悪ノ王子――ボカロ(悪ノ娘)二次小説――   作:PlusⅨ

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第十四話・リン、レン~君を守る、そのためならば~

 深夜。

 

 リンは自室で、ルカから暴動が完全に治まったとの報告を受けた。

 

「各大臣方は、明日こちらに来るとの使いがありました」

 

「そうですか」

 

 国王が自室に閉じこもっていることは、もうすでに知れ渡っていることだろう。

 

 大臣たちの勝ち誇ったような表情が思い浮かんで、リンは気が重くなった。

 

「ルカ、レンの様子は?」

 

「自室に戻られたきり、物音一ついたしません」

 

「……警護の者は?」

 

「親衛隊の方々がついておられます」

 

「そう……ありがとう、苦労をかけるわね」

 

「リン様……陛下をお止めするにはこの方法しかなかったのは分かります。しかし、いつまでもこのままでは――」

 

「ルカ」

 

「はい」

 

 リンに言葉を遮られ、ルカは大人しく引き下がった。

 

 リンの表情も、声音も、冷静そのものだ。

 

 だからこそ、リンが既に何かを決断し、そしてそのことを遣り遂げようとする覚悟を秘めているのが、ルカにはわかった。

 

 なにしろ、幼少からずっと仕えてきた間柄だ。王女時代も、貧乏貴族時代も、ずっとそばにいた。レンよりも、リンのことをよく理解しているという自負が、ルカにはある。

 

 だからこそ、わかってしまう。

 

 自分が何を言っても、もう彼女の決意を変えることはできないのだと。

 

 ならせめて、彼女の覚悟にともに殉じよう。ルカもまた、心中密かに覚悟を決めた。

 

「リン様、何なりとお申し付けください。このルカ、どんなことにも従います」

 

「……ルカ、ありがとう」

 

 リンは、少しだけ悲しそうな目をしながら微笑んで、そして告げた。

 

「それじゃ、早速お願いがあるんだけど」

 

「はい」

 

「おやつを作ってきてくれないかしら」

 

「はい?」

 

「陛下、ご夕食も召し上がられてないそうだから、お夜食にね」

 

「はぁ……」

 

 言われてみれば、それもそうだわ。と、ルカは少し拍子抜けしながらそう思った。

 

 けれど、こういった役割こそメイドである自分に相応しいのだと自分に言い聞かせて、気持ちを切り替えた。

 

「でしたら、何をお出ししましょうか?」

 

 なるべく明るい声を取り繕いながら、ルカは尋ねた。空元気だが、日常を保ち続けるというのもメイドの仕事だろうから。

 

「そうねぇ」

 

 リンも、いつものメイド長としての雰囲気で答えた。

 

「黒パンでいいわ。それに少しだけ砂糖をまぶして頂戴」

 

「そんなものでよろしいのですか?」

 

 なんでまた、そんな貧相なものを。首をかしげるルカに、リンは微笑みながら言った。

 

「いいのよ。そんなものでも、私たちにとっては“ブリオッシュ”だから」

 

「ブリオッシュ?」

 

 さっぱり理解できない、という表情のルカに、

 

「いいから。……お願い」

 

 そう言いながら背中を押して、厨房へと送り出す。

 

 そしてリンもまた、自室を出て王宮内を歩き出した。

 

 向かった先は、王宮の片隅にある小さな礼拝堂だった。

 

 儀礼や式典で使われる巨大な礼拝堂と違い、そこはメイドや使用人、そして親衛隊員たちなどが日常的に訪れるための場所だった。

 

 肩肘張らない、誰でも気軽に訪れることのできる、皆の憩いの場でもある神聖な場所。

 

 そこに今、一台の柩が安置されていた。

 

 アルの亡骸が納められた柩だった。

 

 そして、その横に佇む一人の少年がいた。

 

「オリバー……」

 

「……リン様、まだ起きていらっしゃったのですか」

 

 オリバーは、アルの柩からわずかに離れると、リンに向かって一礼した。

 

 リンはオリバーの横に立って、彼とともに柩を見下ろした。

 

 柩の蓋は開かれており、血の気のない真っ白な顔をしたアルの姿が、そこにあった。

 

 温もりも、命の躍動感も、何もかもが抜け落ちた物体としての姿。

 

 よく見知った者がそのような姿に成り果てたことに、リンは胸にひどい痛みを感じた。

 

 これが、死だ。

 

 父と母を失い、そして以前、街で浮浪者の亡骸を目の当たりにして、そうやって何度も人の死には触れてきた。

 

 それでも決して慣れることのできない衝撃が、そこにはあった。

 

「ごめんね、アル……」

 

 ポツリとつぶやき落とした言葉。

 

 その言葉に、かたわらのオリバーが首を横に振った。

 

「リン様。我ら親衛隊にとって、陛下とあなたをお守りするために命を落とすことは名誉であります」

 

 ですから、どうか謝らないでください。

 

 そう呟いたオリバーに、リンは小さく頷いた。

 

「……そうね、そうだった。ありがとう、アル」

 

 ありがとう、と口にした瞬間、目から涙が溢れて流れた。

 

 とめどなく流れる涙は頬を伝い、柩に横たわるアルの亡骸にこぼれ落ちていく。

 

 指先で目元を拭っても。涙は止まらなかった。

 

 リンは両手で顔を覆おうとして……

 

 

 

 ……そうせずに、かわりに顔を上げ、礼拝堂の天井を見上げた。

 

 

 

 さほど高くもない天井に、死後の世界、天国の景色が描かれていた。苦しみも悲しみもない、救済された魂の安息所。

 

 その景色が、ロウソクの光に照らされておぼろげに揺らめいていた。

 

「オリバー」

 

「はい」

 

「レンの部屋から通じる秘密通路の出入口は、塞いであるのよね」

 

「はい。通路側から扉に鎖をかけ、部屋側からは開けられないようにしております」

 

「そう、だったら安心ね」

 

 リンはそう言うと、柩に背を向けた。

 

「レンの様子を見に行きます。オリバー、あなたもついてきて」

 

「ハッ」

 

 オリバーを引き連れて、レンの元へと向かう。

 

 国王の自室の前には、親衛隊員が二名、その扉を守っていた。

 

 そして、もうひとり。

 

 夜食を乗せたワゴンを従えた、ルカの姿もある。

 

 ルカは、リンの涙の跡が残る顔を見て、不安そうに眉をひそめた。

 

「リン様…?」

 

「アルの元へ行ってきたの」

 

「そうでしたか」

 

 ルカは、それだけで察してくれたようだった。

 

「ルカ、お夜食は私が陛下にお渡しするわ。悪いけれど、オリバーと一緒にここで待っていてくれないかしら」

 

「承知しました」

 

 ルカからワゴンを受け取り、リンは扉をノックする。

 

「陛下、リンです。お夜食をお持ちいたしました」

 

 扉の向こうからの返答はなかった。

 

 リンは扉のノブに手をかける。鍵は、かかっていなかった。そのまま扉を開く。

 

 部屋に明かりは無かった。今は夜中である。暗い室内に廊下から明かりが差し込む。リンは燭台に火を灯し、部屋に足を踏み入れた。

 

 部屋に入ると、リンは扉を閉め、中から鍵をかけた。

 

 広い部屋を見渡す。

 

 執務用の机にも、いつも庭先を眺める窓際にも、レンの姿はなかった。

 

 レンは、ベッドにいた。

 

 軍装の上着を脱いだだけの格好で、布団もかけず、ベッドの上に身体を投げ出すようにして寝ていた。

 

 ベッドの脇には、脱ぎ捨てられた上着と、そして鞘に収まった剣が放置されていた。

 

 リンはベッドのそばに寄って、そっと、弟の寝顔を覗き込んだ。

 

 頬と、そして枕に涙の跡が残っているのを、リンは見つけた。

 

 レンも、泣いていたのだ。

 

(レンが泣いたのを見るなんて、何年ぶりかしら……)

 

 最後に見たのは、リンが臣籍降下して王宮を出て行くと決まった時だっただろうか。

 

 あのときレンは、臣籍降下を決定した母に向かって、大声で泣き喚きながら反対を訴えていた。

 

 それでもリンの臣籍降下が決定してしまうと、レンはもう泣かなくなった。

 

 リンが出て行く時も、レンは泣かなかった。

 

 ただ、覚悟を決めたような強い目をして、

 

――リンは、僕が絶対に呼び戻すから。

 

 そう言って、リンを見送った。

 

 そしてそれは、確かに現実となった。

 

 思えばあのときからずっと、この弟は、姉を守るために生きてきたのだ。

 

 だから、泣かなかった。

 

 弱気な顔さえ、見せたことがなかった。

 

 一番、気の置けないリンにさえ、そんな様子を見せなかったのだ。臣下の前では、気配さえ漂わせなかっただろう。

 

 国王という重圧の中で、その生き方がどれほどの強さを必要とし、そして孤独であることか。

 

(私は、あなたの支えになれてたのかな……)

 

 そっと、レンに手を伸ばす。

 

 その寝顔にかかる前髪を指で梳くと、レンが微かに身じろぎした。

 

「……リン?」

 

「ゴメン、起こしちゃったね」

 

 そう言って、リンはベッド脇から立ち上がった。

 

 離れようとしたリンの手を、レンが掴んで、引き止めた。

 

「……レン?」

 

「そばに、居てくれ……」

 

 掴まれた手を、強く引かれた。

 

 リンは倒れこむようにベッドに引き戻される。

 

 そのまま、レンに強く抱きしめられた。

 

「しばらく、このままでいさせてくれ……」

 

 横たわり抱き合ったまま、リンの耳元で、レンがそうささやいた。

 

「うん、いいよ…」

 

 リンも、レンの背中に手を回し、幼子をあやすように、その背中を撫でた。

 

 レンが、リンの首筋に顔をうずめる。

 

「レン……」

 

 弟の耳元に、そっとささやく。

 

「……泣いても、いいよ」

 

「……っ」

 

 リンの手の下で背中が小さく震え、リンを抱くレンの腕に、力がこもった。

 

 リンの首筋から胸元に顔をうずめ、背中を丸め、まるで赤子のように、レンは泣いた。

 

 

 

 それからしばらく時がたち、

 

 泣き疲れて眠ったレンをベッドに残し、リンは部屋を出た。

 

「ルカ、オリバー。待たせてごめんね」

 

「いえ、私たちのことより、陛下のご様子は?」

 

「大丈夫、落ち着いて眠ってるわ。夜食は召し上がらなかったけれど、そのまま朝食にするから朝はこのままにしておいて頂戴」

 

 リンはそう言って、扉を守る親衛隊員へ振り返り、言った。

 

「私の許可があるまで、陛下を外に出してはダメよ。いいわね」

 

「し、しかしリン様。我らは陛下の指揮権下にあります。陛下の指示に従う義務があります」

 

「その陛下は、私の定めた法令に従う義務があるのよ」

 

 もっとも、破られたところで罰則規定さえ無いが。

 

「あなたたちも辛い立場なのは理解してるわ。だけど、お願い。レンを…陛下を守るためなの」

 

「………」

 

 扉を守る二人の親衛隊員は、お互いに目を合わせ、そして続いてオリバーにも目を向けた。

 

 オリバーは、黙って頷いた。

 

「……承知いたしました、リン様」

 

「ありがとう……ごめんね」

 

 リンは礼と謝罪を告げると、ルカとオリバーを連れてその場を離れた。

 

 二人は、何も言わずについてきてくれた。

 

 リンは、周囲に人気がなくなったことを確認すると、そこで足を止めて、二人に向き直った。

 

「ルカ、オリバー……あなたたちに頼みがあるの」

 

 二人は静かに頷いた。

 

 今度はきっと、夜食を作ってくれなどという簡単な頼みでないのは、明白だった。

 

「ルカ」

 

「はい」

 

「オリバーとともに、ガクポのもとへ行って頂戴」

 

「え?」

 

 意外な言葉に、ルカは声を上げる。

 

 それはそうだろう、ルカは、ガクポが城下街にいることをまだ知らない。

 

 リンは、昨日の晩から自分が経験したことを、ルカに語った。

 

 リンの説明を聞き、ルカの顔がみるみると青ざめていった。

 

「そんな…まさかリン様の身に、そんな恐ろしいことが起こっていたなんて!?」

 

「オリバーのおかげで無事だったから大丈夫よ。それに、今はそんなことを言っている場合じゃないわ」

 

「で、ですけれど……そ、それに私がガクポ様のところへ行くのに、何の意味が?」

 

「ガクポを通じて、メイコさんと接触してもらいたいの。私の代理としてね」

 

「私が、リン様の代理?」

 

「ええ、そして私の意思を伝えて欲しいの。メイコさんと、そして、カイトにも」

 

 そしてリンは、自分の考えを二人に話し始めた。

 

 それは、レンと、そしてこの国を守るための、ある計画だった。

 

 その計画を実行に移すには、メイコと、そしてカイトの協力が必要不可欠だ。

 

 この計画を聞いて、ルカの青ざめた顔から、さらに血の気が引いた。

 

「な、なんて恐ろしいことを……」

 

 ルカは、衝撃のあまりにその場に座り込んでしまった。

 

「ルカ、やってくれるわね」

 

「そんなの無理です!」

 

 ルカはイヤイヤと首を振った。

 

「それでは、リン様のお立場と御身が……っ!」

 

「私がレンを部屋に閉じ込めた以上、レンが廃位に追い込まれるのは時間の問題よ。そうなったら、王位に立てるのは私しかいない」

 

「だからといって、そんな自らを犠牲になさるような真似をッ!」

 

「犠牲ではないわ。私がこれから犯そうとする罪を償うだけよ」

 

「嫌でございますっ。そんな計画、私は絶対に嫌でございますっ!」

 

 ルカは泣き叫びながら、リンにすがりついた。

 

「リン様、どうか考え直してください……罪なら私が背負います。ですから、どうか!」

 

「ダメよ、ルカ。私はあなたを失いたくないもの」

 

「私だって、私だってリン様を失うなんて耐えられませんっ……」

 

 うわぁぁぁ、とまるで子供のように泣くルカに、リンは思った。

 

(なんだか、今日はこういうの多いなぁ)

 

 ネルに、レンに、そしてルカ。

 

 今日は人によく泣かれる日だ。

 

 以前も似たようなことがあったなと、リンは思う。

 

 あの時は、自分が泣く立場だった。

 

 それに比べれば、今日の自分は随分と平静だ。と、リンはルカの背中を撫でながらそう思う。

 

(きっと、覚悟を決めたからかしらね)

 

 だから、ルカがどんなに取り乱そうが、リンの決意は変わらなかった。

 

 リンは泣き伏すルカに膝をついて目線を合わせながら、子供を諭すように、根気よく説得を続けた。

 

 そして、夜も明けようかという頃。

 

 ルカはようやく、首を縦に降った。

 

「……分かりました。リン様に協力させていただきます――」

 

 ですが、とルカは条件をつけた。

 

「――協力する以上、私も最期までご一緒いたします。よろしいですね」

 

「ルカ……」

 

「リン様、どうか私を置いていかないで下さいまし」

 

 泣きはらした赤い目でルカは訴えた。

 

「………」

 

 返答に迷うリンに、

 

「リン様」

 

 と、それまでずっと沈黙を保っていたオリバーが口を開いた。

 

「私も、ルカ殿と同じ気持ちです。いや、きっと我ら親衛隊みなが同じ気持ちでしょう」

 

「オリバー……」

 

「リン様が罪を背負われるというのならば、我らも共にその罪を負いましょう」

 

 そう言って、オリバーもまたリンの足元に跪いた。

 

「……わかったわ、二人とも」

 

 跪く二人を見下ろして、リンは静かに頷いた。

 

 折しも東の空から太陽が昇ろうとしていた。

 

「レンのため、そしてこの国の未来のため……ともに悪となりましょう」

 

 朝の陽光が三人を包み込む。

 

 この夜明けが、レンと、そして黄王国にとっての夜明けになるのだろうか。いや、そうしなければならぬ。と、リンは心中で固く誓った。

 

 

 

 

 

 

 リンによって事実上の蟄居を命じられた翌朝、レンはひとり、自室のベッドで目を覚ました。

 

「リン…?」

 

 無意識のうちに、姉の温もりと香りを求めてしまう。

 

 けれど、昨晩そばで優しく抱きしめてくれた姉の姿は、もうどこにもなかった。

 

 代わりに置いてあったのは、軽食用のワゴン。

 

 そこには砂糖のかかった黒パンが置いてあった。

 

 いつぞや、リンが街へ忍び出たときに持ち帰った“ブリオッシュ”だった。

 

「…リン」

 

 皿の上のそれを、一口かじる。

 

 冷たく、固く、そして微かに甘いその“ブリオッシュ”。

 

 それは、辛く苦しいばかりの世の中で、それでもわずかばかりの希望にすがって生きる、この国の民衆の心そのままだった。

 

「リン――」

 

 ――まだ、希望をもっていてもいいのか。

 

 レンは一人、その“ブリオッシュ”をかじり続けた。

 

 かじりながら、レンは、早くリンが来てくれないかと願っていた。

 

 どんな希望でも、ひとりでは持ちこたえらない。

 

 リンと一緒でなければ、何もかもが味気ない。

 

 ――なぁ、リン。早く姿を見せてくれ……

 

 もう一度、立ち上がるために。

 

 もう一度、立ち向かうために。

 

 しかし、その日を境にして、リンが、メイド長としてレンの部屋を訪れることは無かったのである。

 

 

 

 黄国王、体調悪化により王宮内にて療養す。

 

 この知らせは、各大臣の間に瞬く間に広がった。

 

 国王からの討伐を恐れて、郊外の別荘からおのれの領地へと逃げ出そうとしていた大臣たちは、そろって胸を撫で下ろした。

 

 そして、自らの領地から呼び寄せた軍勢を引き連れ、ようようと城下街へ向け進軍を開始していた。

 

 既に平穏を取り戻していた城下街に、わざわざ大軍を率いて最初に入場してきたのは、法務大臣だった。

 

 彼は配下の警備隊から、街の暴動が昨晩のうちに終息したとの報告を受け、満足そうに頷いた。

 

 城下街全域に広がった大規模な暴動をたった一両日で鎮めてみせた。

 

 その評価は、街の治安を預かる警備隊のものであり、そしてその責任者たる法務大臣のものだ。

 

 法務大臣は事態をそう解釈し、そしてそれを既成事実化すべく、黄王国全域に法務大臣の名において事態の沈静化を宣言した。

 

 同じく城下から逃亡していた内務大臣は、この宣言に焦りを抱いた。

 

 国政全般を預かる内務大臣は、数ある大臣職のなかで最も序列が高い役職だ。

 

 しかし、反主流派を追い落とすきっかけとなった法務大臣従者殺害事件において、法務大臣がめざましい活躍をしたことに加え、今回の暴動鎮圧宣言である。

 

 内務大臣に次ぐ権力を持つ法務大臣が、今後、影響力を強めてくるのは確実だった。

 

 遅れをとった内務大臣は、この劣勢を挽回すべく、緑公国へと使いを送った。

 

 しかし外交は本来、外務大臣の管轄であるし、それ以前に国王の認可も得ずに勝手に緑公国へ使いを送るなど、甚だしい越権行為であった。

 

 だがそんなことを気にも止めず、内務大臣は、自らの名をもって事態の沈静化を緑公国へと伝えたのである。

 

 いったい誰がこの国、黄王国の主権者であるのか。

 

 言うまでもなく黄国王たるレンであるのに、主要大臣たちは誰もがそれを無視しようとしていた。

 

 すでに彼らの胸中に、レンの存在はなかった。

 

 彼らにとって国王とは、自らの権力を維持するために担ぎ上げる人形であり、その人形が彼らの意思に沿わない行動をとり始めた時から、隙あらば廃位に追い込もうと企んでいた。

 

 その時が、ついに来たのだ。

 

 いっときは逆に討伐さえされかけたのだ。

 

 大臣たちに容赦などあるはずがなかった。

 

 そこへ、緑公国から諸外国に向けて公式発表がなされた。

 

――緑国公女と黄国国王の婚姻を破棄する。

 

 その発表を受け、大臣たちは勢いづいた。

 

 もはや緑公国に遠慮することさえないのだ。

 

 特に、ちょうど緑公国へ使者を送っていた内務大臣はこれを好機として捉えた。

 

 内務大臣はすぐさま緑公国にさらなる使いを送った。

 

――この度の婚姻の破談の責任は、黄国王にある。緑公国との関係改善のため、現国王を退位させ、新国王を擁立する所存である。

 

 レンの意向を確かめるどころか、国内での会議さえ行わない上での暴挙だった。

 

 しかし、その暴挙を止められる者は、もう誰もいなかった。

 

 

 

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