ハリー・ポッターと金銀の少女(改) 作:Riena
マルフォイ邸の大広間はいつも以上の賑わいをもたらしていた。
なんといっても今日はクリスマスパーティー。
一年に一度の一番大きなパーティーにはいつもの純血の名家に加え、有名人や魔法省の役人などの多くの客人が招待されていた。
そんな中、一組の男女が会場に足を踏み入れた。
「メリークリスマス、シエル。今日は随分と大人びているね。綺麗だよ」
「ありがとう、ドラコ。貴方もネクタイピン使ってくれているのですね。似合っていて良かったです」
シエルはフリルやリボンが最小限に抑えられた、瞳より幾分か深い緑色のドレスに、髪は器用に編まれ、一本に纏められていた。
ドラコは髪をオールバックにし、タキシードにはシエルが以前プレゼントした、ネクタイピンを着けている。
「大人顔負けね…」
そう言って苦笑したのは、シエルについているメイド。
その正体は、髪を魔法で長くして、色も変え、いつもなら絶対にはくことのないスカートをはいたソードだ。スカートをはくことを提案したのはルシウスで、その後にめったぎり(文字通り)にされかけたというのは余談である。結局は、こうしてはいているのだが。
「では、ソード。メイドは壁際で待機していてくださいね。何かあれば、これを」
そう言って渡したのは、コイン一枚。シエルに何かあったときに熱を持ち、居場所が文字として浮き上がるという代物だ。原作でこんなのあったなーと思い、作ってあったものである。
「では、お気をつけくださいませ、シエルお嬢様」
ソードのらしくない言葉に微笑みつつも私は答えた。
「行ってきます」
ドラコにエスコートされながら、会場を歩く。
子供達はまだ、親と共に挨拶に追われているようなので、落ち着くまでは一先ず自由だ。
途中、料理をつつきながら、私たちは会場をまわってみることにした。
しばらくすると、子供達は挨拶から解放され、輪を作り始めた。ドラコは主催者の息子ということもあり、一瞬のうちに囲まれてしまう。ドラコは目で済まないと謝りながらも、子供達に埋もれてしまった。
さて、そろそろ“心の準備”でもしておきますか。
「やあ、キミ、ひさしぶりだね!」
…来た。
ダンブルドアが訪れた日。
彼の計画を聞いた私たちは、拍子抜けしてしまった。
彼は、こう言ったのである。
「計画…そう呼べるかも怪しいのう。
要するに…その場しのぎで頑張るしかないのじゃ」
そんなダンブルドアの言葉に、一児の母であるソードが爆発した。
「ノープランですって?!よくもまあ!校長、何を仰っているんですか!シエルはまだ、子供なんですよ!」
セブルスも納得がいっていないのか、顔をしかめ、頷いている。
「ソードよ、仕方がないことなのじゃ。彼らはわしらの手の届かないところで計画を練っておる。日時を知れたこと自体、奇跡じゃ。多くは望めん
「だとしたら、シエルを行かせないべきです!行かなければ襲われもしないではありませんか!」
ダンブルドアの宥めるような口調に、ソードの怒りは逆にヒートアップしていってしまう。
「だいたい、こんな子供に当主を務めさせたのが間違いです!いくらスタージェント家だからって、この子が少し
それを止めたのはシエルだった。
「ソード、貴女が私のことを大切に思ってくれていることはよく分かりました。…しかし、この罠に乗るべきだと、私は思います」
「……シエル?…貴女、殺されてしまうかもしれないのよ?もしそうじゃないとしても、戦いは逃れられないわ!貴女はまだ、子供なのよ!」
「ソード、確かに私は子供です。未熟で世間知らずで、貴女にとっては守るべき対象だということも分かっています」
「じゃあ、何で…!」
「ただ、一つだけ。
子供の私でも、戦うことはできます。大体、この時の為に今まで貴女に鍛えてもらったと言っても過言では無いのですから」
「でも…」
「ソード、忘れていませんか?……私は魔力が強い。向かうところ敵なし、ですよ?」
ソードはまだ何か言いたげな顔をしていたが、私の顔を見て諦めたか、それ以上何も言うことはなかった。
「と、いうことで、決まりです。ダンブルドアさまとセブルスは引き続き情報収集を、フェッタは万が一に備え家のことを、ソードは変装するなりして、パーティーに参加することにしましょう。私は…これまで以上に自分を鍛えることにします。そうすれば、ソードもセブルスも安心でしょう」
突然名を呼ばれたセブルスが驚いたような顔を見せた。
「別に、吾輩は心配したりなど…」
「まあまあ、セブルス。
…話はこれで終わりでよいかの?」
「ええ」
「では、わしらは帰るとしよう。行くぞ、セブルスよ」
ダンブルドアが席を立つと、渋々といった様子でセブルスも立ち上がる。
「ではのう」
暖炉から彼らがいなくなると、ソードも暖炉へ向かう。
「ソード、明日からもよろしくお願いします」
「……ええ」
彼女はそうとだけ言って出ていった。残された私は困った顔をする。
「親心は複雑ですね」
「違いありません」
そう答えたフェッタもあまり良い顔はしていなかった。
僕が見たとき、
アイツらはいつも一緒に行動している。たぶん、許嫁か何かなのだろう。まあ、
しばらくして、マルフォイが集団に囲まれると
僕はにやりと嗤う。そして近づいていった。
「やあ、キミ、久しぶりだね!」
早く
──これは僕の、
「やあ、キミ、久しぶりだね!」
久しぶり、と言うのも、彼はほとんどのパーティーに参加していなかったのである。
「お久しぶりですね、ノットさん。お元気でしたか?」
「うん、とっても元気さ!…ところで、今日は何だか
…そう来ましたか。
皮肉にもとれるその言葉を私はするりとかわす。
「今日は
「いや、お似合いだよ、シエル。ただ、もう少し
「
「いや、僕があげるよ。ただ、今は無理だからもう少し待っていてくれないか?」
「いいのですか?…分かりました。では、私はしばらく此処にいますので」
「うん、じゃあ、また後でねー。
……あ、そうだ、シエル」
立ち去ろうとしたノットがまた、戻ってくる。
「何でしょうか?」
そう聞いた私の肩を彼がぐいっと掴んだ。そして耳元に口を寄せる。
「
そう言うと、彼は何事もなかったように、去っていった。
一人残された私はよろよろと床に……
「大丈夫かい?」
倒れる寸前の私を誰かが抱き抱えた。
見ると、そこには…
「ドラコ…?」
彼はシエルをゆっくりと立ち上がらせると、近くにあった椅子に座らせる。
「ありがとう、ドラコ」
「いや、いいんだ。それより、何かあったのかい?」
心配そうに聞く彼に私は首を横に振る。
彼はノット家とのことも、今日のことも何も知らない。巻き込むわけにはいかなかった。
「いえ、少し立ちくらみがしただけです。…ドラコは皆のところに行かなくてもいいのですか?」
「ああ、少し疲れたから抜けてきたんだ。そしたら倒れそうになっているから、驚いたよ」
「そうでしたか…」
「本当に大丈夫かい?」
「ええ、もうだいじょ……「ドラコー、プレゼント交換の時間よー!」
輪の方から、パンジーがぶんぶんと手を振りながらそう言うのが見えた。
「……あらドラコ、ガールフレンドがお呼びですわ」
「皮肉なら他所でしてくれよ。というか、まだ数分しか経っていないのに…」
「人気者の宿命ですわ…」
「皮肉を言うときに口調が変わるの、止めてくれないか?」
ドラコの困り顔に思わず笑みがこぼれる。
「ドラコー早くー!」
再度お呼びがかかった。
「ほら、早く行かないと、振られてしまいますわ」
「君は本当に……「何をしているの、ドラコ!こんな子に情けをかけてないで、早くみんなの所に行きましょ!」
ついに、パンジーがどすどすと音をたてながら、此処まで来てしまった。パグ顔がくしゃりと歪んでいる。
「すまないパンジー、今行くよ」
困り顔が更に困った様子になる。私は彼を見送ろうと手を振る。
が、
「行ってらっしゃ…「何を言ってるの?全員強制参加よ?」……え?いや、私は……」
「ほら、さっさと立つ!
……行きましょう、ドラコ♪」
私の否定を余所に、パンジーは片方はドラコの腕をがっちりとホールドし、片方は私の手を力一杯に握る。完全強制で私は輪の中に連れ去られてしまった。
やっと解放されたときにはもう、パーティーも終盤を迎えていた。
鞄に入っていたプレゼント用のクッキーももう残すところあと少し。プレゼント交換をしないつもりだった割に、手の込んだクッキー作っていたのは内緒である。鞄の中にはクッキーの代わりに他の子から貰ったプレゼントが詰められていた。
お菓子、アクセサリー、ハンカチに羽ペン……。鞄を眺めていると、声がかかった。
「メリークリスマス、シエル嬢」
「ルシウス!
…すみません、まだ挨拶をしていませんでしたね。メリークリスマス」
「いやいや、いいのですよ。楽しんで頂けたようですしね」
プレゼントに膨らんだシエルの鞄を見るルシウス。どうやら、頬が緩んでいたらしい。恥ずかしくなったシエルは慌てて鞄を閉めた。コホンと咳払いをする。
「ところでルシウス。何かご用ですか?」
「ええ、プレゼント渡しておこうと思いましてね」
そう言うと、彼は小箱を差し出した。
「いえ、そんな。気を使わなくてもいいのですよ?」
「いやいや、いつもドラコがお世話になっておりますので」
お世話されている気もするけれど。
そんなことを思いながらも、シエルは有り難く受け取ることにする。
お返しにクッキーを渡しておいた。
「では、そろそろ私はナルシッサとダンスを踊ることにしましょう。また、後日」
どうやら、パーティーのラストはダンスを行うらしかった。ルシウスはナルシッサを探しに中央へと歩いていった。
結局、何にも起こらなかったなー。
ノットからの皮肉と挑発があっただけで、襲われたりはしなかった。まだ、パーティーは終わっていないので、油断はできないが。
そう言えば、ドラコはまだプレゼント交換をしているのかな?ダンスが始まったからパンジーと踊ってたりして。
「シエル、少しいいかい?」
噂をすれば、ドラコが現れた。
「あらドラコ、パンジーと踊らないのですか?」
「パーキンソンと?馬鹿なこと言わないでくれ。ダンスは大人達だけだよ。それに、僕にはシエルがいる」
「あら、告白ですか?」
「前文撤回。君はただの友達だ」
シエルはくすりと笑う。許嫁がただの友達かどうかは分からないが。というか、許嫁がいても恋人を作るのはいいと思うのだけれど。
「それで、親子揃って私に何かご用ですか?」
「父さんも来たのか?…まあ、いいか。取り敢えずついてきてくれ」
「?」
彼の後ろを追いながら歩く。
と、着いたのは、以前、告白(?)をされた庭だった。
「なぜ、ここに?」
「……」
ドラコは何も答えなかった。ぼうっとシエルを見つめている。
「……?」
ふと、彼の胸元を見た。そこには──
つけられていた筈のネクタイピンが見当たらなかった。
「シエル、今日は来てくれてありがとう。僕からキミに渡したいものがあるんだ」
《彼は小箱をポケットに手を入れると、何かを取り出した。
「手を出して?」
シエルは右手を前に差し出す。
「片手だと入らないから、両手を出してくれるかい?」
左手も同じように出した。
彼の手がシエルに近づく。触れる寸前。
「ねえ」
シエルの声で彼の手が止まった。
「なんだい?」
近い距離で視線が交わる。彼の瞳から感情が押し寄せてきた。
シエルはにこりと
「……
「すまない、リボンは切れているんだよ。代わりに……
ノットの言葉と同時に、何処からか呪文が放たれた。
「「「「
「
「中々やるじゃないか、シエル・
「貴方は嘘をつくのが下手くそですわ、セオドール・
ドラコの皮を被ったノットは嗤う。
ドラコはパンジーをパーキンソンと呼ばない。
ドラコはルシウスを父さんと呼ばない。
ドラコはネクタイピンを外したりなど絶対にしない。
偽物だと分かるのに時間はかからなかった。
「スタージェント、キミを殺すのはもう少し後だ。死の呪文を掛けなかった僕の優しさにせいぜい感謝するんだな。……まあ、まずはじっくりと痛みを味わえ」
「「「「
「
四方八方から磔の呪文が飛んでくる。その全てをシエルの呪文が防ぎきった。
「なに…!?」
そうしている間に、シエルはソードと対のコインを握り、場所を念じた。少しすれば、彼女が気づき、ここに駆けつけてくれる筈だ。
「ノット、残念ですが、貴方に勝ち目はありませんわ。杖を置き投降しなさい」
シエルの忠告にノットは──
「ははっ、はははっ、あはっ、あははははっ!」
──嗤っていた。
「狂ってる……」
まだ8歳の子供に一体何をしたらこんなにも狂ってしまうのだろうか。
殺意。恨み。憎しみ。悲しみ。哀しみ。そういった負の感情が彼を造りあげていた。
そしてなにより、彼の心は幸福に満ち溢れている。
シエルは悟った。彼は、セオドール・ノットという者は此処にはいない。彼はただの操り人形。こんなことを出来るのは──
「キミって本当に面白いね!投降しなさいだって?この僕に?はははっ!勘違いしているのかな?僕たちはキミに手加減してやってるんだよ?……殺れ」
彼の合図で総攻撃が始まる。
「
「
「
「
攻防一卓の戦い。4対1と人数では遅れを取っているシエル。しかし、魔力は互角だった。
「
「
「
「
無言呪文に切り替え、杖を振る。右、左、後、右、前、左、後、前。
次々と呪文が襲いかかり、それを一つ一つ弾き飛ばしていった。
ノットはそれを楽しそうに見ている。
「ははっ、そうだ、いけ!もっと殺れ!!」
ゆっくりと、それでいて、確実に、シエルの体力が削られていた。
ソード、なるべく早く来てくださいね。私の体力が切れる前に。