ダンジョンに神殺しの魔王がいるのは間違っているだろうか   作:dukemon

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第7話

第7話

 

「やらかしたな」

『やらかしたぜ』

 

「何か言えばいいのはわからない……とにかくあの大穴に何とかしてくれ!」

 

三体の精霊を討った後、ミカエルはこれ以上迷宮を探索するのが面倒だと思い、スルトの剣で敵と迷宮ごと焼き払おうとする。

 

人造迷宮という支えが失った上方の区域が落ちたのは想定外だった。

フェルズが呆れたのは当然だ。

 

「僕たちはもうすぐこの世界から離れるから、これ以上隠しても意味がない」

『派手にやろうぜ!』

 

多くの神の注目を受けながら、ミハイルとミカエルは盤古の権能で人造迷宮の消滅で開いた穴を塞いだ。

 

「……あれ、神殺しの獣だろ。噂以上やべーなヤツだ」

 

「すげえな、あの偉業を達成できるものがいるのか」

 

「一度、本気で戦ってみたいな」

 

多くの神に警戒されているが、戦と武を司る武神、軍神たちの反応はかなり好意的なものだ。

……好意と言っても、手応えがある相手だと思っているだろ。

 

「えーと、僕たちは用事が出来たので、この世界から離れなければならないです」

『俺たちと本気で戦いたい神がいるなら、この数日で天界に帰ってくれ。離れる前に一度天界に行き挑戦を受けるつもりだぜ』

 

そして、赤髪の戦士はその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

当日の深夜、ロキ・ファミリアの拠点・黄昏の館。

 

ベランダで、一人の冒険者と神殺しの獣が対話している。

 

「最後の仕事の詳細が聞きたいので、教えてください」

『俺たちはタナトスとイケロスを送還したが、エニュオという神がまだ生存している』

 

「まず、一つ問題を答えて欲しい。なぜ、誰もあなたのことを気づいていないのか」

 

「ただの幻術です」

『『神の力(アルカナム)』でできたものだから、冒険者は抵抗できねえぜ。まあ、ロキのような専門家なら、たとえ神の力(アルカナム)が使えなくても見破るだろ。さて、質問を答えてくれ』

 

「最大の黒幕・エニュオの正体はデメテル神の証言に判明した。あなたが人造迷宮から救い出した冒険者の中で、デメテルに対する人質がある。暗躍しているのはディオニュソス神だ。彼の眷族は団長のフィルヴィス以外、全員殺されている。死体は火で恩恵を消した」

 

隠しても無駄だと、フィンが分かっているから話した。

それを聞いたミハイルはため息を吐いた。

 

「………負けたな。数週間は見つけられないでしょう」

『……まさか時間制限で負けたとは』

 

人造迷宮の罠はただの時間稼ぎ。

彼は混乱を誘発し、その間自分の眷族を抹殺して、手がかりを消した。

 

「オラリオから出たことは確実だ。しかし、かえってまずい。あの神を野放しにするのは危険すぎる」

 

「……なんというが、甥からの感想を思い出した」

『伯父さんたちは事件を解決していない、制圧するだけだって言っていた』

 

「それは同感だ。一時的にいい方向に転ずるが、悪い結末を招くかもしれない状況だ」

 

ミハイルはもう一度ため息を吐いて、離れようとした。

 

「あと、一つ聞きたいがあるが」

 

「なにか?」

 

「ただの興味だが、あなたにとって、オラリオでもっとも戦いたくない神は誰だ?もちろん相手は神の力(アルカナム)が使える状態だ」

 

「僕たちは戦闘狂だから、そういう相手はいないが、警戒している相手がいます」

『たぶんロキかな。彼女はかなりやりにくい神だ』

 

「驚いた。ウラノスではないのか?」

 

「僕たちの強さを100とすると、ウラノスは300ぐらい」

『ロキはたぶん250かな。だが、彼女の手札が多すぎるし、機転もきくから面倒な戦いになるだろ』

 

「ロキはそれほど戦上手の神か?」

 

「彼女は優れている魔法師にして戦士です。しかし、戦上手というより、トリックスターと形容するほうがいいです」

『正直に言うと、彼女がもし天界に送還されると何をやらかすのはわからねえ』

 

「? それほどなのか?」

 

フィンはロキの見識と知恵をよく知っていたつもりだ

だが、彼女がミハイルとミカエルにこれほど絶賛されるほどとは思わなかった。

 

「彼女は予測できないのです。もちろん、神との戦いはいつでも予測できないことの連続だが、ロキは別格です」

『俺から見れば、彼女は善悪の狭間に立っている、気ままな神だ。だけど、下界にはあんたたちが傍にいるから、心配いらねえぜ。あ、気づかれた、それじゃ』

 

ロキがベランダに飛び込むと同時に、二人が消えた。

 

 

 

 

そして、ミハイルは竈火の館に足を踏み込んだ。

 

「ヘスティア神、先日の約束はたぶん数百年後に果たされることになるでしょう」

 

「いやいやいや、ボクはそれほど気にしない。というか、キミたちが来るまで綺麗さっぱり忘れた」

 

「しかし、神との約束は大事にするべきです」

 

「……それじゃ、2億ヴァリスをくれ。これで手を打とう」

 

「それだけで良いのですか?」

『無欲すぎるだろ』

 

驚いた神殺しの兄弟は2億ヴァリスを取り出し、彼女に渡した。

 

「キミたちとできるだけ関わりたくはないのだから、これでいい。そういえば、ヘルメスとの約束はどうだった?」

 

「ヘルメス神はとっくに使いましたよ」

『俺たちが持っている武具と魔道具を眷族に見せたい、と』

 

あそこの団長はアイテムメイカーだから、新しい魔道具の着想が欲しいだろ。

 

「最後に、一つ話しておきたいことがあります」

『俺たちの弟子はベルに惚れこんだ。絶対に戦いに挑んでくる。準備をしっかりするぞ』

 

最後に特大の爆弾を投げると、ミハイルとミカエルは去っていった。

 

 

 

 

バベルの塔に帰ったミハイルは、ウラノスに謁見した。

 

「色々迷惑をかけてしまいました」

 

「迷惑というより、災厄だ」

 

疲れそうな声で、ウラノスは答えた。

 

「ダイダロス通りとメレンの損害はたぶん数十年かけなければ修復できない。まさに、パンドラの箱だ」

 

「災厄を撒き散らしながら、最後に一つの希望を残すということですか?」

『希望ってなんなのだ?』

 

「フィンは一度リドと話をしたいという伝言を送ってきた。アステリオスの紹介のようだ」

 

「ああ、確かに希望なのです」

『俺たちはここにもう一度くるかがわからないけど、異端児(ゼノス)の未来がいいものだと信じている』

 

「それでは、武運を祈る。神殺し」

 

 

 

 

 

最後に、神殺しの兄弟は異端児の隠れ家に到着した。

生徒たちは全身全霊で訓練に打ち込んでいる。

 

「ミハイルっち」

 

「師匠」

 

「アステリオスとリドか。何か用か」

 

アステリオスとリドは何が言いたげの様子だった。

やがて、意を決めて、言い出した。

 

「ミハイルっちの強さはいったい何なのだ?神殺しって言われているけど」

 

「良ければ、教えてくれないか?」

 

「ああ、冒険者は偉業を達成すると昇華するということがわかるか?」

『それと大体同じだ。俺たちは偉業の難易度が馬鹿げているだけだった』

 

「それは、神殺しなのか?」

 

「確かに、地上に行った時、見かけた神はなんだか妙な感じがする」

 

「神の力はこの世界の地上で制限されているけど、本能的にアレは危険だと理解したでしょう。ちなみに、神の強さは普通に僕たちの数倍か、数十倍以上だよ」

『最後の王ラーマなんて、俺たちの百倍以上強いぞ。まあ、相手が強くても、逆転勝利できるのは俺たち神殺しだ』

 

「……待て、辻褄が違う」

 

「どうした、アステリオス?」

 

「最初の神はどうやって殺した」

 

「あ」

 

アステリオスは当然の疑問を投げてきた。

 

「僕の状況は勝ちを譲られた。それでも、死に至るほどの重症を負った」

『ちなみに、神殺しのスポンサーであるパンドラに認められるほどの戦いでなければ、神殺しになれねえぜ。漁夫の利を狙うなんて論外だ。まあ、殺し方は色々あるけど』

 

「…話を聞くと、この世界では師匠のような神殺しが誕生しないというのか?」

 

「……僕の考えては、チャンスは一つしかないよ」

『ダンジョンの最深部に、その創造主の神が存在している。最初にダンジョンを攻略し、彼あるいは彼女を殺したものは新たな神殺しになる』

 

「待て、ミカエルっち、それって……オレっちたちはその神に作られたのか?」

 

『まあ、そういうことになる』

「この情報はかなり重大だから、交渉の場で使わない方がいい」

 

「どうでもいい。たとえ作られたものでも、俺の意思、渇望、夢は俺のものだ」

 

「……そうだ。やるべきことは変わらない」

 

「それでは、さようなら」

『たぶん百年後か千年後、俺たちはここに戻る。その時は人とモンスターが手を取り合って生きていく世界を見てぇ。それじゃ』

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に、ミハイルとミカエルはバベルの塔の頂上でオラリオを見回した。

 

『いい都市だな、兄弟』

「ええ、夢、欲望、希望が溢れる、未来ある地だ。さあ、行くよ!」

 

気合を入れて、神殺しの兄弟は自分が持つ最大の秘奥を解き放った。

 

「汝、魔王討伐の運命を与えるもの」

『我、聖なる刃を持ち、魔王を倒すもの』

 

掌から一振りの剣が現れた。

救世の神刀。かつて、最後の王が所有し、数多くの魔王を滅んだ神剣。

 

並行世界でラーマと出会って、最後の王の事件はどうやって解決するのを聞き出したミハイルとミカエルは、ある世界で最後の王ダグザと戦った。

ダグザを激戦の末で辛うじて一回倒した二人は、運命神の領域に直行し、運命神ノルンを倒した。

 

ノルンを倒した二人はそれぞれ、《魔王討伐の運命》と《救世の神刀の使用権》を簒奪した。

《魔王討伐の運命》はいわゆる新たな神殺しの誕生を感知できる能力で、世界転移(ブレーン・ウォーキング)を高精度で使用できる権能だ。

 

《救世の神刀》は強いけど負担が大きいから、ミカエルは戦闘であまり使わない。

自在に使えるラーマでさえ、多用しない方がいいと忠告してくれた。

 

今回召喚したのはミハイルの世界転移(ブレーン・ウォーキング)をサポートするためだ。

 

『まずは天界へ行こう!』

「わかった」

 

神剣が空を裂き、天界への道を強引でこじ開けた。

ミハイルは素早く世界転移(ブレーン・ウォーキング)を発動し、天界に転移した。

 

そこで、彼たちが目にしたのは満面の笑い顔をする軍神、戦神たち。

彼らは刺激と戦いを求めて、神殺しの挑戦を受ける馬鹿どもだった。

 

神殺しの兄弟も全身の呪力を上げて、ゆっくりと彼らに近づいた。

 

 

後ほど、ラグナロク、カリ・ユガ、アルマゲドンを呼ばれた神と神殺しの対戦が起きた。

なぜか、二人に一人の神殺しは荒くれの神たちにかなり気に入られた。

戦いの前、あるいは戦いの後で、神たちと神殺しは楽しげに雑談していた。

 

旅のこと、他の神殺しのこと、愛する女のことなど、ミハイルとミカエルは嬉しそうに語った。

挑戦してきた神たちと馬鹿騒ぎを起こしてから、神殺しはこの世界に別れを告げた。

 

数百年後、あるいは数千年後、人間と怪物が共存する世界を見られると願いながら、ミハイルとミカエルはヒューペリオンに出発する。

 

 

 

 

ダンジョンに神殺しの魔王がいるのは間違っているだろうか 了

 


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