ハリー・ポッターと金銀の少女(改)   作:Riena

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Page 8.半年間

 パーティーからの帰宅後。

 暖炉から現れたシエルを心配そうな面持ちのフェッタが出迎えた。

 

「シエル様!何か変わったことは御座いませんか?お怪我は?体調は?」

 

「ふふ…そんなに心配せずとも私は大丈夫ですよ」

 

 苦笑しながらそう告げると、フェッタは「よかった…」と言って安堵のため息をついた。

 

「ただ…」

 

『キミ、死にたいのかい?』

 

 彼の言葉が私の恐怖を掻き立てる。ぶんぶんと頭を振った。きっと、ただの勘違いだ。

 

「……シエル様…?」

 

 意識を戻すと、フェッタがまた心配そうな顔で私を覗いていた。

 二度も心配させるなんて。

 私はすぐに笑顔を取り繕うと、なんでもないと言った。フェッタは一瞬、怪しんだような仕草を見せたが、深入りはしなかった。

 妙な空気が流れたため、彼女にお茶を淹れるように頼む。ソファーに腰掛け、少し待つと、彼女がカップを持って現れた。

 

「ありがとう、フェッタ。

 …そういえば、明日、ドラコが此方に来ることになりました」

 

「ドラコ様から許嫁のお話についてお聞きになられたのですね?」

 

 ニヤリというのが相応しい顔でフェッタがそう言う。

 ……え、知ってたの?なのに、教えてくれなかったの?というかなんて顔してんの?UZAIYO?

 そう思いながらも、なるべく冷静に答える。

 

「ええ。ドラコから聞きました。フェッタが知っていたとは思いませんでしたが…」

 

「申し訳ございません。ロキス様が口止めされていたのですよ。

 『その話をするのはドラコの口からでないと許さん!それができないやつに娘はやらん!』といった具合に」

 

 なにその、お前に娘はやらん!的な感じのやつ。私の父親ってそんな感じの人だったの?

 

「は、はぁ…」

 

 取り敢えず、生返事を返しておいた。

 

「…ともかく、明日は宜しくお願いしますね」

 

「かしこまりました」

 

 冷めかけた紅茶のカップを一口飲み、一息つく。ふと、カレンダーが目に入った。

 

「そう言えば、私が此処に来てからもう2ヶ月ですか…」

 

 転生してからももう3ヶ月前。いや、まだ、といった方が正確かな。

 転生して、ダンブルドアやセブルスに出会って、スタージェント家の当主になって、ドラコや他の原作キャラにもたくさん出会って……それなのにまだ、3ヶ月前しか経っていない。

 ホグワーツに入学するまでもあと3年あるし、それまでに私は……私は?

 

 魔法を練習して強くなって。

 本を読んで知識を増やして。

 原作キャラと今のうちに仲良くなって。

 

 ホグワーツの制服を身に纏った私がホグワーツ城の中を楽しそうに歩く姿が頭に浮かび上がってきた。“私”の大好きな世界の中で(シエル)として自由に過ごすんだ。

 大丈夫。私は全部“知ってる”んだから。チートも使い放題!ハリーと仲良くなりたいな。寮はやっぱりグリフィンドール?賢者の石を護って、ジニーを救って、ピーターを捕まえて、それから……。

 

 その日の夜、うきうきした気分のまま、シエルは眠った。

 

 

 

 

 ──そんな彼女はまだ、『この世界』の厳しさを知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 一番最初に、暖炉から炎と共に吐き出されたのは、ソードだった。

 

「おはよう、シエル。昨日のパーティーはどうだった?」

 

「おはようございます、ソード。問題は起こりませんでしたよ」

 

「そう。それは、よかったわ。フェッタもおはよう」

 

「おはようございます、ソード様」

 

 キッチンから顔を出すと、すぐに引っ込んでしまうフェッタ。それを見て、ソードは何かあったのかと、シエルに聞いた。

 

「フェッタ、忙しそうね。今日も何かあるの?」

 

「ドラコ……えっと…マルフォイ家の息子の事なのだけれど…彼が遊びに来るのですよ」

 

「あら、デート?だったら私は邪魔したらいけないわね」

 

「もう、あなたまで私をいじるんですか?今朝、散々髪型についてフェッタにいじられたのに…」

 

「確かに、今日はアクセサリーを着けてるわね。似合ってるわよ。ドラコ君もびっくりなんじゃないかしら?」

 

「うう…」

 

 そんなことを言い合っているうちに、暖炉がエメラルドに光った。

 私は即座に身なりを整え、ソファーに座り直す。その様子にソードがクスリと笑ったが見なかった事にしておいた。

 現れたのはドラコとルシウスだった。

 来客を気配で感じ取ったか、同時にフェッタも現れる。

 

「いらっしゃいませ、マルフォイ様、ドラコ様」

 

「おはようございます、ルシウス、ドラコ」

 

「久し振りね、スリザリンの王子様(プリンス)

 

 フェッタ、シエル、ソードの順で、挨拶をする。

 

「お邪魔させてもらうよ、シエル嬢。それと…グリフィンドールの(プリ)…いや、じゃじゃ馬娘(プリンセス)

 

 二人は知り合いらしかった。

 

「そう言えばまだアズカバンに行かなくても大丈夫なの、厨二病(プリンス)?」

 

 それも、かなりの。

 

「わざわざ、来てくれたのですね、ルシウス」

 

 話を変えるようにして、私は声を掛けた。二人とも、まだ何か言いたそうな顔をしていたが、大人しく話題を変えてくれた。

 

「いえいえ、当たり前のことですよ。今日はドラコを宜しくお願いします」

 

「こちらこそです」

 

 一礼し合うと、ルシウスは仕事があると言って去っていった。フェッタも途中だった昼食の準備をするため席を外す。ソードはニヤつきながら図書室に本を読みに行った。

 

「…」

 

「…」

 

 いや、気まずっ。

 しかし、黙っている訳にもいかないので、他愛もない話を振ってみる。

 

「…ドラコは、何か好きなことはありますか?」

 

「僕は…そうだな…クィディッチが好きだ。家でもよく箒に乗っているよ。

 …シエルは何が好きなんだ?」

 

「私は読書ですね。他にも魔法の鍛練をすることも好きです」

 

「どんな魔法を使えるのかい?」

 

「そうですね…見た方が早いと思います」

 

 そう言って私は右手を甲が下になるように前に出した。頭でよくイメージをしながら、魔力を右手に集める。ふわりと風が吹いたかと思うと、シエルの掌には一輪の花が置かれていた。

 

「こんな感じで…「今の、どうやったんだ?!」…え?」

 

 いつの間にか、立ち上がったドラコが瞳をキラキラと輝かせて、私を見ていた。

 

「だから、今の魔法のことだよ。本で読んだんだけど、無言呪文に杖なし呪文は大人でも難しいんだ」

 

 今更ながら、杖を使えば良かったと後悔した。なんて、説明しようか…。

 感覚でやってるから、どうやってるのか自分でも分かんないんだよね…。 

 

「えっと……こう、まずは右手を出して…魔力を集めて…」

 

 それから昼食の時間まで練習をしたが、ドラコは諦めたようだった。ごめんね、ドラコ。

 

 午後は庭で、杖を使って、簡単な呪文を唱えあったりして遊ぶことにした。

 

「まずは僕から。アグアメンティ(水よ)

 

 ドラコの杖先から、少量の水が飛び出した。

 

「では、私も。アグアメンティ(水よ)

 

 ザバーと言う音とともに何処からともなく大量の、言うなれば、滝のような水が現れた。そして……。

 

「ゲホゲホ…シエル、何をしたらあんな水が出るんだい!?」

 

「コホコホ…解せませんね…」

 

 びちょぬれになった私たちはヴェンタス(風よ)を唱え、乾燥させた。もっとも、私が吹き飛ばされそうになったのは言うまでもないが。

 

 日が暮れると、ルシウスが迎えに来た。

 

「今日はありがとうございました。ご迷惑をお掛けしていませんか?」

 

「いえいえ、楽しませて頂きました。また、来週にでも、遊びに来てくださいね」

 

「では、私たちはこれで…」

 

 ルシウスが先に暖炉の中に消えていった。ドラコは暖炉に入る直前で足を止める。

 

「どうかしましたか、ドラコ?」

 

 私がそう聞くと、ドラコは振り返った。

 

「いい忘れてたけど。その髪飾り、シエルらしいと思うぞ…じゃあな」

 

 私はしてやられたと思った。

 

「ありがとう…また」

 

 ドラコが去ると、何かが私の脇腹辺りをツンツンとした。顔を上げると、ソードがいる。

 

「にんまり」

 

「わざわざ、声に出さなくても分かりますよっ!」

 

 ソードのニヤけ顔を目に入れないようにしながら、部屋に戻った。ボソッと青春とか言わないでよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソードとの鍛練によって、魔法の制御は日に日に上達していった。

 ドラコとは週に一度、どちらかの家で遊ぶようになり、時々ソードに先生をしてもらって勉強もした。

 ダンブルドアについては、セブルスがたまに来て、フェッタに何かを話して帰っていくくらいで、本人が来ると言うことは一度もなかった。

 他の家との交流も絶やさず行っている。パーティーにはなるべく参加したし、数名とは文通もしている。

 

 特筆することのない、淡々とした日々が流れていく。

 

 ──しかし、彼女の運命はそれが長く続くことを許してはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏が終わり、秋も過ぎ、ゆっくりと落ちていた葉も、今はすっかり落ちきっててしまっていた。ふぅーと息を吐くと視界が白くなる。窓を開けてみると、外は一面、雪景色だった。

 

「もう冬ですか…」

 

「本当に早いものだな…」

 

 隣にいるのは他でもないドラコだ。この半年でまた背が伸びた気がする。といっても、まだ8歳なので、それほど背の差はないのだが。

 

「そういえば、シエル。父上からこれを預かってきた」 

 

 内ポケットから彼が取り出したのは、一通の手紙だった。ありがとう、と言いながら受け取ると、早速開いてみる。

 

『マルフォイ家のクリスマスパーティーにご招待致します』

 

「クリスマスパーティー…」

 

「毎年、僕の家では大きなパーティーを行うんだ。ぜひ、来てくれ。母上も会うのを楽しみにしていたよ」

 

「本当ですか?では、綺麗なドレスを着て行かなくては行けませんね」

 

「ドレスがなくても、綺麗だと思うが?」

 

「そう言う貴方こそ整った顔立ちですけれど?」

 

 半年もあれば、褒める方も褒められる方も、慣れたものだ。

 

「ほら、そこの二人、休憩はそこまでにして、そろそろ再開するわよー」

 

 ソードの声が聞こえると私たちはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 休日なのでソードはおらず、暖炉で温まりながら読書をしていた。

 と、ふいに、視界にエメラルド色の光が入る。顔を上げてそちらを見ると、セブルスが立っていた。

 

「いらっしゃいませ、スネイプ様」

 

「こんにちは、セブルス」

 

 挨拶をすると、いつも通りフェッタの方へ…かと思えば、私の方を向いていた。

 

「セブルス、何か……?」

 

 ぼうっと暖炉の炎が大きくなった。現れた人物に私は少し驚く。

 

「しばらくじゃったのう、シエルよ」

 

 ダンブルドアは微笑みながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです、ダンブルドアさま」

 

 互いに挨拶を交わすと二人をソファーに薦めつつ、私も座った。

 

「セブルスから色々聞いておるよ。魔法も上達したようじゃのう」

 

「ええ、今はある程度の魔法であれば、使えるようになりました」

 

 そうかそうかと言って、ダンブルドアはフェッタの淹れた紅茶を啜る。それに習って私もカップに口をつけた。

 しばらくそうしていると、口を開いたのはダンブルドアだった。

 

「…何故わしが此処に来たのか、と思っているじゃろう……実はのう、ちいと問題が起きたのじゃ」

 

「問題、ですか…」

 

 嫌な予感がした。彼がわざわざ出向かなければならない程の問題。

 それは一体…。

 

 ぼうっと、また暖炉の炎が大きくなった。

 

「急に呼び出して一体……って、校長?一体何が…」

 

「仕事中にすまんのう、ソード。取り敢えず、座って話をしようではないか」

 

「いえ、大丈夫ですよ……それで何があったんですか?」

 

 ソードが聞くと、ダンブルドアはもう一度紅茶を飲んだ。と、今度は横に座っていたセブルスが話し始めた。

 

「ノット家に動きがあったようだ。ルシウスにも確認を入れたが間違いない。彼らはシエルの正体を見抜いている…」

 

 静かに告げられた真実に私は驚きを隠せなかった。

 

「何時、ばれてしまったのですか?心当たりが全くありません…」

 

「それは、残念ながら、分からない。しかし、一つだけ言えることがある。

 彼らが動くのはクリスマスパーティーの日だ」

 

「疑う訳では御座いませんが…それは、確実な情報でしょうか?」

 

 恐る恐るといった感じで、フェッタがそう聞いた。セブルスは頷く。

 

「ただ、彼らも馬鹿ではない。吾輩達の動きがあれば、日程くらいいくらでも変えるだろう」

 

「では、ばれないように、私達も動かなくてはいけませんね……具体的には?」

 

「ある程度の事は決めておるよ。しかし、決めるのはお主らじゃ」

 

 シエルの問いに答えたのは、ダンブルドアだった。彼の瞳が私を真っ直ぐに見つめてくる。

 

「いいでしょう。計画を話してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「計画は?」

 

「予定通り、クリスマスパーティーの日に行う」

 

「人数は集まった?」

 

「ああ、ポリジュース薬の準備も万端だ」

 

「やっと、この日が来るんだな」

 

「そうだ、これでもう、忌々しい奴らは居なくなる」

 

「父さん、ミスるなよ?」

 

「当たり前だ。この日のために半年も費やして来たのだからな」

 

 闇の中で彼らは嗤った。

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