ハリー・ポッターと金銀の少女(改) 作:Riena
イギリスの首都ロンドンから遠く離れた森。そこは魔法によって限られた人間しか入ることを許されない特殊な魔法が幾つも複雑に掛けられていた。イギリス国内で言えば、安全性はホグワーツと大差ない。そんな森の奥深くに大きな屋敷があった。
「ここが本家ですか?」
屋敷の入り口である門の前に二人の人影がある。一人は金髪の少女。もう一人は黒髪の男だ。少女が男にそう聞くと、彼は頷き、門を開いた。
ギギィと重たい音が鳴り、門が開く。男が中に入ると少女もそれに続いた。
門から屋敷の扉までは庭が広がっていた。誰も住んでいないのならば整いすぎている庭だ。
やっと扉までたどり着いた。扉の横にあるベルを鳴らす。暫くすると、扉が開いた。
「お待ちしておりました。中へどうぞ」
屋敷の中に入ると、思っていたよりも落ち着いた内装にシエルは少し安心していた。
てっきり、ブラック家のグリモールド・プレイス十二番地やマルフォイ家のお屋敷のように、色々な物が飾られていたり、アブナイモノがあったりするかと思っていたのだが、装飾品はほとんど見当たらない。あっても、綺麗な風景画くらいだ。
また、先ほど挙げた二家とは違い、絨毯や壁紙の色も暖かみのある色で、少なくとも屋敷しもべを虐めるような家では無さそうだった。
そんなことを考えているうちにいつの間にかリビングに通されていた。薦められるままにソファに座る。
「こちらをどうぞ」
差し出されたカップを受け取る。が、さっきのことが合ったので無意識の内に何か混ざっていないか確認してしまった。もちろん何も入っていない。女性にお礼を言おうと顔を上げると、どこか見覚えのあるように思えた。
「あの…貴方、どこかでお会いしたことがありますか?」
躊躇いながらもそう聞くと、私の問いに女性はふわりと笑いながら答えた。
「覚えていてくださったのですか?……わたくしはフェッタと申します。シエル様がまだ小さい時にお会いしたことがありますね。それはもう、何度も」
はっと、私は思い出した。この女性と…フェッタと一緒に遊んでもらった気がする。そう言えば、ここもなんだか見覚えがある気がしてくる。そうか、ここは……私が生まれた場所なんだ。
「フェッタ…」
「はい、フェッタでございます。お帰りなさいませ、シエル様。もう…6年ぶりですね」
その言葉は私の胸をじんわりと温めた。そうか、こんなところにーー家族がいたんだ。
「ただいま、フェッタ…」
しばらくその余韻に浸っていると、スネイプが咳払いをした。おっといけない、まだ終わっていないんだった。
「校長から幾つか言伝てを預かっている。よく聞きたまえ。ああ、フェッタと言ったな?君も一緒にと校長は言っていた」
下がろうとしていたフェッタに声をかけると、彼女は立ち止まり、話を聞く体制に入った。
「まず、先ほどシエルには真実薬と生ける屍の水薬を飲ませた。あれは、ノット家を騙すための方法であったため、許してほしい。真実薬を飲ませることによってシエルが本物だということを証明し、生ける屍の水薬を飲ませることによってシエルは昏睡状態だということを証明したのだ」
「あたかも、誰かに見られているという言い方に聞こえるのですが。まさか、あの校長室にノット家の者がいたと?そうは思えませんでしたが…」
「いや、そうではない、シエル。彼らは間接的にこちらを監視する手段を持ち得ているのだ。何か分かるか…?」
あの校長室にあったものの中で、一番怪しいのはたくさんの小道具だ。しかし、もしそうならば、その道具を別の部屋に移すか、壊せば良いだけだ。とすれば、移動したり壊したりできないもの、ということになる。他にあったもの……帽子…飾り棚…鳥…
「もしかして…肖像画ですか?」
「その通りだ」
校長室にはたくさんの肖像画が掛けられている。確かに肖像画があれだけ沢山あれば、一つ、いや、一人くらいは内通者がいてもおかしくはないだろう。
「ともかく、手荒な真似をしたことに変わりはない。校長に変わって謝罪をする」
……この人、本当にセブルス・スネイプ……?
彼は私に向けて、何の抵抗もなく頭を下げていた。「あなたのせいではないですから」と慌てて顔を上げさせるが、驚きが大きすぎる。原作ではハリーが嫌い過ぎるだけなの?もしかしてこっちが本当の性格だったり?
「吾輩は校長に変わって謝罪を述べたのみだ。別に吾輩がシエルに謝っている訳ではない」
前文撤回。スネイプはやっぱりスネイプでした。
「まあいい。
次は、リーサのことについてだ。ロキスがアズカバンに入ってから、君をどこで育てるかという問題が発生した。当初は本家で召し使い…いや、君のことだ、フェッタ。君が育てるという話で決まっていた」
「はい。初めはそのようなお話で進んでおりました。しかし……」
「しかし、わたくしもアズカバンに投獄されたのです。ロキス様とともに陰謀を企てたとして。
わたくしは大きく動いていた訳ではありませんでしたので、そこまで罪は重くならずに済みました。ですが、戻ってきたときにはもう、シエル様は他の方に保護されていました」
「それが、校長だ。校長はシエルを保護した後、ホグワーツで働く屋敷しもべの一人、リーサに君を育てさせ、彼女を通して君を保護していたのだ」
なるほど。それで、朝に急にいなくなったりする訳だ。今朝もきっとダンブルドアの元で打ち合わせかなにかをしていたに違いない。
「では、もうリーサはホグワーツの仕事に戻ったのですか?」
「そうだな。今頃、厨房で生徒達の食事を作っているのではないかね」
もう、6年も一緒にいたからか、リーサは私にとって家族のようなものだろう。せめて、さよならくらいは言いたかったなと思う。しかし、彼女は仕事をこなしていただけなのだ。そういった情は迷惑にしかならないだろう。
「挨拶くらいしたかったか…?」
スネイプがそう聞いた。私は思わず肯定しそうになって、思い止まった。
「……いや、大丈夫です。
それより、他にもまだお話があるのでしょう?」
「ああ、次はこれからのことについてだ。
まず住まいについてだが、今日からここでフェッタと暮らしてもらう。吾輩が週に一度様子を見に来る。何かあればその時に言うように。基本、外出は禁止だ。今外に出れば、殺して欲しいと言っているようなものだからな。分かったかね?」
「はい」
「それと、スタージェント家の話となれば、魔法省も決して黙ってはいないはず。フェッタ、もし魔法省等から手紙が来たら、一報を頼む」
「分かりました」
「話は以上だ。吾輩はそろそろホグワーツへ戻らねばなるまい。では…」
「一つだけ聞いても、宜しいでしょうか?」
そそくさと部屋を出ていこうとするスネイプに、私は声をかけた。
「なんだね」
「スネイプさんは…なぜ私を守って下さるのですか?」
私は彼の黒い瞳を真っ直ぐと見つめた。しばらく沈黙が続くと、スネイプは背中を向けた。
「吾輩が貴様の後見人だからだ。以前から、ロキスに頼まれていたからな。
それと………吾輩のことはセブルスと呼べ」
そうとだけ言うと、彼は玄関の方へ早足で歩いていってしまった。私はそんな彼を見て、くすりと笑った。
「ありがとう、セブルス」
あれから一週間が経った。
配達フクロウが持ってきた、日刊預言者新聞を見ながら顔をしかめる。フェッタも同じような顔をしていた。
『スタージェント家の新当主、情報公開一切NG。またもや雲隠れか』
先日、スタージェント元当主であるロキス・スタージェントがアズカバンにて無くなられた。これは長年の独房生活による精神の不安定と身体の衰弱による死亡とされ、事件性は極めて薄いと……(内面8ページに続く)
新当主について明かされている内容はほぼ皆無に等しく、分かっている情報は「個人情報やプライバシーを守られるべき存在」ということのみであり、これに対し専門家の○○○・○○○○氏は……(内面4ページに続く)
スタージェント家当主の交代というビックニュースにイギリス魔法界は大騒ぎだった。新聞以外にも雑誌やラジオなどで特集が組まれているほどに。当の本人であるシエルは世間の騒ぎっぷりに呆れ始めていた。
一番迷惑なのは、手紙が大量に送られてくることだ。内訳は、六割がマスコミ、三割が魔法省、残り1割が純血の名家からの手紙だった。マスコミは来た瞬間にインセンディオ。魔法省は軽く目を通してレダクト。純血の名家はフェッタに交流のあった名家を聞き、返事を書いて送っていた。
変化が訪れたのはそのまた一週間後、そろそろ世間もネタが尽きたらしく、手紙の量も最盛期の3分の2くらいまで減り始めていた頃だった。
いつも通り、フェッタが持ってきてくれた手紙を受け取ると、10枚以上ある中で一枚だけ上質な羊皮紙の手紙があることに気がついた。
他の手紙は塵のサイズまでレデュシオして、それだけ手に取る。封筒の右下の整った文字を見て、目を疑う。そこには『ルシウス・マルフォイ』と書かれていた。