少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
大丈夫だよ! 星雲賞を受賞して文庫化されるときにはちゃんと順番どおりに掲載するから!(妄想)
申し訳ない気持ちではいる。
囮役として海に出る時雨に付き添って歩く一つの影。ここで出会った妖精さんに好かれる彼だ。
できればそのまま内陸の方で大人しくしていてほしいと思ったが、彼は僕の側にいることを頑なに譲らなかった。
その強引さは、とてもそんな場合ではないことも理解しているけど、お腹の底にクルものがあった。
艦娘になってから実装されているらしい乙女心を発揮している場合ではない。
幸い炎の照り返し以外に灯りとなるものはないので、火照った顔を見られる心配はないと思うが、彼の肩に乗っている妖精さんが泥を吐くような顔をしているので、彼女には分かったのかもしれない。
今だけは彼女が喋れないことを神に感謝しておこう。
倒壊した軍の施設の一つを横切ろうとしたときだ。足音と共にソレを発見したのは。
ソレは焦って身を隠すようにしたあと、僕たちが軍属だと気が付くいけしゃあしゃあと話し掛けてきた。
「なんだ? お前たちも逃げてきたのか。ちょうどいい、私を護衛しろ。このまま陸上から呉鎮守府に向かうぞ」
「あんたは」
妖精さんに好かれる彼が、僕の隣からそう言った。
見なくても分かる。彼は眉をひそめて、まるで汚物を見るかのような目をしているに違いない。なぜなら僕がそんな目をしている自覚があるからだ。
ソレは、佐世保の基地司令官だった男だ。
「なぜ、指揮をせず逃げ出したんですか」
激昂しているわけではない。
努めて冷静に彼の口から出た言葉。
でも隣にいる僕には伝わる。彼は怒っている。僕たちを捨てて逃げ出した男を許せないと、僕らの代わりに怒ってくれている。
まるで彼となにかが繋がっているかのように、それが分かった。
「なにかと思えば。生きてさえいれば何度でもチャンスはあるんだ。くだらん」
「たくさんの艦娘が沈んだんですよ」
ソレは、くだらないと言った。
僕の僚艦が、僕たちの仲間が沈んだこの場所で。ソレをくだらないことだと言ったのだ。
「だからなんだ、アイツらは兵器だぞ? 代わりは在る。装備のために士官が死んでどうする」
僕の気持ちは隣に立つ彼にも伝わっている。彼が僕の気持ちに応えてくれていることもまた、僕には分かる。
人間と繋がるこんな気持ちは初めてだ。彼だからなのか、こんな状況だからかは分からないが、彼の思いが僕の力に、僕の気持ちが彼の思いへと循環していっているようだった。
「敵は個々の考えで攻撃しているだけだ。十分撃退する目もあったはず」
そして、二人の会話が遠ざかっていった。
聞くに耐えない。これ以上一言足りともこの醜い雑音を耳に入れたくない。
聴覚が麻痺し、視界が闇に閉ざされていく。
その闇の中で、鳴り止まない砲撃に被さるように1発の銃声が響いた。
「貴方に指揮官の資格はない」
「き、貴様ぁぁ……」
彼が、上官であるその男を撃ったのだ。
どこか遠いところの出来事を見ているようだったが、僕は後悔もしていた。
もしかすると、僕の心に澱のように溜まった薄暗くドロドロとしたなにかが、彼に伝わり引き金を引かせたのかもしれないと、そう思ったから。
基地司令官だった男が拳銃を手にし、彼に狙いを定める。その銃口を向けられた先は間違いなく彼だったが、その銃口で狙われたのは僕のようにも感じる。
この瞬間、確かに僕は彼と一つだった。
その男がそれが成す前に、腹に響く砲撃音が辺りを覆った。
「佐世保の時雨も……看板かな」
彼女は、ポツリとそう言った。
どのような状況であっても、艦娘が人間に危害を与えてはならない。ましてや殺害するなんて以ての外だ。
彼女はそれらを分かっていて、それでも、ここで沈んでいった艦娘たちのため引き金に指を掛けたのだろう。
「殺したのは時雨でも、殺させたのは俺だ」
素直な気持ちを口にする。
俺の殺意を時雨が撃ったのだ。
俺の指が彼女の砲を撃たせたのだ。
「時雨は俺の命令に従ったまでだ」
そう言って、男は時雨の頭に手を置きグリグリとなぜ回した。
幸い死体はバラバラに弾け飛んでいる。平時なら問題だが、今は有事だ。事の真相が表沙汰になることもないだろう。
あの男が死んだ事実だけが残ればそれでいい。
どこか冷静に、そう考えた自分に少しだけ驚いた。戦争は人を変えてしまうらしい。
それはこんな短期間で如実に現れるものだと知って、それで驚いたのだ。
「俺の命令だったとは言え、艦娘が人間を殺すなんてあってはならない」
だから、これから始めるのだ。
俺たちの戦争が、今から始まるのだ。
「これで、俺と君とは共犯者だ」
「共犯……」
人が人を裏切らないことを担保するのに1番信頼できるのは罪の共有だ。女性と行う内緒話は必ず漏洩するとも聞くが、彼女は信頼できるだろう。ただの予感だ。
「お前は俺の秘書艦になれ」
そう言った彼が手を伸ばす。
ゆっくりと頷いて、時雨がそれを受け入れた。
「そうだね。じゃあこれから僕は、君を見張っていなくちゃいけないね」
なんだろう、許されることではないが、スッキリした気持ちだった。
彼と繋がるこの気持ち。これが僕の罪の形だ。
手放すことなく、そして忘れることのないように。彼と生きていこうと心に決めた。
「さて、霞たちを待たせるわけにはいかないし、そろそろかな?」
「すぐに戻るから心配しないで。君から目を離すわけにはいかなくなったからね」
名残惜しい体温にひと時の別れを告げ、夜の海へと降り立つ時雨。
しまったな、なにがなんでも帰ってこなければいけなくなった。
少しだけ、面倒な夜になるかもしれないね。
そんな風に思った。
「お前は俺の秘書艦(もの)になれ」と言いたいところだが、自粛。
やらなかったわけだが、時雨は「俺のもの」と言われたら喜ぶような気がしなくもない。あくまで気がするだけだ。
ソロモンもボチボチと進んでおります。