ハリー・ポッターと金銀の少女(改)   作:Riena

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Page 7.パーティー

 大きな玄関ホールに備え付けられた暖炉。

 先ほどからもう何十人もの人々がそこから吐き出されていた。

 ぼうっとエメラルドの炎が煌めき、また新しい客が現れる。

 

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイドに招待状を渡すと、大広間へと案内された。

 

「ご主人様は彼方に居られます。何か在りましたら近くの者にお声かけを」

 

「ありがとう、メイドさん」

 

 メイドが去ると私は一人になった。メイドの教えてくれた場所にルシウスがいるが、誰かと話しているようだ。

 様子を伺って、後で挨拶に行こう。そう思いながら、飲み物でもとテーブルの方へと歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気合いを入れたフェッタが私を解放したのは、準備を始めてから約6時間後のことだった。

 ヘロヘロになりつつも、姿見を確認する。時間をかけただけあって、とても綺麗に仕上がっていた。

 

 瞳の色と同じ緑色のドレスに、いつもはワンサイドアップの髪を今日はハーフアップに纏めている。唇にはうっすらと紅も引かれていた。

 

 ちなみに、先ほど用事で来たセブルスは、私を見た瞬間に顔を背け、用件を早口でフェッタに伝えると、三分も経たない内にホグワーツヘ戻って行ってしまった。

 ……急いでたのかな?きっとそうだよね。

 

 現在、15時。パーティーはもう始まっているが、時間をずらすために私は16時に出る。なぜこんなに早い時間かというと、今日の主役が子供だからである。

 

「お嬢様、やはりわたくしも一緒に行った方がよろしいのでは?」

 

 ふと、ソファに腰を掛け、読書に励んでいた私にフェッタが声をかけた。先ほどから何度同じ言葉を聞いたか…。

 

「…いいえ大丈夫です、フェッタ。先ほどから、心配しすぎです」

 

「ですが……」

 

 パーティー会場には確実にノット家がいる。

 初めはソードを連れていく予定だったのだが、元死喰い人がいる中で闇祓いを連れているとなれば、悪目立ちするのは目に見えている。

 かといって、ノット家との面識、もとい殺し合いの経験のあるフェッタが同行するわけにも行かず、結局、シエル一人で向かうことになったのである。

 

 それから時間になると暖炉に向かって行き先を叫んだ。

 

「マルフォイ本家!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどまでのことを思い出しながら、グラス──中身はお酒ではないはず──を傾けていたシエルは、不意に背中から声をかけられた。

 

「お待たせしましたね、シエル嬢」

 

 予想通り。そこにはルシウスがいた。

 

「いえ、大丈夫ですよ。ごきげんよう、ルシウス。ところで、本日の主役はどちらに?」

 

「ドラコは子供達の輪の中に行きました。呼んで参りますね」

 

「いえ、それには及びません。私から行くとしましょう。ルシウスもお忙しいでしょう?」

 

「申し訳ない、そうして頂けるとこちらとしても幸いです。では、また後程お会いしましょう」

 

「ええ、また」

 

 私はそう言うと、ルシウスに背中を向けた。

 

「そう言えば、シエル嬢」

 

 呼び止められた私は「何でしょうか?」と振り返る。

 

「本日のドレス、とてもお似合いですよ」

 

「そ、そうですか……ありがとうございます…」

 

 シエルの真っ白な肌に少し赤みが差したように見えて、ルシウスはいつもの姿とのギャップに思考停止してしまった。

 数秒後、妻に頬を叩かれかけたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルシウスと別れると、私は子供達の輪を探して歩きだした。少し歩くと、すぐにそれらしき人だかりが見つかる。中には見覚えのある顔もちらほら見えた。

 すぅーはぁーと深呼吸をすると、その中に入り込んだ。

 

「失礼します。お話に加わってもよろしいでしょうか?」

 

 しんっと水を打ったように静かになった。やらかしたかな、と肝を冷やす。すると、一人の少年が、私に声をかけた。

 

「……君、名前は?」

 

 青白い肌にブロンドの髪をオールバックにした彼は私にそう尋ねた。私ははっとする。そして、彼の薄いグレーの瞳を見て微笑んだ。

 

「申し遅れました……私はシエル・エンヴァンスと申します。貴方は……()()()()()()()()様でしょうか?」

 

 彼は顔を俯かせて、こくりと頷いた。いやなんで、耳が赤くなってるの?

 首を傾げていると、周りにいた子供達がやっと動き出した。というか、なんで、フリーズしてんの?…解せぬ。

 

「…エンヴァンスなど、あまり聞かない姓ですね…貴女、どちらのお家の人ですの?」

 

 マルフォイの隣にいた少女が私にそう聞いた。完全に敵対心MAX、といった感じだ。

 

「実は諸事情ありまして、自身の本名を偽って生活しているのです。事情についてお話し出来ればいいのですが……」

 

 顔を俯かせて、悲しげな演技…じゃない、雰囲気を作り出して…これも違うか。

 

「そうでしたの…辛いこと思い出させてしまったようですわ。許して下さいな」

 

「いえ、大丈夫です……ところで、お名前は?」

 

「ダフネ・グリーングラスです。こちらが妹のアステリア」

 

「は、初めまして…シエルさん」

 

「シエルで大丈夫ですよ」

 

「では、私達もダフネとアステリアと呼んでくださいな、シエル」

 

 その波に乗って、自己紹介タイムが始まった。パンジー。クラッブ。ゴイル。ミリセント……。原作の主要人物への挨拶は一通り終わった。残るのは……。

 

「セオドール・()()()だ。ミス・シエル」

 

 無愛想な顔をした彼は、私に手を差し伸べた。私は警戒していないことを示すため、手を握る。すると、ぐいっと腕を引っ張られ、耳元で囁かれた。

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 彼の冷たい声に私はびくりと身体を震わせた。

 ──まさか、バレてる…?

 

「ふっ、なーんてな。そんな事、あるわけ無いじゃないか!キミったらそんなに怖がらないでくれよな!」

 

 年相応に戻った彼がそう、言って誤魔化す。私は微笑んだ。

 そうだよね?バレてるわけ……ない、よね?

 そんな私の前に私よりほんの少しだけ大きな背中が現れた。

 

「セオドール、調子に乗りすぎだ。彼女が怯えてるじゃないか」

 

 威圧するような声でそう言ったのは、ドラコだった。ノットはドラコを睨み付けると、悪態をついて何処かに行ってしまった。

 

「大丈夫か?顔が真っ青だ。

 父上から君の話は聞いているよ。セオドールはああいう奴だから気にしないでくれ」

 

 そんなに酷い顔してたのかな。私は頬に手を置いて首を傾げる。

 その様子に、また彼は赤くなった。いやほんとになんで?

 

「とにかく、これからよろしく頼むよ、シエル」

 

「はい、ありがとうございます、えっと……」

 

「僕のことはドラコと呼べ」

 

「分かりました、ドラコ」

 

「僕はそろそろ、父上と合流してくるよ。何せ今日の主役は僕だからね。

 じゃあ、楽しんでくれ」

 

 そう言うと、彼はルシウスの方へ歩いていった。

 

 

 あれ、マルフォイってあんなんだったけ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドラコがいなくなると、彼の代わりに私を囲んで子供達が話し始めた。

 言葉に詰まってしまった時はダフネがカバーして、喉が乾いたなと思っていたらアステリアがグラスを持ってきて、お腹が空いたと思ったらクラッブとゴイルが食べ物を薦めてくる。何故か至れり尽くせりの私は、まあまあ楽しむことが出来た。

 しばらくすると、ドラコが戻ってきた。

 

「私は少し他の方々とお話してきますね。では、また」

 

 流石に元気100%なお子様達についていくのに精神(年齢8歳差)が限界だったので、私は一度輪の中から抜けた。お手洗いにでも行こうかと思い、メイドを探す。

 

「そこのご令嬢、何かお探しですか?」

 

 キョロキョロとしていたため、不審に思われたか、女性が声をかけた。

 

「はい、お手洗いに行こうかと思いまして」

 

「それでしたら、そちらの通路を右ですわ。ところで、貴女、見覚えのない子ね…?」

 

「失礼致しました。シエル・エンヴァンスと申します。以後お見知りおきを」

 

 私はドレスの裾を持ち上げて、優雅に一礼をした。

 その様子を見た女性はふふっと口に手を当てる。

 

「あら、貴女がシエルちゃんね。聞いた通りの美しさだわ。ルシーが見とれるのも無理は無いわね」

 

「いえ、その様なことは…」

 

「そういうところも、きちんと教育がされているようね。

 あら、私、まだ名乗っていなかったかしら。ナルシッサ・マルフォイよ」

 

 一礼する彼女。私もすかさず返した。

 と、その時、遠くの方からドラコの声が聞こえた。

 

「母上、母上!こちらにいらっしゃいましたか、父上がお探しでしたよ」

 

「あら、それはすぐに行かなくてはね。じゃあ、シエルちゃん、またお会いしましょう」

 

 ナルシッサさんがいなくなると、ドラコと私は二人きりになった。

 

「シエル」

 

 ドラコが私の名を呼ぶ。

 

「何でしょうか、ドラコ?」

 

「話たいことがあるんだ。ついてこい」

 

 そう言って、手を引っ張るドラコに連れられて、たどり着いたのは大広間から少し離れた、中庭だった。

 これって、逢い引きのお誘いかしら。もしかして、告白?…だとしたら、どうしよう。勢いで付き合っちゃおうか(笑)

 軽く現実逃避をしていると、ドラコが口を開いた。

 

「ドビー」

 

「お呼びでしょうか、坊っちゃま」

 

 ドビーと呼ばれた屋敷しもべが、姿現しで現れる。おっす、原作キャラさん。

 

「ああ、防音と人払いの魔法をこの庭にかけろ」

 

「かしこまりました」

 

 パチンッという音と共にドビーがいなくなると、また私たちは二人になった。

 魔法までかけるなんて、告白にしては力入れすぎじゃないかな?

 

「あの…お話とは何でしょうか?」

 

 自分から切り出してみることにした。

 

「父上から、君のことを聞いたんだ。君は……『()()()』の当主だってね」

 

 『()()()』と言うのは、スタージェント家のことで間違いないだろう。私はこくりと頷いた。

 ただ…お願いだから『()()()()()』みたいな呼び方止めて?悪いことしてないのになんだか罪悪感があるから。いや、悪いことしたのか。ご先祖様が。

 

「それで、だ。君は僕と()()()らしい。昨日聞いた事だから、まだ信じられないんだけど」

 

 ふうん、そうなんだー。私がドラコの婚約者ねー。実質私たち親戚だから、軽く近親結婚になるのかなー。うん。

 

 

 ──うん?

 

 

「それで…「ちょっと、待ってください!」ん?どうしたんだい?」

 

「いったい、何時から私たちは婚約者になったって言うんですか!?」

 

 私の問いに、何を言っているんだ?と言いたげな顔でドラコは答えた。

 

「何時って、生まれたときからに決まってるじゃないか」

 

 さっすが、貴族サマ。素晴らしい速さデスネ。ハイ()

 というか、アステリア(未来の嫁)はどうしたんだい。

 

「まあ、いいでしょう……それで?」

 

「ああ、それでだ。父上が、週に一度、会うのはどうかと言っておられるのだよ。もちろん、君の都合にもよるんだが、どうかな?」

 

 なんだ。そんなことか。

 告白というのはあながち間違いじゃなかったけど、わざわざ魔法を使うことでもなかったんじゃないかな?まあ、念には念をって感じかな?

 

「大丈夫ですよ。良ければ、明日、さっそく本家にいらしてはいかがですか?」

 

「父上に話を通しておこう」

 

「ありがとうございます。

 あっ…そう言えば、まだ渡していませんでしたね」

 

 私は持っていたハンドバッグから、小包を取り出した。

 

「ハッピーバースデイ、ドラコ」

 

「あ、ありがとう。開けてもいいか?」

 

「ええ、もちろん」

 

 ドラコは丁寧に小包を開いた。

 

「これは……ネクタイピンか……」

 

 蛇がモチーフにされたネクタイピン。眼の部分にはエメラルドがあしらわれている高価な物だ。

 

「蛇、お好きではありませんでしたか?」

 

 ドラコが黙り込んでしまったので、心配になった私は、そう聞いた。すると、ドラコは慌てて訂正する。

 

「いや、そうじゃない。つい、見とれてしまったんだ。ありがとう、シエル。大切にするよ」

 

「お気に召したのであれば、良かったです。

 ……それでは、私はそろそろ戻りますね」

 

「僕はまだ少しここにいるよ」

 

 私はそう答えたドラコに背を向ける。そう言えば、トイレ…じゃなくて、お花摘みもといお手洗い行き忘れてたわ。そんなことを考えながら、中庭の出口の戸に手をかけたところで、ドラコが私を呼び止めた。

 

「そうだ、シエル」

 

 私は振り返り、ドラコの方に向き直った。彼の薄いブルーの瞳が揺れている。

 

「何ですか、ドラコ?」

 

 彼は空を見上げた。それにならって、私も空を見上げた。今日は月明かりが綺麗だな、なんて、考えてしまう。

 暫くの沈黙の後、ドラコが私の瞳を真っ直ぐに見つめた。

 青白い肌に朱が差した。そして……

 

「……そのドレス、シエルによく似合っているぞ」

 

 褒められることに慣れていない、“私”は顔が熱くなるのを感じた。

 そういえば、さっきもルシウスに同じことを言われた。親子ってやっぱり似るのかな。

 

 彼の薄いグレーの瞳には私が映っている。

 ああ、そうか。セブルスが急ぎ足で出ていったのも、子供達がフリーズしていたのも、全てこれのせいか。

 

 

 

 

 

 ──“私”(心笑瑠)(シエル)だ。

 綺麗な容姿、言葉、着衣や、その仕草だって。見る人の瞳には、もう二度と“私”(心笑琉)が映ることはない。

 

 

 

 

 

 シエルは微笑んだ。綺麗に、それでいて、美しく。

 

「ありがとう、ドラコ」

 

 シエルは今度こそ彼に背を向けた。扉が閉まる寸前、「それは、反則だ……」と聞こえたのは気のせいだと思う。

 

 お手洗いを済まし、大広間に戻ると、ルシウスに断って帰ることにした。明日はドラコが遊びに来るし、今日は何だか疲れてしまったのだ。玄関ホールへ向かい、炎の煌めく暖炉に入ると、「スタージェント本家」と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは……」

 

 玄関ホールへ一人、歩いていく人影を見つけた僕は、その後を追いかけた。

 金髪に緑のドレス。あれは間違いなく、エンヴァンスとか言う新入りだろう。

 おかしいとは思っていたが、やっぱり一人で来ていたのか。

 

 彼女がエメラルドの炎の中へ足を踏み入れる。そしてーー

 

()()()()()()()()()

 

 彼女…いや、()がそう言ったのを僕は聞き逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたよ、父さん」

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