ハリー・ポッターと金銀の少女(改)   作:Riena

7 / 14
Page 6.杖

 次の日。朝食を済ませたシエルは、リビングのソファーに座り客人を待っていた。

 ちらちらと暖炉の方を確認しては手元の本に視線を戻す。時計はもうとっくに約束の時間を差し、通りすぎてしまっていた。暫くして、しびれを切らしたように、立ち上がった。

 

「遅い、それにしても、遅すぎではありませんか!もう30分も時間は過ぎていますよ!今すぐにでも私が…」

 

 暖炉に置かれた煙突飛行粉(フルーパウダー)を手に取ろうとするシエルを慌ててフェッタが止める。どうにか落ち着かせたところで、一人の女性が暖炉から現れた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 フェッタが会釈をする。シエルは機嫌が悪そうにソファーに座り込んでいた。それを見た彼女は慌てて謝った。

 

「待たせて、すまなかったわ。…あなたが当主さん?」

 

「ええ、そうです。遅かったことにとやかく言うつもりはありません。闇祓いの方はお忙しいでしょう?

 私はシエル・スタージェント。普段は、シエル・エンヴァンスです。呼び方はお好きに」

 

「シエルね、よろしく。私はフィナーラル・セナ・ソードよ。ソードと呼んでちょうだい」

 

 ソードと名乗った女性。明るめの茶髪は短く切り揃えられ、大きめの蒼い瞳が特徴的だ。

 

「それで、貴女が今日から私の護衛であると?」

 

「ええ。それと、護身術、防衛術を教えるように頼まれているわ。

 外出時は必ず同行。その他平日の10時から16時まで、護衛をするわ」

 

 なんだ、と思った。どうやら、魔法省は私の監視というよりは、私の強化に励んでくれるらしい。いや、この際魔法省は、と言うよりダンブルドアは、と言った方が正確か。

 私はリーサとの魔法の制御の練習も日常的な魔法が多かったため、今のところは戦闘時の魔法を使えない。『この世界』で生きていく上で、戦闘は免れないのだし、やっておくことに損はないと感じた。

 

「よろしくお願いします、ソード」

 

「では始めましょうか。杖を出して?」

 

「えっ、あの、私……」

 

 言葉を濁したシエルにソードが「ん?」と聞き直す。

 

「ソード様、シエル様はまだ、杖をお持ちではありません。聞いたところ、杖なし呪文は使えるそうですが…」

 

 フェッタの言葉に、ソードは驚愕した。

 

「えっ、今、なんて?杖を持ってないって言った?……もしかしてシエルってまだ、11歳以下?」

 

「8歳ですが…」

 

「は、はぁ?!うちの子と同い年なんですけど!そんな子をスタージェント家当主にしたっていうの!?あの、狸爺、今すぐ抗議しに行ってやる!」

 

 すごい暴言が聞こえた気がする()

 出ていこうとするソードをフェッタが慌てて取り押さえ宥めると、結局、杖を買いに行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姿現しを使い、向かった先はダイアゴン横丁。

 見覚えのあるペットショップを通りすぎると、あの時のことを思い出してしまった。

 

「シエル様?」

 

 私の異変に気がついたのか、フェッタが声をかけてくる。「何でもない」と返すけれど、心の中のもやもやとした気持ちは晴れてはくれなかった。

 

 チリリン。ドアに付いていたベルが鳴る。店の中は古い埃の臭いでむんとしていた。

 壁のてっぺんまで高く積み上げられた箱。それを見ていると誰かが声をかけた。

 

「いらっしゃい、小さい魔女さんのご来店かな?後ろにいるのはソードさんとフェッタさんだね?」

 

「初めまして、オリバンダーさん。シエル・エンヴァンスです」

 

「久しぶり、おじいさん」

 

「長らくでしたね、オリバンダーさま」

 

 挨拶を交わすと、彼は二人の杖について何言か話し、最後に私の方を向いた。

 

「君は……スタージェントの子だね?」

 

「なぜ、それを…?」

 

「スタージェント家の者は皆、魔力が独特でね。こう、見た瞬間に分かるのだよ。それで、今日は君の杖を買いに来たんだね?」

 

「ええ」

 

「では、これを」

 

 そう言うと、オリバンダーは一本の杖を取りだし、私に差し出した。見た瞬間に、本能的な何かが、私に語りかけた。

 

『手にとってごらん?』

 

 私は躊躇いもなく手を伸ばした。そして、握りしめる。

 

 ふわりと風が吹いた。私を包みこんだかと思うと、それはすぐに消え去った。

 

 パチパチと、あオリバンダーが拍手をした。私は呆気に取られてしまう。

 

「ブラボー、ブラボー。いやぁ、やはり、君にはそれだったか。桜の木に芯材は不明。24センチと少し短め。強い主にしか従わず、攻撃呪文に適す。彼はこう呼んでいたよ、『傷つけるための杖』とね」

 

「彼とは、一体……?」

 

「君の父親だよ。実はその杖は代々スタージェント家が受け継いでいるものでね。彼らは幾度もこの杖を使い、人を殺めた。しかし、それは誰かを護るためであって、傷つけるためのものではなかったんだ。しかし……」

 

 コホンと、フェッタが咳払いした。オリバンダーはやってしまったと言わんばかりに顔をしかめる。

 

「おっと、すまないね、話しすぎてしまったようだ。私は預かっていただけだからお代は気にしなくていいよ。では、わたしは仕事があるので失礼するよ」

 

 そそくさと、奥の部屋へ去っていくオリバンダー。残された私は杖を握りしめた。傷つけるための杖かぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰ると、早速ソードとの特訓が始まった。何故か、フェッタも参戦している。

 

「まずは、簡単な防衛術からやってみましょう。

 エクスペリアームス(武器よ去れ)

 

 紅い閃光がフェッタの手元に当たり、杖が吹き飛んだ。そして、ソードの手の中に握られる。

 

「ありがとう、フェッタ。今度はシエルの番よ、私の杖を飛ばしてみなさい」

 

 私は杖を構えた。フェッタは無言でその様子を見つめる。一方ソードはどう手加減しようかと考えていた。その時。

 

エクスペリアームス(武器よ去れ)

 

 シエルが呪文を唱えた。次の瞬間……

 

「ぐはっ!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はっ、ソード!大丈夫ですか?!」

 

 慌てて近寄ると、ソードがそれを手で制す。彼女は杖を出して、自分自身に治癒魔法をかけると、すぐさま起き上がった。そして、シエル……ではなく、フェッタの方を向く。

 

「貴女のご主人様はどうやら、桁違いの魔力をお持ちのようね」

 

「言い忘れておりましたが、シエル様は無言呪文に杖無し呪文(ワンドレス)で魔法の特訓をされていたそうですので、それくらいが当たり前かと」

 

「……え、なにそれ!?」

 

 その日から、私の特訓内容は文字通り魔法の制御になった。

 どうやら私、魔力が桁違いなのだそうです(他人事)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから二週間が経った。

 ソードとの特訓は武装解除呪文が幾分か上達し、やっと次の呪文である、盾の呪文を教えてもらっていた。

 

プロテゴ(護れ)

 

 相変わらず、魔力が強いので、魔法でできた盾の大きさと強度は馬鹿にならないが()

 

 ある程度きりがつくと、昼食にすることにした。

 

 リビングに着くと、ソードはいつものごとく一度家に帰った。昼食は娘と食べたいらしい。ソードと交代するようにして現れたのは、セブルスだった。

 

「昼食は食べたかね?」

 

「いえ、まだ」

 

「では、一緒に取ることにしよう」

 

「準備をして参ります」

 

 フェッタが居なくなると、なんとも不思議な雰囲気が二人の間に流れた。取り敢えず席につく。

 

「……特訓は順調か?」

 

「は、はい、今日は盾の呪文を練習していました」

 

「そうか…」

 

 また沈黙。今度は私から声をかけてみることにした。

 

「セブルスは…その…何をしていたのですか?」

 

「うむ。吾輩は馬鹿共に魔法薬学を教えている…」

 

「えと…楽しい、ですか…?」

 

 何となく、私はそう聞いてみた。彼は返事の代わりに顔をしかめてみせた。

 

「ではなぜ、セブルスは魔法薬学の教授になったのですか?」

 

 ならば、とそんな質問をしてみる。セブルスは一瞬驚いたような顔をして、私の瞳をじっと見つめこう答えた。

 

「…ある女性がいた。君と同じ瞳を持つ女性だ。昔、今、君が聞いた質問と似たようなことを、聞いた。それは、魔法薬学の事ではないが…それと同じようなものだ。好きではないのに何故、続けるのか。その時に吾輩は答えられなかった。シエル、君は……」

 

 丁度その時、フェッタが現れた。

 

「準備が整いました。昼食に……失礼しました。お話し中でございましたか」

 

 私たちの空気を読んだのか、フェッタがそう尋ねる。なんともタイミングの悪い。

 

「……いや、構わん」

 

 セブルスはそう答えると私から視線を外した。

 その続きを聞くことはもうないだろうな。そんなことを私は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の午後。シエルの元に一通の手紙が届いた。

 宛名には『ルシウス・マルフォイ』と書かれている。

 

 『パーティー会場でお会いできることを楽しみにしています』

 

「フェッタ、ドレスの手配を頼みました」

 

「かしこまりました。とびっきりのおめかしをご提案致しますね!」

 

 上機嫌にそう答えるフェッタ。

 ……そういえば、“私”まだ化粧もしたことなかったっけな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。