SUSANOWO麻雀紀行   作:Soul Pride

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この話も大概馬鹿話です。
男同士の馬鹿騒ぎってどうしてこうも書きやすいのだろうか。


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「~♪」

 

 浬が鼻歌で小さく口ずさむのは、自分が生まれる前に公開された名作アメリカ映画の映画音楽。誰もが知るクラシックの楽曲のアレンジで、オリジナルにはない小気味良い気ままな軽快さが彼は気に入っていて好きだった。

 それを歌いながら、浬は牌を打つ。

 卓を囲んでいる相手は、風越女子の生徒たち。

 自分たちと打って欲しいと頼まれ、その誘いを断る理由もなくむしろそのために来たため、快く受けたのだ。

 

「第九ですか?」

「……ああ、気に障ったんならやめるよ」

 

 浬の対面にいる福路美穂子に歌っている楽曲を当てられ、少し気恥ずかしくなる。

 聞こえないくらいに小さな声量のはずだったのだが、盛り上がりと共に少しずつ大きくなっていたかと自嘲する。

 

「いえ、そういうわけではないんですが。歌うといえば、彼女がいたなと」

「フランスの子か。そういや今は外人傭兵学校(りんかいじょし)にいるんだったっけか。エキシビジョンで一回打ったことあるよ」

 

 卒業したてのかなり荒れていた時……裸一貫でヨーロッパプロリーグに殴り込んで間もない、ほとんど自暴自棄になっていて頃だったと思い出した。

 対局中に歌っていたのが鬱陶しかったからか、集中砲火で即トバして涙ぐませた記憶がある。あの顔を思い出すと罪悪感に苛まれる。

 

(そういやヨーロッパで打ったばっかの時は狂犬だの暴牛だの悪魔だのひっどい扱いだったな……)

 

 若気の至り──今も十分若いが──と済ませればいいが、白水浬の一年の活動は、ヨーロッパのプロリーグに彼本人が思うよりずっと深い爪痕を残している。

 一年目のひよっ子プロが、勝ちに勝ちを重ね続けて登りついた世界ランク9位。それは偉業であり伝説であり、ヨーロッパの男子麻雀プロの威信を地に落とすも同然であった。

 所属していたドイツのプロチームのハンブルク・オルデーンの同僚たるプロや監督、企業(フロント)側にすら畏れられる程に。勝ち過ぎる程に勝ち過ぎたのだ。

 さらに言えば、一通り暴れた後に日本に帰ったのが拙かった。たった一年だけの活動期間で欧州麻雀のトップクラスに名を連ねて、そそくさと日本に戻った。……それは、ヨーロッパのレベルが低くて失望したのだと思われても仕方ないのだ。

 ……故に名付けられた『絶滅の炎剣(レーヴァテイン)』。彼こそはプロ世界に破壊のみを残した神の剣。故に名付けられた『大量破壊兵器(MDW)』。その剣は後ろに屍のみを積み上げていった。──故に名付けられた『神風(KAMIKAZE)』。嵐の如く荒らし回ってそのまま過ぎ去った。

 日本にいる今でも、白水浬はヨーロッパにおける最強の悪役(ヒール)という認識は揺らがない。最早、天災に見舞われたのだと諦観する者さえいるほどだ。

 

「まあ、歌いながら打つってのはリラックスして良いもんだ。まあ、鳴かれるとリズム狂うから逆効果なんだが」

「ポンだし!」

「こんな感じに。その東ロン」

「ニ゛ャッ!?」

 

 下家の池田華菜に出した牌を鳴かれる。が、返す刀で直撃を食らわせた。

 

「混一色ドラ2、5本場の満貫(13500)

「二枚河に出てるし!」

「そう言ってる子から出るから面白いな」

 

 意地の悪い笑みを浮かべながら点棒を彼女から受け取る。

 

「うー……なんか私ばっか狙われてる気がするし」

「私も狙われて飛びそうだよ華菜ちゃん……」

「うん、狙ってるよ」

「え、嘘」

「酷っ」

「だって点を取らせず取り続けてトバせば勝ちなんだ。狙わん理由がない」

 

 それが出来たら苦労はしない、と卓を観戦する二人を含めて風越の全員はそう思った。しかし、それをまるで簡単なことのように言うからプロ。彼に至っては、“世界最高峰の”と冠詞が付く。

 浬の下家の吉留未春は萎縮してしまっている上に点数も心許なく。直撃を食らった華菜の点数も風前の灯。両者調整されたかのように5000点未満に留まっている。

 風越最強のキャプテンたる美穂子は、原点から全く動いていない。この対局は全て直撃(ロン)による点数移動しかしていない。そしてとっくに両目は開いている。つまり、それだけの時間が経過しているも同然なのだ。

 さらには彼女にとっては鮮明に理解できてしまうから屈辱的に……分かりやすい混一色を絡めた役しか組んでいない。二人とも、当たっている牌は全て字牌なのだ。

 まるで、これくらいは分かるだろうと、試されているかのように──。

 

「じゃあ、次は福路さんいってみようか」

「……っ!」

 

 優しく微笑む浬の背後には、ありとあらゆる暴力が控えていた。拳、蹴足、肘、膝──ナイフ、剣、槍、棍棒、投石、弓矢、拳銃、小銃、散弾銃、狙撃銃、機関銃、対物銃、野砲、大砲──戦車、戦闘機、戦艦──ミサイル、核爆弾、衛星兵器……美穂子が知らない武器兵器すら含んだオンパレード、その幻影を見た。

 ──君はどこまで耐えられる?そう問われている気がした。

 自分が言えた義理ではないが、麻雀に関しては彼は良い性格をしていると彼女は思う。普段はどれだけ人格者であろうと、麻雀(これ)は譲れないと牙を向く。彼にとって、そして自分にとっても──。

 

「受けて立ちます」

 

 全力を出して尚及ばない相手、それは好機だ。ならここで、自身の限界を超えて彼に勝つ。

 皮肉にも、団体戦敗退によってチームのためにと動く理由がなくなってしまった。個人で全国を行くことが決定した時は、部全体から雑用全般を禁じられた。

 ──わがままになってくれ。傲慢になってくれ。風越女子最強に、長野最強女子に相応の、威風を持ってくれ。

 そう願われたのなら、彼女はそうなろう。優しさはそのままに甘さを捨て、真っ直ぐ相手を見据える。

 ────超えられない壁を、今、踏み越えるために。

 

 

 

 

 

『ええ~、麻雀に負けたら脱がなきゃいけないの?しょうがないなぁ……』

「「「YEAAAAAAHH!!」」」

 

 男子六人に割り当てられた部屋にて。佐河信一、男神蘇芳、須賀京太郎の三人はテレビの前でたむろして、勝利の雄叫びを上げた。

 テレビに繋がれたケーブルを辿れば、現行機より四世代ほど旧式のマイナーなゲーム機。そして京太郎の手にはそのコントローラーが握られていた。

 ……画面には、古いドット絵で描かれたアニメ調の女の子が、豪奢なドレスを脱いでいくシーンが映されている。

 

「よしよしよし、あと二回だ」

「油断すんなよ京太郎。コイツは本気で油断ならねえからな」

「は、はい……!」

 

 京太郎は固唾を飲み、さらに集中力を上げていく。コントローラーを握る手は汗ばみ、目は充血するほど画面を睨んでいる。

 …………彼らが何をやっているかといえば、脱衣麻雀のゲームである。

 ゲームの倫理機構が存在する前の、コンシューマー機に18禁ゲームが発売できていた頃の物。もちろん、今彼らがやっているゲームもまた18禁の物である。

 

「よし、ロン!」

『立直、清一色、七対子、ドラ4──役満』

「裏ドラ乗ったぁ!」

「一発勝利!」

『ま、また~!?も、もう、次は負けないんだから!』

「「「Fooooooooooooo!!!」」」

 

 ハイタッチを交わして勝利を祝福するエロ坊主(ガキ)共。

 目を血走らせてお色気シーンをじっと見る様は、性に興味津々な小学生と変わらない。

 

「ラスト、ラストだ……!」

「気張っていけよ、マジで!」

「オスッ!」

 

 集中力と緊張は極限にまで高まっていく。コントローラーに入る力は強くなり、公式戦に挑む雰囲気と大差ない圧迫感を醸し出している。

 げに恐ろしき十代男子の助平魂。ビリビリと紫電が走りそうになるほどに、彼らの力は高まっていく。

 

「来た、来た来た来た!立直!」

『え、もう立直?ま、負けないよ!』

「──見えた、カン!行け、嶺上ツモ!!」

『立直、面前清自摸和、混一色、嶺上開花、小三元、白、発、ドラ2──三倍満』

「勝った!」

「やったぞ京太郎!」

『…………いいよ。あなたになら、私の全部を見せてあげる』

「「「いいぃぃぃやぁったあぁぁぁぁぁぁあ!!」」」

 

 男三人が肩を組んで大はしゃぎ。涙すら滲ませる始末。……これが脱衣麻雀によるものでなければ、微笑ましいものに違いなかったのだが。

 最後のお色気シーンを見届ける彼らの目には、一筋の雫が流れて落ちた。

 

『また今度、一緒に麻雀しようね。じゃあね』

 

 ──GAME OVER──エンディングとスタッフクレジットが流れていき、彼らの内にあるのは心地よい疲労感と達成感。

 サムズアップした拳を合わせ、力尽きたかのように仰向けに寝転がる。

 この激闘に、勝った。拳を天井に突き上げた京太郎は、安堵して戦いの余韻に浸る。……このままもう明日の朝まで眠れそうに気持ちが良い。

 ……段々と瞼が閉じていき、意識も深く落ちていく──。

 

 

 

 

 

「────何が『私の全部を見せてあげる』よ、この変態ども」

 

 

 

 

 

 ──その声がした途端、彼らは瞬時に跳ね起きた。

 部屋の出入り口には、竹井久を先頭に……清澄の一年組が揃っていた。

 彼らを俯瞰する視線は汚物を見るような、苦渋に満ちたもの。特に一年の三人の視線の棘が非常に痛いと京太郎は感じ取っている。

 彼女たちを目にして京太郎が最初に思ったことは──俺はここで終わった、とだけであった。

 

「あ?失せろ女ども。男の園にやってくんじゃねーよ」

「女子主催の合宿で脱麻のゲームをやる時点で正気を疑うわ」

「俺らがそういうもんだと知ってるだろうが。男はみんな正気なんざねーよ」

 

 中指を立てて開き直る信一。お前らなんかに嫌われたって痛くも痒くもないと、挑発的な態度で応対する。

 一緒にしないで、と京太郎が言おうとするも信一に視線で封殺される。

 

「……そういえば永水の滝見さんと連絡先を交換したんだけど」

「ごめんなさい許してくださいそれだけはどうか勘弁してください」

 

 流れるような手のひら返し。何の躊躇もなくプライドやら何やらを遠くに投げ捨てて、天敵たる久を前に土下座をする。

 効果覿面過ぎて反応に困る久は、一旦信一は置いておいた。

 

「おうおう見下げたヤツだじぇ京太郎(いぬ)

「須賀くん、最低です」

「うぅ……咲ぃ……」

「話掛けないでくれませんか、須賀」

 

 正座で座る京太郎に責め立てる一年組。咲に至っては完全に他人扱いである。

 ザクザクと、京太郎の心を抉っていく。とてつもなく、心が痛い。

 

「別にいーじゃねぇか。俺らが脱麻やろうが野球拳やろうが」

 

 ……蘇芳はそんな彼らとは関係なしに、再び寝転がりながらゲームのコントローラーを手にしてゲームを進めようとしている。

 ゲーム機本体と脱衣麻雀ゲームの持ち主は、彼であると全員が確信を得た。

 

「第一、京太郎(キョウ)がやった偉業が評価されねーってのが納得できねー。なあ、信一(シン)

「うっせー黙ってろ蘇芳。こっちはマジで綱渡りなんだよ」

 

 土下座の姿勢を崩さない信一と、不遜な態度を改めない蘇芳。どちらも大きな性格の違いはない不良気質ではあるが、弱味を握られた者とそうではない者の差異がここに表れている。

 

「偉業って、たかがゲームでしょうに」

「言ったな?だったらやってみろよ」

「ええー……」

「最初の一枚脱がせたら勝ちでいい。コンティニューも何回だってやっていいし、イカサマアイテムも何だって使えや」

 

 ほれ、と蘇芳はコントローラーを久に渡してくる。

 しかしそれを受け取る理由はなく、無視を決め込む。

 そもそも、脱衣麻雀というだけで彼女たちには嫌悪に満ちている。それを自分らがやる?冗談じゃないと、憤慨する。

 

「……あっそう、お前ら全員京太郎(キョウ)以下の負け犬かぁ……初見プレイノーコン(ノーコンティニュー)で裏ボス含め全クリしたコイツを馬鹿にするのは筋違いじゃね?」

 

 安い挑発で煽る。その程度もできないで馬鹿にするのは違うんじゃないかと、蘇芳は呆れながら溜息を吐く。

 そんな下らない誘いには普通、乗らない。同性の男ならまだしも、その程度の理由でそのゲームをやるのには抵抗感がある。たとえそれが、1ゲーム勝つだけであっても。

 ……だが、この場には。将来的に化物の領域に入れると目された負けず嫌い(デジタル)がいることを。

 負け犬扱いを許さない、逃げない阿呆(カモ)がいる。

 

「聞き捨てなりませんね」

「どうぞ、原村和(チャンプ)

 

 京太郎を取り囲んでいた一人、原村和は蘇芳からコントローラーを受け取った。

 京太郎を含めた清澄側はマジで?といった顔。

 だが、土下座しながらの信一にしてみれば納得していた。

 絶対勝利主義者(デジタル)の『天才』能海治也は、かなりガキだ。もし同じ挑発を受けたなら、簡単に勝負に乗る。

 ──その男が認めた女が、原村和だ。乗らないわけがない。

 

『フン、この私に麻雀で挑もうなんて。良い度胸──』

 

 最初の高飛車の金髪お嬢様キャラ──既視感があるのは気のせいだ──がプレイヤーに挑発するが、横から蘇芳がボタンを押して会話をスキップする。

 

「態度デカいがゲームで一番の雑魚キャラだ」

「そうですか」

 

 興味なし、と切り捨てる。

 キャラを楽しむためにするのではない。勝つためにやるのだと、和はゲームに集中する。

 

「こういう二人打ちは初めてなので。ネット麻雀と大差ないと思っていいんですね?」

「四人打ちとは少し勝手は違うがそうだな。まあ、一回和了すりゃ勝ちだぜ」

「……そのようですね」

 

 表示される自分とCPUの点数はお互い1000点。二人打ちであれば、500・300(ゴミツモ)以上で終了する。

 しかもプレイヤーが親。どんな手だろうと相手に勝てる。

 

(手牌は良くも悪くもなく……ですが)

 

 攻める以外の選択肢はなし。無理をしてでも和了しに行けばいい。

 一打開眼。開幕から麻雀天使(のどっち)覚醒。無機物相手にも容赦なし。

 最大の牌効率のみを選択するようになった彼女に、常人では対抗し得ない。

 よっぽどの運の偏りがない限り、彼女が勝利する……その確信を、清澄の女子たちは得た。

 

 

 

 

 

『ツモ──地和』

「え?」

 

 

 

 

 

 …………その天使を、CPUは理不尽の一刀にて切り捨てた。

 

「────え?」

 

 呆然とする間もなく点数計算の画面へと移行し、結果32000点のマイナスをプレイヤー側が被り敗北。

 

『あら、大したことありませんのね!オーッホッホッホッ!』

 

 キャラの高笑いと共に、間もなくGAME OVERとコンティニューカウントの表示が。

 

「…………な、なななな、なんですかコレ!?」

「「よくあるよくある」」

 

 どうしようもない理不尽に直面して、和はどうしてこうなったと愕然とするが、信一と蘇芳はよくあることだと取り合わなかった。

 

「ほら、コンティニューするんだろ?」

「わ、わかってます!」

 

 そして再び、対局画面へ。点数も初期の1000点に。今度はプレイヤー側が子でCPUが親だ。

 自動で配牌と理牌がされて、今度こそと意気込む和。手牌の牌勢を読み取ろうと全力で頭を回転させようとするが──。

 

『ツモ──天和』

「…………冗談じゃありません!」

「「よくあるよくある」」

「あってたまりますか!!」

 

 和、吠える。牌を打つ間もなく、敗北する。こんな理不尽があってたまるかと、嘆き憤る。

 そしてまた、対局画面へ。今度こそ、今度こそと画面を睨んで挑むが──。

 

『ツモ──天和』

『あら、大したことありませんのね!オーッホッホッホッ!』

「…………おかしいでしょう!?」

「「おかしくないおかしくない」」

 

 ニマニマと薄ら笑いすら浮かべ始める男二人。悔しいや悲しいではなく、愕然とした理不尽しかない。

 キッ、と和は彼らの方へと睨みつけた。

 彼らが持ち込みやっていたゲームだ。何か仕込んでいても不思議ではない。

 

「……イカサマしてますか?」

「どうやれってんだよ。むしろお前さんがイカサマ出来るんだぜ」

「非常に、認めたくありませんが……貴方たちが常識では考えられないオカルトを使うとなれば在り得る話かと」

「残念だけど、使ってないんだ和。俺が保証する」

「むぅ……」

 

 人間的な信頼は失墜した京太郎だが、麻雀の実力は心底信用に値する。彼がやっていないと言えば、和は信じるしかない。

 

「…………」

『ツモ──天和』

「いくらなんでも作為的じゃありませんか?」

 

 四回目のコンティニュー画面。これを見るのも少し飽きてきた。

 和は再び京太郎に意見を求めるが、京太郎は首を横に振る。彼らは何もやっていない。

 そうなると、怪しいのは──。

 

「ゲームそのものに仕掛けがありますか?」

 

 そうとしか、考えられない。ゲームそのものがイカサマ染みた仕様であることが、一番現実的なのだ。

 

「……和、貸してみ」

 

 そう言ったのは京太郎。ゲームそのものにイカサマがないと証明するために、攻略した本人がそれを実証する。

 和は京太郎にコントローラーを渡して、再び対局画面へ。途中に設定変更や妙なコマンド入力等はしていない。

 ──瞬間、部屋の温度が数度下がった。

 惜しげの無い全力行使、完全無欠の戦闘モードへと、須賀京太郎は作り替えられている。

 何故今唐突に本気を──そんな言葉すら封殺するビリビリと走る気迫に圧倒され、京太郎は画面の中の対戦相手と相対する。

 ネット麻雀下における能力使用……麻雀の接続のデジタル化を身に着けた今の京太郎であれば、機械化された乱数すら手中に収めることが出来る。

 予選前に会得し、そしてこのゲームで完成に至った。であれば、京太郎の支配に綻びはない。

 

「……っ」

 

 ──天和、地和、出ずに一巡目終了。

 そして順当に局は進んでいき、六巡目で──。

 

「……よし」

『ロン──白、ドラ1』

 

 安手なれどCPUを飛ばし、勝利。直後集中を切らして、張り詰めた空気は霧散する。

 

「一応、勝てる仕様にはなってる」

「……そのようですね。私の運が悪かっただけでしょうか」

「ただし──かなりの高確率で天和と地和が飛び出してくる」

「ただのバグじゃないですか!」

 

 ゲームそのものに不具合がある、プレイ以前の問題だと、和は抗議した。

 

「何パーでしたっけ?天和と地和率」

「95%、雑魚だな」

「ですよね」

「バグじゃないですか!」

「アーケードでコレがあった時にそう訴えたプレイヤーがいてな。会社側からの返答が──」

「仕様です」

「後は何だっけか。……勝ってもコンティニューしたら最初に戻ります」

「仕様です」

「イカサマアイテムを持っていると100パー天和してきます」

「仕様です。イカサマアイテムを持たないで下さい」

「和了しても点数上がりません」

「仕様です。相手の点数を減らして下さい」

無理(クソ)ゲーです。本当にありがとうございました」

 

 一通りのゲームの理不尽さを語った信一と蘇芳、そしてそれに相応しい言葉で締めくくった京太郎。

 

「とにかく、デバッカーが仕事しなかった上に会社が非を認めないところだったからな。散々酷評されたアーケードの仕様をこのまま移植。それで出来たのが」

「『プリンセス麻雀☆天衣無縫』、通称『プリマ』。クソゲーマー愛好家じゃそれなりにレアゲームだぜ」

 

 彼らの「総生産数何本だったっけ?」「200本。俺が確認出来ている限り、今も現存している数は10本。生産元が倒産、制作チームの人員と取締役も発売一年以内で何かしらの事故やら何やらで全員死んでる曰くつき。手に入れたコレクターも俺以外は一年以内に死んで手放している」「Oh」という掛け合いが空しく耳に響く。

 京太郎はゲーム機の電源を落とし、コントローラーを床に置いた。

 

「俺が初めてなんですよね?初見でノーコンクリアって」

「ああ。俺ら全員一回負けてる(●●●●●●)。まあ、中学の時だから今とは比べものにならんほどカスだったがな」

「そういうわけだ、和」

 

 ────このゲームそのものが、化物級の雀士だ。

 ゲーム機本体に差し込んであるソフトを指差しながら、京太郎はこの脱衣麻雀ゲームにおける真実を語った。

 化物らと戦い、そして全員に一度は勝ったことのあるゲーム。その意味を、重く受け止めない者はこの場にいない。

 化物とは、可能性を踏破する者たち。僅かな可能性すらも自在に掴み取り、意のままに支配する超越者。

 先程語ったように95%の確率で理不尽に天和と地和をされようとも、雑魚と言い切れる彼らが。1%以下の確率を容易に掴める者らが。今よりも未熟とはいえ一度は負けたことのあるゲームである。

 ……それは、ただの極小の確率を押し付けてくるだけのゲームではないということ。このゲームにもまた、確率を超えて場を支配する力を持っているということを表している。

 

「言ったろ、偉業だって」

「……ええ、そうね」

 

 確かに、後輩は厳しい戦いを乗り越えたのだと久は認める。

 ──しかし、だが、それでも──。

 

「自分たちが変態であることが正当化されると思わないでよ」

「ですよねー……はぁ」

 

 京太郎は一人、溜息を吐く。

 頑張れ、と無責任に肩を叩く蘇芳を、恨めしく思うのだった。




※7/25追記

『プリンセス麻雀☆天衣無縫』

Story

とある世界のとある時代のとある国のおとぎ話。
いたずら好きの女神により、絶大な力を秘めた『神のドレス』を人の世界に落とした。それを手に入れたある三姉妹は、その力によって空から三つの光を奪い取ってしまった!
星の光、月の光、日の光を手にし、思いのままに光を操って、三人の姫たちは人の世の姫となった。
これには困った主神様。勇者であるあなたに、『神のドレス』を取り返して欲しいと頼まれる。
かくしてあなたは三人の姫に、神々の決闘たる麻雀で勝負を挑む。ドレスを脱がして、人の世界に光と取り戻せ!

1st

『星光の姫君』イクシャ・アストレア・アーネルデルト
三姉妹の長女。金髪のゆるふわ愛されカールの高飛車お嬢様。美乳。妹たちを心の底から愛しており、彼女たちを守るために真っ先に勇者に立ち塞がった。

登場「フン、この私に麻雀で挑もうなんて。良い度胸していますわ!」
先制立直「いきますわよ、リーチ!」
被立直「リーチですって!?小癪な!」
敗北「あら、大したことありませんのね!オーッホッホッホッ!」
一枚目「クッ、生意気な……!いいでしょう、脱いで差し上げますわ!」
二枚目「こ、こんな……!負けられませんわ、絶対に!」
三枚目「う、嘘……そんな……。私が、負けた……」
勝利後「み、見ないで下さいまし……そんな目で見られたら、私……」


天和・地和率:95%
それ以外に大きな特徴はなく、手役も待ちが狭いものばかり。問題なく突破できる最弱(化物基準)。


2nd

『月輪の姫君』ローリエ・セレネ・アーネルデルト
三姉妹の次女。青みがかった黒髪ロング、糸目の清楚系。巨乳。姉妹以外に物事への興味が薄かった物静かな性格であったが、あなたに一目惚れし、異常な執着を見せる。

登場「……!誓って。私が勝ったら、あなた、私のものになって」
先制立直「……リーチ」
被立直「……そう。負けないわ、絶対に」
敗北「これであなたは私のもの……私、死んでもいいわ」
一枚目「……うん、わかったわ」
二枚目「……どう?私、綺麗?」
三枚目「……強引な、人」
勝利後「私はこれで、あなたのもの。……ああ、私を綺麗と言ってくれるのね」


天和・地和率:99%
清一色を好み、待ちもまた広いものを選ぶ傾向あり。だが、確率を踏破できるものであれば、まず勝てる相手。


3rd

『日天の姫君』フリージア・アイネ・アーネルデルト
三姉妹の三女。赤髪のショートヘアのロリ。無垢で無邪気な元気っ娘。貧乳。姉二人からも強く愛されている。三姉妹の中で最強の力を持つ。無邪気な性格故に、姉二人を困らせた勇者には絶大な力を余すことなくぶつけてくる。

登場「おまえがおねーちゃんたちを泣かせたヤツだな!やっつけてやる!」
先制立直「いっくぞー、リーチだ!」
被立直「え、ええ!?ちょっと待って!」
敗北「おまえ、おねーちゃんたちにあやまれよ!……あやまった?じゃあ、もっかいあそぼ!」
一枚目「むぅー……!次は負けるもんか!」
二枚目「ぐぬぬぬ……お前、強いな!だけどあたしが勝つもんね!」
三枚目「負けた……ああもう、悔しい~~!わ、わかったよ、脱ぐよ、もう……」
勝利後「おねーちゃんたちみたいに、あたし美人じゃないから……あんまり見ないでよ。……え、可愛い?あたしが?えへへ、ありがとう、お兄ちゃん」


天和・地和率:99%
手作りに関しては主だった特徴はない。が、ここからCPUが支配能力を使ってくるため、ある意味ここが最大の初見殺し。支配能力に関しては天江衣以上京太郎の最初期『勇者』未満。


Final

『悪戯女神』スターチス
諸悪の根源。緑髪のツインテール、右目に眼帯。僕ッ娘で、気分屋の悪戯好きの女神。貧乳。ドレスを回収した勇者の前に現れ、勝負を挑んでくる。神というだけあり、先の三人とは比べものにならない力を発揮する。

登場「やあやあ勇者君、君の冒険はここでおしまいだ。覚悟してもらうよ!」
先制立直「リーチだ。フフ、未来はもう見えたさ」
被立直「なぬ?リーチとな。そういうこともあるか、なるほど」
敗北「んー、まあ頑張った方じゃない?人の子にしてみればね!」
一枚目「うぇっ!?やるじゃないか、勇者君。神を脱がすなんて、それだけで偉業だよー」
二枚目「ほ、本気で僕を裸にする気かい?へぇ……僕を本気にさせたね」
三枚目「信じられない……麻雀で、神の僕を相手に勝つなんて……ああもうわかった、わかったよ、脱げばいいんだろ脱げば!」
勝利後「ぼ、僕だって女なんだからな……!許さないぞ、絶対に許さないぞ!お前が死んだら神に召し上げてずーっと僕の傍に居させてやるんだから!……それって告白じゃないかだって?よ、余計なこと言うな馬鹿!」


天和・地和率:99.6%
ラスボス。文字通り、神の如くの支配能力。憑依などに頼らず、純粋に神そのものに麻雀をさせたらこれくらいの力を発揮するだろう力量。具体的な比較でいえば東征大クラス。


Secret

(そら)の姫君』ミュオ
勇者の幼馴染。栗色の三つ編み。THE普通の村娘。人見知りする大人しい性格で、あなたのことが大好きな恋する乙女。普乳。三人の姫(ついでに神)を連れ、コまして村に帰ったあなたに怒り心頭となり、その怒りが反応して『神のドレス』三着とスターチスの力を取り込んで、神すら超えた空の支配者、『宙の姫君』となる。

登場「うぅ~……もう、怒ったんだから!」
先制立直「いくよ、乙女の怒りリーチ!」
被立直「え、もう立直?ま、負けないよ!」
敗北「私が良いって言うまで、反省すること!何を反省するのかって?バカー!」
一枚目「ええ~、麻雀に負けたら脱がなきゃいけないの?しょうがないなぁ……」
二枚目「ま、また~!?も、もう、次は負けないんだから!」
三枚目「…………いいよ。あなたになら、私の全部を見せてあげる」
勝利後「……もう、そんなじっと見て、エッチなんだから。……好きなだけ、見てもいいんだよ」


天和・地和率:支配の鬩ぎ合い。支配能力がない場合100%
裏ボス。一面から流局なしで勝利し続けた場合、ラスボス勝利後に登場。化物四人が一度躓いた最強CPU。高校時代当時の浬と同等の実力を持ち、瞬間的に現在の京太郎に迫る出力を発揮してくるため非常に厄介。持ち点が1000点固定の難易度のため、二度のノーテン罰符による敗北というパターンであった。



ゲームオーバー(プレイヤーへ)「また今度、一緒に麻雀しようね。じゃあね」


以上、『プリマ』の詳細でごぜーます。
ふぅ、いい仕事したぜ……。あとコレ、R-15の範囲内だよね……?
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落第騎士の英雄譚 意識低い系風味(作者:一般落第騎士)(原作:落第騎士の英雄譚)

いかなる分野においても、上に立つ者は強靭な意思を持ち、血の滲むような努力を重ねている。▼―――そんなものは幻想だ。▼真の天才には努力など必要ない。▼


総合評価:78365/評価:9.41/連載:27話/更新日時:2026年05月24日(日) 23:58 小説情報


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