東方小噺竒   作:加具

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文化祭、私たちは何をしようか。
部室棟の隅にある部室で秘封倶楽部の二人は考えていました。

“歌い手”“青春”“残念な大学”の三大噺でございます。


いつか君と出会おう、そんな日を思って日々を行こう

「メリー、あの歌なんて言ったっけ?ほら、街頭で流れてた歌だよ」

「……いつの話なのか全然わかんないんだけど?」」

 

蓮子が突然そんなことを言い出したのは学園祭を控え少しあわただしくなった大学の部室でのことだった。

 

「この前心斎橋あたり歩いてた時だよ、こんなリズムでさ―」

 

そうやって蓮子はリズムを口ずさみながら私に伝えようとする。

 

「……蓮子、あなたは自分も音楽的センスをもう少し自覚してから鼻歌は歌いなさい」

 

その鼻歌は音が突然高くなったり、逆に突然低くなったり、場面が飛んだかのような急な転調があったり、おそらく原曲とは全く別物であろうことが断言できるほどの代物であった。

 

「……うぅん、じゃあほら、愛だとか、運命だとか言ってたやつだよ」

 

巷で愛を歌う人のなんと多いことか、正義を口にしたり、力を抜いてみろと言ったり、逆に頑張れと励ましたり、たくさんの言葉が世間には溢れかえっていて、全てが聞き飽きような使い古されたテーマだった。

 

「前に偶然、あの人が路上で歌ってるのを見たことがあるんだ……」

 

その人の名前はわからないんだけれどね、そういって蓮子は笑った。

 

「あの人は本当に恋してたみたいに歌っていたんだ、運命のような恋って本当にあるのかな?」

 

あんな風に歌う彼女をみて、もしかしたらそんなものもあるかもしれないと、そんな風に蓮子は思ったらしかった。

色々な答えが頭をよぎるけれど、どれもこれも違う気がして、最終的に出てきた答えが―

 

「……そんなものないわよ」

 

だった。

 

「え~、ど~して?ロマンチストなメリーさんならあるっていうと思ったのに」

「茶化そうがなにしようがそんなものないわよ」

 

話はそれで終わりにしたかった。

なんでそう答えたのかを聞かれるのが嫌だったから。

 

「いいじゃない、運命の恋なんて憧れてしまいますがな」

「……あんた何処の人なのよ」

 

ニシシと笑うその猫のような笑顔に、少し胸が突っかかる。

斜陽が差し込む人気のない部室に、二人だけの私たちは外から聞こえる喧噪も何処か遠くに感じていた。

隙間を縫うようにして見つけ出した私たちの部室は部室棟の中でも隅の隅、人がほとんど立ち入らないような場所にあったから、音を立てるものが少ないのも事実ではあったのだけれど。

 

「で、なんだっけ?」

「何が?」

「いや、だから最初は文化祭の出し物なんにするかって話だったでしょ?」

「……そーだっけか?」

「……はぁ、もういいわよ」

 

呆れる。というかもう彼女を如何にかしてしまいたい。

廃品回収の日とかに荒縄でぐるぐる巻きにして出せないものかと真剣に考えてしまう。

 

「夜の校舎でこっくりさんとか、百物語とか考えてたんだけどねぇ」

「いや、そもそも学祭に夜の部とかないからね?」

 

アホなことをいううちの相方に思わず突っ込みをいれてしまう。

 

「そうなんだよねぇ、いっそ黒い全身タイツ来て学祭の間中うろついて新たな学校の怪談でも作れないかなぁとかも考えるんだけど」

「うん、それやるなら蓮子ひとりでやってね、私の目の届かない範囲で」

「な!?ひどいぞ~!秘封倶楽部の二人は何時だって一緒じゃないのか~」

「うん、時と場合によるよね?」

 

私と蓮子で黒タイツマンが学祭を練り歩く……

どんな罰ゲームなのかと思った。

 

「無難にフリマみたいにして小物でも売っとく?」

 

私の提案に

 

「秘封全然関係ないね?」

「そりゃそうだけどさ……」

 

彼女は秘封倶楽部に関連した何かをやりたいようだった。

 

「そもそも部活ってより同好会扱いだから出さなくてもいいんだけど」

「いやいや、祭りなんだから出すでしょ?」

 

いやいや、そんな当たり前でしょ!みたいに言われても……

 

「でもいいアイデアでないじゃない」

「ん~」

 

蓮子はそう唸りながら机に突っ伏した。

唸りながら考える彼女に如何にも嫌な予感がし始めてきた直後、彼女は体を起こして言った。

 

「じゃあさ、それこそ歌っちゃう?」

「はぁ?それこそ秘封関係ないじゃない」

「いやいや、運命の愛だの歌っちゃってさ、その歌詞を聞いた人たちに歌った後で聞くわけよ、みなさん運命を信じますかって」

 

運命というのはいわゆるそういうもので、ならば秘封倶楽部の領分ではないのか、彼女はそういうのだった。

 

「もはやなんでもありね……」

「そう言うなよ~」

 

そうやってテンションの上がっている彼女を説得するのは私には不可能で、文化祭でやる内容は決まってしまった。

早速申請書を書き始める彼女。

 

「なぁ」

「あによ?」

「……本当に運命の恋とか真実の愛って、巷には溢れてないのかな?」

 

如何やら、彼女は彼女なりに真剣に考えていたらしかった。

 

「ないわよ、そんなもの、現実にはポンポン落ちてません」

「でもさ、……少し位ならさ」

「しょうもないこと考えるのね~、蓮子さんは」

 

そんなことを言いながらも、彼女のそれは少し縋り付くような心細さを持っていて、何処か頼りなさげだった。

 

「私はメリーのこと好きなんだけどな……」

「は?」

 

小さな声、思わず聞き返してしまう。

 

「割と本気で好きすぎて、運命だのを信じるくらい好きなんだけどな……」

「……やめてくれない?」

「……え?」

「運命だの、私は嫌なんですけど」

 

彼女の言い分は、私の中の突っかかりのど真ん中を突っついていた。

彼女の顔色を見ると真っ青を通り越し真っ白になっていた。

彼女への攻撃的な思考で私が満たされていく。

 

 

「……ご、ごめん」

 

咄嗟に彼女の口から出たのは私への謝罪の言葉だった。

それ以外何も思い浮かばない、そんな感じ。

 

「あなたは運命で私を好きになったの?」

「へ?」

「あなたはそんな流れで私を好きになったの?」

「い、いや」

「人を好きになることを何かのせいみたいに言わないで」

 

結局言ってしまった。

 

「私は、私自身で決めてあなたを好きになったの、それを何かのせいで好きになったなんて言わないで」

 

運命が私たちを選んだのではなく、私があなたを選んだのだから。

 

「運命じゃなく、あなたが決めたって言って」

 

そうじゃないと私は張り裂けてしまいそうなのよ。

 

「必然でそうなったんじゃなく、あなたがそうしたからそうなったって言って」

 

あなたが自分以外の何かを信じて私を選んだということがこんなにも苦しい。

 

「あなたはあなただけのままで、私を好きになって」

 

斜陽が差し込む夕暮れの部室。

少し肌寒い初秋の風が外からふんわりと吹き込んでカーテンを揺らしていた。

彼女は少し呆気にとられたような顔をしたあとで

 

「ぷ」

 

そんな吹き出すような笑い声のあと

 

「ッククク、ッククク」

 

笑いをかみ殺すようにして笑い始めた。

 

「ほら笑った、そうなることがわかってたから言いたくなかったのよ」

 

私はむくれていう。

その反応がわかりきっていたから、あえてあの時なんでかは言わなかったのに。

 

「ち、ちがっ、ちがうの!」

 

そういいながらも彼女は笑い続けた。

 

「なにが違うのよ?」

「ううん、安心したら涙でてきただけ」

 

彼女はてっきり笑いながら流していたと思っていた涙をぬぐった。

 

「メリーさん、あんたやっぱりロマンチストですわ」

「うるさいわね」

 

蓮子は椅子から立ち上がり、風の入り込む窓辺に歩いていく。

 

「でもね、メリーさん」

「……あによ?」

 

彼女は窓から身を乗り出して、校舎の外を見ていた。

 

「そんなあんたが好き」

 

遠くには資材を抱えて走り回る人もいるし、学校が終わって普通に帰る人もいて、ごった返している光景が見える。

 

「運命とか、真実とか、甘い言葉であなたとの関係を表したいとは思ったけど」

 

祭りの前、何が起こるかわからない。

 

「偶然とか必然とか、大きな何かの力を建前にして、誰かに祝福されていると思いたかったけど」

 

何処か爆発しそうななにかを抱えているこの空気は嫌いじゃなかった。

 

「ツンデレで、いじわるで、人一倍ロマンチストで、いつも私を諌めてくれて、いつも私に付き合ってくれて、金髪で」

 

そんな風景を眺めながら、私に背中を向けたまま彼女は私にいった。

 

 

 

 

 

「私は私自身の意志で、そんなあんたが好き」

 

 

 

 

 

「……バカ」

 

私の言葉はちゃんと言葉になっただろうか。

みっともなく震えていなかっただろうか。

 

「ばか」

「二度も言わなくても聞こえてるよ」

 

その突っ込みに私は先ほどのつぶやきのような声もしっかり彼女に届いていたとしる。

 

「そういえば、文化祭のチラシ見たんだけど、今回ライブをやってくれる人、全然知らない人だったわ」

 

気恥ずかしい空気をすぐに抜け出したくて、私は本当はどうでもいい話を振った。

 

「どれどれ」

 

彼女は振り向いて私が取り出した文化祭のチラシをまじまじと見る。

 

「あ」

「あによ?」

「この人だ」

「……何が?」

「いや、愛だの運命だの歌ってた人」

「……」

 

こんな偶然がありうるのだろうか。

 

「な?信じてみたくもなったろ?偶然」

「……」

「でもなんでこんな人がうちのライブにでるんだろ、全くの無名じゃんか」

「知らない、予算でもなかったんじゃない?」

「本当に残念な大学だな……」

 

そうは言いながらもライブに行くことが彼女の参加を知って私たち二人の中では決まってしまった。

会って、もし質問の時間なんかが司会者の粋な計らいであったとしたら、聞いてみるのだ。

彼女のいう運命のような恋がどんなものかを。

否定しに行くのではない。

彼女を知りに行くのだ、もし彼女の感じる運命が私の感じているものと同じものだったら―

 

そんなどうでもいい結末を夢想しながら。

 

 

 

結局、委員会に申請したところ音響機材使用の許可が下りず、参加をあきらめきれなかった蓮子と私は無難に小物を売って文化祭を過ごしたことは本当にどうでもいい話だ。

現実はそんなにドラマチックでも運命的でもない。

でも、そんな当たり前の日常が、蓮子と二人で過ごす当たり前の大学生活が、自分の性にあっていると思う今日この頃である。

 

運命のような恋なんてなくても、人生はドラマチックでなくても―

 

それでいい。

 

 

ただ、私にはあまり面識もない、蓮子といった彼女のライブは運命を信じてもいいくらい最高だったといっておく。

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