめぇって笑いながら笑う。

 

 いやほんと口に合わなかったんだけどな。ヤシドの目が死ぬレベルで。

 

 ……そういや、俺が死んだあと……記憶の中のヤシドは、無事魔王を倒して姫様と結ばれたんだろうか?

 四天王相手にするちょいと前から婚約の話が出ていたけど、そうなりゃ万々歳だな。

 

──ちゃんと幸せになってくれよ? 死んでまで守ったんだからな、あっちのヤシド君。

 

「あっ、この芋も美味い」

「そうだろそうだろ、それはオレが丹精込めて育てたんだぜ?」

「おうこっちのユリネもどうだ?」

 

 そんなこんなで、楽しい夜は過ぎ去っていった。

 

──しかし、私も展示されているのは一度だけ見たことがありますが……あの下にこのような剣が隠されていたとは

──刀身を見せていただきたいものですね、是非とも!

──……あっ、いやそのー……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝。

 ベーコンがとてもおいしかった村の近くにあるという穴に向け荒野を歩く二人組。

 

「……」

 

 むすっと逆ハの字眉。僕不機嫌ですよオーラを纏うが我らが勇者。

 紅い髪も今は何処か黒みを増している気がしなくもなくもない。

 

「なんだよまだお冠かい勇者様? ちゃんと最後は救出してやったじゃないか」

「……自分の酔いがいい加減になってからだろう? 聖剣がまだ鞘から取れないって知った時凄い空気になったんだからね……」

 

 いやぁ……ほんとは夜中まで飲み明かそうと思ったんだけど、女の体になってから酒への耐性が落ちたのかペース間違えたんだよね。

 

 やれやれ、少し宴会を楽しみすぎただろうか。ここまで拗ねるのは記憶にないぞ。

 前回の時はまだホブゴブリンリベンジの熱が冷めてなかったからかな……あれ、他にもなんか違いがあったような。

 

「まぁまぁ、今日はオークが相手だし。ポークステーキ作ってやっから機嫌治せってー」

「あのね、そんな食べ物でご機嫌とろうたって──」

「唐揚げ、ニンニク多め」

「……」

 

 お、少し眉が緩んだ。昨日は周りに人が多すぎて料理を堪能できなかったらしいからな。

 お酒飲まないくせに酒のつまみみたいな味付け好きなんだよなこいつ。しっかり濃い目にしてやろう。

 ついでにまたこっそり酒を飲もう。一つ企んだ。

 

「あ、テオなんか企んだでしょ」

「い、いやー……? ナンノコトヤラサッパリ」

 

 

 

 

 かれこれ一時間ほど歩き、帰りに素材を乗せるための荷台を入り口に置いて穴へin。

 

「おー……丘?」

「……起伏が激しい丘ってなんていうんだっけな?」

 

 すれば風景は一変、脛まで隠す黒い草原が広がる。地形は小山が続き、かなり見通しが悪いと言えよう。

 ……昔は毎度、何で穴の中にこんなのが広がってるんだとか一々考えてたなー。事実知るとなんというか微妙な気分になったが。

 魔族にとって、飼育小屋みたいなもんだったなんてなぁ。

 

「テオ、どうしたの?」

「あぁいやちょいと考え事……ほら敵さんもおいでなすったぜ勇者様?」

「えっ──」

 

 ……僅かな揺れが地面から伝わる。スゥと息を吐いて背中に掛けていた盾を手に取る。

 丘の向こうから向かってくる影が一つ。

 

 その背丈はこの間のホブゴブリンよりも一回り大きい。俺よりも頭4個分程。丸太の様に太い巨体は脂肪に覆われているが、それを支える筋肉の塊だ。

 スピードはともかく、力は間違いなくホブゴブリンよりも圧倒的。表面はゴブリンと同じく毛が生えておらず、狩った証なのだろうか? 獣の皮をはいだ腰布を巻いていた。

 

 ……これでもまだ冒険の序盤の敵なんだよな。そのうち上位種だの竜だの出てくることを考えると苦戦しているわけにはいかない。

 幸いにして一頭、記憶の経験がある俺一人でもなんとか受けこたえることが出来る相手だ。

 遅れ聖剣を構えるヤシドの前で、盾に魔力を流し巨大化させた。

 

「作戦は確認したとおり、俺が受け止めるからその隙に攻撃。深追い禁止!」

「わ、わかった! 気を付けてねテオ」

 

 狙いを俺に寄せるため、いったんヤシドには少し離れてもらう。

 次いでもう一つ、少ない魔力を巡らし唱える。

 過去の冒険の最中、足りない力を補うために覚えた魔法を。

 

「──()()()()()()()()()()()

 

 魔法とは穴が開いた頃に人に備わったとされる普段は不可視のエネルギー、魔力を動かし発現させるもの。

 ルールに則り、規定の線で図を描くように体内の魔力を放出。魔法陣とされるものを作る。

 

()()()()()()()──クアエンド!」

 

 青く透き通る光が小さな陣を作ったかと思うと、そのまま体に流れ込んだ。

 少しばかり体の巡りがよくなり力もより強くなる補助魔法……どちらかというと毒とかに強くなるものなんだけど。

 

 魔力は個々人によってその性質が違う。得意とする、扱える魔法もまた変わる。

 ……聖剣に目覚めた勇者は全属性(一つを除く)に使える光の魔力を使っていたが、俺は水。怪我や病気を治すことを得意とする属性だ。

 ヒーラー転職? 魔力量と後にヒーラー兼バッファー兼アタッカーみたいなやつが来るし……。

 

「えっ、テオそれなに?」

「いや魔法……あとで教えっから今は集中!」

 

──ッ!

 

 豚頭が体勢を低くし走る。その様は突撃と言わざるを得ないほどの風格、地に足が付くたびに揺れを感じパワーの差を如実に感じさせた。

 真正面から受ければ、補助魔法がある今でも吹き飛ばされかねない一撃。

 記憶の時はどうしたっけ、確か吹き飛ばされて勝利を誇っているうちにヤシドが不意打ちで()()()()()()んだった。

 

 ではどうするか。女性になったこの体でも補助魔法の力があればあの時よりは動けることに間違いはない。

 横に逃げても、腕の大振りを喰らうかもしれない。真正面はNGだ。

 

 だから、敢えて盾を斜め下に向けた。

 

「どっ、せい!」

 

 突進と同時に盾を額に合わせ、持ち上げる力を利用し跳躍。これが長い戦いの中で思いついた秘策。

 跳ね飛ばされるならわざと飛ばされてしまえばいい……だけではない。

 

 相手と押し合い相撲をしている時、急に相手側が力を抜いたらどうなるだろうか? そのままバランスが崩れ、相手側へと倒れてしまう。

 それと同じ、真っ向からぶつかると思い込んでいたオークは体勢を崩すというわけだ!

 

──!

「いよっし!」

 

 盾と共に宙に舞う途中、確かに足を絡ませ地に倒れるオークが見えた。

 そして驚きつつもそこに聖剣を振りかざすヤシド……勝ったな、ワイン飲もう。

 

 あのまま聖剣が頭を切り裂けば勝負は確実。……うん、切り裂けば?

 あれそういえば過去のオーク討伐の時って……聖剣、もう鞘から抜けてなかったっけ? ホブゴブリンにリベンジするときにいつの間にか抜けていたような。

 

──ボヨンッ

 

 錆び付いた鞘ごと叩きつけられた一撃がオークの肥満で強靭な肉を切ることは無く、そのまま跳ね返された。

 ……あ、やべ。

 

「な!?」

──!!

 

 そのまま勇者が体勢を崩しているうちにオークに足を掴まれ放られる。

 俺よりも浅く、長く飛んで転がった。三回、四回と体を打ち付けようやく止まる。

 ……起きない。死んではいない、恐らく気を失った。

 

──!

 

 起き上がり雄たけびを上げるオーク。豚と人の声が混ざり合ったような爆音が耳をつんざく。

 そして、次はお前だと言わんばかりに俺の方へ向いた。

 ……えっ?

 

「……あ、あのオークさん? ちょっと勇者様が起きるまでお待ちいただいても……というか逃がして──」

──!!!

 

 やばい、死ぬかもしれない。

 冷や汗が一筋、背筋を駆けた。




歯が痛いし熱が出たのでストック分を投げ、寝るぅ
次回1/251730予定だけどどうなるかな

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