少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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長く続いた最初の逸話。
100話を超えてようやく……。

ちょっと駆け足気味だけど、今はとにかく形になったことを喜びたい。
え? 位置取りが謎?

はい、そのとおりだと思います。
佐世保の地図と睨めっこしながらなら、なんとか補完できるかもしれない……。

佐世保オンリーも大盛況だったようですね。山田さんの友達も楽しんできたそうで、なによりです。
「旅をしない音楽家は不幸だ」で佐世保には遊びに行っています。未読の方はぜひに。



〜邂逅の夜〜終

「提督!」

燃え盛る炎の街道を抜け、彼と別れたあの場所へとたどり着いた。

 

なにをするでもなく、たおやかな佇まいで海を眺めている男を見つけた時雨がその胸に飛び込む。

海水を被って炎の中に飛び込んだのか、時雨は頭から全身びしょ濡れだった。

驚いた男が飛び付いてきた時雨と、後から駆けてくる同じく水の滴る伊勢とを交互に見やって口を開いた。

 

「どうやって……いや、なぜ戻ってきた」

「もちろん走ってだよ」

 

まさか艤装を担いだまま、焼け落ちて瓦礫の山となった、炎に炙られた道なき道を踏破させられることになるとは思わなかった。

伊勢がその過酷な障害物走の感想を言う。

「主砲を担いで走るのは、できれば頻繁にやりたいものじゃないわね」

 

この短い間に何度か見た、困ったような笑顔をした伊勢が肩で息をしていた。その顔は、今まで見たものよりずっと彼女に似合っていた。

 

 

「君は僕に言ったじゃないか。僕は……秘書艦で、君の共犯者だよ! 提督……。提督の隣が僕の居場所だ」

なにがあってももう離れないと、全身を使って伝えているようだ。

時雨は男にしがみ付いたまま、涙の跡を男の胸元に染み込ませていく。

 

 

「貴方は、指揮はここまでと言った。なら、貴方を助けに戻るのも、命令違反ではないわよね」

悪戯を成功させた子供のように伊勢が言う。

また彼女の新しい一面を見せてもらえたようだ。

本当の彼女は、きっと天真爛漫で憎めない女性なのだろう。

 

 

一頻り再会の思いを叩きつけたなら、また走り出さなければならない。

みんなで朝を迎える。それだけのことが、こんなに大変な夜になるとは想像もしていなかった。

 

「私たちを助けると言った指揮官を置いていっては、戦艦の矜持は保てないのよ。なにか方法はない? 無理なら担いででも貴方を連れ出すわよ」

 

走ってきた道は炎で埋まり、とてもじゃないが生身の人間が走れるような状況ではない。

頑丈さが取り柄の時雨たちでさえ、ちょっと髪が焦げてしまったほどだ。

あの炎の中を走り抜き、ちょっとで済むほうがどうかしているのだけれど。

 

 

 

 

さて、物騒な物言いをする伊勢だが、その発想は悪くない。

むしろ、それこそが一筋残された光明だろう。

 

「そうだな、なら担いでもらおうか」

伊勢が比喩的に表現したそれを、唯一の解決策だとでも言わんばかりに口にした。

 

 

 

 

伊勢の艤装に乗って、俺たちは一度海を渡る。このまま港外に向かうとはぐれた深海棲艦に出会す可能性があるからだ。

 

この突堤から係船池を挟んだ先は時雨の艤装が置いてあったドック。そしてその裏手には最初に霞が護っていた街がある。幸いそちらには火の手が上がっていない。霞の判断のおかげだろう。おかげでこうして上陸できるわけだ。

 

もちろんドック側を歩いていけばそのまま港外まで出られる。港は繋がっているからな。

見てくれは悪いが、海面に立てない人間が船もなく沖に出るにはこれしかないだろう。

 

「艤装に人を乗せるなんて初めてよ」

相変わらず常識から外れた考えだが、これならば深海棲艦に出会うこともなく、1番安全に霞たちと合流できるだろう。

人の持つ柔軟な思考から生み出された起死回生の、それは良い作戦だった。

誰でもを乗せたいわけでもないが、彼ならこの先何度でも乗せて海を往きたいとさえ思える。

 

 

それにしても戦艦というのは凄いものだ。大の大人が乗ってもまるで重さを感じていないかのように、バランスを崩すでもなく海面を駆ける伊勢。

この力強さこそが戦艦なのだろう。

 

 

 

 

「司令官、ご無事ですか?」

「ったく、手間掛けさせるんじゃないわよ!」

 

港外の海で無事に霞たち三人と合流することができた。

深海棲艦たちは思いおもいのまま鎮守府を焼いていたが、好き勝手に離脱している者が出ているのか散発的に聞こえる砲撃音も減っている。

 

この調子なら、改めて艦隊を差し向けることなく、朝日が昇る頃には襲撃も収まっているだろう。

 

 

 

全員で並走しながら海を駆けていると、霞が隣に並んで話し掛けてきた。

 

「アンタ、さっき私のこと『お前』って呼んだでしょ」

真っ直ぐな目を向けてそう霞が言う。

考えてみたら、この子は必ず目を見て言葉を紡ぐ。強い子なのだ。

相変わらずのキツい眼差しをしているが、またその顔を見ることができて嬉しく思う。

まだ数時間。会話だって数えるほどしか交わしていない。でも分かる。

今の彼女は怒っていない。だから安心して次の句を待つ。

しばらくの沈黙のあと、口籠もりながらも彼女はこう言った。

 

「……あれ、不思議と嫌じゃなかったのよ」

 

照れて顔を背けそうなものだが、こんなときでも、やっぱりこの子は目を逸らさずに向き合って話をしてくれる。それはとても格好良いことだと思った。

 

 

 

「俺もお前たちと共に戦って、艦娘の見方が変わったよ。今まで接してきた艦娘はこんなに親しみを持って話してくれなかったからな」

命を預けるに値するのか、正直疑問だったんだ。俺は艦娘という存在を信じきれていなかった。

 

「それは仕方がないわよ。提督と私たちは今日初めて会ったんだもの」

そう言って笑う伊勢に心がほぐされていくのを感じた。

信じて良かった。一緒に戦えて良かった。

 

「そうだな。そのとおりだ」

 

 

 

「お前たちとだったから、生き延びられたんだと思う。作戦は成功だ」

そうして俺は、作戦の終わりを告げた。

 

 

 

仲間を見てみれば、みんな酷い有り様だ。ところどころ破れた服から覗く肌は血と煤で汚れているし、艤装の大部分は欠損しているかあらぬ方向にひん曲がっている。涙の跡が残る目元に、血を拭った跡の残る頰。どこから見ても敗残兵のそれだった。

それはなにより、美しいものだと思った。

 

 

「また、一緒に戦いたいもんだな」

「バカ言わないで、こんな行き当たりばったりの作戦なんて2度とゴメンよ」

 

霞の後ろで顔面蒼白の朝潮がオロオロとしている。横に並ぶ時雨は満身創痍の皐月に肩を貸している。

俺は今も、振り落とされないように格好悪く伊勢の艤装にしがみ付いている。

 

 

月の明かりに照らされた海上を、温かい空気に包まれた一行だけが進んでいる。

 

 

生き延びた安堵感、それをやり遂げた充実感。多くの僚艦を失い、帰るべき鎮守府を無くしたが、そのやるせなさや後悔は胸の奥底にしまい込み、生きる糧としていくんだろう。

これが、戦中を生きるということだ。今だけはこの達成感と共に、生きていることを喜ぼう。

 

それから時雨が流れるように近づいてきて、本日最高の笑顔でこう締めくくったのだ。

 

 

 

「ところで、気が付いているかな? 僕はまだ、君の名前も聞いていないんだよ?」




くぅ~疲れましたw これにて完結です!



嘘です。1話が終わっただけでした。

最後の時雨の一言のために、先に進んだ本編で提督の名前を出せなくなってしまったのでした。


名前のないまま物語はすでに佳境なので、もうこのまま名無しでいこうと思っています。


長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。
山田太郎氏の次回作に期待!


嘘です(2回目)。
そろそろソロモンを進めるつもりです。
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