唯一つ言えるのは、これからは自分の性癖に素直に生きようと誓ったことですね。エロとエモが世界を救う。
というわけで、己が性癖に従いまくるシリアス原作のシリアス二次創作だぞ、喰らえ☆
「何で止めるんだよカイナさん! こいつらは――――!」
「お前達をかつて迫害したからか?」
地獄だった。
何も悪いことをしていない筈の人々が、八つ当たりめいた理由で虐殺されていく。男も女も、果てには小さな子供まで、犯す価値すらないとばかりに血肉の海に変えられていく。
何も、本当に何も悪くないのに。
「そうだ! 俺達には
「こいつらに同じ苦しみを味あわせてやるんだ!」
最悪だった。
実力を買われ、宛がわれた部下は復讐に身を焦がす連中の中でも一等酷い連中だった。自分の所業を正当化して、後ろを振り向くこともしない。
自分が悪いのに。大罪人であるという自覚から目を逸らし続けている。
「自分のやったことを分からせてやるんだ!」
「犯す価値も無いとこのナイフで刻んでやる!」
「親父の仇だ……」
「殺してやる」
「殺してやる」
「殺してやる」
「殺してやる」
「殺してやる」
「殺してやる」
「―――――――――――死ぬまでに、一人でも多く殺してやるんだ!!!!」
それが、最後の引き金だった。
ああ、
だから――――――――殺した。
心臓を裂いた。脳を輪切りにした。
肺をアーツで丸ごと破裂させた。脊髄を噛み砕いた。
鉄パイプで耳から脳を貫通させた。動脈を切って失血させた。
全身の皮を剥いだ。内臓を引きずり出した。
今までの鬱憤を叩き付けるかのように、自分が築き上げたものを全て滅茶苦茶にした。自分のように衣食住の為だけに仕方なくこういうことをしている奴もいると信じたかったのに、そんな奴は何処にも居なくて。
泣きたくて泣きたくてどうしようもなくて、けれど泣いたところで誰も助けてくれないから泣かなかった。
「……カイナ?」
「フゥ姉、ごめん、もう限界だ」
叫び声で駆け付けたフロストノヴァの顔はきっと忘れられない。今まで見た事が無いほどに恐怖と驚愕で塗りつぶされていて、嘘だ、そんなとうわ言のように言葉が漏れていた。
傷つけたことが痛くて辛くてたまらなかったから、そんな義姉の姿を直視できなかった。
「ごめん、ごめんなさい……」
「……」
座り込んだ義姉が誰に謝っているのか考えたくも無かったから、何も言わず、振り向きもせずにレユニオンを去った。
それからもう、彼女には会わないだろうと思っていたのに。
「ええと……こう、ですか」
「そうだ。意識を集中して、自分の内側とオリジニウムを繋げるイメージを持つんだ」
「……あ、オリジニウムが、熱い?」
「そう、上手いぞ。その熱を維持してみなさい」
「……アレで良いのか」
「素養があるのなら予め教えておいて暴発を防ぐ方が良い。いざという時の自衛手段も必要だろう?」
「まあ、そうなんだがなぁ」
どんな手段を用いてか隠れ家を発見し侵入していたフロストノヴァとその部下。暫くは警戒していたが、いつまで経ってもアーツを使う素振りを見せず本当に交戦の意思が無いと確認したことで警戒を解いた。
目的こそ分からないが、彼女は本当に話しに来ただけらしい。
「何年ぶりだろうな、こうして話すのは」
「さあな。そんなに経ってはないだろ」
ひっそりと誰にも知られないよう用意したはずの隠れ家で、まるで我が家のように寛ぐフロストノヴァとその護衛だろう3人のスノーデビル小隊構成員。連中に至っては此方に警戒を向ける素振りすらなくミーシャへとアーツの基礎を教え込んでいる。
「ふふ、その態度も変わらない、か。喜べばいいのか悲しめばいいのか」
「成長してないってか、そんなもん知ったことかよ」
「多少は丸くなったかと思ったが、対人関係での粗は治っていないな」
「知らねぇって言ってるだろうが、親かお前は」
風邪はひかなかったかとかパトリオットはどうしているかとか、話したいことは他にも沢山ある。だというのに、どうしてか話し方がつっけんどんになってしまう。心が毛羽立って落ち着かない。
端的に言って、居心地が悪い。どうにも背中がむず痒くて仕方が無いのだ。
「……おい貴様、曲がりなりにもフロストノヴァ様の弟御だというのにその態度か」
「あぁ? 何だお前」
「この御方の家族として恥じない在り方をしようとも思わんか」
唐突に尊大な態度で接されて、むず痒さが苛立ちへと一瞬でシフトする。色々言いたいことはあるが、まず一つ。
「名前名乗れよ。口も利けねぇアホを相手したくない」
「名など無い。フロストノヴァ様の部下であることが私の全てだ」
「……………………気持ち悪」
「何だと貴様!?」
だってしょうがないだろ、気持ち悪いんだから。いくら怪物的な実力を有しているとはいえ女一人に此処まで入れ込まれると本当に気持ち悪い。同じ人間と認めたくない。何コイツ。
「……よく分かんないですけど気持ち悪いですね」
「だろ」
「そりゃぁな」
「やめろ、お前が話すと事態が拗れる」
「味方居ねぇじゃねぇかお前」
「……」
ミーシャに罵倒され仲間に同意され、そして敬愛しているのだろうフロストノヴァ当人からも面倒認定。流石に傷ついたのか目に見えて凹んでいた。フードと仮面で顔は見えないのに空気で落ち込んでいると分かるあたり、相当心に深く刺さったらしい。
話が進まないと判断し、視線を厄介男(仮称)からフロストノヴァへと戻した。
「で、本当に何をしに来たんだ。まさか本当に世間話するためだけに来るほどアンタも暇じゃないだろ?」
「本当に話をしに来ただけだといっただろう? 流石の私も多少は傷つくぞ」
「……信じられるかよ」
フロストノヴァに聞こえないよう小さく悪態を吐く。自業自得とはいえ、自分はかつて部下を
ただ、それを追求すれば
此方の顔は明確に敵として割れており、それでいてこれまで殺意を伴ってレユニオンの上位連中が来たことはない。その奇妙さが警戒心を引き上げていた。
「はっきり言えばいいだろ、
「だから……ああもう、どうしてそう疑心暗鬼を拗らせるんだ。いい加減怒るぞ?」
ただひたすらに疑われれば苛立つのは自明だ。だが、それでも眼前の義姉だった女性を自分は信じられない。
あの時、嫌気が差したという理由で同胞へ向けて虐殺の限りを尽くしたことは到底埋められない溝だろう。自身の内心の快適さと現状を天秤にかけて、あろうことか自己愛を取った醜悪さは絶対に許されていい物なんかじゃないはずだ。
だというのに、その罪を理解しているのかいないのか。フロストノヴァは苛立ちを隠しもしない一方で悪意や害意といった感情を一切向けていなかった。
「まったく、私の威厳もさほどの物ではないらしいな。こうして弟の信頼も勝ち取れないとは」
「……パトリオットが勝手に気に掛けてただけだろうが」
「それでも、私にとっては可愛い弟分だったよ」
弟、という言葉を向けられるたびに心がざわめいた。馬鹿を言うなと内心で舌打ちする。自分の在り方が珍獣のように見えて、パトリオットの興味を引いたから手を出されていただけだろう。
絶対的な才能を持つ少女に、人類の多様性を経験させるための“教材”。それ以上の価値なんかなかったのに。
一人ぼっちだったからとまるで家族のように振舞って、幹部二人から目を掛けられる分、余計な荷物まで背負わされて。
安全な寝床と最低限の食事が貰えたのなら、それだけで本当に満足だったのに。向いていない幹部という肩書までつけられて担ぎ上げられた苦しみが分かるのか?
「絆なんてどこにあった? 効率的に人殺しするための道具としての価値しか、俺にはなかっただろうが」
「そう、だったのかもな。だが、私にとっては―――――」
「もうやめろ、聞きたくない。口先だけの妄言なんて沢山なんだよ」
その言葉を聞いて、不快に感じたのか。フロストノヴァの手に力が入ったのを見逃さなかった。ああまた傷つけたと直感的に悟り、しかし襲ってくる後悔を顔に出さないように猶更心を封じ込める。
そして――――
「そうか、それなら………」
業を煮やしたのか、手に持っていた杖とナイフを放り投げてずかずかと此方へ歩み寄る。傷だらけでも整った綺麗な顔と気迫の篭った眼光に押されて後ずさるも、すぐに壁へと追い込まれる。
刻まれたトラウマが抵抗を許さない。手を出してもすぐに殺されるという恐怖心が反撃を縛ってしまい、更にミーシャを見捨てないというスカルシュレッダーとの約束が逃走への一手を遅らせた。
「ひ、ぁ、止め――――――!」
「……」
―――――そして、時間切れ。
もう逃げられない。絶対零度の手が伸びる。
女王の機嫌を損ね、その罰として木っ端微塵に砕かれるのだと覚悟すれば――――
「そら、これならどうだ?」
「…………は?」
視界が暗黒に包まれる。だが、それは死に瀕した時の魂を刺すような冷たさではなく、優しい暖かさを持ったものだった。
頭を押さえつけられながら、同時宥めるように背を優しく撫でられる。
端的に言えば、ハグされていた。
それも、頭を胸元へ抱きかかえる形で。
「え、あの、な、なん」
「……どうだ?」
唖然とするミーシャ、ああやっぱりと呆れる配下二人、そして凍り付いたように動きを止める厄介男。
当然自分も想定外の行動に思考が停止した。どうにか理解できるのは自分がフロストノヴァに抱きしめられているということで―――――それすら理解不能だ。
「む、これでも足りないのか? それなら膝枕の一つでも――――――」
「な、なん、な――――にゃああああああ!?!?!? 何して、む、胸に、押し付け……ッ!?」
スラムで経験もしなかった行動を目にして、ミーシャは顔を真っ赤にして絶叫した。余りの衝撃に取り落とした源石が情けない音と共に中途半端に破裂する。
ボン、という音は彼女の感情の噴出を代弁していたかのようで、もう何が何やら手が付けられない。
どうにか正気に戻ってフロストノヴァを引き剥がすが、顔が熱く動悸も早い。自分はこんなに初心だったかと考え、そんな経験を積む余裕も無かったと思い返して、そんな無駄な思考ばかりクリアになる。
「いやいやいや何でだ意味が分からんわ何がどうしてだ!?」
「そういう所は初心のままか、可愛いものだな」
もう一度抱き締めようと手を伸ばしてくる彼女から距離を取る。コレは駄目だ、経験が無さ過ぎて心臓が爆発する。
今までに体感したこともない部類のパニックで思考を切り替えられない此方を尻目に、フロストノヴァは愉快そうにくすくすと笑っている。それがどうにもくすぐったくて、ああもう。
「何なんだ、本当に何をしに来たんだ」
「何度も言っただろう? 話をしに来ただけだと。それと……
ずきり、と心が軋んだ。ああやっぱりという思いも到来した。傷つけていたのだと当たり前の事実に後悔が溢れ出すが、しかしそれも長くは続かなかった。
それは、思考を止めたのが原因だ。だが、自発的にではなく―――――
「レユニオンは龍門へ侵攻する」
「――――――」
「これは決定事項だ。そして、もうレユニオンは止まれない。……だから、最期に話しに来たんだ」
フロストノヴァの一言で、止められた。意識が凍る、今彼女は何と?
周囲を見渡せば、ミーシャも絶句しながらフロストノヴァを見つめていた。仮面とフードの下ではあるが、スノーデビル小隊の三人からも確かな覚悟が垣間見える。
確かに現在のレユニオンの実力であれば、移動都市一つなど簡単に堕とせるだろう。それはチェルノボーグ事変で既に証明されている。だが、それは
言い方は悪いが、レユニオンはテロリストというよりも組織化した暴徒に等しい。数による暴力は圧倒的だが、しかし正規の訓練を受けた兵士にはどう足掻いても劣ってしまう。
「レユニオンが感染者の集団である限り、ロドスは必ず出張ってくるぞ」
「承知の上だ」
「……断言する。アンタ達じゃ、ロドスには勝てない」
止められないと分かっていたから、せめて事実を伝える。
レユニオンではロドスに勝てない。どれだけ数の差があろうと、個々の質と練度で圧倒する。かつて所属し、そしてその凄まじさを目の当たりにしてきたからこそ出せる結論だった。
しかし一方で、それで引き下がってくれるなんて思ってもいない。現にスノーデビルの3人は覚悟を怒りに変えて此方を見ているし、例の厄介男に至っては今この場で激昂しかねない程苛立っているのが手に取るように分かった。
「もう鉱石病だって手の付けられない状態なんだろ? どうして逃げ――――」
「逃げら―――――――」
「逃げられる訳が無いだろう!!」
我慢の限界だったのだろう厄介男が口を開いた刹那、それ以上の怒号が罵声をかき消した。声の主はフロストノヴァ。これまでにない程に顔を悲痛に歪めていた。
「余命が無いからこそだ。たとえどのような障害が待ち受けようと、我々は止まらない。もう、止まれないんだよ」
「…………」
歯が軋むほどに噛み締め、拳も握り締めて忸怩たる思いを吐き出すフロストノヴァ。口ぶりから察するに、既に作戦は準備段階に入ってしまっているのだろう。
もう誰にも止められない。勝者が誰になろうと、龍門は惨劇の舞台となることは確定してしまっている。
そして、己が無力を誰よりも悔いながら雪の女王は呻いた。
「…………もし、もしもお前にほんの少し情があるのなら……頼む。私達を助けてくれ」
「それは、ロドスや龍門と戦えと?」
「そうだ。私一人では不可能だろう。だが、お前が居てくれればきっと、いや必ず。感染者に安住の地を約束できる」
彼女は今も“レユニオンの感染者”の味方だ。ロドスとは最初から相容れず、また相容れる気も無いのだろう。自分達の力と約束を胸に、ただ感染者が迫害されない場所を作るためだけに残りわずかな余命を燃やし尽くすと固く誓ってしまっている。
その目に宿る覚悟が眩しくて、まるで太陽に照らされた氷のようだったから、いいや、
「ごめん、
―――――――それは、カイナという男にとって異次元の理屈でしかなかった。
姉を拒絶し、どうなる主人公。
当たり前だけど逃げ切れるわけがない。4~6章ぶっ飛ばして生きられる訳が無い。