少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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84話「〜綾波と昭南島〜」の前日譚。

提督がシンガポールに出向くのに、綾波が着いてきたその理由。



〜百花繚乱乙女戦〜

本日も相変わらずの無風。

勝手に寝床にしている本舎内の部屋から執務室へ直行という生活スタイルなので、空調の効いた屋内から出ることなく1日を終えることができるのが救いだ。

 

毎日こんな生活をしていたら体にも良くない気もするが、入浴と食事はさすがに俺が出向かなくてはいけないので、一応まったく外に出ないなんて状況は回避している。

紫外線は心身を健康に保つために必須だとも言うしな。散歩がてら基地敷地内を歩くようにしているので、不健康な中では健康的な部類だと思う。

 

 

さてさて、執務室で直近のスケジュールを確認していたところ。前々から予定されていたシンガポールでの会合の日時が決まったとの連絡がきていた。

不定期で開催される、地元の企業やセレター軍港の責任者を集めて悪巧み的な話し合いだ。今のところうまい具合に事業は回っているが、代表者が顔を合わせてそれぞれが当事者の一員だと意識させる集いは頻度を間違えなければ非常に有効である。

内地の企業が特に意味もなく、全国に散らばる責任者を集めて行う会議なんかと一緒にされては困る。

 

会議が目的ではなく、目的のための会議なのだと奴らは学ぶべきだろう。

 

 

驚くべきは、通達された予定日が明後日というところだ。

確かに、参加するのはそれぞれ別の世界と立場で多忙を極める人材たち。集めるだけでも一苦労なことから、そちらの都合にある程度合わせますよ。なんて言っておいたわけだが、俺がそんなに暇そうに見えているのか?

 

幸い今は作戦の予定もなく、ある程度自由の効く身ではある。

地盤固めこそが急務である俺が参加しないなんて選択肢はないので、出向くんだけどさ。

 

問題になるのは俺と一緒にシンガポールへと行く艦娘のほうだな。

彼女らは護衛に哨戒に訓練に、その合間には座学まで詰め込まれた生活を営んでいる。

 

今日言って明後日に、誰か一緒に行ってくれない? なんて軽々しく決められるものではないのだ。

前泊するならもう明日にはここを出る。会合の後に一晩泊まるなら3日はここに戻って来られないことになる。

 

新たな案件が出たならまずは相談。

社会人の基本は「連装砲」。つまり「連絡」、「相談」、「報告」だ。

蛇足になるが、仕事の8割は「確認」でできていることも合わせて覚えておいてもらいたい。

 

 

本日のこの時間は、みなさんまとめて港にいるだろう。

今日は輸送物資を山ほど積み込んだ船がリンガに到着する日なのだ。頼んでおいた物品に目を輝かせながら受け取る……前に資材や備品を総出で倉庫などに搬入する仕事をやっているはず。

乙女にさせる仕事ではないが、いかんせん人の数が足りていない。もうちょっと資金に余裕ができてきたら益々の人員を確保しなければいけないな。

 

さて、炎天下で肉体労働に励む少女たちの美しい汗でもおがみに行こうか。

そんなことを考えながら、汗一つかいていない俺は執務室を出るのであった。

 

 

 

港に着いたころには、どうやら一仕事終えたところだったようだ。

輸送船の護衛をしていた阿武隈たちが船員に労いの言葉を掛け、艦娘施設のほうへと引き上げていく。入浴してから休息に入るのだろう。

良かったらお背中でも流しますよと彼女らに声を掛けたが、阿武隈に断られてしまった。

雷を見習え、彼女など「あら、それなら私が司令官の背中を流してあげるわ!」と言ってくれたのに。

六駆のみなさまを餌に阿武隈を釣る作戦はこうして失敗した。

 

 

忘れるところだった。

ここまで出向いた目的はそれじゃない。

建物の影になっているところで車座を組むように休憩している時雨たちに出張兼臨時休暇になるシンガポール行きを伝えねば。

 

基本的には俺の警護なわけだが、この娘さんたちは俺と一緒にいるときは常にナチュラルな警護をしてくれているので、改めての任務といった風でもない。頭が下がるばかりだ。

 

なので、今回急に入ったシンガポール行きは艦娘たちにとっては臨時休暇で街までショッピングといったところ。

俺とのデートひゃっほぅ! ではない。残念ではある。

 

 

あぁ、いい匂い。

今不自然な感想が口から漏れたが、スルーしてくれ。

 

伝えられた新しい任務について、休息中の艦娘さんたちが話し合う。

一人が「僕は経験者だよ。ここは僕が行くのが一番じゃないかな?」と言えば「待って待って、経験を積ませるためには未経験の村……私こそが行くべきじゃない?」との意見が出る。

「警護なら私が行くのが当然っぽい」との声が上がれば「私も警護艦ですよー」と微笑み顔で反論される。

 

 

いつまで話しても誰も折れず。それぞれの意見は平行線をたどった。

 

「どうすんの?」

 

その様子に提督が声を掛ける。相手はもちろん霞だ。

こんなことに費やす時間はない。そう呟いた彼女が動く。

 

これで決着だろう。

鶴の一声とは言うが、ここでの霞の一声は天上の一声に等しい。

またこの理性的な駆逐艦が判断したことであれば、納得のいくいかないではなく。それも止むなしとの説得感がある判決を出してくれるだろうとの信頼も確かにあった。

 

 

起立して注目を一身に浴びた霞は、そしてこういうのだ。

 

「殴り合いで決めましょう」

 

 

 

駆逐艦による理知的な、そして物理でのお話し合い。彼女ら駆逐艦は最後の最後、「勝利は実力でもぎ取れ」という熱い信条を魂に刻んでいたのだった。

一応理知的な部分としては、陸上で俺の警護をするのに弱い艦娘には任せられない。そんな建前だ。

この場にいる全員が、そんなに休日を欲しているのか? と問われれば。それはきっと違う。

勝負であれば勝たねばならないといった、格闘家や戦闘狂のようななにかが彼女たちを動かしている部分が多分に含まれていることだろう。

本来の目的を忘れた姿と言い換えることもできる。

 

 

 

その結果。死屍累々となったその場には、綾波だけが微笑みを浮かべて立っていた。

 

 

結果だけみれば、そりゃあそうだろうとも思えるが、時雨と示し合わせて場を支配した夕立と、それをさらっと裏切る時雨。

白露をけし掛けるも背後から村雨に首を決められた長波など、みどころ満載のキャットファイトになった。

「かわいいね!」と言っていたかわいい駆逐艦が早々に涙目を浮かべて撤退したのは良い判断だったと俺は思う。

 

 

さぁ想像してみてくれ。うら若き乙女たちがその短い制服姿で、身体能力の限界に挑む本気の格闘戦を繰り広げたのだ。

 

そこはもう満開のお花畑。

 

誰のとも分からない鼻血などが飛び交う素敵な桃源郷ではあったけど。そんなことは些細なことだろう。

そう思えるようになって、初めて彼女らの指揮官になれるだけの資格を手に入れるのだ。

 

 

俺などは、霞の後ろ回し蹴りが綾波の脇腹に突き刺さった辺りで霞の勝利を予感したものだが、胃の内容物を口からリバースさせながらもその足ごと霞を抱えて垂直に落とすかのように芸術的なバックドロップをコンクリ地面に叩きつけた綾波のほうが1枚上手だった。

 

俺のわずかばかりの知識を駆り出せば、その技はリングの上以外で使ってはダメだろう。というより、可憐な少女たちがケンカで使うものではあるまい。

形容し難いすごい音がしたからな。霞じゃなければ死んでいたかもしれない。俺は、綾波を怒らせるのは止めておこうと新たに学ぶことにも成功した。

 

ちなみに俺的今回のMVPは、大粒の涙と鼻水を垂らしながら後ろから時雨の脳天にかかと落としを決めた白露に差し上げたい。

 

 

予想を尽く外したおかげで結構な賭け金を失ってしまった俺だが、スカート姿のまま美しいブリッジを決めるゲロにまみれた綾波や、完全に衣服がめくれ上がっているせいでかわいいお尻を見せつけてくる、泡を噴いて失神した霞にイタズラする時間を手に入れるなど、終わってみればなかなか充実した催しになったものだと思う。

実は俺の一人勝ちのような気もする。

 

 

ともあれだ、花が咲き誇るかのように刺繍されたちょっと大人っぽい下着に合わせて鼻血も咲き誇らせている彼女や、スカートの辺りから染みたものでコンクリートの上に予期せず地図を描いてしまった彼女。

性犯罪に巻き込まれたあとのように破れてボロ布のようになった元制服を肌にまとわせて意識混濁中の彼女たちの後始末をせずこの場を離れることはできないだろう。

 

一人立っている綾波も、その場から一歩たりとも動いていないので実はカナリ限界なのだと思われる。

無理もない。日本刀を突き刺したかのような凄まじい蹴りだったからな。俺なら口から内臓を吐き出していただろう。

 

しかしとりあえず立ってはいられるようなので、まずはそこにしゃがみ込んで号泣している春雨を医務室に連行するとしよう。

村雨と夕立がさりげなくかばっていたようだが、ダメだよ春雨ちゃん。

君はこんな修羅が暇潰しに行う戦神たちの遊びに参加しちゃいけない子なのだから。

 

 

そうして俺は、頬に強烈な紅葉を貼り付けた春雨の腰を抱えるようにしてその場を去った。

しばらくしたら戻って来るから、それまでは大人しく寝ていろバカどもめ。

 




どれが誰かは、彼女たちの名誉を傷つける可能性があるので明記していません。

それぞれ思いおもいの子を当てはめてみよう。
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