転生者と灰被りのお姫様   作:アイリエッタ・ゼロス

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The first encounter

 4月11日

 

 ベルベットルームを出て一年近くが経った。

 俺はこの世界に来て色んな県を転々と回りながらメメントスに入っていた。

 そして、全書のペルソナの7割が復活した。しかし、それでもまだ3割のペルソナは復活に

 至らなかった。そして今、俺は青山一丁目を走っていた。

 

「くそっ! 起きてたら起こしてくれても良いだろ! フォルセティ!」

『知らん。起きぬお前が悪い』

「事実だから腹立つなぁ!」

 俺は今、転校先の秀尽学園に向かって走っていた。この一年、フラフラフラフラ

 あちこちの高校を回っていたが、流石にそろそろ手続きとテストを受けるのが

 面倒になってきたので適当にフォルセティと相談した結果、色々動きやすい秀尽学園に

 転校することに決めた。そして、今日は転校初日だが夜遅くまでメメントスで

 戦っていたせいか寝坊をしてしまった。そうして走っていたら、言い争いが聞こえてきた。

 

「何だ?」

『櫂、アレだ』

 フォルセティが指差した先には、大学生ぐらいの男二人に絡まれている秀尽の制服を

 着た赤髪の子がいた。

 

「なぁ、別にサボっちゃっても良いだろ?」

「そうそう」

「は、離してください!」

 

『あの女、お前と同じ高校の制服だな』

「あぁ、そうだな....」

『どうする?』

「わかってて聞いてるだろ?」

 俺はそう言って、赤髪の子に近づいて女の子の腕を掴んでいた男の腕を掴み上げた。

 

「っ! テ、テメェなんだ! 何俺の腕を掴んでやがる!」

「この子、嫌がってるだろ。見てわからないのか?」

「あぁ!? んなわけねぇだろ! 割り込んでくんじゃねぇ!」

「へぇ、じゃあなんでこの子はすぐに俺の後ろに来て震えてるんだよ」

 男の手が離された瞬間、女の子はすぐに俺の後ろに来て震えていた。

 

「っ! ウッセェな! 何もしなかったらケガしなかったのによぉ!」

 そう言って、腕を掴んでいた男は殴りかかってきた。

 

「....」

「なっ!?」

「....凄い」

 だが、俺はその男の拳を目の前で止めた。

 

「....へなちょこなパンチだな」

 そう言いながら、俺は男の手を捻り始めた。

 

「ガァァ!?」

「お、おい!」

「手を離して欲しかったらとっとと失せろ。目障りなんだよ....」

 俺は睨みつけながら二人に言った。

 

「ひっ! わ、わかった! 失せるから離してくれ!」

「お、俺もわかったから!」

「....」

 俺は二人がそう言うと手を離した。

 

「っ、覚えてろよ!」

 手を掴まれた男はそう言うと、もう一人の男と逃げるように去っていった。

 俺は男達の姿が見えなくなると、後ろにいる女の子に話しかけた。

 

「大丈夫か?」

「は、はい! あの、助けてくれてありがとうございます!」

「別にいい。というか、秀尽の生徒だよな」

「はい」

「悪いが学校までの近道とか知らないか。このままだと遅刻しそうなんだが....」

「遅刻ですか? まだそんな時間じゃないはずですが....」

 そう言った女の子は時計を見た瞬間、青ざめた。

 

「あの、いま何時ですか....?」

「....8時25分」

「マ、マズイです! 一先ず走りましょう!」

「それには賛成だ!」

 そう言って俺と赤髪の女の子は走り始めた。

 

「あ! ここを使えば近道の筈ですよ!」

「マジか!」

 そう言って俺達は路地裏の方に入った。

 その時....

 

「っ!」

 俺は謎の気配を感じ足を止めた。

 

「(今の気配....メメントスと同じ....)」

「どうかしたんですか?」

 俺が足を止めたのを不思議に思ったのか、女の子は俺の方に戻ってきた。

 

「....いや、何でもない」

「? なら早く行きましょう。遅刻しちゃいますよ」

「....あぁ」

 路地裏の出口に近づくにつれて、気配はどんどん強くなってきた。

 そして路地裏を抜けると....

 

「な、何ですかこのお城....」

「(何でパレスがここに....)」

 俺達の目の前には趣味の悪い城が建っていた。

 

「い、一体どうなって....って、どうしたんですかその服!」

 女の子は俺の方を見て驚いてそう叫んだ。

 俺の服装はメメントスでの戦闘服になっていた。

 

「あぁー....事情は後で話す。取り敢えず、今はここの出口を探そうか」

「で、出口ですか?」

「あぁ。....死にたくなかったら、大人しくついてきてくれ」

 そう言って、俺は城の中に入った。

 

「ま、待ってください!」

 女の子も俺の後を追いかけて城の中に入ってきた。

 

 

 〜〜〜〜

 城内

 

「何だか、凄く薄気味悪いですね....」

「同感だ」

 場内は暗く、ところどころ傷のようなものがあった。

 

「あの、あなたはここがどこか知ってるんですか?」

 少し歩いていると、女の子がそう聞いてきた。

 

「どうしてそう思う?」

「その、さっきから冷静で焦りが見えないので」

「....別に、内心は意外と焦ってるぞ」

「そうなんですか?」

「あぁ。俺一人なら良かったが、お前がいるからな」

「えっ?」

「ここは本来、お前のような普通の人間は入れないはずだ。

 逆に普通の人間が入ったらアイツらに見つかった瞬間、すぐに殺されるからな」

「こ、殺される!?」

「バ、バカ! デカイ声出すな!」

 俺は咄嗟に口を押さえた。

 だが、その瞬間....

 

『誰だ! そこにいるのは!』

 通路の影から騎士みたいなものが現れた。

 しかも、一体じゃなく五体ほど。

 

「最悪....」

「ア、アレがさっき言ってた奴ですか!」

「まぁ、間違ってはないな....」

「ご、ごめんなさい! 私のせいで....」

『貴様ら、何処から侵入した! ここはカモシダ様の城だぞ!』

『貴様らも先ほどの侵入者同様捕獲する!』

 そう言って騎士達は俺達に近づいてきた。

 

「はぁぁ、仕方ねぇか....お前、今から見るもの黙っておいてくれよ」

「えっ?」

 俺はそう言って手に持っていた本を開いた。

 すると、本から一枚のカードが現れた。

 

「来い、フォルセティ!」

 俺はそう叫び騎士達の方に投げた。

 するとカードは割れ、青い炎が立ち上がった。

 

「な、何!?」

『これは、まさか!?』

『ようやく出番か....』

 炎が消えると俺のペルソナ、"フォルセティ"が姿を現した。

 

「フォルセティ、奴等を蹴散らせ!」

『良いだろう』

 そう言ったフォルセティは本を開き、手を騎士達に向けた。

 すると、騎士達の周りから突風が吹き騎士達を吹き飛ばした。

 

『ぬわぁぁ!』

『カ、カモシダ様ぁぁ!』

『申し訳ありません....!』

 騎士達は壁に叩きつけられると消えた。

 

『こんなものか?』

「あぁ。おい、今のうちにここを抜けるぞ」

 俺は後ろにいる女の子にそう言った。

 

「....」

「おい!」

「は、はい! 何ですか!」

「今のうちにここを抜けるから走るぞ。まだ走れるか?」

「はい! 大丈夫です!」

「よし。じゃあ行くぞ」

 俺達は騎士達がいた場所を走り抜け、広いところに出た。

 

「ったく、出口は何処だよ」

『櫂、何かが近づいてくる』

 俺が辺りを見渡していると、後ろからフォルセティがそう言ってきた。

 すると、俺達が通ってきた別の道から二足歩行の猫と秀尽の制服を着た

 男が二人走ってきた。しかも、後ろには騎士の大群を連れて。

 

「おい! お前らも早く逃げろ! 捕まったら殺されるぞ!」

 俺達の方に走ってきている金髪はそう言ってきた。

 

「フォルセティ。前の三人に当てないように薙ぎ払え」

『わかった』

 そう言ったフォルセティは威力を調整して騎士達を氷漬けにした。

 すると、騎士達がいる場所がちょうど道を塞ぐ壁になった。

 

「な、何じゃそりゃ!」

「スゲェ....! なんて力だ!」

 金髪と猫は騎士達の状態に驚いていた。

 

「すまない。助かった」

 メガネをかけた黒髪の生徒がそう言ってきた。

 

「気にするな。それよりもお前ら、ここの出口の場所とか知らないか?」

「お前らも出口を探してるのか? なら、この猫が知ってるらしいぜ」

「猫じゃねぇよ!」

「あ、あの! 出口を知ってるなら教えてください! お願いします!」

 赤髪の女の子が猫に頭を下げた。

 

「わ、わかった! なら吾輩について来い!」

 女の子の気迫に負けたのか、猫は前を走り始めた。

 

「フォルセティ」

『....殿は任しておけ』

「頼む」

 そう言って俺も四人の後を追った。

 そして、着いた先は一つの通気口がある部屋だった。

 

「おい! 窓もないのにどうやって出るんだよ!」

「これだから素人は....」

 金髪の発言に猫は呆れていた。

 

「もしかして、この通気口から出るのか」

「おぉ! その通りだ! なかなか筋がいいな!」

「よし、じゃあこれを外せば....」

 そう言って金髪が網を外した。

 

「さ、早く行け!」

「ありがとな猫!」

「助かった。ありがとう」

「ありがとうございます!」

「律儀な奴らだな。気をつけろよ」

 三人は通気口の中に入っていった。

 

「お前は行かないのか?」

「行くに決まってるだろ。ありがとな、道を教えてくれて」

「別に良いさ。お前には、さっき助けてもらったからな」

「そうか....」

「ほら、さっさと行けよ」

「あぁ」

 そう言って、俺も通気口の中に入った。

 

 

 〜〜〜〜

 現実

 

「戻ってきたか....」

 いつのまにか、俺はさっきまでいた裏路地にいた。

 

「あ! 大丈夫でしたか!」

 すると、俺の後ろから赤髪の女の子が話しかけてきた。

 

「あぁ。そっちも怪我とかしてないか?」

「はい。あなたが守っていてくれたおかげです。ありがとうございます!」

「気にすんな。それよりも、早く学校に、って....」

 俺は自分の時計を見て目を疑った。

 

「13時、だと....」

「え....」

 俺の言葉に、女の子は固まった。

 

「ひ、一先ず学校行くか....」

「そ、そうですね....」

 そう言って、俺達二人は学校までダッシュした。

 

 

 〜〜〜〜

「はぁ、君達ねぇ....」

「すいません」

「すいません。電話するの忘れてて....」

 学校に入って女の子と別れた俺は、職員室で担任の先生に謝罪していた。

 そして、俺の隣にはパレスにいた黒髪の男がいた。

 

「いくらなんでも遅れすぎ。というか、そっちの君は坂本君と

 一緒だったんだって。あまり彼と関わらないでよ。問題児なんだから」

 そう言った先生の顔は少し悲しそうだった。

 

「まぁ良いわ。二人とも、授業が始まる前に軽く自己紹介してもらうから。

 良いわね?」

「はい」

「わかりました」

「じゃあ、ついて来なさい」

 そう言われ、俺達は職員室を出た。

 

「転校生同士、よろしくな」

「あぁ、よろしく」

 俺は職員室を出てしばらく歩くと、隣の転校生にそう言った。

 

 

 〜〜〜〜

 教室

 

「ねぇ、どっちがその人なんだろ?」

「見た感じメッシュを入れてる方じゃない?」

「静かに」

 俺達が教室に入ると、何やら噂話が聞こえた。

 

「(傷害って....)」

 小さな声だったが、傷害という言葉も聞こえた。

 

「えぇ、転校生の雨宮 蓮君と露崎 櫂君。二人とも体調不良

 という事で午後からの出席となりました」

「雨宮 蓮です。よろしく」

「同じく露崎 櫂だ。よろしく」

「はい。じゃあ二人は空いてる席に。前が雨宮君で、後ろが露崎君に座って」

 そう言われ、俺と蓮はそれぞれ席に座った。

 

「それじゃあ授業を始めるわよ。日直」

「起立」

 

 

 〜〜〜〜

 自宅のマンション

 

 午後の授業を受けて、俺は家に帰ってきていた。

 俺は帰る前にパレスで会った女の子に会おうと思っていたが、

 学校中探しても見つからなかったので諦めて帰ってきていた。

 そして、学校に着いてから一つ気になっていた事があった。

 

「なぁフォルセティ。何でそんなに静かなんだ?」

 そう、今日の昼からフォルセティは一切話しかけてこなかった。

 前の学校では授業中は毎日話しかけてきていたのに、今日に限っては

 一切話しかけてこなかった。

 

『....いくつか気になる事があってな』

「気になる事?」

『あぁ。聞いてくれるか?』

「わかった」

 俺がそう言うと、フォルセティは部屋のパソコンを持ってきて

 俺の前に座った。

 

『では話していくぞ。主に気になった事は三つだ。

 一つ目はお前と一緒にいた女だ』

「あの子がどうしたんだ?」

『あの女、どこかで見たような気がしていた。それでさっきお前の

 携帯で調べた結果、新体操の芳澤 すみれって事がわかった』

「芳澤 すみれ?」

『あぁ。これを見ろ』

 そう言ってフォルセティはパソコンの画面を見せてきた。

 

「新体操の芳澤 かすみの妹....その実力は姉に劣るものの、

 実力はかなりのもの....お前、新体操に興味あったのか....」

『一瞬だけな。そしてあの女で気になった事がもう一つある』

「もう一つ?」

『あの女から謎の気配を感じた』

「謎の気配....ペルソナか?」

『いや、おそらく違う。何というか、まるで呪いのような....』

「呪い....」

『あぁ。今はまだ小さいが、時間が経てば広がっていくと思う。

 どうにかできるならさっさと抑えた方が良いだろう』

「....わかった。一応警戒はしておく」

『あぁ、そうしておけ。そして三つ目だが、あの猫からイゴールの

 気配を感じた気がした』

「なっ!?」

 俺はそれを聞いて驚いた。

 

『言っとくが、気がしただけだ。もしかしたら違うかもしれないからな』

「あ、あぁ....わかった」

『では、明日から色々と動くか』

「そうだな。一応、あのパレスも気になるしな....」

『だな。では、俺は帰るぞ』

「あぁ。明日もよろしく」

 そう言うと、フォルセティは消えた。

 

「芳澤 すみれ、か....」

 俺は何となく気になってパソコンで検索をかけた。

 そして、検索をかけていくと、衝撃的な事を見つけた。

 それは、芳澤 かすみが既に亡くなっているという事だ。

 

「(....しかも最近の事か。妹を庇い車に轢かれて死亡....)」

「....」

 そのサイトを見て、俺はパソコンの電源を静かに落とした。

 

「(....呪い、か)」

 俺は自分の転生前を少し思い出してしまった。

 

「(....慎重にいかないとな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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