ハリー・ポッターと金銀の少女(改)   作:Riena

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Page 13.違和感の答え

 目の前には知らない男の子がいた。

 顔はよく見えないが、にやりと嗤った口は、今にも裂けそうなくらい歪んでいた。

 

「     」

 

 その男の子が何かを口にした。杖が向けられている。

 

 死ぬのかな。

 

 そう思いながらも、シエルは冷静だった。視界が真っ赤になって、何処からか名を叫ばれて、誰かが抱きしめて。

 それでもシエルは、静かにその様子を見ていた。シエルの頭は冷めきっていた。

 

 まるで──私がその場にいないかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日で何度目だろうか。

 

 目が覚めたシエルは倦怠感と頭痛に起き上がれず、ぼーっと天井を見つめていた。

 ホグワーツに来てから毎日のように同じ夢を見るようになっていた。

 ただ、鮮明だった筈なのに、目が覚めて暫くすると内容は忘れてしまうのだ。

 

 何か意味が……?

 考えれば考えるほど、分からなくなっていく。

 

 その時、ドアがノックされた。

 時計を見ると、起きる時間をとっくに過ぎてしまっていた。

 

「すみません、少し待っていてください!」

 

 ドアの外にいる彼らに声をかけると、ぱんっと頬を叩いて、起き上がった。

 

 きっとただの夢だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備を済ませ、外に出ようとドアノブに手をかける。

 その時、何度目かのノック音が響いた。

 

「姫、まだ?」

 

「先に行っちゃうぜ?」

 

「今、終わりまし…「おい、お前らこんなとこでなにをやってるんだ?」

 

 がちゃりと扉を開いた瞬間に、知らない声が聞こえた。慌てて閉めようとするが、扉を押さえつけられた。

 

「──誰だ?」

 

 濃色の肌にドレッドヘア。すっと細められた瞳は冷たいものを映していた。思わず、人生に疲れた中年男性みたい、だなんて失礼な事を思ってしまった。それほど、彼の瞳は冷めていたのだ。

 

「あ、リー!」

 

「今日は図書館行かないんだな!」

 

「…こいつは誰だ?」

 

 話を反らそうとした二人の努力が、一瞬にして水に流れた。

 

「「え、えっとね…」」

 

 明らかに焦っている二人。追い討ちをかけるようにして、彼は私を睨んだ。

 

「お前は誰だ?」

 

 シエルは仕方なしと口を開いた。

 

「シエル・エンヴァンスと申します。ミスタ、お名前をお聞きしても?」

 

 彼はハッとした顔をした。

 

「エンヴァンス?あの、リリー・エンヴァンスの娘か何かか?」

 

「い、いえ」

 

 ふぅんと言いながら、私を下から上に見回す。瞳を見た時にまた驚いていたような気がしたが、気のせいか。

 

「…俺はリー・ジョーダンだ。リーでもジョーダンでも好きに呼べ。で、お前らはどんな関係なんだ? 大体お前、ここの生徒じゃないだろ」

 

「えっと…」

 

 助けを求めるように双子を見るが、ぶんぶんと首を横に振られた。

 

「実は……」

 

 隣の部屋にいるであろう人物に心の中で謝罪を入れると、私は彼に全てを話した。

 

 

 

「それで最近、お前らが早起きだったわけか」

 

「あはは」

 

「ばれちゃった」

 

 そっくりの仕草で頬をかく二人。 

 

「おっと、そろそろ授業だ。お前ら行くぞ」

 

「あっ、朝食食べ損ねた!」

 

「今すぐ行っても間に合わない!」

 

「裏道使えば行けるんじゃないか?」

 

「「それだ!」」

 

「俺は行かないから…「「超特急!」」…あっ、おい!俺まで巻き込むなー!」

 

 リーは嫌々言いながらも、双子に引きずられて廊下を去っていった。

 

「私も食べ損ねてしまいましたね…」

 

「では我輩と食べるかね、シエル」

 

「せ、セブ!」

 

 いつの間にか、横にセブがいた。

 

「いつからそこに?」

 

「ふむ、君は我輩との約束を、既にいくつも破っていると見た。異論はあるかね?」

 

「…あ、ありません」

 

「うむ。その話は朝食を終えてからにしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セブの部屋はまさしく、研究所といったものだった。

 ただ、物が散らばっていることはなく、きちんと整頓がされていた。

 

「そこに座りなさい。すぐに準備する」

 

「あ、私も手伝いますわ」

 

「…では、お願いしよう」

 

 備え付けられた小さなキッチンの棚から、ポットと、カップを2つ取り出す。

 その間にセブは、目玉焼きを焼いていた。

 

「セブもお料理するんですね」

 

「意外か?」

 

「ホグワーツは基本、作られた料理を頂くでしょう?だから、あまり作らないのかと」

 

「確かにな。ただ我輩の場合、研究などしていると食事の時間に間に合わんのだよ。仕方なく自分で作っている」

 

「誰かに持ってこさせればいいのに」

 

「ふっ、我輩に食事を運ぶ物好きがいると?」

 

 確かに…と心の中で相槌を打った。セブみたいな先生は好かれるタイプではないかもしれないな。

 

「さて、食べるとしよう」

 

 話している間に、いつの間にか出来上がっていた。

 

「それで、赤毛たちとは仲良くやっているのかね?」

 

「え?」

 

 怒られると思っていたため、セブの言葉に驚いた。

 

「えっと…2人とも凄く明るくって、何も言ってないのに毎日来てくれるんです。理由を聞いたら、友達だからって」

 

「そうか。歳の近い子供と遊ぶのはいい事だ。最も、もう少し常識のある奴と仲良くして欲しかったがな」

 

「確かに、彼らの悪戯は規格外と言いますか…」

 

「それに加担している君が言えることではないのかね?」

 

「す、少し手伝っただけですよ?」

 

 怪しいと言わんばかりの顔を向けられる。シエルはそっと視線を逸らした。

 

「まあいい…くれぐれも他の教授のお世話にならないように」

 

「セブならいいので…コホン、気を付けます」

 

 マイナスの視線を浴びて、背筋を伸ばした。セブは怒ると怖いのだ。

 

「よろしい。では、そろそろ時間だ。何かあればいつでも来なさい。魔法薬学なら教えてやらんでもない」

 

「はい、ご馳走さまでした。セブのご飯、とっても美味しかったです。魔法薬学もぜひ今度、教えてくださると嬉しいですわ」

 

 セブに見送られながら──といっても隣なのだが──シエルは部屋に戻った。

 お昼に双子達が来るまでのんびりしようかと、本を手に取った。

 

『偉大な魔法使いとその偉業』

 

 500ページもある中々読み応えのありそうな本だった。暇潰しにはちょうど良いだろうと開いてみる。

 

『N

  ニコラス・フラメル

 出身:フランス 魔法使い、錬金術師

 説明:伝説の物質、賢者の石を創造した。オペラ愛好家としても知られている。

 

 ▶賢者の石

 魔力を持つ赤色の石で、有名な錬金術師ニコラス・フラメルが創造した。

 命の水を生み出すことができ、それを飲んだ者は永久の命を得られると言われている。また、全ての金属を純金に変える力を持つ。』

 

 シエルはそのページに目を通した瞬間、本をバンッと閉じた。

 ──何かがおかしい。

 “賢者の石”という言葉が、胸につっかえたように取れなかった。

 そう言えば此処に来たときも同じ感覚がした。

 それに、最近の不思議な夢。あれも何か関係している…?

 

 見覚えのないものが、聞き覚えのないものが。来たことのない場所が、あったことのない人が。

 私の“知らないこと”を“知っている()()”が…?

 

 得体の知れない恐怖がシエルを襲った。ゾクリと背中に冷たいものが伝わる。

 

 私は──誰?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっと授業が終わった。

 朝食を食べたせいで授業に遅れた僕らは、結局罰則のせいで昼食を抜く羽目になった。マクゴナガル先生は監督の寮だからと言って手加減しなかったのだ。

 もう、お腹ペコペコだ。

 そう思いながらもたどり着いたのは、彼女の部屋の前だった。

 

 トントン──。

 

 優しくノックをする。しかし、返事はなかった。

 

 トントン──。

 

 再度ノックをするが返事がない。もしかしたら、もう先に大広間に行っているのかと首を傾げると、静かに扉が開いた。

 

「すみません、少し本に集中していて…何か御用でしたか?」

 

 出てきた彼女は、朝よりも幾分か元気が無さそうに見えた。

 

「ああ、夕食を一緒にと思ったんだよ。朝の遅刻で昼食を食べ損ねちゃって」

 

 片割れの言葉に、彼女はあらと口を被う。

 

「では、大広間に行きましょうか。今日のメニューは何でしょうね?」

 

 そう言ってニコニコと笑いながら、大広間へと歩き出す二人。

 僕は立ち止まったままだった。

 

「兄弟よ、どうしたんだい?そんなとこに突っ立って」

 

 冗談めかしく片割れはそう言った。ただ、僕はそれでも動かない。

 振り向いた彼女は微笑んだ。

 

「早くしないと、夕食もお預けになってしまいますよ?」

 

 彼女の笑み(うそ)に僕は思わず耐えきれなくなった。

 

「何かあったの?」

 

 彼女の瞳を真っ直ぐと見つめる。が、直ぐに視線を外された。

 

「特に何もありませんよ?」

 

「いや、そんなことない。何もないなら君は──そんな顔はしないだろ?」

 

 そんな──悲しい顔はしないだろ?

 

「……」

 

 彼女は黙ってしまった。何も分かっていない片割れは僕らの様子を交互に見ている。

 

「何かあったんだろ?」

 

 僕は再度聞いた。彼女は黙ったまま、俯いてしまう。

 ただ、彼女の下にぽつりと落ちたものが、答えだった。

 

「とりあえず中に入ろう。フレッド、夕食を包んで持ってきてくれる?三人分」

 

「お、おう」

 

 部屋に入ると取り敢えず彼女を座らせた。

 彼女が落ち着くまで横で背中をさする。

 しばらくするとすっきりしたのか、彼女は顔を上げた。

 

「ごめんなさい…いきなりこんな……」

 

「ううん、いいんだ。困ってるときに助け合うのが友達だろ?」

 

「ふふ、ありがとう」

 

 今度の笑みは笑顔(ほんもの)だった。僕はほっと胸を撫で下ろした。

 

「たっだいまー!」

 

 ちょうど良いタイミングでフレッドが帰ってきた。

 

「今日のメニューはなんと、ローストビーフだ!」

 

「おっ、美味しそうだな!」

 

「すぐに準備をしますね」

 

 結局、彼女の涙の理由を僕は聞けなかった。

 ただ、いつもの笑顔に戻ってよかったと、心から思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ姫、また明日ね」

 

「おやすみ」

 

 双子たちを見送ると一人になった。夕食の後片付けをしようと机に向かう。が、面倒になったので杖を一振りすることにした。

 

 どさっとベッドにダイブする。なんだか今日は一段と疲れた。

 ただ、彼のお蔭で先程まで感じていた恐怖は、随分と薄れた気がする。

 

 明日から少しずつ、この“違和感の答え”を探していこうと心に決めると、いつの間にかシエルは眠ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セブルスよ、よく来たのう。さあさ、此処に座りなさい」

 

 時刻は今、24時56分。

 そんな時間に呼び出したのにも関わらず、ダンブルドアはご機嫌のようだった。

 一方、呼び出された方──セブルスはと言うと、不機嫌そうに眉をひそめている。

 が、逆らう理由もなく、言われた通りに座った。

 

「さてセブルスよ。わしが何故此処に呼んだかは分かるかね?」

 

「…シエルのことでしょう?」

 

「左様。最近は赤毛の双子と仲が良いのう。マルフォイ家以外の友人を作っておくのは、実に良いことじゃ」

 

「ですが本当に良いのですか?彼らが深入りし過ぎると、記憶が思い起こされたりなど…」

 

「心配はいらんよ、セブルス。見た限りだと、あの二人の片方がストッパーの役目をしておる。それにシエルが知るのも時間の問題じゃ」

 

「ですが!」

 

「いつかは越えなくては行けない壁じゃ。時がくるまで…そうじゃの…わしらが預かっているだけじゃ。今はまだ彼女には重すぎる」

 

「……はい」

 

「話は以上じゃ。今日はもう遅い。わしはちぃと雑務をこなしてから眠るとするかのう。おやすみ、セブルス」

 

「ええ、また」

 

 校長室から出ると、セブルスは力一杯に拳を握り締めた。

 この怒りは、悲しみは、何をすれば消えてなくなるのだろうか。

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