少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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横須賀にて4

「ご一緒してもいいですカー?」

適当に入った喫茶店で面白くもない新聞を読んでいると、突然見知らぬ女性に声を掛けられた。

混雑している、とは言えない店内は相席をしなければ座れないような状況ではなく、故にご一緒する理由が見当たらない。

 

 

「できれば遠慮してもらえると助かる」

 

そう返答したはずなのだが、それをどう受け取ったのか、はたまた最初からこちらの意見など求めていないのか、声を掛けてきた女性が向かいのイスを引いて座りだすところだった。

「What? まさか断られるとは思ってもみませんデシタ」

邪険にされたことなどない人生を歩んできたのだろう。これだから美人ってやつは。

 

「ここはワタシのお気に入りのTea shopデース。アナタもここ数日通い詰めだったので、この紅茶の味がわかる者同士交流を深めようと……」

俺の飲んでいる物を覗きこみ、自分の頭を軽く叩くとこれは困ったといった声を出した。

「Oh! 勘違いデシタか」

生憎と俺が飲んでいるのはコーヒーだ。

 

「アナタ、どこかで会ったことありますカー?」

「勘違いだったんじゃないのか?」

紅茶仲間だと思って話しかけてきたのなら、その目的はすでに失われたことだろうが、それでも席を立つでもなくカップ越しに話かけてくる。

「ソデ触れ合うもナニかのエンです」

 

「ゴシップ紙かなにかで見たんじゃないか」

「そうデス! 佐世保の英雄、デスね!」

鎮守府が落ちたなど易々と公開されるはずもないが、情報統制もなんのその。一部ゴシップ紙にあることないことすっぱ抜かれ、いつの間にやら深海棲艦の大軍に襲われるも奇跡の生還を果たした英雄として祭り上げられていた。

実はじじいか姉が、やすやすと俺を処分できない状況にするために積極的にリークしてるんじゃないかと思っている。

 

「お目にかかれて光栄デスね」

「そのおかげで査問にかけられるハメになってるんだけどな」

「うん? それはナゼですかー?」

 

「鎮守府を放棄したから、らしい」

なんのつもりでネチネチ聞いてくるのかはわからないが、結局横須賀でもそれを突っつかれていた。

アレはポーズなのかな、査問なんて初めての経験だから建前なのか本当に責めているのかもわからん。

 

「艦娘が生き残れば鎮守府なんぞ何度でも再建できる。それがマズかったようでね」

「どこが美味しくないのかワカリマセンねー。そのとおりだとワタシも思いますが?」

 

マズかったを美味しくないと言い換えるあたり、育ちは良さそうだが日本語は不得意のようだ。

詮索するつもりはないが、訪日していて帰りそびれた、なんてこともあるのかもしれない。

 

「艦娘を大切に思っているのデスネ」

「嫌いだったよ」

紅茶に口をつけながら、こちらを見つめる視線が無言で続きを促しているように思えたからか、つい話をしてしまう。

「最初は艦娘を救いたいと思って軍人になった」

「救う、デスか」

 

「戦争は艦娘に丸投げだ。彼女らがいなけりゃとっくにこの国は滅んでる。なのに世間から艦娘への風当たりは良いとは言えないだろ?」

彼女は困ったような顔をしたが、それについて肯定も否定もしなかった。

 

「軍に入ったら入ったで、まるで艦娘を装備扱いだ。出世の道具としか思ってないような奴らも多かったよ」

「艦娘は軍艦の船魂を持つ存在。軍の装備として扱うのは間違ってマスか?」

「間違ってるさ、彼女らには自意識がある。ならば人権もあるのだろう」

 

「そう思っていた」

「思っていた?」

 

「軍に入って艦娘のことも知った。あいつらは下士官や兵隊を下に見ているのか、自分に相応しくないとでも思っているのか、話かけられても返事をしないことが多かった」

普通の生活をしていると、艦娘とは縁遠い。なんなら軍隊に入ってからもそうだ。

山崎なんかも、艦娘と話をしたのは時雨が初めてだと言っていたはずだ。

 

そして、俺もそうだった。

軍学校を出るまで艦娘に会ったことはない。初めて接触をもったのは卒業後で、それからもまともに会話したことなんてなかった。

 

「佐官や将官に対してだけ話をする。そんな打算的な物を感じたよ。俺は、軍にも艦娘にも失望して、そして絶望していたのさ」

「それでも、そんな艦娘を指揮して佐世保を生き残った。ナゼですか?」

「自分の世界の小ささに気付いたからだよ」

 

「あのとき俺と戦ってくれたのは戦友だ。彼女らは、俺の見知った艦娘とは違ったよ」

いつしか、手にしていた新聞を傍に畳み、片手間ではなく彼女と会話していることに気づく。

雰囲気とか空気とか、親しみやすいなにかを感じているみたいで話しやすい。

美人は得するんだろうなと思ったが、ここで唐突に話を終わらせる必要もないことから、話を続けた。

 

「最初に会った駆逐艦は、海が燃えるこの世の果てのような中で、俺と共に生きると言った。そこで出会った戦艦は、下士官である俺と対等に向き合い、真っ向から信頼してくれる真っ直ぐなやつだった」

 

あのときのことは、まだ昨日のことのように覚えている。脳裏にそのシーンを思い浮かべながら話す。

 

「別の駆逐艦は、昔からの友人のように怒声と罵声で怒鳴りつけてくれたな」

そう言えば霞との最初の出会いは罵倒からだったなと思う。まともな出会い方をしていたならどんなだったのだろう。

 

「こいつらを沈めてはいけない。強くそう思ったよ。なんのことはない、勝手に守ってやらなきゃと思い、なにもわからず勝手に失望してただけだったんだな」

 

口にしたことで、ちょっとわかったような気がした。

「今思えば、他の艦娘たちも、俺と同じだったのかもな」

「と、言いますと?」

 

「誰だって、いつでも本心で接しているわけじゃない。彼女らは彼女らで、軍の中で自分を守る方法があの態度だったのかもしれない」

 

 

すみませんと店員に声をかけ注文を入れる。

「彼女にお勧めの紅茶を一杯」

 

「おっと、なんデスカ急に」

「買収だよ。ペラペラしゃべっちまったが、軍規に触れるようなことを話ちまったかもしれん」

「心配いりません。ワタシはお口が固いと評判デース」

「なら美人とお茶できた記念だ」

「それならありがたくいただきマス」

 

それから彼女は紅茶をキャンセルし、俺が飲んでいる物と同じ物をと注文し直した。

「コーヒーだぞ?」

「知ってマース。好きですヨ? コーヒーも」

 

最後まで喰ない女だった。

 

 

 

鎮守府に戻ると、門のところで腰に手を当てた時雨に捕まった。

 

「提督。何度も言うようだけど、行き先も告げずに急に居なくなるのはやめてもらえないかな? 僕はその都度提督を捜しに鎮守府の内外を走り回っているんだよ」

「すまない、すぐ帰ってくるつもりだったんだが、予定外のことが起きてね」

 

時雨の顔が途端に緊迫を表した。

「問題が?」

 

なんて言おうかと逡巡したが、結局報告できるような特別なことなどなにもないと気付く。

「いや、コーヒーが思いのほか美味しかった。それだけだな」

 

いつも優しい時雨だが、こう見えて執念深い。笑顔の裏でされたことの仕打ちは忘れないタイプだ。

へそを曲げられる前にご機嫌を取っておかねば、なんて思っていると、心を読んだかのように時雨が言う。

「言っておくけど、怒っているわけじゃないんだよ? 心配してるって言ってるんだ」

 

走り回ってくれていたのだろう。額に汗を浮かべた時雨を見ると、本当に心配してくれていたことがわかる。二度とないようにしようと心に決めた。

それから時雨の頭に手を乗せ、ポンポンと撫でてみたが、誤魔化されないからねと素っ気なく言われた。

「それでなくても行動を制限されているんだから。自重を覚えてほしいな」

 

呉のときとは違い、外出も申請すればできるほどには自由だ。

しかし、外でも中でも監視が付いている。俺が誰かと接触するとでも思っているのだろうか? あぁ、きな臭いきな臭い。

 

 

それからほどなくして、唐突に査問会は終わった。

しかも表向きはお咎めなし、さらに階級がいつの間にか中尉になっていた。

 

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