ナナリーの親友兼専属メイド   作:赤いUFO

5 / 9
日常

 ナナリーが総督の挨拶で発言した特区・日本は結果的に大失敗で終わった。

 それどころか100万人のゼロに扮した黒の騎士団と日本人を国外追放と言う名で見逃す形となっての大失態。

 当然と言えば当然の結果である。

 以前の特区・日本で起きたブラックリベリオンの悲劇から警戒され、ナナリー自身の功績は何もない。

 小娘の戯言と耳を貸さないのは、日本人側からすれば当たり前の反応である。

 ナナリー・ヴィ・ブリタニアという総督は、何1つ信頼されていないのだから。

 後見人であるシュナイゼルからも、急ぎ過ぎと苦笑混じりで諌められる程にナナリーの今回の行動は迂闊だったと言わざる得ない。

 ナナリーが総督としての器が試されるのはむしろこれからだとアドバイスをもらいながら。

 それを聞いてナナリーはより一層職務に励んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぐっ!?」

 

「ほら。剣を取りなさい。敵は立ち上がる隙を与えてくれないわよ!」

 

 模擬剣を落として倒れたリーエンにゆっくりと近づき、掲げて振り下ろそうとする。

 

「だぁっ!!」

 

 いつもより素早い反応で剣を取り、横薙ぎに剣を振るう。

 それにアーニャ(2号)は驚きの声を漏らした。

 立ち上がり、模擬剣を構えるリーエン。

 

「続きを、お願いします……!」

 

 既に体力も限界に近いだろうに、荒い呼吸。震えた体で尚も訓練を続けようとする。

 

「へぇ……」

 

 はっきり言って今までのリーエンはこの訓練に積極的ではなかった。

 如何にも嫌々やらされてます、という雰囲気だったが、ここ最近は妙に張り切っている。

 まぁ、やる気が有るのは良いことだと教え子相手に模擬剣を向けた。

 

「少し、ペース上げて行くわよ!」

 

「え? うそ!? ぎゃんっ!?」

 

 それが、すぐ結果に繋がるかは別問題だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウンズの3人がナナリーの執務室に入った時に、ナナリーとリーエンは休憩中の手慰みに折り紙を折っていた。

 ナナリーはいつも通り折り鶴と桜。

 リーエンは────。

 

「お! ちょうど良いところに来たのよさ。どうです? この完成度!」

 

 リーエンが自分で折った折り紙を見せて3人は瞬きをする。

 

「これ、もしかしてランスロット?」

 

「トリスタンだよな?」

 

「モルドレッド……?」

 

 折り紙で折られていたのはラウンズ3人が乗るそれぞれのKMF。その頭部だった。

 

「器用……」

 

「ふふん! 自信作です!」

 

 胸を張るリーエン。

 モルドレッドの折り紙を手に取ってマジマジと見るアーニャ。

 悪気なくリーエンの心を抉る一言を漏らす。

 

「就職先を間違えた?」

 

「言わないでください。これでも結構気にしてるので……」

 

 視線を明後日の方に向ける。

 ここまで指先が器用ならメイドより適正のある職業は他にも有りそうだが、本人は転職する気はないらしい。

 

「そんなわけで! その折り紙、皆さんにあげます! お守り代わりにしてください!」

 

 パンッと手を叩いて告げたリーエンの言葉に3人が瞬きする。

 

「何か危ない時に強運がやって来てくれるかもしれませんよ? うん、たぶん?」

 

「そこは断言しろよ」

 

「だってお守りなんて、なにかしら御利益があったらいいな、くらいのものじゃないですか。要は、気持ちの問題なのよさ」

 

 最後の方は素の話し方に戻りながら、スザクとジノにも折り紙を渡した。

 受け取ったスザクは苦笑する。

 

「それじゃあ、ありがたく貰っておくね」

 

「うん!」

 

 そこでアーニャが疑問を口にした。

 

「皇女殿下にはあげない?」

 

「リーエちゃんには、前に貰ってますから」

 

 ナナリーは車椅子に備え付けられているポケットに触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最低賃金の底上げ?」

 

「うん。まだエリア11がブリタニアに侵攻される前の日本は世界でも有数の経済大国だったらしいの。今は大きな会社以外の日本人────名誉ブリタニア人の方の最低賃金がかなり安くて環境も悪いの。だから先ずは色々な人の意見を聞いて、政策を取りたくて」

 

 つまり、日本人が働く環境を整えて労働意欲を活性化させようと言う話だ。

 本人はカノンさんの受け売りだけどね、と苦笑いしている。

 話を聞いたリーエンは腕を組んで唸る。

 それは、内容が理解できてないというより、問題点を口にするか迷っている感じだった。

 それにアーニャが口を挟む。

 

「気になることがあるなら言うべき。皇女殿下も多くの意見を望んでる」

 

 アーニャの言葉を肯定するようにナナリーは首肯した。

 それに困ったように頬を掻いてリーエンが言葉にする

 

「学園にいた頃にさ。たまに屋台とか行ってたんだけど。そこで並んでる屋台がね。ブリタニア人と名誉ブリタニア人の人が居て。本国では食べられない物が人気なんだけど……たい焼きとかタコ焼とかお好み焼きとか。でも……」

 

 そこからは言いづらそうに続ける。

 

「でも、イレブンが自分の店より売れてるなんて生意気だって、暴力を振るうブリタニア人もいるのよ。よっぽどやり過ぎない限り、警察とかも見て見ぬふりだし。他にもちょっと良い服を着てるだけで集団で暴力を振るわれた話とかも聞くし。もしも最低賃金を上げて自分達と同じくらいになったら、うちの国の人がもっと酷いことをするんじゃないかなって……」

 

 リーエンの言葉にナナリーはハッとなる。

 今までは両者の扱いに差があったから何もしてこなかった面々も、これを気に暴力的になるかもしれない。

 それなら、今のままでも構わないと考える人もいるだろう。

 さらにリーエンが続ける。

 

「学園にいた頃にさ。ミレイ会長がぼやいてたのをたまたま聞いたんだけど。名誉ブリタニア人の先生の昇給が決まったときにさ。ブリタニア人の先生がかなり陰湿な嫌がらせをして。堪えきれなくなったその先生が自分から昇給を取り消した事があったらしいのよ」

 

「そんな……」

 

 ナナリーやリーエンが通っていたアッシュフォード学園は、人種に構わず門徒を開いている。教師として働いている者にも言えることだ。しかし、人の意識というのは様々で、どんなに素晴らしいスローガンを掲げても差別や迫害というのはそう簡単には消えない。

 況してや多くの者がそれを当然と認識していればなおのこと。

 ナナリーは考える。

 日本人の働く意欲を活性化させ、生産性を向上させる事は確かに大切だ。

 だが、ナナリーが日本人を優遇すればするほどにブリタニア人が反発し、さらに日本人を虐げる。

 匙加減を間違えればきっと悲惨な事になる。

 

「どうしてなのかな……」

 

 今でも充分に優遇されている筈なのに、少しだけ日本人の生活を良くしようとするだけでこうまで問題が提起されるのか。

 

 ナナリーの呟きにリーエンが言いづらそうに返す。

 

「あたしは、少し分かる……」

 

「え?」

 

 その反応が意外に感じた。

 

「さっきの屋台の話だけど。そういう風に、いきなり理不尽に絡まれて、暴力を振るわれる人を見て思うのよ。あぁ、自分はあっち側じゃなくて良かったって……」

 

 リーエン自身は、ブリタニアの貴族令嬢にしては珍しく日本人(ナンバーズ)などの差別意識が低い。

 それでもやはり、守られる側に居られることに安堵してしまう自分がいるのだ。

 

「日本人の地位が上がって、今まで下に居て見下してた人が同じところや上に行かれる事が怖いのよ。今度は自分が追いやられる立場に立たされる事が」

 

 それだけの事をブリタニアはしてきた。

 だからこそ、ただ日本人の優遇するだけでなく、互いに歩み寄れるように、ブリタニア人の意識も変えていかなければならない。

 それを思うとナナリーの閉じた目蓋で眩暈がした。

 

「ゴメン、話題がズレちゃったかも……」

 

「ううん。ありがとう、リーエちゃん。だから、もっと色々な人の意見を聞いてみるね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナナリーはこの後に多数のブリタニア人や名誉ブリタニア人等の意見を聞き、政策を行う。

 そして、同時期に起こった立て籠り事件に、ナナリーは自ら説得へと赴き、投降を促す行動がエリア11。そして、他の国にも報道され、当初、ブリタニア側からお飾りの総督。

 日本人からは口先だけの綺麗事を言うだけの小娘。という認識が少しずつ変化していく。

 秘密裏に意見を求めたゼロの助言もあり、ナナリーは日本人とブリタニア人、両方から敵を作らないように心がけて動いた。

 そして緩やかにだが、エリア11の生産性は向上し、異例の早さで矯正エリアから途上エリアへと格上げされる事が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナナリーは今日の分の点字で記された書類を読み終えると息を吐いた。

 ボタンを押すと時刻を教えてくれる時計がそろそろ夕飯だと告げてくれる。

 するとアーニャが執務室に入ってきた。

 

「皇女殿下、いい?」

 

 あまりにも用件をすっ飛ばした簡潔な質問にナナリーは戸惑いつつも返す。

 

「そろそろ、お夕飯の筈ですけど……」

 

「今日は別の場所。案内する……」

 

「え? え?」

 

 ナナリーの了承を得る前にアーニャは後ろに回り、車椅子を押す。

 今日は、来客が来る会食でも有っただろうか? 

 それにこういう場合、リーエンが来る筈だが。

 アーニャはナナリーの護衛も兼ねているため、そこまで不自然ではないが。

 いつもとは違う部屋を開けるとそこには────。

 

「途上エリアへの昇格、おっめでとぉ!」

 

 パンッとクラッカーが鳴る音がリーエンの声と共にする。

 ポカーンと口を半開きにするナナリーにスザクが苦笑混じりに説明した。

 

「エリア11が途上エリアに昇格したお祝いをしようって話になってね。今日の朝にリーエンが」

 

「だって口うるさいローマイヤ補佐官が休暇でいない今だと思ったのよ?」

 

「ま、確かに彼女は殊更に嫌味を言って反対しそうだよな」

 

 リーエンの言葉にジノが頷く。

 アッシュフォード学園の生徒会室程の広さのある室内。その中心のテーブルには、5人で食べ切るには少し多めの量が並べられている。

 

「いやー料理人(コック)の人が快く引き受けてくれて良かったのよさ」

 

 渋い顔をされるかと思ったが、意外にもすぐにOKを貰えた。

 

「それじゃあ、ナナリーちゃん。なに食べる? ここに並んでるのは────」

 

 料理を教えるリーエン。まだ事態に着いて行けないナナリーは呆然としているとスザクが話す。

 

「ここしばらく、根を詰め過ぎてるから、気晴らしをさせてあげたいってリーエンが。エリア昇格も決まったしね。僕からもお礼を言うよ。ありがとう、ナナリー。日本は、少しずつ良くなってる。ユフィが望んで。僕が求めた形に」

 

 頭を下げるスザク。目が見えずとも、スザクのお礼が本心からだということは伝わる。

 

「で、でもまだこれからなのに……」

 

 ナナリーの夢にはまだ全然届いていない。それなのに、こんなお祝いをしてもらって良いのだろうか? 

 

「休むことは必要……まだ先が長いなら、なおさら」

 

 相変わらずアーニャが感情を感じさせづらい口調で告げる。

 リーエンも、お皿に料理を載せたリーエンも続く。

 

「だから、今だけは、さ……」

 

 あーん、とフォークに刺した肉をナナリーに差し出す。

 口に入れて噛むと果実や野菜で作られたソースの絡まった肉は美味しかった。

 

 ふと、この場に兄であるルルーシュが居ないことが寂しかった。

 ルルーシュが居れば、今の自分をどう思うだろう? 

 

(お兄様。私は、スザクさんやリーエちゃんと、ブリタニアも日本の人達も、誰もが安心して生きていける場所を作ります。だから、いつかまた会えた時は、一緒に暮らせますよね)

 

 そう、心の中で今は傍にいない。いつも守ってくれた兄に話しかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。