ハリー・ポッターと金銀の少女(改) 作:Riena
「…わしは、アルバス・ダンブルドアじゃ」
自己紹介をされたシエルは、驚きを隠せずにいた。まさか、初めて会う原作キャラがダンブルドアだなんて。
「ミス・シエル…大丈夫かね?」
思わずぼーっとしてしまったが、ダンブルドアの声ですぐに背筋を伸ばす。
…というかまだ私、名乗ってなかったよね?
「大丈夫です。まさか、今世紀最強とも言われている魔法使い様にお会いできるとは思っていなかったものですから。しかし、なぜ私の名を?」
「ほっほっほっ、どうやらおぬしは聞いた通りの娘じゃ。父親に似て肝が据わっておる」
「父をご存じで?」
「ああ、もちろんじゃよ。何せ、彼はわしの教え子であり、わしがアズカバンに収監した者の一人であるからのう」
ダンブルドアの言葉で一瞬で空気が凍ったように冷たくなった。彼の瞳がシエルを見つめる。眼鏡がきらりと光った。
『…敵でも、味方でもございません。しかし、敵にも味方にもなりえます』
家を出る直前にリーサに言われたこの言葉。この意味がやっと今理解できた気がした。
シエルは再度背筋を伸ばした。
少なくとも、今は敵だ。原作ではハリー・ポッターの味方だけれども、シエル・スタージェントの味方だという保証はない。
リーサに教え込まれた淑女という名の仮面を完全に被り、普通の人間であれば怖気づいてもおかしくはないほどの雰囲気を纏う。しかし彼は、アルバス・ダンブルドアという人間は、普通ではなかった。
彼は余裕のある朗らかな笑みを見せた。負けじと、シエルも微笑む。そして、口を開いた。
「そうでしたか。その節は父が大変お世話になりました。
…それで、ご用件は何でしょうか?できれば手短にお願いしたいのですが…」
中々、棘のある言葉で攻撃する。だが、彼はそんなことで揺らがない。
「ふぉっふぉっふぉっ。おぬしはその歳で場の空気を操れるというのかね?…そんなに緊張ぜずとも大丈夫じゃよ。わしはおぬしと穏便な話し合いをしたいのじゃ」
優しい言葉とは裏腹に、心の中に何かが入り込んでくる感覚がした。そして、強い念が同時に伝わる。
この人はほんとうに……こういう人だ。
「まずは、座ってはどうかね?」
薦められた私は椅子に腰を掛けた。ダンブルドアは杖を振って、紅茶の注がれたカップを二つだす。
「美味しい茶葉を使っておるはずじゃ。飲みなさい」
前に出されたカップ。シエルはそれを見つめた。
「安心しなさい、毒は入れておらんよ。大丈夫じゃ」
確かにその紅茶に、毒は入っていなかった。
私は紅茶を一飲みした。
「……それで…真実薬を飲ませてまで、聞き出したい情報とは一体、どのようなものでしょうか?」
「気づいておりながら飲んだのかね?」
ダンブルドアは否定も肯定もしなかった。代わりに杖を一振りし、カップを片付ける。もう一度杖を振ると新しいカップが現れた。
次は何も言わずカップに口をつけた。そして、苦笑する。
シエルの意識は闇に沈んだ。
ふらりと彼女の体が傾く。
目の前に座る老人は、机に顔が当たる寸前に浮遊呪文を使って浮かばせた。
コンコン。
丁度良いタイミングで扉が叩かれた。老人が返事をすると、扉が開く。そこには一人の男性が立っていた。
「校長、お呼びでしょうか?」
「ふむ、セブルスよ……頼まれてくれぬかね?」
ダンブルドアは何をとは言わなかった。セブルスと呼ばれた男は、ダンブルドアの前に座るーーと言うよりは浮いているーー少女を見る。
「彼女は……もしや?」
セブルスの問いにダンブルドアはこくりと頷く。
「まさか、彼が……?」
もう一度問うと、同じように頷いた。
「分かりました。そうと決まれば早くしましょう」
「そうじゃのう」
ダンブルドアは彼女に視線を向けた。セブルスが彼女を優しく抱き抱える。その軽さに少し驚いてしまった。
「……」
すやすやと寝息を立てながら眠っている彼女。見とれるほど綺麗な顔立ちの彼女は数年前よりも、幾分か成長したように思えた。
「セブルス、大丈夫かね?」
「すみません、校長。行きましょうか」
次の瞬間。彼らはそこから姿を消した。
「ん……」
シエルは身体の倦怠感に唸りながら体を起こした。いつの間にか私は眠ってしまったらしい。
はっと顔を上げた。周りには誰もいない。しかし、ここが先ほどいた場所でも、自分の家でも無いことは確かだった。
取り敢えず体に異常が無いことを確認して、寝ていたベッドから降りる。
と、その時、扉ががちゃりと開いた。
「はっ、シエル……!!」
部屋に入ってきた途端に、男性の声が私の名を呼んだ。顔を確認する暇もなく、視界が真っ暗になる。
「?!」
シエルは何者かに抱き締められているらしかった。
分かっているのは男性ということだけ。一応言っておくが、私に面識のある男性は先ほど会ったダンブルドアしかいない。
ということは、面識のないつまりは初対面の、なおかつ男性に抱き締められている?
「あ、あの……」
遠慮がちに声をかけると彼は私からばっと離れた。明らかに、無意識だったようだ。
と、少し見上げると抱きついてきた犯人の顔が見えた。私ははっと驚く。そこにはーーセブルス・スネイプがいた。
「な、な……」
頭が混乱してなかなか言葉が出てこないシエル。思わず、府抜けた声を出してしまった。
が、思い直した私はすぐに切り替えて背筋を伸ばす。
「こほん。それで……一体これはどういった
「猿芝居とは、中々言いますな」
「そうでなければ、何と言えば良いのですか?開心術と共に伝えるというのはいい策ですが。私に真実薬を飲ませたのは故意でしょう?」
開心術の歳に伝わってきた強い念。それは『わしの言う通りにしなさい』だった。“前”の記憶にある彼に対する信頼と先程のリーサの言葉がなければ、彼が味方だと言うことは分からなかっただろう。
コンコン。
「入ってもよいかのう?」
ノック音と同時に老人の、ダンブルドアの声が聞こえた。「どうぞ」とシエルが返事をする。
「邪魔してすまぬのう。何せ急ぎの用事で……と、そんなことよりも、まずおぬしに謝らねばならぬ。手荒な真似をしてしまい済まなかった」
「いえ、構いませんが、きちんと説明をしてくださいますか?」
先程までの冷たさとは一転して、優しいお爺様になったダンブルドア。
「もちろんじゃよ。しかしのう、あまり時間も掛けられぬ。手短に話すとしよう。よいかね?」
「分かりました。お願い致します」
「まず、悪い話が一つ。
昨夜、スタージェント家当主ロキス・スタージェント殿が、アズカバンにて亡くなられた」
ロキス・スタージェント。スタージェント家当主であるその人はシエルの父だ。アズカバンに投獄されている間は代理の当主がスタージェント家を率いている筈だが、名前としては当主は彼。そして、次期当主は私だった。ということは。
「まさか……?」
ダンブルドアが難しそうな顔をして、こくりと頷いた。
「シエルよ。今日からおぬしは…「待ってください。私以外にも次期当主がいたはずでは?」
ダンブルドアの言葉を遮るようにして、そう言った。私はまだ子供だし、まず第一に他にも候補がいるはずだ。大体、代理の当主をやっていた者の方が適任ではないだろうか。
しかし、ダンブルドアは首を振った。
「実はのう…ロキス殿はただ亡くなったのではなく……暗殺されたのじゃ…」
そうか。と私は頭の中で全てが繋がったような気がした。
スタージェント家は代々純血を受け継ぐ家の一つであり、昔から今で言う聖28家と同じような存在だった。しかし、聖28家をつくったノット家とのある出来事によって、聖28家から外されてしまったのである。それに怒った当時のスタージェント家はノット家のおよそ半数を虐殺。一時的にではあるが、ノット家を再生不可能な状況に陥らせたのである。
もっともスタージェント家とノット家はもとより犬猿の仲であったらしく、喧嘩が起こる度にイギリス魔法界の秩序を揺るがしていたのだが。
その事件の後、スタージェント家は他の純血の家々から畏怖され、いつの間にか聖28家よりも上の地位に君臨していたのである。また、スタージェント家はそれ以来、イギリス魔法界にあまり顔は出さず、出せば出すで必ずと言っても良いほど何か事件を起こすので(ほとんどがノット家との喧嘩)一時は疫病神の王家とも呼ばれていたらしい。
そんなスタージェント家が近頃表に出ていたのは、私の父であるロキス・スタージェントが当主であるとき。それからまだ一度もノット家とは揉めていないようなので、時期が来た、と言うことらしい。
さて、ここで簡単な問題が一つ。ノット家は当主を殺しただけで気が済むのでしょうか?
……答えは勿論、否。
ノット家はこれを期にスタージェントを潰しにきているのだ。
そのためにまずは当主を殺した。そうすればスタージェント家はどうしても不安定な状況になる。
そして、代理当主を。続いては順に次期当主候補の者を。次々と虐殺して行く。
では、どうすれば彼らを止められるのか。
答えは一つ。新しい当主を立てればいいのだ。
新しい当主を立てれば世間が騒ぐ。世間が騒げばノット家も大きく動くことは難しくなる。
この一ヶ月で蓄えたスタージェント家に関する知識を、今、全て使い果たした気がした。
私はダンブルドアを見る。真っ直ぐと、彼の瞳を覗き込んだ。
彼の瞳に写る私に……
「分かりました」
……迷いなどなかった。