城下街での戦闘は、ついに王宮に達した。王宮周辺の軍事拠点、主要施設は全て革命軍に制圧され、王宮は完全に包囲されていた。
王宮を守るのは、国王親衛隊およそ九百名である。
この九百名の内、平常任務で王宮警護に就いて居たのは約半数の四百強であり、残りは後方支援およびレンの特命により情報収集を任務としていた者たちである。つまり正面戦力としては四百強しかいないことになり、平時ならいざ知らず有事においてこの広い王宮をこの戦力で守り切るのは難しい様に思われていた。
実際、包囲する革命軍もその様に考えていた。
王宮の門は大小合わせて二十余りあり、革命軍はその全部に充分な戦力を回していた。当時の記録によれば最も少ない戦力をあてがわれた場所でも、その推定彼我兵力差は十対一であり、“攻める側は守る側の三倍の戦力が必要である”という戦術の最低条件をクリアしている。
これにより王宮の陥落は容易いと思われていたが、現実はそう上手くは行かなかった。
結果から言えば、革命軍による王宮攻撃は失敗であった。
その理由はいくつかあるが大きな要因として三つが挙げられる。それは第一に地形の問題があり、第二に、親衛隊に対する兵力の見積もりの甘さがあり、第三に親衛隊と革命軍の練度の差があった。
まず第一の地形の要因である。
王宮はこれまで何度か述べて来た様に、城下街の最も北に位置する丘陵上にあり、街の主要な通りから王宮各門へは、高いところでは三十メートル以上、最も低いところでも五メートル近い落差がある。
特に街の中心を貫く大通りにつながる正門は、三度にわたる折り返しをもつ、つづら折りの坂道となっており、攻めるに難しい地形となっていた。
これに対し革命軍は、当初から正門を力押しに攻める様な真似をせず、中規模の戦力をつけて牽制に徹した。その一方で、主力となる戦力を王宮東側の副門に差し向けたのである。
東側の副門は、王宮各門で最も落差の少ない場所であり、また通りから門へと至る道も、緩やかな勾配の一本道であった。門の守備は、背の高い見張り台がひとつと、浅い水堀に囲まれているくらいで、門の両脇に広がる城壁には銃眼も無く、通りと門を繋ぐ橋にも、跳ね橋や、いざとなれば落とすことが出来る様な仕掛けは何もされていなかった。
また、副門を越えた先は庭園となっており、門さえ突破してしまえば、王宮内へ広く深く浸透することが出来ると考えられていた。
この門の守備がこれほど軽微だった理由は、門が面していた地区にあった。
その道の周辺は低所得者層の住む、密集した住宅街となっており、門へと通じる道から多数の支道が四方八方へと伸び、迷宮といっても差し支えない様相を呈していた。
この様な場所は、一般的には大部隊の展開には不向きである。ここから攻めるには、まず街そのものを広範囲に渡って徹底的に焼き払う必要があり、攻める側としてはそこまでやるくらいなら他の門を攻めた方が手っ取り早いからである。
しかし革命軍にとっては住み慣れた街であり、密集した家屋と入り組んだ路地は、それ自体が彼らにとっての砦であり、部隊の移動、武器弾薬の補給などをむしろ容易にしていた。
主力と武器の集結を終えた革命軍は、ついに総攻撃を開始した。
堀沿いに並ぶ密集家屋から、見張り台および城壁上に向けて、間断なく銃撃が行われた。この銃撃に、そこに配置されていた親衛隊員たちは、ほとんど抵抗せずに、城壁の向こう側へと退避して行った。
見張り台と城壁から敵を駆逐した革命軍は、門正面の通りに二門の大砲を前進させた。
これは主流派の私兵団から鹵獲した野戦砲であった。左右に車輪を装着した小口径砲であり、少人数で操作でき、かつ取り回しも容易であるため、この様な街中の狭い通りでも使用が可能であった。
革命軍はこの大砲を六門、この副門攻撃の為に集中投入していた。
しかし門正面の通り以外は密集した家屋が王宮への射線を塞いでいた為、大砲を並べられるのは門正面しか無かった。しかもその正面の通りとて、道幅が狭い為に、一度に並べられるのは三門が限度である。そのため革命軍は六門の大砲を、二門ずつ三組に分け、これを通りに縦列配置した。
副門正面へ大砲二門が出来る限り近づき、火を噴いた。
発砲された大砲は、その反動を利用して一気に後退して行く。それと入れ替わりに、後ろに控えていた次の組が大砲を押し出して来る。その二組目が発砲し、素早く後退すると今度は三組目が前進し、発砲した。
この立て続けの砲撃に、副門はあっさり砕け散った。
突入口が開いたことにより革命軍は勢いづき、鬨の声を上げながら王宮の敷地内へと雪崩れ込んだ。
しかし、門を越えた先で彼らを待ち受けていたのは、突撃を阻む幾重もの鉄条網の列と、その先で小銃を構える親衛隊約二百名だった。これが王宮攻撃失敗の第二の要因、親衛隊戦力の見積もりの甘さである。
当初、四百強と見積もられていた親衛隊戦力は、実際はその倍、親衛隊の総数に等しい約九百名であった。これほつまり、親衛隊は後方支援、情報収集などの要員まで全てが銃と剣を手にして戦っていたことを意味する。
そもそも親衛隊にとっては、レン国王より命じられた午後三時まで防衛することが目的であり、継続した長期の籠城など端から考慮していなかったのである。そのため後方支援等は特に必要とされず、人員のほぼ全てを前線へ参加させることが可能であった。
また、投入された後方支援要員も、単なる員数合わせでは決して無かった。
彼ら親衛隊は、例え普段は事務机に座って隊員たちの給金の計算をしている者や、厩舎で馬にブラシをかけて過ごす者でさえも、ひとたび銃と剣をとれば死をも怖れぬ勇猛果敢な戦士となり、どんな逆境にあっても冷静沈着に戦う兵士となるのである。
すなわち、この王宮防衛戦において親衛隊の正面戦力はまさしく九百名であり、全力が発揮されている状態だったのである。
これが王宮攻撃失敗の第三の要因、練度の差であった。
副門突入を行った革命軍は、鉄条網と親衛隊の待ち伏せにより、多大な損害を被った。
親衛隊は副門を越えた先の庭園に、副門に対して逆ハの字になるようにバリケードを構築し、布陣していた。逆ハの字型陣地から放たれた一斉射撃は、鉄条網に足を止められた革命軍に対し、逃げ場の無い十字砲火となって襲いかかった。
革命軍はすぐさま撤退を開始したが、親衛隊はその機を逃さず追撃を仕掛けた。
陣地後方で息を潜めていた騎馬隊による、騎馬突撃である。騎馬隊は鉄条網を軽やかに飛び越えながら、撤退する革命軍を背後から散々に蹴散らした。
さらに騎馬隊は副門を出て、大砲のある通りにまで攻撃を仕掛けた。騎馬隊は通りに待ち構えていた革命軍の後詰めに対し、馬上から射撃を加えて怯ませ、そしてサーベルを引き抜き、敵の群れの中へと殴り込みをかけた。
副門より外の密集家屋地帯には、至るところに革命軍の射手が展開していた。しかし親衛隊騎馬隊と、それに蹴散らされ逃げ惑う味方があまりにも入り混じっていたために、同士討ちを恐れてまともな援護射撃ができなかった。
民衆を主体とした革命軍は、精鋭部隊たる親衛隊の攻撃を目の当たりにして、その衝撃に一時パニックに陥った。
前線の部隊は武器を捨てて路地裏に逃げこんだ。砲員ですら、六門の大砲すべてを放置して逃げ出し、結果、二門の大砲が親衛隊の手によって尾栓を破壊されて使い物にならなくなったのである。
革命軍にとって幸いだったのは、戦場が密集家屋地帯であった事だった。これにより親衛隊の騎馬突撃は、副門正面の通りのみに終始し、路地に逃げ延びた革命軍は致命的な潰走を免れたのである。
敵の攻撃によるパニックを最小限に抑えるというのは、戦闘の素人である民衆主体の革命軍にとって、最重要事項であった。
親衛隊としては、革命軍に対して、騎馬突撃をもって恐怖心を植え付けることを目論んでいた。しかし革命軍が予想よりも早く態勢を立て直しはじめたので、深追いは危険と判断し、自軍陣地へと引き返した。
革命軍は初戦の手痛い反撃によって無謀な突撃を反省し、以後の戦法を改めた。
革命軍は、通りにバリケードを構築しながらの前進を開始した。その狙いは、残る四門の大砲を副門まで前進させることにあった。大砲により、鉄条網及びその向こうの親衛隊バリケードを破壊する他、散弾による対人攻撃を行うためである。
大砲は、建築物破壊用の砲弾以外にも、小粒の弾丸を大量に発射するブドウ弾と呼ばれる散弾、また小石や釘などをおがくずや藁などと一緒に込めることにより、対人制圧戦にも使用出来るのである。こうすると射程はひどく短くなってしまうが、上下左右に幅広い面攻撃が可能であり、一度の射撃で多くの敵を殺傷できた。
革命軍はこれにより、親衛隊の殲滅を図ったのである。
革命軍は周囲の家屋内からの援護射撃の下、水や砂を詰めた大樽を数個並べて転がしながら、それを遮蔽物として前進した。
ある程度前進したところで大樽を立て、その周りに家具や木材を積み上げバリケードを構築する。そしてその背後に大砲を前進させると、再び新たな大樽を転がして前進、バリケードの構築、その背後の旧いバリケードを解体して、また前進を繰り返した。
迂遠ではあったが、確実な手段だった。事実、親衛隊は徐々に近づいてくるバリケードと大砲を防ぐ手立てをもっていなかった。小銃や騎馬突撃ではバリケードを突破はできても、破壊することは不可能なのである。
バリケード破壊には大砲が不可欠なのだが、親衛隊は持っていなかった。
もともと親衛隊にも大砲はあったのだが、それは王宮外の駐屯地で管理されており、民衆蜂起が始まったとき鹵獲されるのを恐れて、全て破壊していた。
王宮内に運び込まなかったのは、時間が無かったこともあるが、そもそも親衛隊にその発想が無かったためでもある。
高所にある王宮からの砲撃は絶大な威力を発揮する。しかしそれは同時に、城下街にも甚大な被害を与えることになるのだ。
ゆえに、親衛隊は大砲を捨てたのだった。
副門の下までバリケードが前進し、ついに大砲による砲撃が開始された。
二門ならんだ大砲のうち片方が先ず砲弾を発射し、鉄条網と親衛隊のバリケードの一部を吹き飛ばした。そこに、残る一門が散弾を打ち込み、遮蔽物を失っていた数名の親衛隊員をまとめて引き裂いた。
撃ち終わった大砲はすぐに後方へ退がり、新たな大砲がバリケードまで前進する。
大火力を立て続けに叩き込むことで親衛隊を圧倒するつもりであったが、この大砲交代の隙をついて、親衛隊は再び騎馬突撃を敢行してきたのである。
大砲によって少なくない被害が出た直後にもかかわらず、この攻勢である。恐るべき統率と敢闘精神であった。
しかし革命軍も大砲による攻撃が成功したことで、士気が上がっていた。砲員は、迫り来る騎馬突撃に対し、臆すること無く大砲を前進させ、点火薬に火をつけた。
轟音と共に散弾が発射され、バリケードを飛び越えようとした二人の親衛隊員を馬ごと吹き飛ばした。その戦果に砲員は喝采を叫んだが、次の瞬間、その眉間を銃弾に撃ち抜かれ、崩れ落ちた。
残る砲員たちも次々と撃ち倒されていく。その全員が頭部を撃ち抜かれていた。
撃ったのは親衛隊員のひとり、トニオであった。彼は自分の身長ほどもある長大な火縄銃を数丁用意し、仲間に弾を込めてもらいながら、次々と狙撃を行っていた。
火縄銃は火打石式銃よりも旧式の銃である。発射薬への点火に火縄を使うという特性上、安全性や雨天時の使用に問題があり、また弾込めにも手間がかかり、一分あたりの発射数は火打石式銃に大きく劣る。
しかし、優れている面もあった。射程と命中率である。長い銃身と、火縄による迅速かつ確実な点火により、長距離狙撃においては未だに火縄銃に分があった。
そもそも火打石式銃は、火縄銃の長所である長射程と命中率を犠牲にして、全天候での使用と連射速度の増加を図ったものである。
その目的は、練度の低い兵士でも効果的に一斉射撃が出来るようにするためであった。この場合、個々の兵士に求められるのは、迅速な装填作業と、射撃命令に従って引き金を引くことだけである。個々の命中率は問題では無く、大量の小銃による一斉射撃によって弾幕を張ることが重要視されたのだ。
戦闘の素人たる民衆が、革命軍として戦える理由は、火打石式銃という手軽に扱える強力な武器があったからこそである。
しかし、やはり素人と玄人の差は大きい。
手練れの親衛隊員が放つ火縄銃は、革命軍の一斉射撃にも等しい破壊力をもたらしていた。
トニオの正確無比な狙撃によって、バリケードから少しでも身を晒した者はことごとく倒された。それを恐れた生き残った者たちは皆バリケードの影に身を潜め、そのため、親衛隊への攻撃が止んでしまった。
その瞬間、親衛隊の騎馬突撃が再開される。十数騎の騎馬兵が雄叫びをあげながらバリケードを飛び越え、足元に伏せていた革命軍を蹴散らして副門を超えて行く。
副門の正面の通りには、大砲前進の際のバリケードの残骸が幾つも残っており、それを障壁として革命軍が射撃を加える。この迎撃に数騎が撃ち倒されたが、それでも騎兵は一丸となって突撃を続け、敵を馬蹄にかけながら、バリケードや障壁を次々と飛び越えて行く。
その勢いには凄まじいものがあった。特に凄まじかったのは、騎兵の先頭に立つ親衛隊員・ブルーノであった。
彼は他の騎兵と違い、サーベルの代わりに短い手槍を持ち、騎兵用の小銃の代わりに短銃を装備していた。
騎兵の戦法は、馬上射撃で相手を怯ませたところに、サーベルをもって白刃突撃で蹴散らすものである。
しかし怯ませるだけの射撃ならば短銃でもよかろう、というのがブルーノの考えだった。そして馬上から敵を斬りつけ倒すくらいなら、サーベルよりも間合いの広い手槍で突き倒した方が手っ取り早かろう、とも考えていた。
だが結果的にブルーノは敵にギリギリまで肉薄してから短銃を撃ったので命中率は高く、手槍をサーベルのごとく片手で軽々と振り回したので、彼の槍の間合いに入った者はまるで竜巻に巻き込まれたように吹っ飛ばされた。
ブルーノはこの戦闘において全ての突撃に参加しており、既に数箇所に傷を負っていた。しかし彼の戦意と突撃力は衰えるどころか、むしろ回を重ねるごとに増加しているようだった。
それでも、狭い通りと入り組んだ路地での騎馬突撃には限界がある。追い散らした敵はすぐに路地に隠れ、周囲の家屋からはゲリラ的に銃撃が加えられる。
ブルーノは突撃の鬼と呼ばれる男であるが、それだけに退き際を心得ていた。突撃の衝撃から敵が立ち直り始めたと見るや、すぐに馬を返した。
しかし、今回の突撃ではわずかばかり、その機を見誤っていた。蹴散らしたはずの革命軍に、退路を塞がれていたのだ。
革命軍の遁走は、騎馬隊を誘い込むための罠だった。
だがブルーノをはじめとする騎馬隊は、なんら臆すること無く包囲網に向かって突き進んだ。
銃火に自ら突っ込むことを主任務とする男たちである。罠など力ずくで食い破るべし、という気迫で、居並ぶ銃口めがけ突進する。
その気迫は、素人兵ならそれだけで気死せしめるに充分だったが、しかし、いま彼らの退路を絶っていたのは、もはや素人兵などでは無かった。
来るべき蜂起に備えて密かに訓練を積んできた革命戦士たち。各革命勢力から生え抜かれた精鋭たちだった。革命軍は騎馬隊に対し密集陣形を組み、隙間無く銃口を並べ立てていた。
統率の取れた一斉射撃の前では、いかなる突撃も無力である。
このとき、革命軍の射撃指揮官がトニオの狙撃によって倒されていなければ、ブルーノたちは全滅していたであろう。
射撃指揮官がブルーノら騎馬隊をギリギリまで引きつけ、射撃命令を下そうとした、まさにそのとき、背後にした王宮側からトニオの放った弾丸が、うなじから喉を撃ち抜いた。
統率が取れていた故に騎馬隊の肉薄を許していた革命軍は一斉射撃の機会を失い、騎馬突撃をまともに受ける羽目になった。
それでも革命軍精鋭だけあって彼らは一歩も引かず、各自、超至近距離での発砲と銃剣による刺突で迎え撃つ。
銃声と馬のいななき、そして雄叫びと激しい激突音が上がり、親衛隊騎馬隊と革命軍精鋭たちの姿が白煙と血しぶきに包まれた。
親衛隊騎馬隊は、個々の練度と馬上という有利もあって、ほぼ間をおかず包囲網の突破に成功した。それでも、副門を潜って親衛隊陣地に戻って来られたのは、半数だけだった。
「うあっはっはっはっ、連中、なかなかやりおるわ!」
戻ってきたブルーノが、手槍にこびりついた血糊を振るい落としながら豪快に笑った。
「トニオ、援護ご苦労! おかげで死に損ねたぞ!!」
「外したんだよ。俺は死にたがりの突撃バカを狙ったつもりだったんだがな」
トニオは毒づきながら、撃ち終えた火縄銃を傍らの仲間に渡すと、新たな火縄銃を受け取り、構えた。
すかさず引き金が引かれ、轟音とともに、遠くで敵が倒れる。
「ちっ、外した」
「当たったように見えたぞ?」
「肩を狙ったのに頭に当てちまった」
「敵に情けでもかけとるのか? 優しいのう」
「バカ言え。怪我人なら運ぶのに人手が居る。その分、相手の戦力を後方に下げられるんだ。死体にしちまったら打ち捨てられるだけだぜ」
「なるほど、道理だ」
ブルーノが馬を降り、トニオのそばに腰を下ろして短銃に弾を込め始めた。
「トニオさん、ブルーノさん、予備の弾薬を持ってきました」
ヨヒオが、弾嚢を両手いっぱいに抱えて走り寄ってきた。
「おお、ヨヒオ。ご苦労ご苦労」
「なんだ、もうこれっぽちしか無いのか」
「王宮各所で一斉攻撃を受けていて、弾薬の消費が激しいんですよ。そもそも籠城戦なんか想定してませんでしたからね」
「ま、目的は時間稼ぎだからな」と、トニオ。
「籠城なんてものより、戦の華は突撃だわい」と、ブルーノ。
「この突撃バカ、いっぺん死んでこい」
「応さ、死に華咲かして来ようぞ」
ブルーノが手槍を手に立ち上がろうとしたとき、親衛隊陣地近くで幾つもの爆発が上がった。
「おうおう、何だ何だ?」
「炸裂弾の投擲です」
ヨヒオが副門下の革命軍バリケードを指差す。
そのバリケードを超えて、導火線に火がついた炸裂弾が、放物線を描きながら飛んで来た。それは親衛隊陣地に届くこと無く、手前に落ちて爆発した。
もうもうと上がる白煙が視界を埋め尽くす。
「ちっ、これじゃ狙いがつけられねえ」
トニオが舌打ちした、次の瞬間、白煙の向こうから大砲が撃ち込まれた。
彼らのすぐそばのバリケードが吹き飛ばされた。
「視界を塞いでトニオさんの狙撃を防ぎつつ、大砲の圧倒的火力でバリケードを薙ぎ払う。敵も考えますね」
「うあっはっはっはっ、小癪、小癪」
「おもしれえ、この勝負、乗ってやるぜ」
トニオは火縄銃を抱えると、彼の補佐を務める仲間たちと共に、陣の脇へと移動した。そのまま城壁まで進み、そこの階段を登る。
目指したのは副門脇にそびえる見張り台だ。そこからは城壁の内と外、つまり戦場の全てが見渡せる。
しかし同時に、革命軍から集中砲火を浴びる場所でもあった。
トニオは仲間と共に見張り台に登ると、自分ひとり身を乗り出して戦場を見渡した。途端に、密集家屋地帯の至る所から銃撃が加えられた。
トニオは身を潜め、仲間から火縄銃を受け取る。銃撃が止んだ一瞬の隙をついて、再び身を乗り出した。
眼下のバリケードで、革命軍のひとりが炸裂弾を投げようとしているところだった。
火縄銃を構えてから引き金を引くまで、ほとんど一瞬だった。その男は炸裂弾を投げる前に撃ち倒され、その場で炸裂弾が爆発した。
副門とバリケードが爆発と白煙に飲み込まれた。
「うあっはっはっはっ、これは俺たちも負けてられんなぁっ!」
ブルーノは既に乗馬していた。
「行くぞ、突きかかれっ!」
ブルーノが先陣を切り、騎馬隊が突撃する。
副門とバリケードを超え、街へ。
革命軍はまたも退却していた。路地に逃げ込み、辺りはすぐに閑散となる。
退き際が鮮やかになったな、とブルーノは感心する。おそらくこのままでは、また退路を塞がれるだろう。
「退けっ!」
仲間たちがすぐに馬を返す。先陣を務めていたブルーノが、そのまま殿(しんがり)を務めることになる。
退却する騎馬隊を追うように、路地から一騎の騎馬が飛び出して来た。
突然現れたその騎馬に、ブルーノは反射的に槍を振るう。
相手は上体をそらして槍をかわすと同時に、槍首を掴んで押さえつけて見せた。
「おおぅ!?」
引き戻そうにも、槍はビクともしない。恐るべき力量に、ブルーノは目を見開いた。
槍を押さえたまま、相手がブルーノと並走する。その相手の正体を知り、ブルーノは驚愕と喜色が入り混じった声を上げた。
「おおっ!? ガクポ殿では無いかっ!!」