ハリー・ポッターと金銀の少女(改) 作:Riena
パーティーからの帰宅後。
暖炉から現れたシエルを心配そうな面持ちのフェッタが出迎えた。
「シエル様!何か変わったことは御座いませんか?お怪我は?体調は?」
「ふふ…そんなに心配せずとも私は大丈夫ですよ」
苦笑しながらそう告げると、フェッタは「よかった…」と言って安堵のため息をついた。
「ただ…」
『キミ、死にたいのかい?』
彼の言葉が私の恐怖を掻き立てる。ぶんぶんと頭を振った。きっと、ただの勘違いだ。
「……シエル様…?」
意識を戻すと、フェッタがまた心配そうな顔で私を覗いていた。
二度も心配させるなんて。
私はすぐに笑顔を取り繕うと、なんでもないと言った。フェッタは一瞬、怪しんだような仕草を見せたが、深入りはしなかった。
妙な空気が流れたため、彼女にお茶を淹れるように頼む。ソファーに腰掛け、少し待つと、彼女がカップを持って現れた。
「ありがとう、フェッタ。
…そういえば、明日、ドラコが此方に来ることになりました」
「ドラコ様から許嫁のお話についてお聞きになられたのですね?」
ニヤリというのが相応しい顔でフェッタがそう言う。
……え、知ってたの?なのに、教えてくれなかったの?というかなんて顔してんの?UZAIYO?
そう思いながらも、なるべく冷静に答える。
「ええ。ドラコから聞きました。フェッタが知っていたとは思いませんでしたが…」
「申し訳ございません。ロキス様が口止めされていたのですよ。
『その話をするのはドラコの口からでないと許さん!それができないやつに娘はやらん!』といった具合に」
なにその、お前に娘はやらん!的な感じのやつ。私の父親ってそんな感じの人だったの?
「は、はぁ…」
取り敢えず、生返事を返しておいた。
「…ともかく、明日は宜しくお願いしますね」
「かしこまりました」
冷めかけた紅茶のカップを一口飲み、一息つく。ふと、カレンダーが目に入った。
「そう言えば、私が此処に来てからもう2ヶ月ですか…」
転生してからももう3ヶ月前。いや、まだ、といった方が正確かな。
転生して、ダンブルドアやセブルスに出会って、スタージェント家の当主になって、ドラコや他の原作キャラにもたくさん出会って……それなのにまだ、3ヶ月前しか経っていない。
ホグワーツに入学するまでもあと3年あるし、それまでに私は……私は?
魔法を練習して強くなって。
本を読んで知識を増やして。
原作キャラと今のうちに仲良くなって。
ホグワーツの制服を身に纏った私がホグワーツ城の中を楽しそうに歩く姿が頭に浮かび上がってきた。“私”の大好きな世界の中で
大丈夫。私は全部“知ってる”んだから。チートも使い放題!ハリーと仲良くなりたいな。寮はやっぱりグリフィンドール?賢者の石を護って、ジニーを救って、ピーターを捕まえて、それから……。
その日の夜、うきうきした気分のまま、シエルは眠った。
──そんな彼女はまだ、『この世界』の厳しさを知らない。
翌朝。
一番最初に、暖炉から炎と共に吐き出されたのは、ソードだった。
「おはよう、シエル。昨日のパーティーはどうだった?」
「おはようございます、ソード。問題は起こりませんでしたよ」
「そう。それは、よかったわ。フェッタもおはよう」
「おはようございます、ソード様」
キッチンから顔を出すと、すぐに引っ込んでしまうフェッタ。それを見て、ソードは何かあったのかと、シエルに聞いた。
「フェッタ、忙しそうね。今日も何かあるの?」
「ドラコ……えっと…マルフォイ家の息子の事なのだけれど…彼が遊びに来るのですよ」
「あら、デート?だったら私は邪魔したらいけないわね」
「もう、あなたまで私をいじるんですか?今朝、散々髪型についてフェッタにいじられたのに…」
「確かに、今日はアクセサリーを着けてるわね。似合ってるわよ。ドラコ君もびっくりなんじゃないかしら?」
「うう…」
そんなことを言い合っているうちに、暖炉がエメラルドに光った。
私は即座に身なりを整え、ソファーに座り直す。その様子にソードがクスリと笑ったが見なかった事にしておいた。
現れたのはドラコとルシウスだった。
来客を気配で感じ取ったか、同時にフェッタも現れる。
「いらっしゃいませ、マルフォイ様、ドラコ様」
「おはようございます、ルシウス、ドラコ」
「久し振りね、スリザリンの
フェッタ、シエル、ソードの順で、挨拶をする。
「お邪魔させてもらうよ、シエル嬢。それと…グリフィンドールの
二人は知り合いらしかった。
「そう言えばまだアズカバンに行かなくても大丈夫なの、
それも、かなりの。
「わざわざ、来てくれたのですね、ルシウス」
話を変えるようにして、私は声を掛けた。二人とも、まだ何か言いたそうな顔をしていたが、大人しく話題を変えてくれた。
「いえいえ、当たり前のことですよ。今日はドラコを宜しくお願いします」
「こちらこそです」
一礼し合うと、ルシウスは仕事があると言って去っていった。フェッタも途中だった昼食の準備をするため席を外す。ソードはニヤつきながら図書室に本を読みに行った。
「…」
「…」
いや、気まずっ。
しかし、黙っている訳にもいかないので、他愛もない話を振ってみる。
「…ドラコは、何か好きなことはありますか?」
「僕は…そうだな…クィディッチが好きだ。家でもよく箒に乗っているよ。
…シエルは何が好きなんだ?」
「私は読書ですね。他にも魔法の鍛練をすることも好きです」
「どんな魔法を使えるのかい?」
「そうですね…見た方が早いと思います」
そう言って私は右手を甲が下になるように前に出した。頭でよくイメージをしながら、魔力を右手に集める。ふわりと風が吹いたかと思うと、シエルの掌には一輪の花が置かれていた。
「こんな感じで…「今の、どうやったんだ?!」…え?」
いつの間にか、立ち上がったドラコが瞳をキラキラと輝かせて、私を見ていた。
「だから、今の魔法のことだよ。本で読んだんだけど、無言呪文に杖なし呪文は大人でも難しいんだ」
今更ながら、杖を使えば良かったと後悔した。なんて、説明しようか…。
感覚でやってるから、どうやってるのか自分でも分かんないんだよね…。
「えっと……こう、まずは右手を出して…魔力を集めて…」
それから昼食の時間まで練習をしたが、ドラコは諦めたようだった。ごめんね、ドラコ。
午後は庭で、杖を使って、簡単な呪文を唱えあったりして遊ぶことにした。
「まずは僕から。
ドラコの杖先から、少量の水が飛び出した。
「では、私も。
ザバーと言う音とともに何処からともなく大量の、言うなれば、滝のような水が現れた。そして……。
「ゲホゲホ…シエル、何をしたらあんな水が出るんだい!?」
「コホコホ…解せませんね…」
びちょぬれになった私たちは
日が暮れると、ルシウスが迎えに来た。
「今日はありがとうございました。ご迷惑をお掛けしていませんか?」
「いえいえ、楽しませて頂きました。また、来週にでも、遊びに来てくださいね」
「では、私たちはこれで…」
ルシウスが先に暖炉の中に消えていった。ドラコは暖炉に入る直前で足を止める。
「どうかしましたか、ドラコ?」
私がそう聞くと、ドラコは振り返った。
「いい忘れてたけど。その髪飾り、シエルらしいと思うぞ…じゃあな」
私はしてやられたと思った。
「ありがとう…また」
ドラコが去ると、何かが私の脇腹辺りをツンツンとした。顔を上げると、ソードがいる。
「にんまり」
「わざわざ、声に出さなくても分かりますよっ!」
ソードのニヤけ顔を目に入れないようにしながら、部屋に戻った。ボソッと青春とか言わないでよね。
ソードとの鍛練によって、魔法の制御は日に日に上達していった。
ドラコとは週に一度、どちらかの家で遊ぶようになり、時々ソードに先生をしてもらって勉強もした。
ダンブルドアについては、セブルスがたまに来て、フェッタに何かを話して帰っていくくらいで、本人が来ると言うことは一度もなかった。
他の家との交流も絶やさず行っている。パーティーにはなるべく参加したし、数名とは文通もしている。
特筆することのない、淡々とした日々が流れていく。
──しかし、彼女の運命はそれが長く続くことを許してはくれなかった。
夏が終わり、秋も過ぎ、ゆっくりと落ちていた葉も、今はすっかり落ちきっててしまっていた。ふぅーと息を吐くと視界が白くなる。窓を開けてみると、外は一面、雪景色だった。
「もう冬ですか…」
「本当に早いものだな…」
隣にいるのは他でもないドラコだ。この半年でまた背が伸びた気がする。といっても、まだ8歳なので、それほど背の差はないのだが。
「そういえば、シエル。父上からこれを預かってきた」
内ポケットから彼が取り出したのは、一通の手紙だった。ありがとう、と言いながら受け取ると、早速開いてみる。
『マルフォイ家のクリスマスパーティーにご招待致します』
「クリスマスパーティー…」
「毎年、僕の家では大きなパーティーを行うんだ。ぜひ、来てくれ。母上も会うのを楽しみにしていたよ」
「本当ですか?では、綺麗なドレスを着て行かなくては行けませんね」
「ドレスがなくても、綺麗だと思うが?」
「そう言う貴方こそ整った顔立ちですけれど?」
半年もあれば、褒める方も褒められる方も、慣れたものだ。
「ほら、そこの二人、休憩はそこまでにして、そろそろ再開するわよー」
ソードの声が聞こえると私たちはその場を後にした。
数日後。
休日なのでソードはおらず、暖炉で温まりながら読書をしていた。
と、ふいに、視界にエメラルド色の光が入る。顔を上げてそちらを見ると、セブルスが立っていた。
「いらっしゃいませ、スネイプ様」
「こんにちは、セブルス」
挨拶をすると、いつも通りフェッタの方へ…かと思えば、私の方を向いていた。
「セブルス、何か……?」
ぼうっと暖炉の炎が大きくなった。現れた人物に私は少し驚く。
「しばらくじゃったのう、シエルよ」
ダンブルドアは微笑みながらそう言った。
「お久しぶりです、ダンブルドアさま」
互いに挨拶を交わすと二人をソファーに薦めつつ、私も座った。
「セブルスから色々聞いておるよ。魔法も上達したようじゃのう」
「ええ、今はある程度の魔法であれば、使えるようになりました」
そうかそうかと言って、ダンブルドアはフェッタの淹れた紅茶を啜る。それに習って私もカップに口をつけた。
しばらくそうしていると、口を開いたのはダンブルドアだった。
「…何故わしが此処に来たのか、と思っているじゃろう……実はのう、ちいと問題が起きたのじゃ」
「問題、ですか…」
嫌な予感がした。彼がわざわざ出向かなければならない程の問題。
それは一体…。
ぼうっと、また暖炉の炎が大きくなった。
「急に呼び出して一体……って、校長?一体何が…」
「仕事中にすまんのう、ソード。取り敢えず、座って話をしようではないか」
「いえ、大丈夫ですよ……それで何があったんですか?」
ソードが聞くと、ダンブルドアはもう一度紅茶を飲んだ。と、今度は横に座っていたセブルスが話し始めた。
「ノット家に動きがあったようだ。ルシウスにも確認を入れたが間違いない。彼らはシエルの正体を見抜いている…」
静かに告げられた真実に私は驚きを隠せなかった。
「何時、ばれてしまったのですか?心当たりが全くありません…」
「それは、残念ながら、分からない。しかし、一つだけ言えることがある。
彼らが動くのはクリスマスパーティーの日だ」
「疑う訳では御座いませんが…それは、確実な情報でしょうか?」
恐る恐るといった感じで、フェッタがそう聞いた。セブルスは頷く。
「ただ、彼らも馬鹿ではない。吾輩達の動きがあれば、日程くらいいくらでも変えるだろう」
「では、ばれないように、私達も動かなくてはいけませんね……具体的には?」
「ある程度の事は決めておるよ。しかし、決めるのはお主らじゃ」
シエルの問いに答えたのは、ダンブルドアだった。彼の瞳が私を真っ直ぐに見つめてくる。
「いいでしょう。計画を話してください」
「計画は?」
「予定通り、クリスマスパーティーの日に行う」
「人数は集まった?」
「ああ、ポリジュース薬の準備も万端だ」
「やっと、この日が来るんだな」
「そうだ、これでもう、忌々しい奴らは居なくなる」
「父さん、ミスるなよ?」
「当たり前だ。この日のために半年も費やして来たのだからな」
闇の中で彼らは嗤った。