ハリー・ポッターと金銀の少女(改) 作:Riena
「おはよう、ルー」
私の目覚まし時計とも言える
“私”が転生してから、約一か月が経っていた。
私はあの日から、熱を出して寝込んでしまった。“転生”という異常な状況が、頭どころか身体まで着いていけなかったのだ。
体調が治ったのは、二週間後。それからは、ゆっくりとこの生活に慣れていけば……なんて、軽い考えでいた私は痛い目に遭うことになった。
原因は主に文化の違いと、シエルの環境の2つだった。
家の中でも靴を履いて過ごす、お茶や水代わりに紅茶を飲む、主食がお米じゃなくてパンや芋、お風呂に毎日入らない、など。
特に食生活は美味しくない訳では無いのだが、イギリス人とは馬が合わないらしく、何度お米や醤油を求めたことか…。リーサの目を盗んで、味付けを濃くしたこともあった。
そういった文化の違いはなかなかきついもので、少しずつ慣れてはきているのだが、まだまだというところであった。
次に環境について。
魔法史の教科書曰く、スタージェント家は聖ニ十八家よりも偉い身分の家柄らしい。しかも、私の父は現当主で私は次期当主。そのせいで、毎日がお嬢様修行なのであった。
今まで身振りや口調など気にもかけていなかったことを、一つずつ細かく丁寧に指摘され、教育されていた。
また、月曜日~水曜日はお嬢様修行。木曜日~土曜日はマグルの小学校の授業。日曜日は魔法の制御の授業で、それぞれ1日6時間以上といった感じに、学校と同じように勉強をさせられた。
しかも、先生はスパルタなリーサで、少しでも気を緩めたらおでこに
「はぁ…」
ここ1か月の苦労を思い出して、私はため息をついた。
それを見たルーが、額をコツンと嘴でつついた。
食堂に行くと、朝食の準備がされていた。辺りを見渡すがリーサはいない。キッチンにも自室にもいないので、どうやら外出中のようだった。何時ものことだと、特に気にかけず、私は席について朝食に手をつけた。
しばらくして、デザートのプリンを食べていると、パチンッという音が聞こえた。
「おはようございます、リーサ」
「おはようございます、お嬢様。少し用事がございまして、起床前でしたので、お起こしするのは、よろしくないと思いまして…」
「何か大事な用でしたか?」
屋敷しもべの独特な敬語に、私はそう返した。「~でしたか?」だなんて、“私”の柄じゃないけれど。この一ヶ月で、お姫様言葉を完璧に身に付けていた。
「その事なのですが…今日の午後から、お嬢様はお出かけをされなければならなくなりました。会わなければならないお方がおられるのです」
「…会わなければいけない人…ですか?」
私の問いかけに、リーサは頷いた。
「はい、でございます。…では、本日は日曜日ですので、魔法の練習をいたしましょう」
どうやら、会うまではその人について教えてくれないらしい。リーサは指を鳴らして、空になった食器を下げると、食堂を後にした。私もそのあとに続く。
…会わないといけない人って誰なんだろ?
食堂を出ると、真っ直ぐに伸びた廊下を少し歩いて、中庭に向かった。ここが、いつもの魔法の練習をしている場所だ。先ほどいた食堂と同じくらいの大きさがある。
「では、始めましょう。まずは、おさらいから。このかばんを上へ持ち上げてみてください」
目の前にあるかばんに手を向ける。魔力を指先に集め、ビューンヒョイっと手を動かすとかばんが浮き上がった。
「お上手です!」
「ありがとう、リーサ」
この『ハリーポッター』の世界の魔法は、主に杖と呪文を用いて、自分の魔力を制御して、魔法を使う。
上達すれば、
しかしそれとは逆に、自分の魔力を制御しきれずに、暴走してしまうことがある。これが、幼い子供の魔法使いや魔女が引き起こす魔法だ。これは、強い感情、特に不快感を感じた時に起こりやすく、稀に大人でも同じように、魔力の暴走を引き起こしてしまうことがある。
私は生まれつき、魔力が強いらしく、この魔力の暴走が酷かったそうだ。そこで、3歳の頃から徐々に制御する方法を身につけて、今では大体、ホグワーツ三年生で習う魔法を行うことができた。
そんな私にとって、浮遊呪文なんてお手の物。
こう言うのが転生特典って言うのかな?もしそうなら、神様ありがとう!いるか分からないけどね!
その後も、リーサから出された課題を難なくこなしていくと、あっという間にお昼の時間となっていた。
「では、今日はここまででございます。昼食を準備致します」
昼食を食べ終えると、すぐに出かける準備を始めた。
その間、リーサは一度もこの後のことについて話すことはなく、彼女が口を開いたのは、出かける寸前のことだった。
「準備は終わりましたでしょうか?」
「はい、終わりました」
「では少し、大切なお話をさせていただきます。
…お嬢様が今からお会いになられるお方は、お嬢様にとって、とても大事なお方でございます。そして、今からお話しされる内容は、お嬢様の将来に関わることでございます。
…敵でも、味方でもございません。しかし、敵にも味方にもなりえます。くれぐれもお気を付けくださいませ」
「……ん?」
急に真面目な顔で真剣な話をされ、私はよく理解ができずに首を傾げた。しかし、リーサはそれ以上何も言うつもりはないらしい。
「えっと…リーサ…?」
「ご武運を」
え、私今から戦争にでも行くの?
その言葉がリーサに届く前に、私の視界は歪み、回っていた。
目を開くと、何やら見覚えのある部屋の入口に、私は立っていた。
壁にはいくつもの肖像画がかかっており、そのほとんどが動いたり話したりしている。置かれている飾り棚の中には不思議な形や色をした小物、あるいは小道具が棚いっぱいに飾られており、本棚の上には古めかしい三角帽が置かれていたりもする。また、止まり木には綺麗な鳥が、静かに止まっていた。
「…ふぉっふぉっふぉ、部屋の内装が気になるのかね?わしは物がたくさんあった方が好きでのう…」
ふと、正面に置かれた机の向こうにいる、一人の老人が私に話しかけた。そちらへ視線を向けた私は、驚きのあまり、思わずあっと声をあげてしまう。
「あ、貴方は…!」
「わしを知っているのかね?…それは実に嬉しいことじゃのう。おっと、わしとしたことが、まだ、名乗ってもおらんかったのう。改めて…わしの名は、