SUSANOWO麻雀紀行   作:Soul Pride

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皆さまお待たせいたしました温泉回!!

とはいえ、キャッキャウフフ成分はそんな大きくないかも。


58

 合宿一日目は自由行動となった。

 移動と、化物らの威圧の衝突による余波を受けての療養だが、主目的は別にあるだろう。

 この合宿に限り、選手全員はライバルであると同時に友人でなければならない。

 麻雀は四人でなければ成立しない競技だ。四校の選手が混ざり合っての交流がなければ、わざわざ四校合宿としての意義は満たされない。各校の隔てりを解消するための期間として、初日に割り当てたのだろう。

 

「──で、お前らどうだ?」

 

 温泉浴場の、男湯。

 一様に露天温泉に浸かる男たちは、脱力して柔らかく暖かい心地に浸っていた。

 

「何がだよ、浬」

誰が(●●)誰に(●●)つくんだ?大体もう狙いはついてんだろ」

 

 寝ても覚めても麻雀のことばかり。そんな男どもしか、ここにはいない。

 自分のためにここへと来た生粋の雀士共であるが、名目は彼女たちへの指導だ。その表向きの仕事はこなす必要はある。

 実力、そして実績共に最高峰。浬を除けば全員高校生だが、彼らは講師役として徹底するだろう。

 

「俺は真っ当に教えて貰いたいんですけどね。俺、真っ当な打ち方に関しちゃボロッボロだし。教えるっていうイメージが湧かないっていうか」

「すまんなー須賀くん、すまんなー。オイ、お前ら謝れよ」

「え、あ、うん……その……ごめんなさい……?」

 

 京太郎から真っ当な麻雀を取り上げていた者が、理不尽に思いながらも謝る。

 ……京太郎自身、ここへは強くなろうと思ってきたわけではない。無論、ここで麻雀の技量を高めるつもりではある。が、劇的な成長や進化を望んでいるわけではない。

 練習半分、休暇半分のつもりで来ている。血沸き肉躍る化物同士の麻雀は良いが、肩肘張らないワイワイキャピキャピしたほがらかな麻雀もしたいのだ。

 言うなれば、この合宿はインハイ本戦前の最後の休養期間として捉えている。もちろん、得るものが大いにあるのだと期待してはいるのだ。

 

「なんていうか……みんなから無茶し過ぎだーって怒られるのも堪えるし。結構、心配されると心が痛いっていうか……」

「信一、謝れ」

「えー、何で俺が」

「謝れ」

「ごめんなさい」

 

 納得いかねえ、といった顔で謝る信一。そんな顔で謝られてもと、京太郎も思う。

 しかし、京太郎はいい加減に小休止を挟まなければまずいというのは化物たちの共通認識だ。京太郎は、真っ当な成長をしているとは言えない。同じく真っ当と呼ばれないだろう化物らですら、歪にしか映らないのだから。

 もっと先へ、もっと奥へ、もっと上へ……そう願い続け、追い求め続けて得た今日だ。信一と出会ってからずっと、一日たりとも休まずに。

 無理があって然るべきである。京太郎本人が、そう言いだした時点ではもう遅いくらいなのだ。

 折り合いをつけても良い。心身共にここで余裕を作らなければ、絶対にパンクする。

 

「……けど、いいんじゃない?私たちも、ここへは探し物を探しにきたわけだけど、それを除いたら旅行みたいなものでしょ?」

「そうだな。強くなりに来たってよりは宝探しに来たようなもんだ」

 

 彼らもまた、ここでの劇的な成長を期待してはいない。成長に繋がるヒントや材料を探しに来たのだ。

 それが見つかるという確信がある。完全無欠に無根拠だが、事実そうなる予感がしてならない。

 であるのならば、講師役を務めるのもまた一興だ。

 ここにいる彼女たちは、確かな珠だ。磨けば必ず輝くものばかりだ。それが一様に揃っているのだから、ここはさながら宝石箱だ。

 そんな彼女らを指導してみたい、と思うのは指導者としての性か。選手(プレイヤー)としてより、指導者(コーチ)の才能と能力が突き抜けて高い命も、純粋にこの合宿を楽しんでいる。

 天才型もまた、ちらほらといる。己や信一程の才能の大きさではないが、こちら側へとやってきたらきっと面白いことになる者たちだと、治也は口元を小さくつり上げた。

 

「羽を伸ばすくらい、罰は当たらんさ」

 

 近い将来に激突する宿敵たちが揃ってこうしてここにいるのも何かの縁。勝ち負けを考えず、頭を空っぽにしてただ麻雀を楽しむだけにこの合宿は費やそう。

 麻雀をやりたい、楽しみたい……己の資質に任せて、奔放なままに。

 

「…………じゃあ、一言良いかしら?」

「何だ?」

「何でみんな私から離れてるの?」

 

 一様に、温泉に浸かる彼らではあるが……命から距離を取っていた。

 そもそも脱衣所に入ってから、全員命に顔を合わせていない……盲目のはずの治也ですらも。会話も聴覚頼りであり、彼を視界の中に入れようとしない。

 男なんだということはわかっている。知っている。だが、腹立たしいくらいに艶かしいのだ。直視できないのだ。

 普段ならばそんな印象をかけらも抱かない。付き合いの長い四人も、京太郎も男と知ってから幻想は砕け散った。

 だが、温泉というシチュエーションはこうも際立ださせる。漂う色香は脳髄を溶かし、言いも知れぬ背徳感が心を刺す。

 ──忘れてはならない。東征大を率いる弘世命のカリスマは、強大な力量の他に容貌の美しさによる魅了にて構成されているのだと。

 体つきは一部分を除けば本当に女性と大差ないのだ。

 ……そしてその一部分を見てしまったら、本当の意味で立ち直れそうにもなかった。

 

「お前何で女湯(あっち)行かないの?」

 

 ────というか行け、主に俺たちの精神衛生のために……四人の共通の総意でもあった。

 高い仕切りを超えた先には、女子たちが同じように温泉に入っている。どうせ混じっても違和感ないのだから、問題ないだろう。

 

「それギャグで言ってるの?」

「マジに決まってんだろ」

「はっ倒すわよ。……まったく」

 

 指パッチン(スイッチ)してもう一人の自分(ぼく)に交代してまおうかと指を弾こうとするが……命はもっと面白いことを思いつく。

 ……命以外の彼らにとって不幸だったのは。悪い顔をした命を視界に入れようとしなかったこと、随一の感知能力の持ち主の治也が処理能力の半分も発揮できていなかったこと、そして最大の不幸は……この中でも随一と言ってもいいほどに閉心術に長けた命だったということだった。

 故に、それを事前に潰すことが出来なかった。

 

「ん、んん゛……よし」

 

 声を整えて、準備完了。

 ──そんなにも女扱いしたいというのであれば……望み通り、そうしてやろうではないか。

 

「────あ、ああっ…………ダメ、ダメよあなたたち…………そんな、ら、乱暴にしちゃ……!」

 

 高く、艶やかな嬌声。とても男の喉から出るとは思えない、女性そのものの艶声。まさに今ここで乱暴されているかのような、緊迫感を感じさせる演技力。

 弘世命が演じていると知っていなければ、瞬時に頭が沸騰してしまいそうになる色気。心を決めた最愛がいようとも、動揺と動悸が収まらない。

 さらには丁寧に催眠術も併用しており、無視を決め込んで喋らせたままにすればいずれ全員、命の傀儡となり果てるだろう。

 しかもそれが女子風呂にも届きそうな、高い悲鳴に似た声でやっているのだから、本当に質が悪い。

 ……このままやらせたら、色々と取り返しのつかない事態になるだろう。

 顔さえ良ければ男だろうと見境ないホモ野郎共と……そんな評価に繋がってしまう。

 

「────や、やだ、やめて……いや、そんなもの突き付けないで、ん、んん゛──!!?」

『おうコラテメェやめろぉぉっ!!』

 

 一秒でも早く、コイツを黙らせる。彼ら四人の目的意識は一致し、一斉に命へとかかっていく。

 ──これは内輪もめではなく。男の尊厳を賭けた、聖戦であるのだと信じて。

 

 

 

 

 

「…………も、もう、なにやってるの京ちゃん……」

 

 男湯の惨状が音だけでも聞こえている女湯にて、咲は幼馴染の醜態を晒していて顔を赤くする。決して、のぼせたからではない。

 水が跳ねる音、桶が落ちる音、怒声と悲鳴、時折混じる男と思えない嬌声が、女湯の方にも聞こえている。

 声からして、保護者役の白水浬すらもこのはしゃぎようだ。これだと彼らに対するお目付役というよりは、気の置けない仲のきさくな(あん)ちゃんみたいなものと受け取った方が良いみたいだと認識を改めた。

 

「京ちゃんの馬鹿、最低……」

「ごめんなさいね、うちの子が。後でお説教ね、まったく」

 

 楽しむのはわかるが、男同士のじゃれ合いも程ほどにして欲しいと、清澄の者たちは彼女たちに申し訳なく思う。

 清澄と違い、風越も鶴賀も龍門渕も女子高だ。元より男子への耐性も強くないはずで、彼らの全力のふざけ合いにドン引くのが見えていた。

 事実、三校の女子たちは呆気に取られていた。彼ら高校とプロの男子トッププレイヤーたちが、こんな風になるなど青天の霹靂だ。

 

「いえ、そんな。ちょっと、意外だなと思いまして」

「意外?」

「東征大とは一度練習試合で対戦したことがあるんですけど、こんな風に冗談を言う弘世さんはまるでイメージに湧かなくて」

「あー」

 

 なるほど、と久は頷いた。清澄は先の個人戦にて、彼らの友情とはどういうものなのかを知っている。だが、彼女たちは今知ったのだから驚くのも当然か。

 麻雀の最前線を突き進む世界最高クラスのトップエリート。表向き彼らはそうであり、クールな印象が付きまとっていた。

 だが、所詮は彼らも同年代の男子だ。一皮剥いてしまえば、割と普通にふざけ合う男子高校生なのだ。

 風越女子は長野の古豪だ。東征大と練習試合経験があってもおかしくはない。その時に、福路美穂子は彼らと対面したのだろうが、まさにその通りのイメージだったのだろう。

 

「テレビで見るプロ二人も、あんな感じではなかった。もっと取っ付きにくい印象だったが」

 

 ファンの人気も高い二人ではあるが、専らファンサービスの対応は浬であった。その浬も、どこか影を差した二十歳の若手にしては老成している落ち着いたもの。あの子供のようなはしゃぎようはギャップがありすぎている。

 どれほど麻雀が強かろうとも、どれほど人間離れしていようとも、どれほど立場が天上の遠くにいようとも。根っこは普通の高校生たちとその兄貴分みたいな関係のだろう。

 そうであれば、いくらか親しみが湧きやすい。下手に恐縮してしまって指導に支障が出たら本末転倒だ。

 嬉しい事実だと、加治木ゆみは受け止めた。決して天上人などではなく、彼らもまた地に立つ一個の人間なのだ。

 

「蘇芳が一気に六人に増えたようなもんですわ」

「龍門渕さん?」

「大して驚くことではない、ということですわ。小学生が混じっていると思えばいいんですの」

「男神蘇芳と知り合いで?」

「ええ。初めて会ったのが……小学生四年の頃でしたわね」

 

 龍門渕透華は男神蘇芳と初めて出会った時のことを思い出していた。

 ──あの時は……そう、主催がどこだったかはすぐに思い出せないが、社交界だった。

 そこに彼はいた。自分と同い年の子供が保護者なしに、テーブルの上のワインを堂々と飲んでいた。立派な未成年飲酒……しかもグラスを持つ手つきは明らかに手慣れたものであった。

 それを注意したのが透華と彼の関係の始まり。同時に、彼女が初めて酒の味を知った瞬間でもあった。

 

「その時からずっとやんちゃ坊主で……大きくなったのは体だけですわ」

 

 むしろ、精神の成長分をそのまま体に回っているのではないかと思うくらい、昔からずっと変わっていない。

 アレが起こす悶着に度々巻き込まれ、その収拾に駆り出されたのは両の手の指の数ではとても足りない。

 そのせいか、自分の面倒見の良さが磨きがかかったのだろう。それが今の龍門渕の麻雀部にも繋がっているのだろうから。

 

「へぇー、長い付き合いなの」

「そうですけど…………なんですの、その意味深な笑いは」

「てっきり好きなのかと」

「ただの、幼馴染ですわ!」

 

 化物どもの恋愛を知る久はそう勘ぐったが、違うらしい。もしかしたらと当たりをつけたが、外れのようだった。

 あの男たちは、どういうわけか不思議なほどにモテる。久にとっての不倶戴天の信一ですら婚約者がいる。プロの治也も彼女持ちな上に、浬は相当な女たらしだ。その上、命は全国に多くのファンがいると有名だ。

 仲間意識が強く、情に厚い。それが化物たちの共通項だ。その真心を一身に受ければ、女の一人はコロリといくだろう。

 ……そう言えば、うちにもいる可愛い化物。その幼馴染にも、聞いてみるのもまた面白そうだ。

 

「咲ー、ちょっといらっしゃい」

「なんですか、部長」

「恋バナしましょう、恋バナ」

 

 ────ふぇっ、という小さい悲鳴が咲から漏れる。

 恋バナと聞いて、途端に女湯にいる全員の会話が一斉に途切れた。この場である音といえば、温泉の流れる音と、未だ続く男湯の喧騒だ。

 この女湯の全員の興味が、一斉に食いついた感触を久はつかんだ。この年頃の女の子は、恋愛話が大好きだ。しかも清澄以外は女子高育ち。圧倒的に男子生徒との出会いが少ないため、気にならないわけがない。

 耳を澄ませ、咲のいる方へと全員がにじり寄ってくる。

 ……だが、未だ落ち着かぬ男湯の馬鹿騒ぎが、この緊張感と雰囲気をぶち壊している。

 

「アンタたちちょっと黙ってなさい!今から恋バナするから!」

『…………』

「よし」

 

 餌を放り込むと嘘のように静まり返った。とてもわかりやすい馬鹿たちで助かった。

 

「さて、咲。最近須賀くんとどう?」

「な、なんで京ちゃんなんですか!?」

「あら?他に誰かいるの?」

「い、いませんけど……。って、別に京ちゃんが好きというわけじゃ……!」

「と言ってるけど、どう思うみんな?」

 

 ──とても、わかりやすい。口にこそしないが、誰もがそう思わざるを得なかった。

 彼のこととなった瞬間に、面白いように動揺した。もじもじと恥ずかしがる姿は、とても可愛らしい。

 恋を知ると、女の子は綺麗になる。よく聞く決まり文句ではあるが、それを体現した例であり、同時に羨ましくも思った。

 こういう片思いですら、女子校では困難であるがために……。

 

「次、優希」

「部長、別に京太郎のことは好きだけど、恋だのそういうのはないじぇ」

「大会からずっと、昼休みに須賀くんの作ってくれたタコスを嬉しそうに食べていて、それはねえ……」

「そ、それは、京太郎の作ったやつのが力が出るからで……」

 

 ──ギルティ。全会一致で判を押した。

 男の手作り料理、それだけでもう言い逃れのしようもない重罪だ。

 そう言えば、『私の京太郎』と言っていたことを井上純と津山睦月と美穂子は思い出した。

 こんな、こんなシチュエーションが共学校ではできるというのかと、羨ましさで血涙が出そうになる。

 

「ラスト、和」

「……須賀くんとは特になにもありませんよ」

「まだ何も言ってないわよ」

「か、会話の流れです!」

「そういえば、須賀くんって和が目当てに入部したって、知ってた?」

「だ、だからどうだって言うんですか。確かに須賀くんは大事な仲間ですけど」

「部で一番話すようになったし……対局するのも一番多いんじゃない?」

「そ、それは一番強いのが須賀くんですし、私がもっと強くなるには須賀くんの協力が必要なわけで……」

「あらそう?でも、須賀くんの方はいつも和を目で追ってるわよ」

「え、ほ、本当ですかっ……あ」

 

 ──甘酸っぺぇ……!喜色を表してからの恥ずかしがりようは凄まじい破壊力を秘めている。

 今の瞬間、彼女は落ちたのだ。今までは異性として意識するかしていないかの境界線上に立っていたのを、久の一押しで呆気なく転げ落ちた。

 えげつない、と思うと同時にどうなるのかが見逃せない。あの原村和が、同性でも羨むほどに美少女の彼女が、恋に落ちたらどうなるのか見てみたい。

 自分以上に誰かが目立つのを嫌う透華でさえ、これにはまいったと認めざるを得なかった。今の自分には、決して出来ないだろう顔だろうから。

 

「どう?清澄(うち)の一年は可愛いでしょ」

「久、お前さんなぁ……」

「だ、だったら部長はどうなんですか!」

「そうだじぇ!聞いておいて、自分だけなしってのはないじぇ!」

「ええそうです!聞いたからには喋る覚悟はあるんでしょう!」

「え、私?そうねえ……当ててみる?」

「う、うーん…………ふ、副会長!」

「残念」

「だ、だったら……き、京太郎!」

「盗ったりしないから、安心して」

「佐河信一!許嫁がいるって知って内心ショックを受けてたりは……」

「和。ふざけたことを喋るいけない口はこの口かしら」

「いはいいはいいはいへふふちょうー!」

 

 若干怒りながら和のほっぺたを引っ張って遊ぶ久。その感触が気に入ったのか、はまり込んでいく。

 その様相を見た三校は、程度の差こそあれ、同じ思いを抱く。──共学って、ずるい。

 

「さて、清澄側はこんなところだけど……ある?」

 

 一斉に、誰もが久の目を合わせようとしなかった。

 ──女子高舐めるな。そんな甘い話があるのなら、苦労はしない。

 あちゃー、と地雷を踏んだのを察した久は話題の転換に努ようとするが。

 ふと、男湯が大人しいままのをまこは訝しんだ。

 

「……そういえば久。ええんか、男連中ずっと黙ったままじゃけど聞こえてたりは……」

「大丈夫よ、あんな風に騒ぐならともかく、普通に喋って聞こえるわけがないわ」

「──部長、能海プロがいるのを忘れてません?」

「え、それがどうしたの?」

「正気で言ってるんですか?能海プロですよ」

「だから、それが──」

「対局中に心音を聞き分けて心を読むような人ですよ」

「え──」

「牌の落ちる音でどの牌なのか判別できる人ですよ」

「あの──」

「人が聞こえない高周波を感じ取った逸話を持ってる人ですよ」

「それ──」

「忘れてませんか?化物ですよ」

 

 吹き出る汗は、妙に冷たく感じる。この汗はきっと、温泉によるものではないだろう。

 完璧に、調子に乗っていた。つらつらと和が並べる能海治也の超感覚の逸話を知り、とどめの一言の説得力でようやく頭が冷えた。

 やってしまったと、湯船に浸かりながらも体が冷えていくのを久は感じた。

 

「の、能海プロ!もしかして聞こえてました!?」

 

 男湯へと聞こえる声で、呼びかけた。

 どうか、どうか聞いていないで欲しいと祈るのみだが。

 

「なんのことだろうか!原村和(チャンプ)が俺のことを良く調べていたことがよくわかった程度だが!」

 

 男湯の方から返ってきた返事がこれだ。

 ──あ、これ全部まるっと聞かれていた。

 

「安心して欲しい!乙女の会話を話すほど無粋ではない!」

「ほっ」

「だが俺は誤魔化すのが苦手だ!京太郎から聞かれてしまえばうっかり零してしまうかもな!」

『いやあああああああああああ──────!!!』

 

 絹を引き裂いたかのような悲鳴が、露天温泉中に木霊した。

 

「京ちゃん!絶対に、ぜーったい、聞かないで!」

「いいですか須賀くん!聞いたら絶交ですよ!」

「わかったな!絶対だぞ京太郎!!」

 

 

 

 

 

「お、おう……」

 

 聞くなと言われると、とても気になってしまうのが人の性ではあるが……あそこまで強く言われるとその気も失せてしまう。

 

「聞いてくれるなよ、京太郎」

「は、はぁ……」

「この通りこんな耳だからな……女のぶっちゃけ話も拾っちまうんだ。キツイぞ、かなり」

「お、おおう……」

 

 聞きたくはなかった『天才』の苦悩。治也がキツイというのであれば、冗談抜きでキツイのだろう。

 

(まあ、俺が教えるまでもなく)

(私たちは)

(知ってるがな!)

 

 京太郎と蘇芳と浬以外は、女湯の恋バナの全容を把握していた。

 治也は自前の耳で、信一は音の神をその身に降ろして、命は聞いていた二人の心に入って知り取った。

 浬もまた、話そのものを聞いてはいないが、個人戦の昼休みの時から誰がどうだということは分かりきっていた上に、治也のハンドサインでどういう内容かは知ることができていた。

 何も知らぬは、京太郎と蘇芳のみ。

 

「まあ、何だ。女にゃ秘密が多いんだ。男が知っててもしょーがない秘密ばっかでな」

「説得力凄いな、女たらし先輩」

「一体何人の秘密を握ってるのかしら、女泣かせ先輩」

「いつ刺されるのか楽しみだよ、女の敵先輩」

「刺されたら教えてくれよ、トトカルチョしてっからな」

「ぶっ飛ばすぞテメェら」

 

 ぎゃーと逃げる彼らと、追う浬。

 そんな様子がおかしくって、笑ってしまう京太郎。

 ──合宿は、まだまだ始まったばかり。馬鹿騒ぎをしながら、楽しもうではないか。




いかがでしたか。正直のどぱい揉み嬌声やら覗きも頭の中で考えたものの……文にできねえ……すまない、これが俺の限界だ……!

R-15タグが許される描写範囲ってどこまでなんでしょうかねー。

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