終わり往く者   作:何もかんもダルい

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とりあえずポーイ(投稿)
もしかしたら改稿するかも。



では、どうぞ


末裔と病床

―――――死に絶やす 死に絶やす 欠片も残さず屑になれ

 

―――――この身は既に病厄なれば、瘴気に飢えて牙は疼き、輝く者共を許せない

 

 

 戦場で聞いた、余りにも禍々しい文言。同時に飛来した無数の短剣が敵手へと突き刺さり―――――そして、腹の内側で火薬が爆ぜたように胴体が爆散した。

 

 瞬間自分の背後から飛び出した、下手人であろう青年。その戦い方は、およそ人の道徳からは外れていて。

 散らばった肉片を踏み躙りながら鷲掴み。何を行ったのか、次の瞬間には片手の生首がガタガタと動き始めて……投擲されたソレが、花火のように弾けた。

 

 骨肉と眼球、脳漿に血液。物理的な殺傷能力こそ無いが、精神へと与えるダメージは絶大。眼前で顔見知りの頭部が弾けてその()()を被ったことで、相手は一瞬動けなくなる。その間隙だけで青年には十分だったのだろう。接近して掌底を叩き込んだ瞬間、敵は先程の投刃を食らった者達のように炸裂して中身をぶち撒ける。

 そして、それだけに終わらず。いつの間にか手に持っていた肉片を相手の顔面へと投げつけ、動きが止まった瞬間に頭が胴体から滑り落ちた。

 

 

 

 まだ長引くだろうと思われながら一瞬で終了した戦闘。現場は凄惨の一言だった。

 十数人いたはずの練度の高かった敵手はその半分が断頭されて即死。残り半分は、説明されなければ人間とは分からない程にバラバラにされていた。気の弱い、或いは新人のオペレーター達はその光景だけで失神したり嘔吐を繰り返してしまう始末。

 

 当の下手人はと言えば、彼自身もどういう訳か吐血しながら武器の血を拭っている。血と臓物の海面に立ちながら、生者とは思えないほどに昏く濁った目で何処かを見ていた。

 

「ぐ、っぎ、ああぁ」

「……」

 

 青年の眼前で立ち上がったのは、奇跡的に生きていた銃火器を持ったレユニオン構成員。片腕は弾け飛んで、もう片方で必死に得物を構えている。

 

「なんで、どうしてだよ、()()()()()……どうして、アンタがそっち、に」

「…………ごめんな」

 

 驚くことに、オペレーターであった青年はレユニオンと旧知の間柄だったらしい。しかし、やはりその目に輝きは戻る事はなくて。

 

 

「―――――仕事だから、死ね」

 

 

 ひゅるん、と。間抜けな音と共に首が落ちて、血の噴水。

 あまりの容赦の無さと正反対に、その顔はどうしようもない程に泣きそうだった。

 

 

 

「――――なあ、君」

「…………俺か?」

「そう。君、鬼の血が流れているんだろう?」

 

 青年はまず驚愕したが、プロフィールを漁ったと言えば得心したらしく、同時に興味を失っていた。あえて明るく振舞ったが、向こうとしては鬱陶しいらしく避けられてしまったらしい。けど、やはり戦闘の時の泣きそうな顔が頭から離れなくて、どうにかしないと彼はじきに()()()()()()()()()()()と直感してしまったから、放っておけなかった。

 ああ、だから。

 

「なら、吾輩の遠い遠い親戚だな! 仲良くしよう!」

「え、あ、おいちょっと」

「まずは腹ごしらえだ! その後は訓練に付き合ってくれ、丁度相手を探してたんだ」

 

 多少強引に過ぎるかと思ったし、相手から避けられることも覚悟していた。眉を顰めて本気で嫌そうにしていたし、口振りも本心から苛立って鬱陶しそうだった。何かにつけて渋って、他のオペレーター達と関わる事を()()()()()()()()()ようにも見えた。

 けれど、そうやって自分が振り回している間だけは、あの朽ち果てた亡骸のような目ではなかったから。それが無性に嬉しくて、何時でも誰とでもその暖かさのある目でいて欲しいと思っていた。

 

 そんな希望なんて彼には欠片も無いと知るまでは。

 

 

「おーい、風邪ひいたって聞いたぞ、大丈、夫…………」

 

 彼とつるむようになり数カ月が経過した頃の話だ。

 数日姿を見せなかった彼を案じて部屋を訪ねて、絶句した。椅子も机も木っ端微塵、ベッドは半壊して使いものにならない有様。床には酒瓶が何本も転がり、血痕がそこら中に濡れた筆を振り回したようにように散らばっている。そんな中で、彼は部屋の隅でボロボロの布団に包まるようにして眠っていた。

 

「っ、カイナ!!」

 

 思わず手に持っていた見舞いの品を放り投げて駆け寄った。

 無造作に投げ出された片手には酸鼻極まる傷跡が刻まれ、抉り出された結晶が転がされたまま現在進行形で再生中。もう片方の腕は布団の端と共に短剣を掴んだまま。どれだけ荒れたのか、爪は罅割れ部分的に剥げて、指の関節は肉が抉れて白い何かが見えている。

 おまけに口から漏れる酒精が酷い。これは相当飲んでいるのだろうが、空き瓶の酒はすべて度数が異常な程に高い。中毒を起こしていてもおかしくない。

 

 状況的に確信していたが、自傷だとしたら酷すぎる。どれだけ自分を憎悪していたら此処まで凄絶に傷つけられるのだろうか。

 自身に流れる血を過信している? いいや違う、彼は戦闘中も病的なまでに、怯えるように負傷を避けていた。だというのにこの有様?

 

 破砕された机の傍に放り出されていた日記を見てみれば、其処には()()()()()()

 

―――――痛い、苦しい

―――――どうしようもないけど我慢するしかない

――――――今日も犠牲が出た。自分が意気地なしだったせいだ

――――――今日もだ。どうすればよかったんだ

――――――今日も死んだ

――――――今日も自分のせいだ

――――――今日も

――――――今日も

――――――今日も

 

 途中からは「今日も」としか書いておらず、ペンを握り潰したかのようにインクがぶちまけられて、紙面全体に「死にたくない」「生きたくない」とグチャグチャに書かれている。

 後悔、苦悶、慙愧全て自分へ向けた怨念の塊。読んでいて気が滅入るどころか、これを正常な人間に見せるだけで狂気への一歩を進ませるだろうもの。こんなものを書いていて正気が保てるわけがない。

 

 

 ふと頭を過るのは彼の服装。頭部以外を絶対に見せない理由は鉱石病の患部を見せる事を避けるためだと思っていた。

 だが、もし、もしも、だ。

 

「あの厚着は、自傷行為(コレ)を隠すために?」

 

 この予想が当たっていたら。

 こんな身体の外も内もボロボロにするような行為をずっと繰り返していたのだとしたら。

 弱みを見せないにも程がある。どうして助けを求めない? 辛くて苦しいなら態度に出すだけでもよかったはずだ。それすらせずに、ずっとこんなことをしていたというのか。

 頭の中が真っ白になっていたからだろうか。妙に冴えた頭は絶望的な仮説を高速で組み立てた。

 

「まさか、そんな」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? そこまで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としたら?

 

 

 

 

 そこから先は、正直あまり思い出したくない。

 目覚め次第、彼は医務室で鎮静剤を投与されたうえで絶対安静となった。

 

 

 そして、数日後に消息を絶った。生存の確証がもたらされるまでの間、自分でも分かるほどに空虚だったのはよく覚えている。

 だから、正直に言おう。

 

 

「カランドの巫女、プラマニクスと申します。ロドスに協力をし、貴方方に祝福を―――――の、前に。不躾で申し訳ないのですが、依頼をしたいのです」

「……ああ」

 

 ()()が来たときに、吾輩は安心したんだ。嗚呼、やっと()()()の人物が来てくれた、()()()()()()()()()()()と。

 見た目こそ泰然とした、巫女という役職に相応しいであろう風格と佇まい。だが、その目に宿る猛烈な熱量は明らかにたった一人、()()()()()へ向けられたものだと直感で理解できてしまった。そして、依頼の内容を聞いて、その熱量の矛先はカイナだと確信した。

 

 カイナは自己否定の怪物だ。並大抵の衝撃ではあの悪癖は消えてくれない。普通の人間が重過ぎると表現するような、それこそ鉛の枷で縛り付けんとする程の愛情を叩きつけられる者でなければ、彼はきっと逃げてしまうから。

 

「ドクター、ちょっといいか?」

 

 彼を救えるのは、彼女しか居ない。あの絶望の奈落で震える獣を救ってやれるのは、彼女だけだろうから。

 

「この依頼、吾輩に受けさせてくれないか」

 

 ―――――戻ってこい、カイナ。今こそお前の病巣を取り除く。

 

 

#####

 

 

 空が白み始め、まだ日の昇っていない時分。カイナは広野で立ち尽くしていた。

 

 

「……やるか」

 

 心を一度鎮め、深呼吸を一つ。思い浮かべるのはイェラグで行われた戦闘。

 

「―――――四対一、敵は近接三アーツ一。逃げれば死ぬ、負ければ死ぬ……」

 

 恐怖をもう一度呼び起こし、ナイフを構えて、戦闘開始。

 

 

 幻影の敵手が放つ剣閃は鋭く、そして巧い。それが武器を変えて三人、加えて後方に強力なアーツ使いが鎮座。

 居合いにも似た視認限界の外からの一撃を反射で防御、死角から放たれるアキレス腱狙いの刺突をステップで回避、同時に回し蹴りを放つが避けられ、新たに生じた死角からシールドバッシュと同時に関節狙いで動きを封じるアーツが放たれる。

 シールドバッシュをナイフで受け流しつつ、盾の裏と背後から迫る切り上げを身体を捻りナイフで受けつつ回避、着地と同時にしゃがみ、左足を軸に回転して包囲網から外れて、最速でアーツ使いへナイフを走らせる。

 

 アーツ使いは基本的に近接が不得手だ。仲間が当然防御しないはずがなく、最速をさらに上回る神速で刺突が飛来する。

 回避すると同時に刺突剣士の懐へ潜り込み、顎を蹴り上げ次いで足に裂傷を刻む。数瞬遅れて攻撃してきた居合剣士の手の甲へ柄頭をたたき込み、一瞬怯んだ隙に狙うのは後方から迫る盾使い。盾で防御しつつ放たれる片手剣の大上段をいなし、右膝裏と左アキレス腱を切り裂く。

 

 機動力を失い膝を突く盾使い。油断することなく両腕を斬り飛ばし、崩れ落ちる身体を蹴って即席の盾として居合剣士の一撃を防いだ。瞬間盾使いの首を切断、そのまま無造作に掴んで刺突剣士へ投げ渡して動揺を誘いつつ、再びアーツ使いの元へ疾走、最短距離でその細首を切断しボールのように蹴って居合剣士へとパス。

 

 激昂しているのだろう一撃をかわしつつ、居合剣士の片腕を肩胛骨から切断。次いで宙を舞う腕からサーベルを取り上げ刺突剣士へ投擲、かわした隙に懐へ潜り込んで肝臓へとナイフを突き立て捻る。

 ナイフを刺したまま背後へ回り、手刀で仕込み刀を叩き落としてキャッチ、頸椎へ強引にねじ込んだ。

 

 そして、盾持ちの遺品である片手剣で攻撃してきた居合剣士の攻撃を十分にマージンを採って防御、背後に回り込んで首をへし折った。

 

 

「……ふぅ――――……」

 

 コレで全滅一丁上がり。終わって我に帰ると同時、()()はコレの数倍早くて巧いのだと自分に言い聞かせることで満足感を消した。

 怯えが足りない、恐怖が足りない。あの時の底冷えするような殺意はこんなものじゃなかったと、イメージトレーニングすらも否定して、どう足掻いても自分が勝てる訳がないと結論づけてしまう。

 

「勝てなければ死ぬ、負ければ死ぬ、逃げても追いつかれて死ぬ、殺さなければ死ぬ……」

 

 死、死、死、死、死。届かなければ死ぬだけだと暗示を掛けて、死にたくないという思いに火を点ける。相手が猛毒使いだったのなら掠めただけで死ぬ。相手が再生能力を有していたら速攻で首を刎ねないと殺される。相手が飛び道具使いだったのなら視線と指先の動きで狙いを判断できなければ死ぬ。

 

 

 足りない足りない、まだだもっとだ、()()()()()()()()()()()()()()と必死で言い聞かせながら素振りと影追い(シャドー)を繰り返す、その最中。

 

 

 

「傭兵さん、おはようございます」

「……おはようさん。早いな」

「扉が開く音がしたので……」

「ああ、それでか。起こして悪かった」

 

 カイナに声を掛けたのはまだ年若い少女。朝食の支度にもまだ早いだろう時間だというのに眠そうな様子もない彼女は、現在彼が傭兵として仕事を請け負っている依頼人であった。

 

 

 スラムで荒れに荒れた後、カイナは騒ぎの元凶として追い回されて滞在できなくなり、結局放浪する羽目になった。

 流れ着いたのはカジミエーシュの辺境。妙に近辺の治安が悪いと思って聞いてみれば、何やら「騎士の遺産」とやらを巡っての一悶着の後で、未だに自称トレジャーハンターのチンピラが彷徨いているらしい。

 

 その後は割愛するが、食事と部屋を提供する対価として村の警護を依頼されることとなり……

 

「まさか、こんな若い子が村長とは思わなかった」

「あはは、同じようなことを前にも言われましたね」

 

 朗らかに笑う眼前の少女こそ、現在の村長だというのだから驚くしかなかった。何らかの風習によるものなのだろうが、だとしてもこの若さで、しかも少女となれば予想も出来なかったのだ。

 世襲制であったとしても、長という称号は軽々と背負えるようなものではない。一体どれほどの責任感を小さな体躯に秘めているのだろうと考えて、そしてコータスの少女を思い出して……

 

「……凄いな、君は」

「いえ、私はそんな……」

「いや、凄いよ。人殺ししかできない俺より、何倍も凄い」

「いえ、あの、ううぅ」

 

 褒められ慣れていないのか、少女は恐縮してしまう。だが、()()()()()だから放置して素振りを再開した。

 縦斬りからの逆袈裟、アッパーカットによる腕狙いからの地に這ってアキレス腱を切断、這い上がるように膝裏の腱、大腿動脈、股間、肝臓と裂いて解体。油断狙いで後方から襲ってきたと想定して肘打ちの要領で突き刺し、一瞬の怯みの間に頸動脈を狙う。

 更に横合いから狙ってきたと想定し攻撃を中断、刺突を食らわせた相手の目へ指を捻じ込みつつ新手をナイフで斬り払う。

 

 まだだ、まだだ、まだ来るぞ。

 ほらもっと、5、7、10、20。相手は大群で、更に一人一人が自分より強いから、油断なんて許されない。徹底的に、嬲るように解体して、高潔な精神に泥を塗って時間を稼ぎつつ皆殺す。

 

 殺して、嬲って、嘲笑って、何もかもを貶めて自分以下にして殺す。

 そして、そんな最悪のやり口が何より爽快感を覚えるから嫌になるんだ。

 

「……すごい、ですね」

「……何が」

「その、ナイフ捌きが」 

 

 つい殺意を込めて睨んでしまう。凄い? コレが? ()()()()()()()

 こんな()()()()()()()()()()()が凄い訳なんか断じてない。

 

「……こんなの、あっさり破られる。当たり前に強い奴らに、こんなのは通じない」

「そうなんですか?」

 

 ロドスにはもっと凄い奴らが居た。

 心臓を一撃で貫き、胴を一撃で薙ぎ、天から刃の雨を降らせる。

 脳天を的確に撃ち抜き、敵の攻撃を全て受け切り、触れもせずに傷を治す。

 奇怪な攻防一帯のアーツを自在に操る。爆炎で全てを焼き払ってみせる。

 

 対して自分はどうだ? 心臓も脳天も一撃では穿てず、胴を薙ぎ払う膂力もない。受ければ骨折し、治す術も持たない。アーツは射程範囲ほぼゼロ、おまけに使えば損傷の欠陥品。

 戦うにはひたすらに逃げ回りながら肉を削り、相手の裏を掻くしかない。アーツだって、切り札のくせに使う場面を間違えれば即座に死への一本道だ。

 

「……こんな奴が、凄い訳なんかない」

「…………」

 

 ナイフを握る手に力が籠もる。爪が食い込み血が流れるが、そんなことも気にならない。

 苦しい、苦しい、痛い。痛いのが嫌で逃げたのに、それがさらなる苦しさと痛みを生み出してしまう。「成長」も「勝利」も激痛しか生まないから「逃亡」を選んだのに、それが更に首を絞めてくる。「敗北」なんて選べばその場で終わってしまう。だから……ああもう。

 

「どうすればいいんだよ……」

 

 漏れる言葉は、側に居た少女を置き去りにして心を軋ませる。

 だからこそ、()()()()()()()()少女はそれを見過ごせない。

 

「……とりあえず、手当しましょうか。そのあとご飯にしましょう」

「え、いやいいって。こんなの放っておけば治る」

「そういうわけにはいきません。傷が膿んで痛んだらどうするんですか」

 

 どう言い訳しても「それでは駄目だ」と食い下がる少女に、どうしてか直接的に反抗できない。一度アーツで弾いてしまえばいいのに、その一手が使えない。

 自分より弱いからではない。相手が女で年下だからでもない。分からない。

 

「……そう、だな。寝食の対価が護衛だからな」

「だから、そうではないと……もういいです」

 

 呆れる少女。しかしそこに浮かぶ表情は侮蔑ではなく、暖かい微笑み。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ―――――分からないから、抵抗できない。温かいから怖いんだ。




今更ながら卑屈過ぎないかコイツ?

いくらゲームだと合同宿舎だからって流石に個室くらいはあるやろと。自己解釈。


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