ハリー・ポッターと金銀の少女(改) 作:Riena
シエルが一枚の手紙をまじまじと見つめ固まってしまったのを見て、フェッタはどうしたものかと声をかけた。
「…シエル様?誰からの手紙だったのですか?」
「…あ…ああ、ルシウス・マルフォイ殿からのお手紙です。彼は?」
「ルシウス様は、ロキス様の再従兄弟に当たるお方です。わたくしがこちらに戻ってきてからも良くして頂きました」
「そうですか」
そう言いながら、シエルは手紙を丁寧に開き中に目を通した。少しすると、顔を上げる。
「どうやら、彼は私に会いたいようです。明日の午後とお返事をしても?」
「かしこまりました」
次の日の午後。約束通り、ルシウスがスタージェント家に現れた。どういうわけか、セブルスと一緒に来ている。
「スタージェント嬢、お久しぶり、と言ってももう昔のことですね。ルシウス・マルフォイと申します」
「マルフォイ様、私はシエル・スタージェントです」
お互いに挨拶を済ます。リビングに通すと、フェッタにお茶を用意させた。
「それにしても、セブルスが後見人となるとは思っていませんでしたよ。確かにロキスはセブルスと仲が良かったですがね」
「父とセブルスがですか?……それと、言葉は崩して頂いて構いませんよ。名前も呼び捨てに。私はまだ若輩者ですので」
「そうですか。では、シエル嬢。わたしのことはルシウスと呼んでください」
「分かりました、ルシウスさん……それで、何かお話があるとお聞きしたのですが」
「そうでしたね。まずはこちらをご覧ください」
そう言うと、ルシウスは懐から手紙を一枚取り出して、私に渡した。受け取るとすぐに中身を確認した。
「魔法省直々に手紙を下さるとは…」
手紙には、『スタージェント家は我々魔法省の味方であり…』や『魔法省は如何なるときもスタージェント家のお側に…』といった、文が多くを占めていた。他にも世間の風評被害等に対する謝罪も多く並べられていた。
魔法省がこんなに怖がるなんて…ご先祖様、やらかしすぎでしょ。お辞儀じゃあるまいし。
そのせいか、本題に入った時にはもう三枚目の羊皮紙であった。通りで分厚いと思ったわ。
『(前略)…聞いたところ、スタージェント家の新しいご当主様はまだお若いそうで…(中略)…というわけで、闇祓いの方から一名、護衛をつける事と致しました。これについては…(後略)』
読み終わったシエルは、セブルスに渡した。彼は目を通すとすぐに顔を上げる。
「失礼ながら、これはシエルに“監視”を付けたいという意味で間違いありませんな?残念ながらそれは……「お願いします」
「今、何と?」
セブルスは驚きながら、シエルに問い直した。
「お願いします、と言ったのです、セブルス」
「しかし、シエル、監視ですぞ。勝手に動くことは許されません。それに、魔法省は…「セブルス」
静かに、それでいて鋭い。セブルスは杖を向けられたときの様な感覚に押し黙った。その様子を見ていたルシウスはセブルスと同じように固まってしまう。
「セブルス、私は、魔法省と敵対する意はありません。それは、魔法省も同じの筈。そうですよね、
「も、もちろんでございます、
この少女は本当に少女なのだろうか。思わずルシウスはそんなことを考えてしまった。
この場の主導権は自分にはない。全てがこの少女にあるのだ。
「魔法省の好意を無下にしたくはありません。ぜひとも、護衛をお願いしたいです。セブルス、ダンブルドア様への報告を頼みました。それで……まだお話が?」
「ええ。続いては、シエル嬢の名についてです。スタージェントと名乗ることによって、色々と面倒ではないかと考えまして。失礼ながら年は…?」
「8歳です」
「なんと!わたしの息子と同い年ではありませんか!」
ルシウスの息子…ああ、ドラコのことか……
ん……?もしかして“私”、ハリー・ポッターと同い年!?
今更ながらに、気づいてしまった。しかし客人の手前、大きく驚くこともできない。なんとか取り繕い、話を続けた。
「そ、そうでしたか。それは、ぜひ仲良くなりたいものですね」
「でしたら、良ければ我が家のパーティーにいらしては如何でしょうか?そうすれば、同学年の子供たちも大勢いますし。もちろん、息子がエスコートさせていただきますぞ」
「それは名案です!しかし、スタージェントと名乗れば、ノット家が黙ってはいないですね…どういたしましょう…」
「コホン。マルフォイ殿、偽名のお話の途中ではありませんでしたかね」
黙って話を聞いていたセブルスが咳払いと共に口を開いた。
「偽名…?」
「そうでしたな。失礼しました。
先ほど言いかけたのですが……普段、生活する時に偽名を造られてはどうか、と魔法省からの提案がございまして。手筈を整えましたら戸籍を造るという話で進んでおります」
「進んでいる……?」
もしやと思い、セブルスの方を見た。彼は視線を反らす。
「私に否定権は無さそうですね」
あの狸爺め、と心の中で悪態をついた。私が子供なのを利用してどうやら話を進めていたらしい。摂関政治、と言うよりは院政か。どっちもやってることは一緒か…。
というか、そうであれば、先ほどまでの話もダン爺は全て把握済み。また、わざわざルシウスが出向いたのも全て彼の思惑通り。くっそ、全部手のひらの上って訳か。再度悪態をつきながらも、話を続けた。
「それで、名は何と言うのですか?」
「それはまだ、決めておりません。シエル嬢が決められてはどうかと…」
決めてないんかい。
そう突っ込みつつも、うーんと頭を捻った。
シエル・スタージェント。シエルはそのままでも多分大丈夫だから、姓を考えればいいかな。ポッター。グレンジャー。ウィーズリー。ロングボトム。ダーズリー。ラブグッド……。
「エンヴァンスは如何でしょうか」
ふと、一歩引いたところで私の側についていたフェッタがそう言った。その言葉にセブルスがびくりと体を震わせる。
「なぜ、エンヴァンスなのですか?」
「お忘れですか?奥様…シエル様のお母様は、シエナ・エンヴァンスでございます。奥様は旧姓を名乗ることをあまりお好きではありませんでしたが…」
「だ、だったら、あまり使わない方がよいのではないかね?」
咄嗟にセブルスが口を挟んだ。その様子にルシウスも口を開く。
「セブルス、もしやお前は、彼女の事をまだ……いや、だとしても、彼女も旧姓だろう。今はポッターだ」
「その名を口にするな!」
声を荒らげたセブルスに私はびくっと体を飛び上がらせた。それに気がついたセブルスが我に返る。フェッタは心配そうに声をかけた。
「…シエル様?」
「…なんともありません。
セブルス、貴方には貴方なりの事情があることはよく分かりました。セブルスの言うぽっ…ではなく、エンヴァンスさんは私の母とどんな関係で…?」
「従姉妹だとお聞きしました」
「なるほど…では、エンヴァンスの名をお借りしましょう。シエル・エンヴァンス。とっても言い響きではありませんか。セブルスも宜しいですね?」
「…うむ」
渋々と言った様子でセブルスは頷いた。
話に区切りもついたのでルシウスが切り出した。
「では、お話はここまでにしましょう。パーティーのお話につきましては、また後日、手紙をお送りいたします」
「分かりました。魔法省からの護衛は何時から…?」
「明日にでも、手配いたしましょう。では、また後日」
そう言うと、彼はフェッタから
「…シエル、先ほどは…」
「いいえ、気にすることでもありませんよ」
セブルスのしゅんとした姿に居心地が悪くなり、直ぐに返事をした。
「そうか……
では……吾輩も校長に報告がある。また来る」
「ええ、また」
ポンっという音と共にセブルスが消えた。
──なんか、すごいことになったわ。