SUSANOWO麻雀紀行   作:Soul Pride

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「ほら、最初の威勢はどうしたよ」

 

 対局の内容は一方的な内容であった。

 現在、東一局二十七本場を迎える。しかし点数の差は皆無。開局から一切点は動いていない。

 だが、場を支配していうのは終始ずっと信一であるというのがこの場全員の共通認識であった。

 卓外の素人の京太郎でさえ理解できる異常が、この場で起きている。部室全員の顔をひきつらせる怪異を、信一は引き起こしていた。

 

「こ、こんなのありえないじぇ……」

 

 片岡優希は認められずにいた。得意とする東場で、何も出来ずにここまでもつれ込んでいる。

 

「…………っ!」

 

 原村和は、信一が打てばこうなっていたことを牌譜で知っていた。だからこそ、認めたくなかった。オカルトを超越した、不可解な現象を自分の手で否定して偶然なのだと証明したかった。

 

(なに、これ……。お姉ちゃんとも、違う……!)

 

 身近であった、宮永咲の知る圧倒的強者と比べると信一の強さは違うものだった。強い打ち手なら、何かしらの雰囲気や威圧感が感じられるはず。その危機感知の感覚に彼女は秀でていた。

 それらが信一から全く感じられない。言ってしまえば凡夫と何ら変わりない。

 しかしそれでも、咲は全く動けないでいた。

 

「相っ変わらず、とんでもないわね」

「手の打ちようがないからのう。全く忌々しい」

 

 卓の外で、久とまこも信一の異常を苦々しく眺めていた。彼女たちも、一度は体験したことの現象で、後輩たちに同じ目に遭っているのは悔しい気分であったのだ。

 

「ひっでーな。攻略法なんていくらでもあんだろ。今回は運がなかっただけだ」

 

 心外だ、といった口で親の信一は唯一この部室で苦笑する。

 

「たかが、九種九牌繰り返してるだけだ。大したことじゃ、ない」

 

 ここまで全て、九種九牌。それが配牌時の信一の手牌だった。

 その状態で国士無双に繋げようという気はなく、躊躇いなく流していた。

 

 {東}{一}{南}{西}{西}{発}{九}{9}{北}{白}{中}{1}{⑨} {8}

 

「……っと、また九種だ」

「なぁっ!?」

「……!」

「そんな……」

 

 手牌を晒し、この局も九種。二十八回連続流局。点数は全員変わらず同数だった。

 その形は国士無双一筒待ち。役満を狙えた好形だった。

 

「どうする?また牌を並べて崩す作業を続けるか?」

「だったら、打って下さい!その手なら十分国士は範囲内でしょう!」

「無理」

 

 和の意見を信一は切って捨てる。

 そして無造作に、咲の手牌へと手を伸ばした。

 

「失礼。あるよな、一筒」

「……!?」

 

 マナー違反であるが、パタリと十三の内の四、牌を倒す。

 それは言った通りの一筒四つ。咲の手牌に握っていた槓材。

 しかしこの一筒は 槓をするつもりはなかった。咲自身が、したら死ぬと直感していたのだ。

 それすらも、見抜いていたというのか。

 

「出来もしねえ役満なんざ、ゴミ手以下だ。当然だ」

「何でわかるんですか……?」

「勘。つか、お前さんも似たようなもんだろ」

 

 牌に対する常人離れした感覚。自分の力に絶対の自信を持ち、その判断に身を任せる思い切りの良さ。

 信一はこの三人の力を見極めた。流局を繰り返してはいたが、彼女たちの纏う空気からその資質を見抜いた。

 確かに逸材、しかも成長の余地も底知れない。

 

「けど悲しいな。俺には及ばん」

 

 それは傲慢か。それとも自負か。絶対の自信を、打ち崩すには彼女たちでは届かない。

 二十八局連続九種九牌、というわかりやすい異常。それを止めるに至らない。

 

「まだです!点は全く動いていません!」

「気遣ってるってわかんねぇ?別にいいよ、やっても」

「ええやりましょう。そんな偶然、何度も続きません」

 

 東一局二十八本場。

 親が信一である以上、他の三人に九種九牌の流局を止める術はない。

 しかし、流局が続くだけならただ場に点棒が増え続けるだけである。

 勝負が決するわけではない。

 

「九種、と」

 

 {一}{⑥}{九}{北}{南}{発}{中}{西}{⑨}{東}{九}{白}{7}{2}

 

 それでも信一は流局をやめない。

 彼女たちの心が挫ける限界まで、流局を繰り返し続ける。

 あくまで試す。どこまで自分に追い付けるのか、どこまで食いついてくるか、どこまで足掻いてくるか。それだけを測る。

 

 {⑨}{①}{9}{東}{⑧}{西}{発}{中}{一}{九}{1}{南}{4}{四}

 

 二十九本場。今度は十一種十一牌。国士無双を狙える範囲である。

 

「……うう、いい加減にしてくれ」

 

 最初に音をあげたのは、優希。

 東場で発揮する集中力が欠片も残っていない。

 牌を並べ、崩す作業を繰り返すことが苦痛と感じてしまっていた。

 

「和了れねぇんだ。流せるなら流すだろ」

「だからなんでそんなことが……!」

 

 信一は黙って王牌の山に手を伸ばし、伏せられた牌を明かす。

 

「わかった?」

 

 そこに眠っていたのは国士を和了するのに必要な牌。そのほとんどが全滅しており、信一は国士無双を和了する確率は非常に薄いことを示していた。

 

「手牌が渡れば、和了れんのかどうなのか。それくらいわかる」

「そんなオカルト……!」

「じゃあ今起きている現実は否定できるか、チャンプ?わかる、わかるよ、俺のダチにもそう言いたくなるアホが何人かいるからな」

「それが牌がどこにあるのかが分かる理由になりません!」

「その程度ができないで、デジタルを名乗ってるな。……って、ダチの一人は言いそうだけどね」

 

 不合理、不条理。理を重んじる和には決して理解できない領域。

 しかし、偶然と決めつけてしまうには余りにも鮮烈で強烈な現象。信一の手の上にある……そう錯覚させられ、そして納得してしまうくらいの支配力。

 認めてはいけない。そう、和は自己を御そうとするがもう遅い。

 自分に少しでも疑いを持ってしまった時点で……勝利の女神は微笑まない。

 三十本場。見慣れたを通り越して見飽きた九種九牌。

 

「勘違いされがちなんだけど、コレだってちゃんと理があるからこそ発揮しているんだぞ。説明はしずらいから端折るけど、ちゃんと法則があるんだ」

「法則がないからオカルトと言うのでしょう……」

 

 そんな法則があってたまるか。偶然に偶然で塗り固められた現象を起こすのは確かに何かしらの法則がなければ発揮しようがないだろう。

 しかし、それを納得できるかどうかは別の話だ。この全自動卓で、積み込みなどのイカサマは不可能。だからこそ、偶然なのだと和は思い込みたかった。

 

「違うな。この世に理に縛られてない物なんざ存在しない」

 

 信一は断言する。それが世の理だと。世がある限り理は必ず付きまとうと。

 必ず原因があり、結果へと繋がる。あらゆる現象は元を辿れば起こりへと帰結する。因果は必ず応報する。

 

「理に縛られぬ解脱なんて、それこそ神の領域……いや、神でも届かない場だ。森羅万象が辿り着けるとこじゃないんだよ」

 

 理を知る者として。限りなく高みへと近づいた先達として。因果は必ず繋がっていると伝えたかった。

 

「わりぃ、なんか説教臭くなった。……身内に宗教家がいるとどうも影響が出てくるな」

 

 嘆息して、牌山を崩して穴へと落としていく。

 

「……じゃあ、いい加減にあがりますか」

 

 三十一本場。信一の手牌は、今までのものとは様変わりしていた。

 

 {一}{一}{一}{①}{①}{東}{西}{西}{白}{白}{発}{発}{発}{中}

 

「よし」

 

 打牌は{東}、対局が始まって、初めて河に牌が置かれた。

 やっと、麻雀ができる。ほっと、三人の間に安堵の息が漏れた。

 続く優希の出したのは{西}だった。

 

「ポン」

 

 {西}{西}{横西}

 

 すかさず信一は鳴く。

 次打は{①}だった。

 

「カン」

 

 {一}{一}{一}{横一}

 

 今度は{一}を明槓。

 嶺上牌を手に、すかさず──。

 

「カン」

 

 {裏}{発}{発}{裏}

 

 発の暗槓。

 鳴きの連発。咲と和に何もさせずに、三副露。

 

「こいつで、三槓子確定っと」

 

 {西}{西}{横西}({横西})

 

 引いた{西}を加槓。全員に回らずして、役牌、三槓子を確定させた。

 そして、{①}を出す。

 

「……マジかぁ……」

 

 呆気に取られている優希の無防備な打牌は、{白}。

 混一色、チャンタは濃厚の場面。字牌は出せない。ヤオ九牌は絶対に出せない状況というのは、少し冷静になればわかっていたはずだというのに。

 ただ、東一局とはいえ流局で三十一本場まで流れた場。集中力はとうに切れている。

 弛緩している、この空気。信一は嘲笑い、その隙を容赦なく叩く。

 

「ソイツだよ、カン」

「えっ……」

 

 {白}{白}{白}{横白}

 

 ──四槓子、確定。

 この部室にいる、信一以外の全員の背筋が凍る。

 無慈悲に、嶺上牌を王牌からさらっていく。

 持っていってはダメ……咲は直感するが、もう止められない。

 信一から吹き荒れる凍える風。肌を切り裂き、血は噴き出される。

 その鮮血も凍り、紅蓮の華を咲かせる。

 

「嶺上ツモ。四槓子──そういや、パオはあんのか、コレ」

 

 {中}{中}

 {白}{白}{白}{横白} {裏}{発}{発}{裏} {一}{一}{一}{横一} {西}{西}{横西}({横西})

 

 咲が幻視したのは、極寒の紅蓮地獄に咲く、血のように真っ赤な曼珠沙華。

 それはとてつもなく綺麗で……とてつもなくおぞましいものだった。

 手番が回らないうちに、役満を上がられる。こんな経験は、咲にも和にもなかった。

 責任払い。チャンタが濃厚の場面で、{白}を出した責任払いを追及する。

 

「ええ。責任払いはあるわ」

「じゃ、トビだな。よくやった後輩、褒めてやる」

「なぁっ……!?」

 

 親の役満の、48000点の三十一本付の直撃。原点が25000点からして、二倍以上の点数によるオーバーキルである。

 それ以上に琴線に引っかかったのは、優希への舐めきった態度。

 

「何言ってんだ。お前がアシストしてくれたおかげで、役満を上がれたんだぞ」

「そんなこと……!」

「まあ、アレだ。お前ら、運がなかったな」

 

 卓から席を立つ。もう用がないと、無言で示している。

 

「待ってください!たまたま、偶然こうなったに決まっています!」

「……で、何が言いたいんだチャンプ」

「もう一度、対局してください!」

「……それさ」

 

 信一は大きくため息を吐いて、和を一瞥して。

 

「インハイの時も、負けた時同じようなこと言うのか」

「うっ……」

「お前らアマチュアだろ。ネト麻やプロのように年間何百回と長期スパンで打つわけじゃないし、打てるわけがない。晴れ舞台は限られてる」

「佐河先輩、もう……」

「京太郎。これはお前にも言っていることだ。聞け、お前ら」

 

 ここにいる誰もが。否、麻雀をやる全ての者が知っておかなければならない真実を告げる。

 

「麻雀なんてもんはな。着く卓全て天和であがっちまえば、何もさせずに必ず勝てる。言っちゃ悪いがクソゲーなんだよ」

 

 信一が語るそれは、究極の暴論であり極論。運が絡むゲームの無窮。決して届かない領域。

 誰もが知っているはずで、誰もが目を背けていた。いや、そもそも目を向ける必要などなかった。だってそんなことあり得ないのだから。

 

「お前ら、当たり前のように牌を河に出してるが……それが当たり前と思ってないか?」

「そんなの、当たり前です……。確率的に……」

「確率?チャンプ、数字で麻雀やってんのか。まあそれも真理だ。だが俺の真理は違う」

 

 広がっていた全ての牌を自動卓の穴に放り込み、山が飛び出し、賽で王牌との切れ目を作り、牌を四家それぞれを伏せたまま十三ずつ配り、ドラ表示牌を表に上げる。

 ドラは{4}。

 

「やるか、やらないかだ」

 

 そして、自分の一番近くの手牌を表に上げる。

 

 {東}{中}{西}{一}{9}{①}{発}{北}{白}{⑨}{九}{南}{1} {7}

 

「国士無双十三面……!?」

 

 普通にやって、普通にこうなった。イカサマの類は一切していない。

 先ほどの四槓子といい、九種九牌の連続といい、信一の常識外れの力には麻雀部の皆が驚かされている。

 

「おい、デジタル。もしこんな配牌、お前さんはどうする?東場一局の親、点数は原点としてだ」

「当然、狙います」

「じゃ、他家が全部ツモ切りで一局分引いてみろ。ロンも上がりと認めてやるよ」

「……どういうつもりですか」

「算数じゃ到底届かない理がある。それを見せてやろうと思ってね」

 

 先輩からの贈り物だ、と卓を指差した。

 和の中では、計算を終えていた。他家も含めれば都合69回のツモ。最大39牌を、待てばいい。王牌、各々の手牌を除いても十分な確率だ。

 

「賭けようぜ、竹井ちゃん。俺が勝ったら京太郎は借りていく」

「……和、やめておきなさい。どうせ和了れないから」

「おいおい。そこはあがれる方に賭けるだろうが」

「咲、優希。伏せてる手牌を見なさい」

「無視かよ」

 

 久の言われた通りに、伏せた他の手牌も確認する。

 

 {白}{東}{一}{1}{九}{西}{発}{南}{9}{⑨}{北}{中}{①}

 

「うそっ……」

 

 {中}{白}{一}{①}{⑨}{九}{1}{東}{西}{9}{北}{南}{発}

 

「ありえないじょ……!」

 

 三家同時に、国士無双十三面待ち。寒気が怖気となり、誰もが戦慄させた。

 最早、オカルトを超越した何か。偶然を通り越してホラーである。

 

「ったく。ネタばらしが早いぞ竹井ちゃん。流局させてからコレを見せたかったのに」

「……イカサマ、ですか」

 

 今の時代の雀士が忌み嫌う、イカサマ。この現状、現象は、イカサマなしでは考えられないものだった。

 

「いいえ、和。確かにイカサマ染みたことだけど……何も仕込んでいないからこそ、恐ろしいのよ」

 

 信一は本当に、何も、やっていない。普通に配牌を行った結果、こうなったのだ。

 故に殊更恐ろしく、得体が知れない。

 

「つまり、こういうことが息を吸うように出来るのよ、コイツは」

 

 {一}{九}{①}{⑨}{1}{9}{東}{南}{西}{北}{発}{白}{中}

 

 最後の手牌も、久の手によって露わになる。

 前代未聞。四家全ての配牌が、国士無双十三面待ち。

 上がろうと目指せば決して和了することのない、夢幻の役満。しかも踏み外したのなら、役満の直撃が避けられない。トリロンが採用されていれば、目も当てられない点数が当てられる。

 和了を目指そうとした和は、さぞいい道化だったのだろう。久が止めなければ、心が折れていたかもしれない。

 それを引き起こした男は、そんなこと朝飯前だと飄々としたまま。

 

「偶然だって偶然。なあ、チャンプ」

「……!」

「目に見えるものが全てのあんたにとっちゃ、見えないもので起きたものは全部偶然なんだよな?」

「そうです!」

「ああ、それでいい。そうしてくれた方が都合がいい。だからカモが減らないし──」

 

 今度こそ卓から立ち、京太郎の肩を叩いて、

 

「こいつの資質も見抜けない」

 

 見下すように、失望するように。

 佐川信一は原村和を、見下ろした。

 

「行くぞ、京太郎。麻雀なら雀荘でやりゃいい」

「待ちなさい!」

 

 部室を出て行こうとした信一を、久は立ち塞がる。京太郎を連れて行く、そのことをまだ認めていないのだ。

 一年を相手に蹂躙しようとも、圧倒する運を見せ付けようとも、それが京太郎を連れて行く理由になりはしない。

 ただただ、彼女たちの自信をへし折った。それだけでしかなかった。

 

「アンタは信用できないわ。須賀くんは、うちの部員よ」

「別にとって食いはしやしねぇって」

「部長として、部外者から部員を守るのが私の務めよ」

「部員を強くするのが部長の役目だろ。お前は京太郎をどういう指導方針を導こうってんだ?計画は?具体的な内容を頼むよ」

「っ……!じゃあ、アンタにはあるっていうの!?」

「あるさ」

 

 自信満々に、信一は答える。プランは既に練ってある。

 彼は、否……彼らはずっと待ち続けていたのだ。自分たちと渡り合える逸材を。

 その逸材が、強くなりたいと願った。ならその願いを叶えよう。

 その逸材が、麻雀を楽しみたいと思った。ならその思いを成就させよう。

 それが先人としての勤めであるのだから。それが先人たちの願いに繋がるのだから。

 

「つべこべ言わず、インハイの予選まで……放課後と週末に京太郎を貸せ」

「予選まで?もう二週間しかないわよ」

「そんくらいありゃ、俺がやったことを片手間で出来るようにはなる」

「そんな都合のいい方法が……!」

 

 そんな都合のいい方法など、ありはしない。あってたまるか。

 もし信一の言葉が真実として、京太郎に極上の素質があろうとも、それを磨ける環境があるわけがない。

 信一の所属するユースチーム?チームでは鼻つまみ者で、信一自身がつまらないと断じた場所ではない。

 第一、素質を開花させるには時間が必要だ。とても、たった二週間で信一と同領域に至れるなどとは、久は決して思えなかった。

 ニィ、と待ってましたと言わんばかりに信一は笑う。

 ポケットから取り出したのは、スマートフォン。その画面を久に見せて……。

 

「……ッ!?」

 

 彼女は、絶句する。

 それに映ったものは、咲や京太郎には見えなかった。

 

「あなた……どういう繋がりで」

「四年前と三年前のインターミドルの個人決勝卓。あいつ等と俺は、宿敵(ダチ)だ」

 

 久はハッとなる。信一とソレを繋げる共通項が、当時のインターミドル決勝だった。

 化け物染みた力を、少年たちは持て余していた。故に同類に出逢えた喜びと、初めて持てる力の全てを発揮できる昂りと、他者の力に恐れる慄きと、ギリギリを見極める緊張感。何よりも、血が熱くなった。

 全力で戦い合い、認め合った怪物たちは、心の虚を埋め合った仲だった。

 だから遠慮なく頼れるし、頼られる。誰よりも信頼できる親友であった。

 

「私が言うのもアレだけどね……どういうコネしてんのよ」

「キャリアの違いだ。人脈なんて、いくらでも繋げられる」

「何を、する気?無償で須賀くんにそこまでする義理はないじゃない」

「……新しく勝ちたい奴が欲しいんだよ。同じ面子だけじゃ、詰まんないからさ」

 

 ──俺たちはいつも飢えていたから。勝ちに、負けに、勝負に、真剣味に……あの血を熱くさせる闘牌こそが、俺たちが求めているものだから。

 同じ面子で何度も何度も……変わり映えしない麻雀に、飽き飽きしていたのだ。

 故に高校では、別々の進路を取った。卓を囲んだ内の二人は高校麻雀へ。信一を含む二人は、プロの道へ。少しでも探す広さを大きくするために。

 誰もが『俺たちを夢中にさせる打ち手は他にも必ずいる』と、そう信じた。

 そして見つけた。極大の逸材を。最高最大の原石を。

 コイツならきっと。もっと麻雀を面白くしてくれるはずと信じている──。

 

「麻雀には、もっと新しい何かがあるはずなんだ」

 

 ────佐河信一も、須賀京太郎と同じ……麻雀に新しい何かを探す、冒険者であった。


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