転生者と灰被りのお姫様   作:アイリエッタ・ゼロス

20 / 29
Date?/Next target candidate

 5月15日

 

「(すごい雨だな....)」

 俺は早めに待ち合わせ場所の渋谷駅に着き、空を見上げながらそう思った。

 風はあまり吹いてはいないのだが、外はかなりの雨が降っていた。

 

「先輩!」

 そう考えていると、後ろから声が聞こえてきた。振り向くと、そこには白のトップスに

 黒のスカートを纏ったすみれがいた。

 

「すみれ」

「お待たせしました。....先輩、随分と早くに来ていたんですね」

「そんなに早くねぇって。ここに来たのも五分前だ」

「そうなんですか」

「あぁ。....じゃ、会場に行くか」

「はい!」

 そう言って、俺とすみれは“斑目展”の会場に向かって歩き出した。その時、俺は隣を

 歩いているすみれにこう言った。

 

「そういえばすみれ。その服、よく似合ってるな」

「っ! ほ、本当ですか!」

「あぁ。すみれと印象と良く合ってる」

「そ、そうですか....! そう言ってもらえると、とっても嬉しいです」///

 そう言って、すみれは嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

「そ、そうか....」///

 俺はすみれの表情を見ると気恥ずかしくなり、頬を掻きながら会場に向かった。

 

 〜〜〜〜

 斑目展

 

「何じゃこりゃ....」

「すごい人ですね....」

 会場の中に入った俺とすみれはそう呟いた。会場の中にはかなりの人がおり、逸れると

 面倒なことになりそうだった。

 

「逸れたら面倒だな....」

「そうですね....だ、だったら先輩....手を繋ぎませんか?」///

 そう言うと、すみれは顔を赤らめながら手を差し出してきた。

 

「そ、そうだな....じゃ、じゃあ、手繋ぐか」///

 俺はそう言って、すみれが差し出してきた手を握った。

 

「(柔らか....)」///

「せ、先輩の手、大きいですね....」///

 俺がすみれの手を握ってそう思っていると、すみれは俺にそう言ってきた。

 

「そ、そうか?」///

「は、はい。その、とっても逞しいと思います」///

「そ、そうか」///

 俺はすみれの言葉を聞き、何故か顔が熱くなってきた。

 

「そ、そろそろ行きましょう先輩! ここにずっといても仕方がないですから!」///

「そ、そうだな!」///

 すみれがそう言ったので、俺はすみれの手を引いて展示されている絵を見に行った。

 

 〜〜〜〜

 

「(....変な感じだな)」

 すみれと絵を見て回っていると、俺は二枚目の絵を見てからずっとそう思っていた。

 

「....? 先輩、どうかしましたか?」

 すると、突然すみれがそう聞いてきた。

 

「何がだ?」

「何だか先輩....絵を見てる目が変な気がしていたので....」

「あぁ....ちょっと気になる事があってな」

「気になる事、ですか?」

「あぁ。ここに展示されている絵、本当に一人の人間が描いたものなのかと思ってな」

 俺は周りに聞こえないぐらいの声ですみれにそう言った。

 

「展示されている絵がですか?」

「あぁ。今まで見てきた絵、どれもこれも別の人間が描いたみたいに思ってな。例えばだが、

 あの絵とこの絵。筆の使い方や背景の様子、そして色の塗り方が別の人間が描いたように

 見えないか?」

「....言われてみれば、確かにそんな気がしますね」

「だろ? だから、俺は一つ思ったんだ。ここに展示されている絵、盗作された物じゃ

 ないかってな」

「と、盗作ですか!?」

 すみれは俺の言葉に驚いてそう言った。

 

「ま、まだ確証はないけどな。....だから、少し試したい事がある」

 そう言って俺は目を瞑ってプロビデンスの目を発動させて展示されている絵を見た。

 すると、展示されている絵は全て赤く光っていた。

 

「予想通りか....」

「先輩、それって....」

「あぁ。予想通り、全部盗作された物みたいだ。....とりあえず、ここから出よう」

 そう言って、俺はすみれの手を引いて展示店から出た。

 

 〜〜〜〜

 

「それにしても、盗作ですか....」

 展示店から出て渋谷駅の連絡通路に着くと、不意にすみれがそう呟いた。

 

「よくよく考えてみたら、あれだけの種類の絵を描くのもおかしいですよね」

「確かにな。だが、あの爺さんは民衆に上手いこと言ってその疑惑を立たせない様に

 しているみたいだがな」

 そう言いながら、俺は爺さんの盗作疑惑の事がネットにないか調べていた。すると、

 俺は爺さんの盗作疑惑らしきものが書かれているあるサイトを見つけた。そのサイトは、

 俺がこの前見つけた“怪盗お願いチャンネル”だった。

 

「すみれ、これ見てみろ」

 そう言って、俺はすみれに携帯の画面を見せた。

 

「これは....」

 俺の見せた画面にはこう書かれていた。

 

『日本画の大家が弟子の作品を盗作している。テレビは表の顔しか報じていない。

 アトリエのあばら家に住み込みさせている弟子への扱いは酷く、こき使うだけで絵は

 教えてもらえないし、それどころか人を人とも思わない仕打ちは飼い犬を

 躾けるかのようだ』

 

「これ....本当だったらとんでもないスキャンダルですね」

 すみれは画面に書かれている文を見てそう呟いた。

 

「そうだな。....これがもし本当なら、爺さんはとんでもなく歪んだ欲望を持ってるだろうな」

「っ! ということは....!」

 そう言った瞬間、すみれは携帯を取り出して何かを打ち込んだ。すると....

 

『候補が見つかりました』

 

「っ! やっぱり....先輩、これ見てください」

 すみれはそう言うと、携帯の画面を見せてきた。すみれの携帯の画面にはイセカイナビが

 開かれており、斑目 一龍斎の名前が記されていた。

 

「....パレス持ちか」

「先輩、どうしますか?」

「決まってるだろ。....パレスを破壊しに行く。それとついでに、あの黒いシャドウの情報も

 聞きに行くぞ」

「そうですね。....そうなると、キーワードが必要になりますね。確か、場所とその場所を

 何と認識しているかですよね」

「あぁ。今回は難しいな....」

「前回と違ってパレスがどんなものかわからないですからね....」

 そう言って二人でしばらく考えていたら....

 

「あれ? 櫂?」

 俺は突然声をかけられた。声の方を見ると、そこには蓮と竜司と高巻がいた。

 

「お前ら....」

「こんな所で何してんだ?」

「あぁ....斑目展に行っててその帰りだったんだよ」

「お前も行ってたのか! 俺らもさっき行っててな。....ていうか、そこの横にいる人は?」

 竜司は俺の隣にいるすみれを見てそう聞いてきた。

 

「俺の友達で後輩の芳澤 すみれだ。一応、秀尽の一年だから一回ぐらい顔を合わせた事

 ないか?」

「えっと....初めまして、雨宮先輩、坂本先輩、高巻先輩。芳澤 すみれです。櫂先輩からお話しは

 かねがね聞いています」

「....あぁ! 思い出した! お前、鈴井の時に櫂の隣にいた....」

「あの時の子か....」

「こ、こちらこそ初めまして....」

 三人は三者三様の反応をしていた。

 

「それで、お前らも今帰りか?」

 俺は三者三様の反応をしている三人にそう聞いた。

 

「あぁ」

「そうか。....そういや高巻、モデルの件はどうなったんだ?」

「あぁ....一応、明日斑目先生のアトリエの住所を貰ったから行くつもり。それでモデルの件も

 話すつもりだよ」

「そうか。話がまとまったようなら良かった」

 俺はそう言いながらも、別の事を考えていた。

 

「(アトリエか....爺さんの執着している場所に関係している可能性があるかもな....)」

「んじゃ、俺達は行こうぜすみれ。お前らもまた明日」

「は、はい。失礼します」

 そう言って、俺はすみれと一緒に三人から離れた。そして、かなり離れた所ですみれに

 こう言った。

 

「すみれ。明日、あの三人をつけるぞ」

「きゅ、急ですね....一体どうしてですか?」

「爺さんのアトリエ、執着している場所に関係があるんじゃないかと思ってな。一応調べる

 価値はあると思うんだよ」

「なるほど....わかりました」

「そうか。んじゃ、明日のために何か力がつくような物を食べに行くか!」

「良いんですか!」

「おう! とりあえず、まずは何を食うからだけどな」

 そう言いながら、俺はすみれとこの近くにあるメシ屋を探し始めた。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。