昔、私の家はとても貧乏だった。ご飯もろくに無く、たまに買えていた白いご飯も、両親は口を付けないで全部私たち子供に回してくれていた。
私たちは五人兄妹で、白いご飯も量は少ないから皆で少しずつ食べていた。
けれど、育ち盛りの子供もその量だけじゃ限界がある。
いつからか、兄がお金や米を盗んでくるようになった。
だけど、こっちだって生きるのに必死だったから「仕方がないこと」として考えていた。
そんなことを続けていると兄が捕まった。窃盗の他にも、殺人や脅迫等、本人にも身に覚えのない物付きで。殺人容疑がついてしまったら無罪になるのは難しく、結果は勿論有罪。
『嘘よ!嘘!!お兄ちゃんは人なんか殺してないわ!!誰かが擦り付けてるのよ!!』
私と弟や妹達は両親に必死に語りかけた。けれど聞く耳を持たない。
───どうして?なんで?お父さんもお母さんも、あんなにお兄ちゃんにお世話になったのに。
知ってたよ、盗みは悪いことだって。でも、だって、そうでもしないと生きていけないんだもの。今私達が生きているのも、お兄ちゃんが盗んでたからなのに。
そうやってどれだけ私たちが訴えようと誰も聞いてくれやしない。
───とうとう、お兄ちゃんは処刑されてしまった。
世界に一人だけのお兄ちゃん。誰よりも優しくて責任感があるお兄ちゃん。私の大好きなお兄ちゃん。
お兄ちゃんが居なくなったことで、家は少しだけ食事には余裕ができた。
だけど、全然嬉しくなかった。
どれだけ美味しいご飯が食べられようと、大好きなお兄ちゃんが居ないから。
それから、何でか知らないけどお金に余裕が出来始めた。
服も新しくなって、食べ物も、白いご飯だけじゃなくお魚やお肉まで出てくる。生活の不自由が無くなった。
それでも変わらず、両親は食事を取らない。
なのに生きてる。お父さんは喋らないし起きあがらなくなったけど、お母さんは喋るし動く。正直気味が悪かった。
……思えばこの頃から可笑しかったのかもしれない。薄々、気付いていたのかもしれない。
『お母さん、
『へぇ、そうなの』
『それとね、家の中も変な臭いが充満してて……鉄臭くて、
『ふぅん』
聞いてくれない、話してくれない、気にしてくれない。
いくら話しても"ふぅん"や"へぇ"。自分の子供の心配すらしない。
可香夜が行方不明。生きてるのかも分からない。
やがてお父さんも消息を経った。
それでも気にしないお母さんにだんだん不信感や不安感が募っていく。
お父さんや可香夜の持ち物も見つからないのも気になる。嫌な感じがするんだ。
そして、あの夜。
私の勘が訴えてきたことが、最悪の形で現実になる。
その日は……、そう。満月だった。
月と星が夜闇に綺麗に輝いてた日だった。
嫌なくらい綺麗で。嫌なくらい暗くて。
──家の中がこれ以上ないくらいに鉄臭かった。
ビチャッと音をたてて深紅色の液体が飛び散って、私の頬にも着く。
嫌な臭いが鼻をついた。
『うふ、うふふ。そう、そうよ。あなたたちは私の子供。私の言うことだけ聞いていればいいの。母親は絶対よ。うふふふ、美味しいわ』
嫌な笑みを浮かべて目の前で母の顔をした"何か"が私たちに気付かずに弟を、晴哉を捕食している。
本能的に感じた。逃げないと、って。
『っ……いやぁぁぁあ!!お兄ちゃん!お兄ちゃん!!』
だけど、琴音はあろうことか叫び声をあげて化け物と晴哉に駆け寄った。また深紅色の液体が飛び散った。
───琴音は目の前で首を飛ばされた。
『あーあ……気付かれちゃった。あと一週間はあなたたちで事足りたのに』
『お、かあ、さん……』
『は?まだ私のこと母親だと思ってんの?やめてよ気持ち悪い』
顔を歪ませて目の前の奴は吐き捨てる。そしてにやにやと笑いながら言った。
『あんたの母親はもう死んでんの。父親も、妹も弟も。みーんな、食べてやったわよ』
───気付いてた、薄々。
お母さんとは雰囲気も違う。お兄ちゃんが処刑される前からお父さんは喋らなかったし動かなかった。
お父さんと可香夜の持ち物は消息が絶たれてから見付からない。おおよそ売ったのだろう。目の前のやつが。
私たちを育てて、そのうち食べるために。
『親の方はそこまで美味しくなかったわ。ガリガリで食べられるところがありゃしない。それに対して、可香夜とか言う子は美味しかったわぁ』
うっとりした表情で、とんでもないことを奴は述べる。
両親は美味しくなかった、弟や妹は美味しかった。
ウザい、笑うな、気持ち悪い。貶すな、私の家族を。
そう思うと同時に
私が死ねば良かったのに。琴音や可香夜や晴哉、お父さんお母さんじゃなくて私が。
そう卑下した。
そこからは覚えてない。気が付いたら何処かの家の男の膝で眠ってた。
逃げてきたのだろうか。
『おはよう、気が付いたかな?』
男は私に綺麗で清らかな笑みで笑いかけた。
両親や兄妹を皆、みすみす死なせた私に。
『ところで君はどうしてあんなところで倒れてたのかな?教えてくれるかな?』
優しい声で問い掛けてくる。私は"この人は大丈夫"と感じて見たことを全て話した。
お兄ちゃんが盗みを働いていたこと、誰かに罪を擦り付けられて殺されてしまったこと。母親が化け物とすり変わってたこと、兄妹が殺されてしまったこと、庇えなかったこと、私が死ねば良かったと感じたこと、全て。
化け物、なんて信じてくれないなんて思った。頭がおかしくなったかなんて。
けどこの人はそうじゃなかった。
『辛かったね』
って。
みっともなく泣いた。
その間にも、この人は優しく声をかけ続けてくれて。
『大丈夫だよ。住むところがなくなったのならここにいればいいさ』
『死ねばよかったなんて言わないで。そんなことは皆、きっと望んでいないよ』
この人は、とんでもなく優しかった。
私は兄と同罪で、盗みを働いてたのに受け入れてくれた。住まわせてくれた。
だから私はこの人に甘えて住み始めた。初めは迷惑をかけると思って遠慮するような事も沢山あったけど、この人は、
嬉しかった、心地よかった。
孝幸さんと二人の時間が何より幸せで何より大切だった。
好き、だったんだ、きっと。
だけど私は、大きな間違いを犯した。
いつからだったか知らないけど、夜の間は大抵記憶がなかった。
だけどその日、私ははっきり自覚した。
『た、孝幸さ……』
『大丈夫、大丈夫だよ、ヒカリ……』
そう言いながら口や腹や首から孝幸さんは血を流す。
何処からどう見ても、全然平気じゃない。
『ご、ごめ、ごめんなさ……、わ、私の、私のせい、で………』
『君の、せいじゃない。君のせいじゃないよ、ヒカリ……。あの子達を、頼む……』
"泣かないで。"
そう言いながら孝幸さんは絶命した。
そう、大間知がだったんだ。ここに来たときから、ここに住み始めた日から。
違う、もしかしたら生まれてきたこと事態が間違いだったのかもしれない。
孝幸さんはあの子達を、ここに住んでる他の捨てられた子達をお願いと言った。
だけど、だけど……。
『無理、だよ。孝幸さん……』
窓に映る自分の姿を見つめる。
『だって、私……孝幸さん、殺したんだよ………?』
いつからか知らないけど。なんだ、私が鬼じゃないか。
気付いてなかっただけで。
『神様を信じていれば、信じて祈れば。きっといつか叶えてくれる、君の罪も許される』
ふんわりとした笑みはもう見れない。
だって私が殺したんだから。
孝幸さん、孝幸さん、孝幸さん。
でも、完全に鬼になってしまった私はそんなこと忘れてしまったんだ。
『この人、美味しいなぁ。ここの子供も美味しいんだろうなぁ。沢山いるから当分はもつわぁ』
───孝幸さん、ごめんなさい。
△▽△▽△▽△▽
私は炭治郎くんに鼻が良いわけでも、善逸くんみたいに耳が良いわけでもない。
だけど、それ以上に勘だけには自信があった。
「辛い思いをしてきたんですね。鬼になった経緯は分からないし、なんでなったのか知りたくもないけど。泣くってことは望んでなかったんだよね。うんうん、きっとそうだね。じゃあ悪いのは無惨だ!あなたも充分悪いけどね?地獄で罰を受けたら、令和時代に生まれ変わりなよ、平和だよ」
ふざけたように笑う。
こんなことやったらまたこの鬼にうざがられるかと思ったけど杞憂だったみたい。
涙を流しながら悲しそうに微笑んだ。
「ごめんなさい……」
サラサラと砂みたいに消えていく鬼を見て笑顔を浮かべた。
「許さないけどね!」
そんな簡単に許す分けねぇだろばぁか。
こちとら怪我しとんぞお前。目も痛いんじゃ。許すと思った?世の中そんな甘くねぇぞ。良い雰囲気返せって?やぁだね!!
……とまぁそれは冗談なんすけど。
「許すのは私じゃないでしょうが」
私じゃなくて、あんたに関係する人でしょうに。例えばあんたが食べちゃった子供たちとか大人とか。
そう言う人が許さないと私が許しても関係ないでしょ。その人の気持ちが報われないし。
辛うじて残ってる消えかかりの鬼の頭をツンツンとつつく。砂か灰か分からないけど崩れかけだったから呆気なく散っていく。
「………ありがとう」
誰に対してかも分からない言葉を残して消えていく、月明かりに曝されてキラキラと輝く。
鬼は血肉が残らない、残るは身に付けていたものだけ。
自業自得だとは思うけど。
「……ねえ、白兎」
「お、いおりん。おかえり~。此方さっき終わったよぉ」
いおりんの声が聞こえて顔をあげるとここの惨状が目に入る。
うーわ……派手にやったなぁ、どっかの忍が喜びそう。
柱とか何本か折れてるし、屋根……崩てんじゃん草。
苦笑しながらちょっと離れたところにいるいおりんの所に行くと、彼はとっても悲しそうな顔をしてた。
「白兎、あのね……。奥には」
「生きてる人は居なかった?やっぱり遺品だけ?」
「……うん」
悲しそうな顔して戸惑い気味に小さく頷く。やめてよ可愛いな、可哀想で可哀想で、慰めたくなっちゃうでしょうが。
「よーしよーし。大丈夫大丈夫、私は分かってたから」
大方、言ったら私が悲しむと思ってたんだろうなぁ、可愛い子め。まあ確かに?あの子達可愛かったから悲しいっすよ?私可愛い人とか子供とか基本好きだから!!
けどね、分かってたら悲しみはそんなに深いもんじゃないぜ?ちょっとずつちょっとずつ溢れるんだから。
子供達が私の手に触れたとき、冷たくてゾワゾワと鳥肌が立った。本能的な拒否反応。
女の鬼の攻撃を最初に避けれたのはあの子達のおかげ。なのに奴には見えてなかったしすぐに消えてしまった。
鬼がいると知ってるのに逃げなかった。逃げられなかった。
地縛霊、って言ったら良いのかもしれない。ここに未練があったから逃げられなかった、還れなかった。
ただ、もう還れたはず。
「自分の尊敬してた人を追い掛けて、輪廻に乗ったはずだよ。大丈夫、次に生まれるとき、そこには鬼なんていないから。平和な世界、平成か令和。きっとそうだから、信じてるから。暑いと思うけれど、寒いけれど頑張って。鬼の女も、地獄で地獄を味わって罪を償って生まれ変われ。例えそれが紛い物で歪だったとしても。子供たちに幸せを与えていたことには変わりないから」
おやすみなさい、永久に。
安っぽい言葉しか言えないけど、次に目覚めたときには、家族仲良く平和に暮らせますように。そう願ってます。
「こら小娘!次の任務だぞ!!」
「はぁ!?ふざけんな!おまっ、終わったら帰れるって言ったじゃん!?嘘つき!!」
「次の任務が来なかったらって言ったんだぞ?忘れたのか阿呆!取り敢えずここから西南西に20
「ちょっと待って遠くね!?今私負傷中なんだけど!?」
「そんな掠り傷、負傷とは呼ばん!早く行け馬鹿者!!」
「膿んだら充分重症なんだわ!薬くらい塗らせてよ!!御願いだよぉ蓬さぁん!!」
尚も阿呆や馬鹿と私を罵ってくる蓬さんに対応?しながら薬塗って、その場を後にした。
………鷹ってさ、鍋とか唐揚げとかに出来るのかな。美味しいかなぁ。
そんなこと本気で一瞬思ってしまったのは私だけの秘密。
『ありがとう、鬼狩りのおねーちゃん』
『助けてくれて、ありがとう』
『退治してくれてありがとう』
『おねーちゃんの未来に幸がありますように……』
誰もいない静かな空間。夜空の下。
そんな誰かの小さな願いが、小さな光の星くずとなって夜風に吹かれ静かに消えた。
・ヒカリ
ヒカリは修道鬼の人間の頃の名。家が元々貧乏で兄が犯罪をしてまで生計を立ててくれてたがある日とうとう捕まり、あること無いこと擦り付けられ処刑される。兄は最後まで笑っていて「頑張って生きてね」とヒカリに声を掛ける。その日から食事に少しだけ余裕が出来たかと思えば豪華になっていくことに他の姉弟は喜んでいたがヒカリは不信感を募らせた。父親と弟の消息が絶たれてから彼らの持ち物がなくなりお金も増えていくこと更に不信感を募らせ続ける。
ある日、母親が本物ではなく鬼だと言うことに気が付いた。それと同時に妹も目の前で殺されヒカリは怒り狂う。しかし勝てるわけもなく必死で逃げ、たどり着いた場所で意識を落とす。朝日は昇っていた。
・孝幸さん
この戦いの舞台になった修道院の、現代で言う神父様。道端で意識を落としていたヒカリを助け介抱し、その後育ててくれた人。修道院では色んな子供たちを拾って助けていた。しかし、鬼となったヒカリに食べられてしまう。
・ヒカリの両親
自分たちよりも子供の事を考えている優しい人たち。鬼と遭遇したとき、「自分達は死んでもいい。だけど子供たちを助けてくれ」とお願いした。が、その願いは報われず。兄が処刑される時に母は既に入れ替わってた模様。父親は殺されていた。子供たちには気付かれていない。
・修道鬼『ヒカリ』
そもそも鬼になった事に気付いていなかった。夜のみ記憶がなくなっていたから意図的なのかもしれない、薄々とは気付いていた。しかし孝幸を殺し、喰らったあの日、はっきりと自覚して、反対に人間であったときの記憶を失う。
修道院の子供たちを任されたが喰らってしまった。
修道鬼は修道院で子供たちに母親と衣食住の"幸せ"を渡して食べた。
形こそ歪だが、幸せにしてあげたいと言う願いが現れてた。
歪な幸せ。
・題名の"鬼と人、人と鬼"
鬼と人の鬼は自身の母親を演じ、豪華な食事と言う幸せをくれた『鬼』で人はそんな幸せに乗っかった『自分自身と妹弟』。人と鬼の人はまだ人間だった頃の修道鬼、ヒカリを育ててくれた『孝幸』で鬼は孝幸を殺し喰らってしまったヒカリ、『修道鬼』の事。
「ところで白兎、へいせいとれいわってなぁに?」
「へぁっ、なにそれなんで知ってんの!?」
「自分で言ってたじゃん」
「おうまいがぁ……」
語彙力足らずですみませんほんと……。毎度毎度見てくださってる方には感謝です……