林田先生の素晴らしい絵に感化されてできた怪文書です。なんでも許せる方のみ、お読みください。
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「それじゃあ今回の任務を再確認するわ」
ヘリコプターの機内の中で、404小隊はブリーフィングを始める。
「今回は廃墟街を彷徨う人形の補足。正体をつきとめ、可能なら撃破後に記憶装置の回収よ」
45の言葉に、全員がうなずく。各々、装備のチェックを終えると、暇を持て余し始めた。
「珍しいよね。いったいどんな人形がいるんだろう」
最初にそう切り出したのは、9だった。
「お化けみたいだよね、彷徨うものって」
珍しく、G11は目をきらめかせながらそう言う。彼女はそういった話が好きな部類であった。
しかし、そういった話が苦手な人形もその場にはいる。
「なんてことを言うのよ」
「あれ?もしかして416、怖いの?」
「そんなわけないでしょう?ほら、無駄口叩いてないで準備でもしてなさいよ」
無関心を装っているが、誰がどう見ようとも苦手であることが明らかだった。
「あ~ほんとは怖いんだ。しょうがないね。G11、416に付いていってあげてよ」
「やだよ。9が面倒みたら?」
「私には45姉がいるしさ!」
416の面倒の押し付け合いが始まった頃、コツンと9の頭に45の拳があたる。
「何を言ってるのよ。散開して見つけ次第連絡って何度も説明したでしょう?」
「ねえ45姉」
「なに?」
「何かあるの?」
「それはどういう意味?」
45は9の質問に首をかしげた。しかし、その様子だけ見ると、9はいつもどおり笑顔を浮かべた。
「ううん、やっぱりなんでもない!」
「……、へんなの」
「えへへ、それほどでも」
「褒め言葉じゃないでしょうに」
「まあね」
どこまでも明るく笑顔を浮かべる9に、45は軽くため息をついて笑いかけた。
しばらくすると、45がヘリコプターの扉を開く。
ヘリコプターが地面スレスレまで降下し、404小隊をおろした。
「よし。それじゃあ各自、作戦通りに散開して」
45の指示にうなずき、404小隊は各々別の方向へと向かう。
ヘリコプターが去ってしまえば、その廃墟街には静寂が舞い降りた。
=*=*=*=*=
「こんな広いのに見つかるわけないよ」
9は、足元の小石を蹴ってそう呟いた。もう探索開始から数時間がたっており、だというのに手がかりの一つも見つけられずにいた。
手頃なビルに入ると、休憩室のような部屋を見つけた。
「ちょうどよかった。さすがに少し疲れたんだよね」
9はソファに身を沈めると、目を瞑る。
意識レベルを落とし、キャッシュの削除等の整備を始める。
作業が一段落して再び目をあける。何か、ひっかかるものがあった。
「綺麗すぎる……?」
ソファは、まるで最近まで使われたかのようだった。机の上も、ホコリが溜まっていない部分が不自然にある。
「誰か……ここにいた?」
9は浮浪者の可能性を考える。廃墟街であれば、雨風をしのげて便利だろう。これが件の人形であるという確証が欲しかった。
部屋の中を見回せば、錆びついているロッカーが半開きになっていた。
9は扉の方を警戒しながら、ロッカーへと近づいていく。
嫌な予感は的中してしまっていた。
「これは……UMP?」
その中に立てかけられていた銃には、見覚えがありすぎた。この銃の一般流通はない。
「45姉に連絡しないと!」
9はソファの近くに置いた通信機の電源を着けた。
『9、何かみつけた?』
45の声が、通信機の向こうから聞こえる。
「そ、そっちはどうかなって思って。45姉は何かみつけた?」
『……?いいえ、まだ何も』
「そう!じゃあそれだけだから、またね」
『ええ……』
9は通信機の電源を切って、そっと机の上に通信機を置く。
「これで良い?」
「うん、上出来だね」
「じゃあこのマチェット、どけてくれない?」
つぅと9の首筋から血が流れる。少し身じろいただけで、その鋭い刃が皮膚を切り裂いてしまっていた。
「ごめんごめん。でももう少しはこのままかな」
9は頭の中で対抗策を考える。しかし、先に自分が倒されるという結果しか推測できない。
「あなた……何者?」
「何者……ねぇ」
9の動きを封じているその少女は、少し考えるように唸った。
「わかんないんだよね」
その答えで、9は確信を持つ。この人形こそが、彷徨う人形であると。
=*=*=*=*=
「ごめんごめん」
「いいけど……」
9は自分の首筋を汚していた血を拭う。拘束は解かれても、銃は没収されている。
彼女の銃と9の銃を並べられており、その類似したシルエットは2人がただならぬ関係であると言外に言っているようだった。
「それで、9だっけ」
「うん」
「あたいはえっと……多分40でいいはず」
「あなたが?」
「ん?あたいのことを知ってるの?」
9は一度、言いよどむ。この眼の前の彼女が40であることは、彼女の銃を見れば明らかであった。そして、彷徨う人形というのもこの状況を見れば彼女で確定である。
「うん、知ってるよ」
「ほんとに?」
「銃を見ればわかるでしょ?」
「まあ、同じUMPならねぇ」
40はUMP9を持って、マガジンを抜き差しする。
「いや~UMP9に触ったのは初めてだな。9はUMP45は触ったことある?」
「あるよ」
「ほんと!?それじゃあ45の戦術人形は?」
「うん……」
「もしかして!もしかしてだけどさ!」
40は目を輝かせながら、45の容姿の特徴を口に出す。9は、顔を若干歪ませながら、それを肯定せざるを得なかった。
「やっぱり45じゃん!良かった……」
安堵のため息をつく40を、9は複雑な顔をして見ていた。
「45姉の面倒を見てたって人形があなたでいいんだよね?」
「うん、ああ懐かしいなぁ」
40は懐かしみ、いつくか45にまつわる昔話を9に聞かせる。
「私の知らない、45姉……」
9は、まるで羨むように、そして妬むようにそう呟いた。
「それで、9は?」
「……?」
「なにかないの?45にまつわる話」
「まだまだ。私は45姉とはまだ日が浅いから」
「そんなことないでしょ?」
首をかしげる9に、40は満面の笑顔を向ける。
「何にもないよ、本当に。ただ、私じゃ隣に立てなかった。踏み込めなかった。それだけ……」
「ふーん」
40は、にやりと嫌な笑みを浮かべる。
「嫉妬してるんだ、9は」
「嫉妬?」
「そう。9は45にあたい以上に近づけないから嫉妬してるんだよ」
「ちがっ……」
「嫉妬されちゃうのか、あたい……」
40はそう、思い出すかのように呟いた。
「45のこと、好きなんだね」
9は反応に困った。果たしてそれがどういう意味の質問なのか、理解ができなかった。
「そうか、45はもう自分の居場所を見つけたんだね」
40はそう言いながら、9の目の前にUMP9を置く。ほぼ無意識に、9はUMP9を構えていた。
「それで、任務はあたいの捕獲?それとも撃破?」
マチェットすらも放り投げて、手を広げて40は9に嗤いかける。
9は通信機へと手を伸ばしたが、電源を入れることはなかった。
たとえ捕縛と撃破のどちらであっても、45ならば確実に40との再会を望むだろう。しかし、9の中のごちゃごちゃした感情が、その望みを叶えてはいけないと警鐘を鳴らしている。
「んー、撃破の方だったか」
40は残念そうに両手を上にあげた。しかし、目線はしっかりと銃口をつきつけている9に向いている。
「わ、私の任務を邪魔しないで」
「邪魔なんかしないよ。見ての通り降参。煮るなり焼くなり好きにしなよ」
UMP40は40の手の届かない範囲に、マチェットも先ほど手放している。彼女は、本気で9の弾丸を受ける気でいた。
「たださ、もし9もあたいも傷つかなくて済む未来があるとしたらさ。理想的な未来じゃない?」
=*=*=*=*=
「9!」
バタンと大きな音を立てて、休憩室の扉が開かれる。突入の勢いのまま室内をクリアリングする45は、薄暗い部屋の中で何かを探っている彼女を見つける。
「9、無事だったのなら返事をしなさい」
「ああ、45……姉、ごめんごめん、漁るのに夢中だったよ」
彼女は振り返りながら誤魔化すように軽く笑う。ツインテールが、身体に遅れて揺れる。
「それで、何か見つけたの?」
「いや、なんにも」
「そう。もう……そっちから一方的にしか連絡しないなんて」
「ごめんなさい」
「とにかく無事でよかったわ。416とG11も外に——」
「ねぇ45姉」
45の言葉を遮って、彼女は顔を隠すようにロッカーを開けながらそう呟く。
「あた……私たちのことは好き?」
「私たち?404のこと?」
「うん」
「突然なによ……。まあ悪くは思ってないわ。背中を預けるくらいにはね」
「そっか……」
「突然なに?」
「ううん、何でもない。それより先に外に出てて。あた……私もすぐに行くから」
「……?それじゃあ先に出てるわ」
そう言って45は404の待つ外へと向かっていった。
「ありがとう、9」
「私は何にもしてないよ」
40は、感謝を述べながらツインテールにした髪を解いた。ロッカーから出てきた9は髪留めを受け取り、いつも通りの自分の髪型へと結び直す。
「ううん、あたいには大収穫だよ」
「このあとはどうするの?」
「そうだな……もう少し旅でもしてみようかな」
「45姉はもういいの?」
「うん!」
40は溢れんばかりの笑顔を浮かべる。
「あたいはあの子が大切な居場所を見つけた、これだけで満足だよ」
脱いだパーカーを9に差し出しながら、40はそうわざとらしく大声で豪語した。
9は、差し出されたパーカーを受け取ろうとする手を止める。
「……持ってて」
「ん?」
「パーカーはあげる。私は予備があるから」
「……9」
「髪留めも置いていくね」
ポケットから予備の髪留めを取り出すと、9は机に置いた。
「あたいへの慈悲のつもり?」
「言ったじゃん、さっき40姉がさ」
9は、40という名を初めて口にしながら、40に負けないくらいの笑顔を返す。
「みんなが傷つかない未来が一番良いって」