ハリー・ポッターと金銀の少女(改) 作:Riena
何もない空間に一人漂っていた。
海の波や風に身を任せるように。
しかし、身体はなく、四肢の感覚も全く感じない。
ただ“私”という意識が空間をふわりふわりと漂っていた。
どれくらい経っただろうか。
やっと、自分がなぜここにいるのかと疑問に思い始めた時。突然、何かがカタチの無い“私”を引っ張り始めた。
びゅーっと強い風に吹かれるようにして空間を移動していく。次第に四肢の感覚も戻っていくようだった。
頭は天に、足は地に。重力があることに安心感さえ覚えてしまう。
ガヤガヤ、ザワザワ、と戻ってきた聴力が随分と煩い場所にいることを教えてくれる。私はゆっくりと瞼を開いた。
うわっ、眩し。
明るすぎる視界に、手で顔に影をつくる。そして、改めて自分がどこにいるのかを確認した。
「
声を出した瞬間、私ははっと口を押さえた。明らかに今のは
私は訳が分からず、黙り込んだ。そして、ゆっくりと辺りを見渡してみる。
──右を見る。
行き交う人々は皆、外国人ばかりで服装は古めかしいものばかり。中にはローブなんかを着た人もいる。
──左を見る。
並んでいる店々のショーウィンドには薬草のようなものや、不思議な形をした小物、古本屋など。ペットショップと思わしき店にはフクロウが多く並んでいた。
もしかして…?
頭に浮かび上がった、一つの答え。それを確信できるものが私の目の前に
「
そう聞いてきたのは人では無かった。
ぼろ布を身にまとい、私を覗く大きな瞳と心配そうにピクピクと動く長い耳が特徴の
私は頭がクラクラとするのを感じた。
もしかして、でも、もしかすると、でもない。
ここ…『ハリーポッター』の世界?!
あまりの驚きに私は、ははっと力なく笑うと、そのまま意識が暗転した。
目が覚めると、そこは自室のベッドの上…では無かった。
夢じゃなかったことに、嬉しさ半分、悲しさ半分の何とも言えない感情が芽生える。
大体、“私”、いつ死んだのだろうか?
しばらく、うーんと首を捻っていたが、結局何も浮かび上がらなかったので、仕方なく起き上がり、ベッドを降りる。少しふらつきはしたものの、立ち上がることができた。
そこは大きな部屋だった。ふりふりのレースとか、高そうな絨毯とか、そこまでとはいかないけれど、決して
それに……それに?
違和感を感じた。
──私は一体“誰”?──
その問いかけに応えるように、“この子”の記憶が波のように押し寄せてくる。
「っっ!!!!」
今まで味わったことのないような不思議な痛みが脳天を貫き、私は歯を食い縛ることで何とか耐えた。
しばらくして、徐々に痛みが引いてくると、いつの間にか私は床に倒れこんでいた。額には玉のような汗がいくつも浮かび、力を入れすぎたせいか、掌には爪の跡がくっきりと残っている。
「はぁ、はぁ…」
荒くなった呼吸を鎮め、体を起こす。その時には、“この子”の記憶を全て思い出していた。
──シエル・スタージェント。
それが、“この子”…いや、私の名前だ。
年齢は8歳。父親はアズカバンにいる。母親は、顔すら思い出せないのできっと故人。そのため家族と言えるのは、先ほど見た屋敷しもべ(名はリーサと言うらしい)だけで、彼女と二人暮らしをしているみたいだ。
そして“私”は。
──
年齢は16歳で高校二年生。父親は、そこら辺の会社で働くサラリーマン。母親も同じく、スーパーのパートで働くようなどこにでもいるおばさん。ちょっとイケメンな大学生のお兄ちゃんがいるけれど、ごくごく普通の家庭で生活をする、東京都在住のJKだ。
シエルと心笑瑠。名前が一緒なのには何か意味があるのだろうか?
情報を頭の中で整理した私は立ち上がり、もう一度部屋を確認した。部屋の壁に立てかけられた姿見を見つけ、前に立ってみる。
そこには、心笑瑠とは似てもにつかぬ美しい少女が映っていた。
まっすぐに伸びた、サラサラの金髪。真っ白な肌に映える大きな翡翠の瞳。窓から吹かれた優しい風に、ふわりと髪をなびかせている少女は、まるで
「映画のヒロインみたい…」
ぼそりと呟くと、何だか不思議な気分になった。私はもう“普通”では無くて。『ハリー・ポッター』の中にいる“ヒロイン”の一人なのだ。
「は、は、は…」
私は気絶したときと同じように笑った。
そんなの“私”には……向いてない……よね……