ハリー・ポッターと金銀の少女(改) 作:Riena
──────────────────────────
12月24日のクリスマスイブ。
この日、私はドラコのお家のパーティーへ行きました。パンジーやダフネ、アステリア達とプレゼント交換をして、ルシウスさんにもプレゼントをいただきました。それから……。
……それからのことはよく思い出せません。
それに、あの日まで私は、魔法の鍛練を必死にしていました。まるで、何かに備えるように。何の為に私はそんなことをしていたのでしょうか?
考えれば考えるほど分からなくなります。
ただ、ふと思うのです。
良い子には幸運を。悪い子には悪運を。私にサンタクロースは来なくて、代わりにブラックサンタが来たのでしょう。
きっと私は、この日、大切な“何か”を
過信と油断。ふと、そんな言葉が浮かびます。
私は一体──“
──────────────────────────
賑やかに談笑をする貴族たちを横目に、ソードは一人、壁際で待機していた。
少し遠くにいる、緑色のドレスを身に纏った少女を見る。
半年前。
私が育児休暇から復帰してしばらくの時、任務としてシエルの護衛兼訓練係を勤めることになった。
金髪碧眼という妖精のような美しい容姿と、凛とした態度。一緒に過ごしていく内に、少しずつ彼女の
家族のいない、愛の無い環境故か、先天的な性格故か。
彼女の笑顔を見てからか。可哀想だとかいう同情ではなくて、ただ単純に彼女を守りたいと思った。
彼女から視線を外し、
こんなことになるなら死喰い人の時に殺してしまえば良かったか。そしたら、シエルの重荷も少しくらいは軽くなったというのに。
そんな物騒なことを考えたところで、視線を戻し、思考を止めた。
噂をすれば、彼女に
「こんなところにいたのか、給仕係」
振り返ると、ルシウスがいた。
「あら、馬鹿プ…じゃなくて、
私は皮肉を込めて彼の名を呼んだ。しかしいつものごとく、すまし顔でかわされてしまう。
「いや、特に用は無いんだがな。
……それにしても、君が本当にその服を着るとはね。学生時代はマクゴナガル先生に叱られてでも、ズボンをはいていたあの君が…ねえ?」
「…誰がはけって言ったんでしたっけ?」
私のスカート姿を物珍しそうに見る
「そういえば
愛称で呼ぶなんて珍しいじゃない。
そう思いつつも、愛しい娘の笑顔が頭に浮かんだ。同時に、彼女の笑顔も。
「ええ、とっても元気にしてるわ。ただ……」
「ただ…?」
言葉を止めた私はシエルを見る。いつの間にか、隣にはドラコがいた。
「シエルを見ていると心配になるわ。フィナの笑顔と比べると、あの子の笑顔が曇って見えてしまう……大人過ぎるのよ、あの子は」
私の言葉に彼も頷く。
「まあそうだな。だが、仕方がない。当主という重みは8歳の精神のままでは耐えきれないのだよ。ましてや、スタージェント家だ。下手したら私よりも荷が重い」
「全然、フォローになっていないのだけれど?」
「それは失敬」
彼の気のない謝罪に、三度睨み付ける。
しかし次は、彼がすまし顔をする前に私が睨むのをやめた。
「ねえ、
「……なんだい?」
彼が私の顔を覗く。意を決して、私は口を開いた。
「フィナを、頼んだわ」
目が合った。彼の顔が珍しく驚きに崩れた。それでも…それなのに、彼の顔は美しい。
長い間、沈黙が続いた。ルシウスが口を開く。
「…………ああ」
ねえ、ルシー、貴方は覚えている?
ホグワーツ特急での出会いを。ホグワーツでの生活を。私が闇祓いになった日のことを。貴方が私を捕らえたときのことを。私たちの子供が生まれた日のことを。ヴォルデモート消えた日のことを。
私はね、ずっと、ずっと、貴方の事を────
「愛してるわ」
「…………」
ルシウスは私に背を向けた。明らかな拒絶。だが、彼の耳はそれとは反対に赤く染まっていた。
「 」
彼が何か言った…ような気がした。しかし、歩き出した彼の声は彼女の耳には届かなかった。
ルシウスが居なくなると、しばらくしてダンスが始まった。マルフォイ夫妻を目に入れないようにシエルを見る。と、彼女はまたドラコと話しているようだった。彼に連れられてどこかに行ってしまう。着いて行こうか迷ったが、二人の邪魔はしたくないので、やめておくことにした。
やっとのことでプレゼント交換を終えた僕は、最後に一つだけ残った小さな箱のプレゼントを見つめた。
「もしかして、それは彼女へのプレゼントかしら?」
ぼーっとしていた僕は急に声を掛けられ、びっくりした。その拍子に手に持っていたプレゼントを落としてしまいそうになる。慌てて持ち直すと、ふうっ、と安堵の溜め息をついた。
「よっぽど、大事にされているようですわね?」
見ると、そこにいたのはダフネだった。
「べ、別にそんなんじゃないさ。可哀想だから構ってやってるだけだよ」
「にしては、頬が緩んでいる用ですが?」
「いや、そんなことはない!」
「ふうん…」
意地悪な笑みを浮かべたダフネ。僕は取り繕うが逆効果にも思えた。
「まあ、いいですわ。そろそろおいとまさせて頂きますわ。ドラコ、ごきげんよう」
「ああ、また」
ダフネが歩き出す。
「そういえば、ドラコ。彼女から目を離しては駄目ですわ。ふっと消えてしまうから」
「…言われなくても、シエルはそこに…………ん?」
見ると、さっきまでシエルがいた場所に彼女が見当たらない。左右を見渡す。それらしき人は全く見当たらない。
ふと、少し遠くの場所に、ソードが見えた。彼女なら、シエルがどこにいるか知っているかもしれない。
「急いだ方が良いですわ……取り返しのつかないことになる前に」
「ありがとう、ダフネ」
「いってらっしゃいな」
僕はダフネへの礼もそこそこに、ソードの元へと急いだ。
「ソード」
僕が声をかけると、彼女は驚いたような顔をした。
「ドラコ?貴方…」
「シエルが居ないんだ。君なら何処にいるか知っていると思って」
彼女がまた驚いた。
「え?何を言ってるの?さっき貴方がシエルを連れて行ったじゃない」
「ん?僕は今さっきまでプレゼント交換をしていたんだよ。それでシエルにプレゼントを渡そうと…」
「はっ!」
ソードがポケットからコインを取り出した。確か、パーティーの前にシエルが渡していたような…。
「ドラコ、貴方は今すぐ、お父様の所へ行きなさい!」
「?一体何が……「シエルが危ないのよ!」……は?」
「シエルが……ああ、もういいわ。とにかくルシウスに伝えて!」
「わ、分かった。貴女は?」
「私はシエルを探すわ。中庭はどっち?」
コインに書かれた文字を見て、ソードがそう聞く。僕が道を教えると、飛ぶように彼女は去って行った。僕も急いで父上のもとへ向かう。
父上は母上とのダンスを終え、誰かと話しているようだった。話を遮ることも構わず僕は声をかける。
「父上!」
「ああ、ドラコ来たのか。こちら、息子のドラコです、大臣」
「おお、君がドラコ君かね」
「あのっ、父上、大事なお話が……「ドラコ?」
父上の声が少し低くなった。僕は思わず口を閉じる。
「すまない、ドラコ。少しだけ待っていてくれるかな?今、大事な話をしているのだよ」
父上と魔法大臣との圧力に、僕はとうとう何も言えなくなってしまった。
熱を帯びたコインを握りしめ、私は走った。ドラコに聞いた道を辿り、中庭の入り口を探す。少し走ると、直ぐに見つかった。しかしーー
「やはり、来たのか」
扉の前には一人の男が立ちはだかっていた。
「ご無沙汰ね、ノット。元気にしていたかしら?……よくも、シエルを拐ってくれたわね」
「否定はしないでおくよ。ただ、拐ったのはわたしではなく、息子だがな。あいつは本当によく働いてくれる」
クックッと嗤うノット。
「貴方が親ということに疑問しか感じないわ。息子を使うなんて」
「誉め言葉として戴くよ。まあ、最初は少し抵抗したからね、杖を一振りしたよ。そのお陰で、あっという間に殺人魔の完成さ」
私はあまりの
「許さないわ、ノット!!貴方は……!!」
私は杖を取り出した。自分が怒りに震えているのが分かる。
「キミはわたしを倒せるかな?」
ノットも杖を持っていた。
「ええ、殺してやるわ。絶対に」
「「……!!」」
無言呪文。緑と赤の二つの閃光が混じり合った。
たいりょくが、たり、ない……!
はぁ、はぁ、と肩で呼吸をしながらも、シエルは残されたほんの僅かな体力でなんとか立っていた。しかし、彼らに慈悲など無く、絶え間なく呪文が飛んできている。
失神呪文、武装解除呪文、爆発呪文、磔の呪文、妨害呪文……。その全てを盾の呪文で跳ね返していた。先ほどまでは反撃も少々出来るほどに余裕があったのだが、着々と減らされていく体力にだんだんと顔にも苦の色が浮かんできていた。
「なかなかやるねえ、キミも。ただ、そろそろ限界なんじゃない?ほら、体がよろけてきてるよ?」
服従の呪文によって殺人魔に生まれ変わったセオドールが、それはもう楽しそうに見ている。
彼の言う通り、私の限界は近かった。
「
「
「
と、その時、私の体がぐらりと揺れた。
セオドールの口元がにやりと歪む。
……あ、終わった。
「
真っ赤な閃光が私に直撃した。
じんわりと、深碧のドレスが私の血で染まっていく。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、いたい、いたい、いたい、いたい、いたいいたい、いたい、いたい、いたい、いたい。
痛みに弱い“私”はあまりの痛覚の強さに地に伏し、声にならない悲鳴をあげた。
セオドールはさらににやりと嗤い、手を挙げ、呪文を止めさせた。
「うぐ…はぁ……っん……」
痛みに悶えながらも必死に立ち上がろうとする。しかし、意識を保つこともやっとな状態の私には、そんな力は残されていなかった。どうにか顔を彼に向け、殺意を向ける。しかし、彼は口が裂けそうなくらいににやついていた。
「どうだい、良いプレゼントだろう?やっぱり、紅色がとっても似合うよ。その顔もとっても良い顔だ!だけどね、まだまだ足りないよ。もっと、紅く染めて上げる。だから簡単に死なないで、耐えてね?いーっぱい遊んであげるから!」
彼が私に杖を向けた。
「何で……何故、貴方は…スタージェントを憎むの、ですか?」
私の問いに、彼は杖を下ろす。
「何故かって?フッ、そんなの決まってるじゃないか!憎いんだよ!これまで、ノット家の者達を何人君たちが殺したと思う?何人も、何十人も…母さんだって!憎い、憎いんだよ!
「あ"ぁぁぁぁぁっ!!」
「あはっはははははっ!!」
私の悲鳴と彼の嗤い声が庭中に響き渡った。
どれくらい経ったのか。いつの間にか、私はもう痛みを感じなくなっていた。
ぼんやりとした視界の中で目の前にいる人影を見つめた。セオドール、だったっけ。彼が私に杖を向けているのが分かった。周りを見ると、何人もの大人たちが私を囲むようにして立っている。
「Die」
ああ、私死ぬんだ。
せっかくなら、ホグワーツに行ってみたかったな。ハリーにも会いたかったし。
ソードともっと、話したかった。ドラコともっと、仲良くなりたかった。セブルスの授業も受けたかったな。
私は──
「シエル!!!!!」
私とノットとの戦いは、呪文を放ち、避け、防ぎ…互いに致命的な一撃は打てず打たれずのままだった。
なかなか決着がつかず、時間ばかりが過ぎていく。
と、その時、遠くの方から誰かが走ってくる音が聞こえた。現れたのは──
「待たせたな、セナ」
「ルシー!」
ルシウスの登場にノットはチッと舌打ちをする。ルシウスは彼に杖を向けたまま、冷たい声をかけた。
「これはこれは、ノット殿。わたしの屋敷で何をされておられるのかね?」
「フッ、まあいい。そろそろ、奴も死んだだろうしな。では」
そう言うと、意外とあっさりとノットは姿くらましで消えた。
「時間稼ぎか…すまない、セナ」
「そんなことより、中に、シエルが!」
「ああ」
私は扉に駆け寄ると、勢い良く扉を開いた。直後、つんと血の臭いが鼻を刺す。庭の中央の人影を見つけ私は叫んだ。
「シエル!!!!!」
ドレスはズタズタに切り裂かれ、緑色だったはずが血で真っ赤に染まっていた。ドレスだけでなく、綺麗に植えられていた筈の草花も血で染められていた。
致死量ははるかに超えている。もしかして…と、最悪の結末を思い描いた時、ぴくりと少しだけ、ほんの少しだけ彼女が動いた。
まだ生きているのだ!
私たちに気づいた少年、セオドール・ノットは杖を彼女に向けていた。
私は、何も考えず、ただただ走り出した。
「セナ!?」
ルシウスの声が聞こえる。回りから無数の呪文が飛んできたが、構わず進む。
「
ノットが呪文を唱えたのと、私がシエルを抱きしめたのはほとんど同時だった。
名前を呼ばれた。この声は……ソード…?
遅いよソード。私…死んじゃうとこだった。
「
呪文が聞こえた。と同時に私を誰かが包み込んだ。
「シエ、ル…、い、き、て……」
いつの間にか抱きしめられていた私は重みを感じた。
そんな……私を守るために…ソードが……?
ふと、視界にセオドールが入った。にやりと見下ろすその瞳を睨み付ける。
彼の瞳が恐怖に揺れ、顔が強張った。
「
視界が深紅に染まった瞬間、私は意識を手放した。
セナが走り出した。わたしは彼女を呼ぶが、耳に入ったかも分からない。
セオドールが不吉な
それなのに、わたしの体は全く動いてはくれなかった。
「
シエルを抱き締めたセナの背中に、真っ赤な閃光が突き刺さった。
「せ、な……?」
「 」
シエルが英語ではない何かを口にした。
刹那。
爆風が庭を包み込んだ。
これは……魔力?
膨大な魔力が彼女を、シエルを渦巻き、放たれた。
わたしは咄嗟に「
男たちの悲鳴が。いくつかの姿くらましの音が。耳を切るような風の音が、聞こえた。
しかし、魔力によって視界も灰色になり、何が起こっているのか分からない。
と、その時。
「
後ろから、聞き覚えのある声が。憎いが安心感のある声が聞こえた。
すると、次第に風がおさまり、視界も徐々に鮮明になっていく。
わたしは何も声にならず、ただただ立ち尽くした。
「これは一体、どういうことかね?」
またしても、聞き覚えのある声。それは、この場に一番いてほしくない人物だった。
「大臣……」
コーネリウス・ファッジ魔法大臣がわたしを見下ろしていた。その間に、呪文を唱えた老人、アルバス・ダンブルドアが割って入る。
「ファッジ、事情聴衆は後じゃ。ともかく、怪我人を助けねばならん。セブルス、手伝ってくれるかの?」
ダンブルドアの視線の先にはセブルスもいた。
「ええ、校長」
ダンブルドアが心配そうな顔でわたしを見る。
「ルシウス……おぬしも一度診てもらった方がよい。今すぐにでも行きなさい」
ダンブルドアに言われるがまま、わたしは姿くらましで病院へ向かった。
わたしはもうなにも考えられなかった。
──セナは、わたしの愛したセナは、もう、この世界に居ない。
「何故じゃ…?」
ルシウスが居なくなると、ダンブルドアがぼそりとそう呟いた。
中庭…だったはずの場所はもう、見る影もない。そこはもう、血の池と化していた。
「シエル!」
重なりあった2つの、人であろうモノにセブルスが駆け寄る。
杖を向け、必死に治癒呪文を唱えた。
「
頼む、シエル、生きてくれ!!!!」
セブルスがいつもの冷静さを無くし、涙を流しながらシエルを呼ぶ。
その様子にダンブルドアは思わず目を伏せた。
「セブルス……もう、助からんよ。この血の量じゃ……。わしは、また失敗を……」
その時。かすかに、動いた。瞬きをしていたら見えないくらいの、ほんの僅かな動きだ。だが、彼らはそれを見逃さなかった。
セブルスがはっと顔を上げ、ダンブルドアに目配せする。ダンブルドアが頷いたか……。セブルスは彼女を抱き上げ、姿くらましで去った。
ダンブルドアもそれに続こうとした時、声がかかった。
「アルバス。これは一体どういうことかね?」
大臣だった。彼は庭を見ながらそう言う。ダンブルドアは顔をしかめた。
「わたしが見たところ。先ほど連れられたのはスタージェント殿だな?そして、杖を向けていたのはノット。」
「……うむ、そうじゃ……。
しかしのう、ファッジ。彼女らはまだ子供じゃ。それに、片方は服従の呪いを掛けられておった」
「アルバス。今、ここに、死体はいくつある?」
ダンブルドアはやっと大臣の意図が分かった。
ここにある死体は
「ファッジよ、シエルは…「アルバス」
大臣はダンブルドアの言葉を遮った。
「彼女は、シエル・スタージェントの罪状は、魔力の行使による殺人。聖マンゴでの治療後アズカバンだ」
すたすたと歩き出す大臣をダンブルドアは止める。
「待つのじゃ。それでは、彼女を殺すようなものじゃ!ファッジ、どうか、考え直してはくれ!シエルはまだ……「子供だな」
大臣の声は冷たかった。
「アルバス、子供だからと言って罪を消すことはできんよ。ましてや、殺人となれば話は別。それに……スタージェントがいなければ、死人は出なかった。あの家は疫病神だ。牢に入れておけば何もできん」
そう言うと、大臣は姿くらましで消えていった。
「シエル……」
一人残された彼は彼女の名を呼んだ。