舞台は幻想郷じゃないし、さとりやこいしも家庭的には、現代社会の一般人と同じようにすんでいる設定です。
東方でやる意味と言われそうですが、こいしの能力とか色々当てはめて話しを書いた時にこの話しができていきましたのでその点は作者も分かってはいますが、こいしの様な存在でこの話しを書きたかったのでご容赦ください。
このお話を、アイデアとして頂きながら、どんどん改変してしまい、結局ほとんど違うお話となってしまい申し訳ありませんが、提案として、この話しの骨子を組んでくださいましたファンタズマゴリア様に捧げます。
短いお話ですいません。
あなたが心配、とても心配
―夜空を見上げてたまに思うの。
寒さに震えてないかしら。
きちんと暖かくしているかしら。
あなたは好奇心が強くて、何処にだって行ってしまうから。
私には知る術がないのだけれど。
―朝焼けに包まれてたまに思うの。
あなたはもう起きたのかしら。
まだ布団の中で丸まっているのかしら。
ぐずるあなたは猫の様に、眠そうに何度も顔をこするのよね。
―日が昇ってたまに思うの。
今あなたはどこにいるのかしら。
草原に寝転んでいるのかしら。
街をねり歩いているのかしら。
いつお腹をすかせても良い様に、あなたの好きなアップルパイを準備しているのよ。
―夕暮れになってたまに思うの
あなたは何処に帰るのかしら。
心から休めているのかしら。
カラスが帰ったその道を、一人で帰っていないかしら。
―夜空を見上げてたまに思うの。
安らかに寝れているのかしら。
夢の中でひつじと遊んでいるのかしら。
あま~い夢を楽しんで、起きるのがイヤになっていないかしら。
―頬に吹く風にたまに思うの。
これはあなたが風をきる音かしら。
この暖かい風は頬にあたって、またどこかに消えていくけれど。
あなたは何処にいるのかしら。
―パチパチと燃える暖炉にたまに思うの。
ときどきコトリとなる音は、あなたが薪をくべる音かしら。
あなたが寒くない様に、マフラーを編んでいるのだけど。
あなたに大きくないかしら。
粗い糸の安っぽい赤が、あなたのお気に召すかしら。
―彼女たちの体を撫でながらたまに思うの。
あなたはどうしているかしら。
毛並みを逆さになでていないかしら。
すこしつついたそれだけじゃ、私は気付けないかもしれない。
―あなたを想ってたまに思うの。
誰をさがしていたのかしら?
妹なんていたかしら?
―あなたを想ってたまに思うの。
ベットの上、引き出しの中、タンスの奥。
あなたはどこにいるのかしら?
不自然に吹きつける風も、薪がくべられる暖炉も、彼女たちを撫でる小さな手も、私には見えていたのかしら。
振り返って私は笑うの。
あなたを見つけられたから。
―――――――――
目が覚めると透明な世界が始まりました。
そこはとても自由な世界。
好きな様にお寝坊ができて。
誰にも怒られないで。
延々芝生の上を走りまわれて。
夕暮れに家に帰らなくてすんで。
夜は誰かのベットに紛れ。
少しだけその家の朝食をいただく。
透明な世界が始まりました。
みんながそれぞれの生活をしていて。
犬はメンドくさそうにゴミをあさり。
猫はみんなで井戸端会議。
小鳥は朝早くに旅立って。
みんながそれぞれの生活をしていた。
透明な世界が始まりました。
子は友と遊び、教科書を持って学校に走り。
ある人は重い足を引きずって、重いカバンを引きずってそれぞれの仕事に出て行き。
ある人は朝の日の出とともに仕事は終わって、一杯の苦いコーヒーを飲みながら家に帰る。
きつそうなことだってあった。
涙を流している人もいた。
痛みでうめいている人もいた。
神様に感謝する人もいれば、それと同じくらい神様を呪う人がいた。
自分の境遇だったり、誰かの立場だったり、男と女だったり―
この世のいくつかは決まってしまっていて、不確定な世界にとってそれはどうにも理不尽にみえた。
透明な世界が始まりました。
ある人は才能に―
ある人は性別に―
ある人は偶然に―
ある人は必然に―
言い訳だとか、努力とか、そういう問題ではなく、少なくとも世界には悲しみが溢れているようだ。
怒る人がいた―
怒られる人もいた―
振り上げた拳(て)の行く先がなくて、やるせなくて涙を流す人がいた。
激しい感情の発露は、それだけで世界を圧迫して、この世界をこれ以上住みにくくするなと誰かが叫んだ。
たかだか5~60年、もっというと7~80年。
人は生きていく中で世界を圧迫し続ける。
透明な世界が始まった。
固定端をとうに失くした世界は、不安定であやふやで、定義された足跡を一つ一つ辿って歩くのだ。
踏み外した先に、偶然にも道があったなら、そこは儚い足の踏み場の一つとなるのだろう。
空は青く、黄色く、時には黒く―
風は強く、弱く、時に優しく―
雲は早く、遅く、時に大きく―
月は明るく、暗く、時には隠れて―
たくさんの命をもつものは無口で、流れにたゆたって少しだけ言葉を口にする。
人は欲張りだ。
多くのことを伝えようとする。
愛を、平和を、希望を、願いを―
悲しみを、怒りを、絶望を、まどろみを―
透明な世界にはそれが鮮明にうつる。
生々しくて、切実で、汚くて、儚い。
全ての人が自信などもっているわけではない。
気弱で、頼りなげに一歩一歩歩いて。
儚く、すぐ風でとばされそうな足跡を辿っていく。
人々は踏破者だ。
人々は先駆者だ。
一歩、一歩を踏みしめる度に、死にそうな位の勇気をだして、ありったけの自分と向き合って、ほんとにちょっとだけ前に進む。
それが正しいのか不安になって、振り返って確認して、その消えそうな足跡の所に戻ろうかと少し思う。
でも、首を横に振ってまた一歩踏み出して行く。
知っているから。
その戻った一歩の後で、残った自分の足跡は、微妙に何処か違っていて、それも一歩だと気付いたから。
世界の広さは決まっている。
今日も誰かが死んで行って、新しく誰かが生まれるだろう。
回転は止まらない。
朝が来て昼になり、夜が来る。
目を覚まし、一生懸命動いて、眠りにつく。
世界は悲しみに溢れているけれど、今日産まれた子どもの両親は笑っていた。
テストで良い点がとれて―
仕事がうまくいって―
大好きだった人と付き合えて―
自分の孫の姿が見えて―
互いに愛を囁きあって―
緩やかな時の中で、笑顔があった。
朝焼けが心地よくて―
目が覚めて命があることに感謝して―
大切な友達がいて―
爆発しそうな感情を抱えて、胸が暖かくなる優しい笑みを浮かべて。
幸せを謳歌していた。
世界は悲しみばかりでもないらしい。
汚くて、グロテスクで、嫌なことの総数が確実に多い世界だけれど、世界には喜びも確かにあった。
透明な世界を止めようと思う。
今日地面でこけて泣いていたあの子を助け起こして涙を拭った。
不思議そうな顔をしている彼女に私の姿は映らなかったから。
家に帰ろう。
私にも家族がいる。
姉がいて、ペットがいて、つまらないけど私の家族だ。
家に帰ろう。
頬に風を送り―
暖炉に勝手に火をくべて―
ペットの毛を逆なでしてやるのだ―
今までやっていたことだけど、そこには、私の感情があることに気付いた。
姉はどうしているのだろう。
寒さに震えていないだろうか?
元気に過ごしているだろうか?
久しぶりに家のドアを開けて、私が家に帰ると姉は椅子に座りこんで、長い長いマフラーを編んでいた。
ひとしきりイタズラがすんだあと、私は彼女の前に立つ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
彼女は二コリと笑って私にマフラーを巻いた。
透明な私は透明だから誰にも見えない。
でも、私にも色はある様で。
私に色をつけてくれる人もいる様で。
粗くて、首がかゆくなりそうなマフラーに顔をうずめて、大切な人の匂いに包まれて。
私は、私の色を塗る。
最初に塗った私の色は安っぽい安っぽい赤。
あなたが心配、とても心配。
それで世界は回っている。