「遠藤さん 物性研へようこそ」
「田家先輩こんにちは。ここX線CTスキャナー有りましたよね」
「あるけどどうしたの?」
「ちょっと物壊しちゃったんだけど、特殊な状況だったんでどう壊れてるか見てほしいんですよ」
「特殊って?」
「いや予断になるといけないから終わってから話しますよ」
「物は」
「ラジコンヘリ」
「うーん エンジンとか金属部分は無理だけど良いかい」
「ええ、とっかかりがほしいんで」
「機体正面から1mm程度の穴がきれいに開いてるね。エンジンに突っ込んだ後上に向かったみたいだけど、ドリル開けたにしては曲がってるし、周辺に圧力かけた様子もないし、どうやって開けたんだい?」
「そこに有った物が無くなったみたいですか?」
「そう言われればそんな感じだね」
「話すとちょっと長いんですが・・・<省略>」
「光ってる点に突っ込んだら中がなくなたと」
「どっかに転送されて穴が開いたというのが。考えてるんですけど荒唐無稽で」
「面白いね 物預けてくれれば 走査型電子顕微鏡で分解して見える範囲撮影するよ」
「あ お願いします」
「半月位いいかい」
「報告書と始末書出さなきゃいけないんでできるだけ早めに」
「ん、わかった」
「遠藤さん。物性研から宅配届いてますよ」
「ありがとう」
さてさて、梱包されたへりの部品と分厚い報告書だな。あ、こっちが報告書を書くって言うんで写真の電子データもつけてくれたか。結論はっと、吸い込まれて引きちぎられて開いた穴のようであるか。予想したとおりだけど、にわかには信じがたいな。
光が見えるのも光子が中に居る1ピコ秒以下で入れ替わりを繰り返してるというシミュレーション結果も出てるしこれで報告書を書くか。
国土地理院はうちの管轄ではないと科学技術庁に投げようとし気象庁・海上保安庁・他・他・他でどこが主幹になるかで壮絶にもめる。
まだなんなのか判らないので引き受けたくないのだ。
転移らしいということで科学技術庁の下に転移情報室が設けられ、場所が海上ということで海上保安庁の巡視船がプラットホームとして協力となるまでに数ヶ月が浪費された。
点だったものは数十センチの球状の空間となり、光がもれるのは入れ替わる一瞬になった。入れ替わりの時間は10分間隔程度。
事務方の混乱をよそに研究者たちはノリノリである。SFかファンタジーお約束の空間転移らしき事が起きてるのだから当然である。噂を嗅ぎつけたあっちこっちの大学の研究室も次々参戦。
転移する範囲をレーザースキャンしていると入れ替わった一瞬、屈折が変わることからサイズを測れるようになった。
「滝沢さん穴の向こう見てみたくはないですか?」
「梅木。見れれば見たいけどま、まだラジコンヘリの入れるサイズじゃないだろ」
「こんなのがアメリカではやってるらしいんですよ。ほら」
「マルチプタードローン。面白そうだな。でも入るのか」
「小型のやつならいけますね」
「制御どうするんだ」
「D-GPSの受信機つんでこっちでは位置特定。向こうでは加速度センサーで位置固定を考えてます。でGPSのログとってみようかと。
向こうでGPSとれれば地球上のどこかですし、違ったらもっと面白い」
「ペイロードなさそうだけどそれだけ積めるのか」
「積めるように作ります」
「次の連絡便で研究室戻って工作してきます。こっちじゃ色々足りないので」
「滝沢さんたいま。できました陸上での試験は成功しました D-GPSの補正電波入らなくなったら慣性制御」
「ペイロードは残ったか」
「無理でした。もう少し大型のを投入できるようになってからですね」
「海の上で少し実験したらやってみるか」
「梅木どうだった?」
「向こうに行ってる時間の間はGPSアンロックですね。GPSがいないか時間がとんでもなくずれてるかですね」
「今の地球ではないと見て良いな」
「とりあえず制御系に問題はないみたいんで、また研究室戻って大型のドローンに組み込んで来ますね」
「おつかれ、こっちでも観測機器用意したいんだがどれくらいまでならいける
「1kgでぎりぎり」
「わかったできるだけ軽く作る」
「フィルムカメラのジャンク、軽そうなのいくつか見てきた」
「自動巻きと シャッターの開放時間いじれるのか」
「一眼レフなら自由なんだがペイロードに乗らないからな」
「フィルムは?」
「驚くな 不良在庫で眠ってたASA1600を何本か本番用に実験用は400だな」
「向こうの天候はどうするんだい」
「モノクロビデオカメラで予備撮影して判断だなぁ」
「その辺は映像班と共同か」
「向こうはカラーで撮りたいだろうからカメラもジュー-ルが変更にはなるだろうけど他は一緒だ」
「映像班の準備状況はどうだ」
「1kgってきついねー 市販品は乗っからん。パソコン用カメラをばらして信号横取りメモリーにべた書きな。レンズは携帯電話用アクセサリーから望遠を選んだ」
「動画がほしいわけじゃないからそれでいいのか」
「天文班のカメラ使っても良いんだけど、本土送って現像して、印画紙に焼いてだと即応性に欠けるからな。精密撮影が要るようなら借りる」
「進捗会議を始めます」
「まずは穴観測班」
「レーザーでの測定結果を見ると2m近くなってます。D-GPSの誤差考えても1m程度のドローンは送れるんじゃないかな」
「ドローン班」
「1mのドローンをコンピューター制御で送り込める準備が整いました。試験飛行は陸上とここでやって問題は起きてません」
「映像班」
「準備できてます。低レートですが望遠の撮影ができます」
「天測班」
「夜間で月とかの障害がないことが確認できたら送り込める準備できてます。予備観測は映像班のカメラモジュールをモノクロ高感度に変えた物を準備してます」
「自然測定班」
「電波がペイロードでまだ無理ですが、気温・気圧・湿度・放射線・地磁気は測定できます。
「電波の目処はどうですか」
「汎用測定器を乗っけるんでペイロードが10kg近くなるまで無理ですね」
「ドローン班ですが次の機体はそえくらいまでいけそうです。2mちかいですけど」
「では各班大体準備できたと言うことで。明日から始めましょう」
「「「「了解」」」」
第2世代ドローンによる観測結果概要
・映像班によると2点
・穴の向こうは浅い海と思われる緑色をしている。
こちら側はマリンブルーで同じ場夜ではない。
・水平線が地球より長大である。地球より大きい惑星の可能性がある。
・自然測定班
海の上であるなら特に問題の無い値である。
気温・気圧・湿度・放射線
天気で変動はあるもののこの辺の平均にと大体一致する。
地磁気も南北を示しているか判らないが観測できた。
これ以上は固定した点でないと無理。
サンプル採取した大気を研究所に送って分析。
酸素濃度高め 二酸化炭素低め 汚染微粒子等無し。
むしろこっちより清浄。
天文班
夜空の撮影には成功。しかし星の配置がまるで異なる。
天文シミュレーションソフトを使って同じ配置が発生しないか
やっているが結果ははかばかしくない。
映像班の情報からも別の天体である可能性が大きい。
穴測定班
範囲の拡大と入れ替わる時間の長さに相関が見られる。
広がるほど入れ替わりの間隔が長くなる。
第3世代ドローンによる観測結果概要
変更がない物は記載していない
・自然測定班・天文班
地磁気は南北を示している。
地球と同じく自転軸とは少しずれているようだ。
人工的な電波は検出できない。ノイズのみが観測される。
穴測定班
・範囲の拡大と入れ替わる時間の長さに相関から2013年中には、海面まで達する球状になる。
2014年には伊豆諸島北部160km圏が半年は転移が予想される。
2019年には加速度異常を起こしている全域の転移。最短で数年が予想される。
ここで科学技術庁は科学的知見の範囲を超えていると手を上げた。
内閣府の下に転移問題は移動して、転移した際の影響から検討することになった。
別の惑星のようだと言うことでJAXAも巻き込まれた。
とにもかくにも、伊豆諸島転移までにある程度情報を集めたいからだ。
いくつかの観測準備が並行して進められるようになった。
・台船を用意してヘリによる周辺の観測
当初は台船が流されるという失敗があった。
浅いのだが海流がわりと強いのである。エンジンとモーターで位置を制御できるようにした台船が用意され、ヘリで飛び回ったが、安心して移動できる100km圏はいくつかの小島と海ばかりであった。
・小島に定点観測所開設。移動物の上では難しかった重力加速度を含め無人観測施設を用意
・海外研究者の転移不能
どうしてもというので加速度異常を検出できない海外の研究者を
台船に乗せて居る間に転移が発生。海外研究者は取り残されて海に落ちた。
研究者は境界監視船に救助されると言うことが起きた。
これから転移範囲が広がっても加速度異常が検出できていない人・物は転移しないと判断された。
・竜としか呼べない生物の襲来
プラットホームに竜としか呼べない生物が襲来。
クレーンを頭に当てて海に落として撃退したが重傷者3名軽傷者7名。
死体を引き上げ本土の研究所で解剖。
・皮膚はきわめて硬く自衛隊の銃でも抜けない。
・耐火性能が高くセラミックのようである。
HEAT弾頭でも抜けるか判らない。
・空飛ぶ戦車だが航空力学的になぜ飛べるか判らない。
・JAXAがロケットを準備
国産機を発注からしてると時間が無いので海外からICBMベースのロケットと衛星ベンチャーが作った撮影衛星を買ってきた。
最適化はされてないが数打ちゃ動く。お金や精度より時間が重視された。
海上プラットホームから、低軌道にのせ地表を撮影させる。
いくつもの大陸と文明らしきものが確認できた。
転移情報室も転移の科学的調査より、発生するだろう転移の際に発生する問題の解決方法の模索の側面が強くなり転移問題庁として改組された。
転移を防げないのであれば。転移した先で国民の生活を保障しなくてはならない。
全員避難とすると1億5千万もの難民を出すことになる。
しかしそんな人数の引き受け手がいないので避難は論外とされた。
1万人ほどが国籍離脱で対象外にならないか試したが加速度異常は消えず駄目であった。
伊豆大島東岸にもロケット打ち上げ設備の整備が突貫ですすめられる。
組み立て施設、発射台、管制施設ならともかく、長期切り離されるため、ロケットの燃料生産プラントも居るのだ。
転移後、情報収拾衛星、資源探査衛星、気象衛星を打ち上げるスケジュールを立て大工事。
打ち上げ設備を運ぶための港湾設備も作られていく。
西暦2014年1月
<施政方針演説で転移について触れられたこと>
・転移現象が発見されて2年。範囲は拡大傾向のままである。
・転移先にも文明らしきものは存在するようであるが詳細は不明である。
・次の転移では伊豆諸島が転移してしまうと考えられているので全島避難を自治体には要請する。
・転移に関する問題を一元的に管理するため転移問題庁を内閣府配下に設置した。
・転移先で食糧などの資源が確保できるかの調査隊を伊豆諸島の転移にあわせて派遣する。
・最悪の予想では日本全土が対象であるので心に留めておいてほしい。
西暦2014年8月
全島避難
噴火による緊急避難と違ってある程度スケジュールが読めるため、引っ越しに近い感覚で避難が進められる。特に若い世代がどれだけ島に戻るか心配されている。大体再転移してくるまで約半年の予想だ。
残存するのは
志願した研究者、インフラ保守要員、JAXAの打ち上げ関係者とその資材運搬船の要員
1400kmほど離れた場所にある島への観測班の上陸と護衛に強襲揚陸艦、護衛艦、補給艦各1隻
頑として避難しなかった人たちにはくさやの業者が多かった。
過去の全島避難でくさや汁が駄目になったのが忘れられないのだ
かといって避難先にもっていくわけにもいかない。
彼等は漁師がいなくなるので1年分の魚を冷凍庫にため込んだ。
電話は本土にシステムの本体があり島にはないため、切り離された時点で使えない。業務用無線機による連絡網を整備する。
空港には航空偵察用にP-3Cが2機配備された。