悪ノ王子――ボカロ(悪ノ娘)二次小説――   作:PlusⅨ

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第十七話・リン、ミクオ~王家の格~

 黄国王家は、数ある諸侯の中でも、古い伝統と高い格式をもった名家である。

 

 格式というものは、その血統の長さに由来するものである。

 

 ゆえに、例えば王家としての歴史が短い緑公国などは諸国随一の国力を誇ろうとも、王家の序列においては下位に属していた。

 

 実力ではなく歴史の長短で格式が決まるのは一見して奇異に思われるかも知れない。

 

 しかし、ひとつの家を百年、千年と絶やさずに継いで行くという行為は、単なる経済力や軍事力といった物質的な物指標では測ることのできない、全く別種の努力が必要なのである。

 

 その努力とは、その家や血統のみのものでは無く、それを取り巻く周囲の環境、王家ならばそれを擁する国家全体に関わってくるものであり、それそのものが歴史や伝統とも言うべきものである。

 

 いわば一国の歴史と伝統を背負って立つがゆえの王家の格であり、ゆえに人々はその存在に敬意を払うのである。

 

 しかし……

 

 王家を支えているのが王族のみならず国家全体と言うのならば、それを支えている主体は国民に他ならない。

 

 であるならば、その国民に見放された時、その王家は格を失うことになる。

 

 だがそれは、王家がその座を追われるその瞬間まで気づく事が無いのが世の常だった。

 

 なぜなら、王家は己の格式が天然自然の権威であると信じて疑わず、また国民は王家への怒りを爆発させる瞬間まで、己が主体であることに気づかないからだ。

 

 それゆえに、黄国新女王即位を祝うべく諸国諸侯の華やかな馬車が列をなして王宮へと向かう中、城下街には、祝賀とは程遠い沈鬱とした空気が立ち込めていた。

 

 深く、静かに、鬱々として。

 

 それは溜め込んだ怒りを爆発させんがための、最後の努力だった。

 

 黄王国城下街はもはや、一個の巨大な火薬樽と言ってもよかった。

 

 その火薬樽上の王宮に、緑公国全権委任大使・キヨテルの姿もあった。

 

 女王戴冠式には諸国諸侯が多く参列していたが、緑公国の大公は病気療養を理由に欠席していた。

 

 しかしその代理として、緑公国第一公子にして、緑公国現宰相・ミクオが出席していた。

 

 ミクオは大公の息子の一人であり、ミクの実兄でもある。

 

 また宰相という立場は、国家元首である大公の補佐役として国政全般を預かる重要職であり、大公が病気と称して表向きの舞台から身を引いている今、公的な立場で言えば緑公国の最高権力者と言っても差し支えなかった。

 

 もっとも、大公の病気療養などは国政を裏で自由に操るためというのが公然の秘密として知れ渡っていたので、ミクオは大公の操り人形に過ぎない、というのが諸国諸侯の一般的な見方であった。

 

 しかし、それでも重要人物には違いない。その重要人物のそばに、付き従うガクポの姿があった。

 

 その役目は、ミクオの護衛官としてであった。ガクポは緑公国衛士の制服に身を包み、腰には彼の愛刀である片刃剣を帯びている。

 

 ミク護衛の任に就いていた彼が、しれっとここにいるのは不可解極まりないが、ミクオも、キヨテルもそれを当然の様に受け入れていた。

 

 しかもさらに不可解なのは、出迎えた親衛隊員の面々までも、ガクポの姿を見て平然としていたことである。

 

 親衛隊員の守る入り口を通って、ミクオとキヨテルは、戴冠式の行われる大聖堂へと入っていった。

 

 この大聖堂は王宮に隣接しており、王宮内からもその敷地へ入ることができる。

 

 その大鐘楼から一時間おきに鳴らされる鐘の音は、王宮のみならず城下街一帯に刻を告げる役割を担っていた。

 

 黄国王の戴冠式は、代々この大聖堂で行われるしきたりだった。

 

 護衛官であるガクポは、大聖堂の中へは入らず、外の待機所にて式の終了を待つことになる。

 

 そこへ向かう途中、大聖堂の周囲を警備する親衛隊の中に見知った顔を見つけて、ガクポはそちらへと向かった。

 

「レオン殿、お久しぶりです」

 

「おぉ、ガクポ殿。そちらこそ息災そうでなにより。しかし、いやはや……」

 

 レオンは、ガクポの姿に目を細めた。

 

「その公国の制服も、実にお似合いですな」

 

「皮肉ですかな。正直、やはりこういった格好は堅苦しくて苦手です」

 

 苦笑するガクポに、レオンは、

 

「いやいや、皮肉ではありませんよ」

 

 と首を横に振った。

 

「ガクポ殿は義に篤いお方だ。その様な者にこそ、衛士の制服はあるのです。しかし……」

 

 できるならば、とレオンは少し残念そうに続けた。

 

「……貴殿が身を包む制服は、我ら黄国王親衛隊のものであって欲しかった」

 

「それは私も同じ気持ちです。陛下は私がこの世で唯一人、命を賭してお仕えしようと思えたお方。かかる運命の悪戯によって緑公国の制服を着ておりますが、心は貴公らと同じと思っております」

 

「それは嬉しきお言葉」

 

 レオンは一時、破顔したが、すぐに真顔に戻った。ガクポに顔を寄せ、小声で話しかける。

 

「して、公国の反応は?」

 

 ガクポも声を潜め、答えた。

 

「様子見、でありましょうな。干渉も、支援もせぬ。上手く行けばそれでよし。失敗しても、その時は革命を進める腹づもりでしょう」

 

「相変わらずの狸ぶりであるな、あの大公。……しかし、革命勢力がよくそれを承知したものだ」

 

「むしろ革命勢力からの働きかけです」

 

「なんと……たしか、メイコ、という女でしたかな」

 

「恐るべき御仁です。キヨテル卿さえ知らぬところで、緑公国と既に通じておりました」

 

「キヨテル卿を通さぬとあれば、その交渉相手は大公では無い、と?」

 

「左様、ミクオ殿下です」

 

「あの操り人形の宰相殿が?」

 

「左様」

 

「まさか、信じられぬ」

 

「私も同じ思いでしたが、事の真相を知り、その考えを改めました」

 

「真相?」

 

「ええ、あの婚約破棄の件、主導したのは大公閣下ではなく、どうやらミクオ殿下らしいとのこと」

 

「ふうむ……なるほど。大公は陛下のことを高く評価していたからな。ゆえに、あの処置は不可解であったが。そうか、宰相殿の仕業ならば辻褄は合う」

 

「世間には大公の操り人形と侮らせておりますが、そう見せかけているだけで、実際は既に大公閣下から実権を奪い、名実ともに緑公国の頂点に立っている方です。……相当の男ですよ。ミク様を革命勢力にとどめ置いたのも、ミクオ殿下がメイコ殿と謀ってのこと。実の妹さえ道具として使う、徹底した現実主義者です」

 

「そして、大胆不敵でもある様だな。この計画を承知の上で自ら乗り込んできたのだから」

 

「この顛末を自身の目で見定めるつもりでしょう」

 

「次期大公も一筋縄ではいかぬ男か。それに加え、国内にはメイコという得体の知れない女もいる」

 

「ですが、有能な敵は、時に無能な味方よりも有益な存在になり得る。陛下ならば、必ずや乗り越えられましょう」

 

「ごもっとも」

 

 レオンは頷き、そしてフッと不敵な笑みを浮かべた。

 

 ガクポも同じである。

 

 今日この日、彼らは“計画”を実行するつもりであった。

 

 

 

 

 

 国王の即位は、二つの段階を経て行われる。

 

 一つ目は黄王国内での国王の承認である。

 

 通常、これは前国王からの宣旨、もしくは崩御をもって始まりとする。

 

 国王によって指名された者もしくは王位継承者の名が議会に提出され、満場一致の決議をもって国王の資格を得るのだ。

 

 しかし、満場一致を原則としているが、現実的にその場で議論して全員の意見を統一するのは不可能に近いため、実際、議会そのものは一個の儀礼的なものに過ぎず、事前に非公式に根回しがなされ意見の統一が図られていた。

 

 ちなみに、かつての先代女王の時代、レン派とリン派に別れた継承者争いでは、この原理原則ゆえに、深刻な国内問題に発展したのである。

 

 かといってこの原則を曲げてしまえば、公的に国王承認に反対する勢力が現れ兼ねず、こればかりは王制を敷く以上どうしようもない問題であった。

 

 今回のリン即位にあたっては、レン自身から宣旨が下されないことはわかり切っていたので、メイド長からの、

 

「リンを次期国王に指名すべし」

 

 という現国王への法令の発布によって強制的に為されるという、極めて異例の処置が取られていた。

 

 国内での国王承認が済むと、続いてそれを国の内外に知らしめるための儀式が執り行われる。

 

 戴冠式である。

 

 国王の証たる王冠を神の名の下に授かることにより、初めて名実ともに国王として認められるのである。

 

 今、戴冠式の舞台でもある大聖堂の中、その末席にも近い場所で、ミクオとキヨテルは戴冠式の様子を眺めていた。

 

 大聖堂の祭壇では、黄王国国教会の司祭を勤める大主教が、祈りを捧げていた。

 

 その足元には、豪奢で華美なドレスを身にまとったリンが跪いていた。

 

 長い祈祷が終わり、大主教が祭壇から振り返る。

 

 パイプオルガンが荘厳な調べを奏でる中、大主教がリンに宣誓を求めた。

 

――汝、主の名において、主に身を捧げることを誓うか。

 

――誓います。

 

――汝、主の名において、この国に身を捧げることを誓うか。

 

――誓います。

 

――汝、主の名において、王の責任を果たすことを誓うか。

 

――誓います。

 

――ならば汝に、主の名において証を授けよう。

 

――この絹の法衣は、この国の大地を表すもの。

 

――この手袋は作物の実りを、指輪は金銀と鉱石を表すもの。

 

――宝剣は国を守る力を、笏は政を司る力を表すもの。

 

――そして主の名において、王の権威の証たる王冠を授けよう。

 

――リン女王と、この黄王国に主の祝福があらんことを。

 

 リンが王冠を授かり、聖歌隊が一斉に、祝福の賛美歌を高らかに歌い上げた。

 

 リンは大主教に手を引かれながら立ち上がり、参列者へと向き直る。

 

 ファンファーレが鳴り響き、割れんばかりの拍手が沸き起こった。

 

 リンは優雅に一礼する。

 

 大聖堂の鐘が鳴らされ、新女王の誕生を城下街一帯に知らしめた。

 

 この大聖堂の鐘が定刻以外に鳴らされるのは、新国王か、もしくは王家に子供が生まれた時だけである。

 

 十四年前、リンとレンが生まれた時も、鐘は同じように鳴り響き、城下街は喜びと祝福に溢れていた。

 

 しかし今では、その鐘は街に虚しく響くだけだった。

 

 民衆は皆、今日を生きるのに精一杯だった。

 

 メイコの孤児院の少女・ネルは、弟とともに買い出しに出かけた街の奥にある闇市の通りで、この鐘の音を聴いた。

 

「姉さん」

 

 弟のネロが袖を引く。

 

「あっちの店の方にもっと安くて良いものがあった。品数が少ないから急いだ方がいいよ。……ねえ、聴いてる?」

 

「え? あぁ」

 

「……姉さん、鐘の音なんか気にするなよ。どうせあの人は王女なんだ。結局、僕らとは住む世界が違うんだよ」

 

「……そんなの関係無いよ。リンは、リンなんだ」

 

「僕らのこと、まだ気にしてくれてるなら、税金とか無くしてくれたら良いのにね」

 

「リンなら、きっとやってくれるよ。この国を良くしてくれる」

 

 弟は周囲の大人が常日頃話題にしている国政問題の聞きかじりを口にしただけであり、ネルも、国の問題を深く考えている訳ではない。

 

 考えているほど彼らの生活に余裕は無いのだ。

 

 ネルには、リンの女王即位が一体この国にどの様な影響を与えるものか、そんなことはさっぱりわからなかった。

 

 それが、リンが望んだものかどうかさえもわからない。

 

 ただ、嫌な予感だけはしていた。

 

 リンの身に良くないことが起きてしまいそうな気がしていた。

 

 だから、そんなことは無い、と根拠も無く自分を慰め続けていた。

 

「ほら姉さん、こっちの店だよ。急いで」

 

 ネロに急かされ、ネルは闇市の人混みを進む。しかしリンのことを考えていたために注意が散漫になり、人とぶつかってしまった。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「……気にするな、どうせお前を探していたからな」

 

「え?」

 

 顔を上げたネルの前に、見たことのある人物が立っていた。それは、よくメイコの元へ訪ねてくる女性の一人だった。名前は確か……

 

「……えと、ハク、さん?」

 

「カイトからの伝言だ。もし計画がしくじったり、革命が起きたなら、この手紙を読め、だそうだ」

 

「カイトさん? え? 計画??」

 

「とにかく、カイトからお前への手紙だ。読むも読まないもお前の勝手にしろ」

 

 ハクはネルに無理やり手紙を渡す。

 

「ちっ、カイトめ。この私につまらない役目を押し付けやがって」

 

 ハクは、ぶつくさと文句を漏らしながら、すぐにその場から立ち去っていった。

 

 

 

 

 戴冠式の後は、新女王への謁見である。

 

 参列者たちは大聖堂を出て、そのまま王宮敷地内の謁見の間へと移動していた。

 

 その途上の通路で、ミクオは、傍らについて歩くキヨテルに対して、顔を寄せてささやいた。

 

「あれがリンか。いいねぇ、気に入った」

 

「………」

 

 ミクオからそう囁かれ、キヨテルは当惑の視線をミクオに向けた。

 

 ミクオはその端正な顔立ちに薄笑いを浮かべていた。美形であるだけに、その笑みの冷たさが余計に際立って見える。

 

 キヨテルはこの男が苦手であった。キヨテルは全権委任大使という重責を預かる身ではあるが、ミクオは君主の嫡男にして宰相という、身分と役職共に格上の男である。

 

 であるが、それ以上に、この男の底知れなさが苦手だった。いや、怖かった。

 

 その男が、今、国家元首であり父である大公の意向を無視して、黄王国に陰謀を仕掛けている。そして本来ならば大公派である自分も、心ならずそれに加担している。

 

 キヨテルはその苦い現実を噛みしめながら、ミクオの後をついて謁見の間へと向かった。

 

 謁見の間では、女王の前に既に長い列ができていた。二人もその最後尾に並ぶ。

 

「暗い表情だな、キヨテル。そんなツラで女王の前に出る気かい」

 

「……気をつけまする」

 

「めでたい席だ、笑ったらどうだ。だいたい、この展開はある意味、親父やお前さんらが望んでいたことでもあるんだぜ。レンを救いたいっていう親父らの本音を、あの嬢ちゃんが全部おっかぶって叶えようとしてくれてるんじゃねえか」

 

 無法な物言いである。それでいてその声は、キヨテルにしか届かないよう、低く、小さい。

 

 そもそもミクオは、キヨテルを見てさえいなかった。しかしそれでも、キヨテルの心情は手に取るようにわかるようだった。

 

「まったく――」

 

 とミクオはぼやく。しかし薄笑いは消えていない。

 

「――まったく、あの嬢ちゃんには参ったぜ。俺が進めていた計画を全部ひっくり返しちまった。まさかメイコまで嬢ちゃんの話に乗るたぁ思わなかったよ。これで親父と俺の勝負も最初から全部やり直しだ」

 

 列が進む。リンの元へ近づいて行く。

 

「だが、まだ終わらんぜ」

 

 ミクオは不敵に笑う。その視線の先に、一段高い場所にある玉座に座る、リンの姿があった。

 

「親父がレンに賭けるってなら、俺はリンに賭けるぜ。今日この目で見て、賭けるに値する女だと確信した」

 

 列が進み、二人はついに、リンの前へ進み出た。

 

 従者が、その名を朗々と読み上げる。

 

「緑公国大公閣下代理、緑公国第一公子、兼ねて緑公国宰相、ミクオ殿下」

 

「御即位お祝い申し上げます、陛下」

 

「よしなに」

 

 跪いたミクオに、リンは軽く右手を差し出す。

 

 その右手を恭しくとってキスをした、その姿勢のまま、ミクオは例の、低く、小さく、しかしそれでいて相手には確実に伝わる声で言った。

 

「レンとミクの婚姻を破棄させたのは、この俺だ」

 

「――!?」

 

 リンの右手が震えた。

 

 ミクオはその手をしっかりと掴んだまま、尚も続けた。

 

「この計画、しくじったなら俺のところに来い。正妻として迎えてやるよ」

 

「………」

 

 手を離し立ち上がったミクオを、リンが険しい目でにらんだ。

 

 いい目だ、とミクオは思う。ますます気に入った。

 

「陛下に幸多き未来があらんことを」

 

 慇懃無礼を絵に描いた様な態度で、ミクオはリンに背を向けた。

 

 振り返った先に、次に控えるキヨテルがいた。

 

 その顔は蒼白になっていた。おそらく、リンの表情の変化から、ミクオが彼女に何か言ったことに気づいたのだろう。

 

 ミクオはすれ違いざまにキヨテルの肩を叩いて、謁見の間を出た。

 

 外に出てしばらく歩いたところで、謁見を終えたキヨテルが追いついてきた。

 

「殿下っ、な、なんという真似をなされたのですかっ!?」

 

「リンから聞いたのかい?」

 

「しくじったなら正妻に迎えるなどと、女王陛下を相手に愚弄にもほどがあります!」

 

「愚弄なものかよ、俺は真面目だぜ」

 

「例えそうだとしても……亡国の姫君を正妻になど、できるはずもありませぬ」

 

「するんだよ、しなきゃ意味が無えんだ。…いいか、キヨテル」

 

 ミクオは立ち止まって振り返り、キヨテルを真っ直ぐに見すえた。

 

「ウチの国だってな、表向きは上手く行っている様に見えるが、その内実は大概なもんだ。このままだといずれ、ウチもこの国の二の舞になっちまうだろう。そうならないためには、どっかで変化ってヤツを受け入れなきゃならんのさ」

 

「それと、リン様を正妻にお迎えすることと、どのような関係が?」

 

「この国で王制打倒の革命が成功すれば、その影響は諸国にも広がる。あっちこっちで王様が引き摺り下ろされるだろうさ。そいつは裏で糸引いてるウチだって同じことさ」

 

「ですから、そうならないために、先手を打ってメイコ殿と手を結んだのでありましょう」

 

 大公閣下を出し抜いてまで。と言いかけた言葉を、キヨテルは喉に押しとどめた。

 

 しかしミクオは、そんなキヨテルの内心の反発など見抜いており、それでもあえて無視するかのように、答えた。

 

「王家は残せても、権力はいずれ手放さなけりゃならんだろうさ。そうしなきゃ、いずれ武力をもって奪われる。だったら、自ら穏やかに手放すのが一番いい」

 

「権力の無い王家など、飾りではありませぬか」

 

「そうだ、飾りになるべきなんだ。理想を言えば冠だな。王家が冠で、国民がそれをかぶるんだ」

 

「はぁ?」

 

 キヨテルも貴族であり、生まれながらに人の上に立ち、権力を振るってきた。それが当たり前だと思っていた。だから、その権力を手放すなどという考え自体が突拍子もなく、不可能に思えた。

 

 権力とは、王家や貴族の存在に不可欠なものでは無いのか? しかしミクオの考えはまったく違うらしい。

 

「格だ」

 

 ミクオは続けた。

 

「王家と貴族に必要なのは、格だ。だけどそれは、残念ながら新興の成り上がりでしかないウチらには逆立ちしたって得られねえ貴重なもんだ。……だが黄国王家にはその格がある。だからこそ、手に入れたい。いや、手に入れなきゃならん」

 

「それが、リン様だと?」

 

「応よ。権力を失ったところで格は残る。むしろ権力ってヤツは、格を落としかねんシロモノだ。権力は奪い、奪われる。だが格は違う。与え、与えられるものだ」

 

「権力ではなく、格をもって王家の存続を図る、と? それではまるで国民に媚びへつらっているのと同じではありませぬか。そんな王家に何の意味があるのです?」

 

「生き延びるのに意味なんていらねえよ。意味を欲するのは国民の方だぜ。だからよ、俺たちは国民が冠りたいと思うような魅力的な王冠にならなくちゃならねえ。そして――」

 

 ミクオは後にした謁見の間を眺めて、言った。

 

「――そして、リンは充分魅力的だ。そう思うだろう、キヨテル」

 

 

 

 

 

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