でも☆6オペレーターって設定な時点で戦闘力はほぼトップクラスだと思ってるからその分の苦難は頑張れ、応援してる(鼻ホジ)
ではどうぞ
―――泥のような眠りの中で、過去の記録が再生されていく。
幸福なんてありはしない、しかし珍しいわけでもない。ありふれた、当たり前に不幸な半生。
気の狂った血統主義と実力主義、選民思想に差別意識。何かあれば自分の血筋と気合いと根性を盾に意味不明の説法、そして終いには無茶無謀をさせた果ての病で勘当。
裕福なことは幸福なことではないのだと、たった六歳で悟ってしまった。教養があることは賢明なことではないのだと理解するには、生まれて六年で十二分に過ぎた。
スラムに降りてからの方が気分は楽だった。何せ、生きるためならばあらゆる無法が許容される。勝てば生存負ければ全損の簡単な世界だったから、ただ遮二無二突っ走るように荒れていれば生きていられた。レユニオンに入ったのは確か九つの時。もてはやされるままに非感染者を殺していれば衣食住が提供されたからと、人畜無害だったのだろう人間を殺しに殺した。
3年目位だろうか。組織の中でヒエラルキーが上になればなるほど息が詰まって、追いかけられたら困るからという身勝手な理由で直属の手下を
逃げたは良いものの、結局困るのは自分だ。傭兵紛いとして生きてはみたものの、大した額も稼げず一日食いつなぐのが精一杯、真っ当な装備も買えずに鉱石病由来のアーツだけで足掻いて、結果として鉱石病が悪化して、オリジニウムアーツを暴発させた事を契機に
内臓は健全なまま、皮膚、筋肉、骨の順にオリジニウムに
そんな中で偶然届いた長期契約、相手はかのロドス・アイランド。一も二もなく飛びついて、ああこれで真っ当になれると馬鹿なことを考えていた。
夢が破れるのは一瞬、当たり前だ。ロドスの本質は鉱石病感染者の治療法の模索と、職場の提供。衣食住のためには働かねばならず、交渉が出来るだけの能もない傭兵風情に回されるのは
容体が安定して仕事を割り振られるようになってからは、殺して殺して殺し続けた。時折情報を得るために心身共に限界まで嬲ってから殺して、得た情報を元に感染者やテロリスト、裏から操っていた政治家まで皆殺しにしてきた。
そして、どれだけ殺しても心折れず立ち上がれる上に、自分より何倍も役に立つ技を多分に備えたオペレーター達を前にして、心は折れた。
アイツならもっと早く、そして何も感じずに殺せる。コイツなら医療隊を呼ばずとも、他者に適切な治療を施せる。ソイツならもっと的確に、最低限の労力で事務仕事をこなせる。
同情される気は毛頭無い。だって要は自業自得だ。辛いから楽そうだからと逃げに逃げて、結局自分の無能と屑さ加減を存分に晒しただけ。今苦しいからと自分の短所を棚に上げて、分不相応なことをしようとしたから罰が当たったと思えば何も疑問は無い。
正しいことは辛いんだ。間違っていることは楽なんだ。耐えて我慢して踏ん張って、そして明日を目指して前を向く。確かに辛くはあるが、しかし正しい。人として正しい姿、そうあるべき指標だろう。だが、それを実行できるのは一握りの人間だ。性根が凡人である限り、それらをこなすことなど到底出来はしない。
―――――だからこそ、そんな風に言い訳しかできない屑な自分が尚更嫌になる。こんなふうに、
カイナという男はどこまでいっても畜生のままなのだ。『成長』と『主役』を拒み続ける限り、永遠に進めないのだろう。
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意識が浮上する。体は鉛の鎖で縛られたかのように重く、そして覚醒した瞬間から激しく痛むのだから苦しくて仕方がない。
ふと、カイナは自分が半裸で、体に布団代わりに自身の上着が掛けられていることに気づいた。また至る所が包帯やガーゼで手当されている。少なくともナイフ一本だけで逃亡した自分ではこれだけの処置はできず、同時に失神する直前に誰かが話しかけてきたのを思い出す。
一体誰がと視線を洞窟内に巡らせれば、パチパチと音を立てる焚き火の前に腰掛ける黒衣の女性の姿が目に入った。傍らには長杖が置かれており、そしてカイナのナイフもそこに置かれていた。
「目が覚めましたか」
「アンタ、は」
「旅医者の、シャイニングと申します。吹雪から退避した洞窟に貴方が倒れていたもので、勝手ながら処置をさせていただきました」
「……ありが、とう」
カイナの口から漏れた素直な感謝に、シャイニングは首を横に振ることで礼は不要と返す。そして、やれることをやっただけだと続けた。
「体の調子は、如何ですか」
「正直痛くてたまらないけど、慣れてる」
「……あの重体に、ですか?」
カイナは小さく首肯し、自身のアーツについて説明する。殆ど天性の勘だけで超常現象を励起し操作できる、その代償とでも言うべき特異性を明かしていく。
「俺のアーツは、高周波振動の操作だ。周波数はある程度融通が利くけど、物体に付与しないと使えない上に、射程範囲は俺から
「……」
「詠唱も道具も要らない、少し体に力を込めて意識すればすぐ発動できる上に応用も利く。……けど、その欠点が大きすぎる」
「つまり、大きすぎる振動によって自壊してしまう、と」
「そういうことだ。おまけに切り札を切った後はいつもこの通り、瀕死寸前でのたうち回る羽目になる」
とんでもないアーツがあったものだとシャイニングは嘆息する。振動による物体の破壊や刃物へ付与することによる切れ味の向上、反響による周囲の索敵、周波数を上書きすることによる物音の攪乱。少し考えただけでこれだけ出てくる優秀な力でありながら、一度戦闘か何かで行使してしまえば意識不明の重体になる程の反動に襲われる。
どうして無事だったのかとカイナに問い、極東のとある一族の血筋を引いているせいだと聞いて、彼女の頭に浮かんだのは一人の女性だった。
「……貴方は、マトイマルという方を知っていますか」
「…………何で、その名前、が」
「……なるほど、やはりですか」
シャイニングが現在の所属を明かせば、カイナは観念したように深く溜息を吐く。そして諦め故の枯れた笑いを洞窟に響かせた。
「俺のこと、ロドスは探してるか?」
「……いいえ。しかし、MIAのリストには貴方のプロフィールがありました」
「はは、敵前逃亡の脱走兵が作戦中行方不明とはな」
「逃亡……
「タルラ―――レユニオンのリーダー」
名前を聞いて瞠目し、よくぞ逃げ切ったとシャイニングは励ます。対するカイナの反応は芳しいものではなく、苦笑しながら情けを掛けられただけだと前置いて事の顛末を伝える。
「……何を思って逃がしたのかは分からない。けれど、俺が隊長だった部隊はヤツによって全滅した。ロドスに留まって、いつかアイツともう一度相対すると思うと、今でも戻りたくないんだ」
「……怯えるのも当然でしょう。私はタルラを書類上でしか知りませんが、彼女のアーツは凄まじいということは分かります」
「信じられるか? アイツがそこにいるだけで、何もかもが燃えるか溶けるかで消えていくんだ……まるで、太陽がヒトの形をしたみたいな圧力だった」
「……」
その言葉の後に、重苦しい沈黙が場を支配する。火にくべられた薪が爆ぜる音だけが響いて、二人とも炎の揺らぎをじっと眺めている。
そして、ふと気になってカイナはシャイニングへと尋ねた。
「アンタ、マトイマルと面識あるんだろ……最近はどんな様子だった」
「特に陰りがあるというわけでもなく、壮健ですよ。行方不明者の話になると表情が多少曇りますが……ああ、あとはカドウ? に誘われましたね。生憎と、苦笑されてしまう出来映えでしたが」
「はは、変わらないな」
ロドスでの日々を思い出して苦笑する。唐突に「吾輩の遠い遠い親戚だな」と声を掛けられて、一方的に絡まれて、いつも模擬戦でボコボコにされてと下らないことばかりが頭に浮かんできて、言いようのない寂しさに包まれてしまう。
また会いたいとは思うものの、今更どの面下げて帰ればいいのかと煩悶して、結局逃げることを選んでしまう自分が今は恨めしかった。
暫くそうして静かに語っているうちに洞窟の外が明るくなり始め、吹雪も収まった。身体はまだ余すところなく痛むものの、歩く分には問題ない程度に回復していたために上着を着込んでシャイニングからナイフを返して貰う。彼女も外の様子を見て身支度を始め、殆ど炭になっていた薪火を足で消して立ち上がる。
洞窟の外は、青空の広がる快晴。雪原の白が目に痛いほどに輝いていた。
「……それでは、お元気で」
「ああ、世話をかけた。いつか恩返しでもできりゃいいんだがね」
「……ふふ、いつかどこかであったときにでも、と申しておきましょう」
会釈をして、別方向へと歩き出す。シャイニングはイェラグ領地の村へ、カイナはそれと反対方向へ。さてどこへ行こうかと気楽に考えながら、しかしシルバーアッシュ達の剣幕を思い出して若干早足になりつつ逃避行を再開した。
「ーーーーーはい、はい、お願いします」
報告を終え、支給品の携帯端末の電源を切り嘆息する。
ロドスは何やら躍起になって彼を連れ戻そうとしている様子だったが、
「……この一件、シルバーアッシュが絡んでいる……どうにも嫌な予感がしますね」
大事にはならないだろうが、かといって一筋縄では収まらず、最低でも小競り合いは起きるだろうとシャイニングは眉を顰める。
逃亡の理由について、彼は適当に誤魔化していたーーー否、本心で言っていたのだろうが、まだ隠している理由があると彼女は睨んでいる。陰謀的なものではなく彼自身の心因性のものだろう。だが、それは確実に彼を蝕んでいるナニカだと医師としての勘が告げていた。
「もう少し話していれば分かったかもしれませんが……仕方がありませんね」
ロドスの者だと明かした以上、あまり長く引き留めようものならロドス自体が疑われて今後の接触を避けられる。資料を見る限り戦闘・潜伏においては彼の方が上手であり、逃げられれば次に派遣されるのはより荒事に特化したオペレーターだろうと考えて、彼の忌避感を増長させないためにも身を引くべきだと結論づけた。
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首を刎ねる。腹を振動で爆散させる。容赦の欠片もなく、カイナは襲撃者を屠る。その服装は彼が仕事で何度も相手をする羽目になった
仕事としてではあれどシルバーアッシュ暗殺を何度も阻止し、おまけに巫女様に気に入られているせいで手が出せなかった
逃げる足を失った最後の一人の心臓にナイフを突き立てて絶命させ、そしてゆらりと幽鬼のように立ち上がる。返り血を拭い、反動に軋む身体をどうにか動かして現場から逃げ去る。そのまま留まっていれば次々に襲われてキリがないことを理解しているから、潰したらさっさと移動する。
「―――ぐ、げは」
いつものように足下に振動の地雷を仕掛けて炸裂させることで加速しつつ、吐血する。どうやら伝達した振動で内臓がやられてしまったらしい。多少無茶し過ぎたかと自省するが、どうせ治ると無視してスラム街を屋根から屋根へと飛び回る。
相変わらず融通の利かない力だと呆れながら、しかし無い物ねだりをする気力もなく、彼はこうやっていつも逃亡を選択する。
また逃げた、次も逃げるんだろうと頭の中から責めるような声が響く。それは聞いたことのない声だが、しかしその出所が何なのかはよく理解している。
これは後悔だ。今まで殺してきた連中の声を借りて、自分の中で増大し続ける後悔と無力感が自分で自分を責め続ける。
「……分かってる、分かってるんだよ」
イェラグから逃亡して数ヶ月。移動都市を転々としながら日銭を稼いで食いつなぐ日々。
本当はロドスに戻るべきなのだろう。だが、レユニオンに
端的に言って怖いのだ。実力は元より、あの炸裂し続ける恒星のような悪意にもう一度直面した時に正気を保てるか分からない。だからほんの少しでも直面する可能性を減らしたくて、結局戻ろうという決心がつかない。
怖い、怖い、何もかもが怖くてたまらない。信じられないわけではなく、
「痛いことから逃げて何が悪いんだよ……」
誰かが助けてくれる、誰かが手を差し伸べてくれるなんて
「……くそ、畜生」
ギロチンが上がるような音を立てて逃げ道が狭まる錯覚に陥る。イェラグはもう完全に駄目だろう。逃げ場としての選択肢から消失している。では次はどこに逃げればいい、どうすればいいんだと、頭の中は困窮していく。そして、ああもうどうしようもないと理解して、だからこそ分からなくなる。
路地裏に立ち尽くし、ギリギリと歯が砕ける程に食いしばり、胸を掴んで頭をかきむしる。嫌だ嫌だ、痛い苦しい、何なんだこれはどうすればいいんだ、どうやって逃げればいいんだ。
「分からない…………」
喉元まで出掛かっているのに分からない。
倒壊寸前の廃墟のように軋む心。それを支える手段も思い付かず、スラムの一角で頭を抱えて座り込む。
思い出しているのはロドスのオペレーター達の雄々しい姿、そして尚更惨めになる。辛いとき、苦しいとき、悲しいときにも前を向いて、明日は必ず来るはずだと立ち上がれる。
「どうすれば、よかったんだ」
カイナは病に苦しむ狼犬だ。光に怯えて陰に籠もり、近寄れば牙を剥く。
そして、
そして、ああ、だからこそ。
「見つけた、カイナ」
「…………」
彼に選択は出来ない。悩んで迷って優柔不断の末に時間切れ、挙げ句の果てに逃げ場も無いまま逃げ惑って、それを延々と繰り返す。
「レッド、カイナ探してこいって、言われてた。やっと見つけた」
「…………」
「帰ろう」
独特の気配に頭を上げれば、ぱたぱたと動く銀灰色の尻尾と特徴的な赤いコート。瞳は大粒の宝石みたいにキラキラしていて、耳まで動いてどこか嬉しそうにも見える。成熟しつつある体に対して、その精神は未だ発達段階という歪さを持っているから、嗚呼。
「―――――悪い、無理だ」
「……どうして?」
尻尾の動きは一気に静まり、瞳にも陰りが生まれる。
きしりと心が軋む音がするが、
「実は別の仕事受けててよ、それが終わらないと帰れないんだわ」
「……」
「……寂しいだろ、けど、ごめんな」
如何にも“君を案じています”と言わんばかりの表情でレッドの髪に手櫛を通して、そのまま撫でる。
「……もう少しだけ、我慢してくれるか、レッド?」
「…………うん、うん……」
「よし、いい子だ。ケルシー先生とドクターにも宜しくな」
こくりと頷くレッド。オリジニウムだらけの手で頭を優しく撫でてやれば、戦い慣れしているとは思えない程柔らかくて小さな両手で包み込むように触れ、そして頬ずりをしてくる。まだ会えない期間が長引くのなら、せめて、そうせめてこの温もりを刻みたいと涙目で訴えてくる。
―――――心が軋む。怨念に追いつかれる。まだだ、まだだ、どうか保ってくれ。
「……もうしばらくしたら、また一緒に居られるかもしれないから、な?」
「…………うん」
「大丈夫、
「わか、った」
嗚咽を噛み殺した声で肯定を示し、凄まじい速度でスラムを駆け抜ける赤い影。道中何度も此方を振り返るそれに手を振って―――――――
「…………く、はは」
一欠片も視認できなくなってから、ああもう駄目だ、限界だ。
「っはっはははははははははは! なんだそりゃ、バカじゃねえのか!?」
愉快そうに笑って、笑って、嗤って――――――――――――そして。
「っっざけてんじゃねぇぞ、このクソ下劣畜生がァァァッ!!!!!」
溢れ出す感情は全て悪意。憎悪、嫌悪、忌避侮蔑、罵倒殺意、殺意殺意殺意――――――――――それらすべて、矛先は
「純真な子供に適当に好かれる動作して懐かせといて、いいように扱って嘘こいて遠ざけて!? なんだよそりゃ完ッッッ全にゴミ野郎じゃねぇかよオイ!?」
狂い嗤いながら、自分の屑さ加減に涙すら流しながら周囲のガラクタへと無造作にアーツを暴発させて破砕する。逃げ場を求めて八つ当たり、ああなんて救えないんだお前は。否、
「何時になったら“成長”する気だお前はァ!? レユニオンの時から何ッッッにも変わってねぇな、結局そうやって逃げるばっかじゃねぇか!?」
前へ進まねば。『成長』せねば。そうしなければいずれ破滅するというのに、齢20を越えてまだこの体たらく。いつまでもうじうじ自己嫌悪に勤しんで前へ進むことも『成長』することも、終いにはそのための苦難に立ち向かうことも嫌がって逃げてばかり、情けないを通り越して救えない。
「はは、ハハハ、あははははははははは!!」
狂ったように嗤いながら、自己嫌悪に涙を垂れ流して四つん這いで呻くことしか出来やしない。
「ははは。うぅ、あ、はは、うああぁぁぁぁっ!!!」
どうにか怒りをぶちまけようと絶叫して―――――頭の中に、声が響く。
“ほら、また逃げた”
“次もどうせ逃げるんでしょ”
“だからお前は、永遠に『成長』できない”
お前に『成長』は訪れない。生まれた時から病床に苦しむ負け犬だと、呪いのように殺してきた人間の声が反響していた。
Tips
オペレーター:カイナ
素質:嘘逃害悪
全ての攻撃に対して30%の確率で回避し、10%の確率で強制撤退する
スキル1:拷虐技巧
自動発動。敵撃破時に半径2マスの敵の防御-30%、全攻撃回避40%を獲得
スキル2:汚辱の狼犬
手動発動。半径2マスの敵(最大6体)の攻撃・防御-50%
スキル3:狂乱振
手動発動。半径3マスの敵全員へ400%の攻撃とスタン(5秒)。使用後は強制撤退および再配置コスト+10。
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