少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
青春力の暴力装置だ、行っくよー、暗殺暗殺ぅ!
「ちゃー、すっごい炎」
かなりの距離があるはずだが、燃え盛る炎の轟々と鳴る音がここまで聞こえている。
「やりすぎじゃないの?」
手で
ホテルは中層から出火した火がみるみるうちに上層階を飲み込み、まるで巨大な焚き火のようだ。
ま、そうなるように各階に仕込んでおいたわけだが。
鈴谷と同じくそれらを確認していた提督が双眼鏡を下ろして言う。
「部屋だけ大炎上してたら怪しいだろ」
「そうだけどさー。関係ない人たちも大勢死ぬだろうことに対して、提督はどう思ってるのかなー?」
屋上の縁に腰がけた鈴谷がビル風に煽られる髪を抑えながら問いかけた。
「関係なくはないだろ、人類は戦争やってるわけだし」
「戦争ねー、これは果たして戦争なのかな」
「生存権をかけた戦争だって言えば、ちょっとカッコいいだろ」
隣に立つ提督は鈴谷の髪を
「大きな目的を果たすため、人類ってやつにも多少の犠牲くらいは支払ってもらうさ」
さて、いきなり始まりました。
このままだと提督からテロリストにジョブチェンジしたのかと勘違いされる方もいるかもしれません。
提督です。いえ、階級が届いていないので提督ではありませんが、これでも司令をしております。
ホテルの放火はもちろん、無差別テロを起こしているわけではなく狙い撃ちです。
あそこにいたのは各界でそれなりの影響力を持っていたお歴々。人権派とでも評するべきか、どちらかと言えばお友達になれる側の考えを持っている方々でした。
ただし、時勢が悪い。
彼らはこちら側であり、艦娘のために役立つ者だったはずだが、今は邪魔だったのだ。
女性や子供を戦地に送るなど倫理に悖る行いである。などと、人として当然の美しい考えを広められるのは困る。少なくとも戦争の最中に説くことではない。
戦後であれば、こちらから頭を低くして協力を求めただろうことを思うと実に残念だ。せめて、終戦の暁には墓に参らせてもらおうと思う。
「提督は人間が嫌いなのかな?」
この人がなにを見ているのかはわからない。犠牲を人間側に押し付ける考えなんて理解できないが、しわ寄せを艦娘で支払うつもりがないのなら、それは鈴谷にとっては望むべきものではある。
「まさか、考え方の相違だね。艦娘に犠牲を強いた先にあるのは人類の緩やかな衰退だ。いずれ行き詰まるのは目に見えてる。だったら、人を生かすためにまず艦娘を生かさねば」
しゃべりながら、提督の指は髪を離れ鈴谷の頬から顎に滑る。
「言ったろ、多少の犠牲くらいは人に払ってもらうさ。後により多く返してもらえればそれでいい」
「くすぐったいって」
提督の手を掴みながら、もう一度戦火に燃えるホテルに視線を定める。
人の命が燃えている。皮肉にも、その炎はキレイなものとして目に映った。
そろそろ頃合いかな。
せっかくの晴天を全て黒く染めてしまうのではないか、そう思えるほどの煙が立ち上がっている様を眺めていたが、いつまでもソレを見ているわけにもいくまい。
「鈴谷、お前の腕なら造作もないだろ」
1,300mは離れており、高層を吹く風が荒れ狂って軌道を不規則なものにしているのがわかる。しかし、狙うのは容易かった。
「窓に穴開けるだけっしょ? そんなの狙う必要もないくらいだねぇ」
窓越しの狙撃が命じられているわけではない。ただ、窓を狙うだけだ。
鈴谷にとっては取るに足らないミッション。
屋上の縁に寝そべりスコープを覗く。艦娘の視力であればスコープさえ必要としない距離。
「今回はソレの実地訓練も兼ねてるからな、実戦で使って初めてわかるものもあるだろ」
鈴谷の隣に腰がけ双眼鏡を覗く提督が鈴谷の構えるソレを撫でるようにして呟いた。
「なんだ、鈴谷のお尻でも撫でたいのかと思ったよ」
「お前の尻を撫でたいのはいつでもだが、作戦行動中くらいは真面目にもなるさ」
初めてそれを知ったとき、その滑稽さに声を抑えることができなかったものだ。一瞬で人の命を吹き消すものに人道的も非人道的もあったものじゃない。
現に人によっては、痛みを感じる前に絶命させるこの銃を指して、なにより人道的な殺傷兵器だと言うものもいるのだから。
特に提督としては、艦娘のためにも非人道的だなんて馬鹿げた話に頷くわけにはいかない理由もある。海上では艦砲をばら撒いているのだ。今さらこんな豆鉄砲に対して思うことなどあろうはずもない。
「いけるか?」
「いつでも」
「撃て」
瞬間、鈴谷の指が引き絞られ
高層階の分厚いガラスを物ともせず粉砕したと同時に、対象の部屋が炎を吹き出した。
「うわー、アレは助からないわ。火炎放射器より酷いねー」
「なんで窓撃っただけであんな?」
「バックドラフト現象、高級ホテルの密閉度が仇になる典型だな」
「バックドラフト? 聞いたことあるようなないようなー、またエッチな話だったりする?」
「しねぇよ、なんでこのタイミングで下ネタ挟むんだよ。密閉された空間で不完全燃焼してるところに外から大量の空気を送ってやると、飢えている炎さんが我先にと新たな燃料に食いついてくる。そういう現象」
「ふーん。微妙にわかりにくい説明ありがと、帰ったら霞に聞くよ」
放っておくとホテルの方はフラッシュオーバーを起こしキレイに燃えてくれるだろう。足が残るようなお粗末な仕掛けはしていないつもりだが、燃え尽きてくれた方がなにかと都合がいい。
もっとも、強く疑われることになるのは艦娘を軍の備品として戦争に活用したい層になるだろうから、こちらにとっては些細なことではある。
「あれは肺の中まで真っ黒だね。提督はきっとロクな死に方をしないねぇー」
「あれ? 実行犯はお前じゃないの?」
「鈴谷は提督に使われる兵器ですからー、責任も罪も人の業ってやつも、全部提督に乗っかるんじゃん?」
スコープを覗き込み黒煙を吹き上げる様子を観察しながら、引き金を引くのはいつだって提督なのだと鈴谷は告げる。
それが兵士としての鈴谷だとしたら、もう一つ、彼女には別の顔も確かにあるのだ。それを思い出したのか、オマケだと言わんばかりに付け足した。
「ああ、もちろん戦闘行動中だけだよ。日常の鈴谷は艦娘として自由意志で生きてるんで」
これが鈴谷の強さだろう。
彼女は兵士として、そして艦娘として生きているのだ。
人も艦娘も変わりなどない。そうやって割り切れないと擦り切れていくばかりで、誰もが正気ではいられない。多分、それが戦争との正しい付き合いかたってやつ。
だからこそ鈴谷は信頼できると思う。
「いい性格だな。まあいい、撤収するぞと」
「ちよっと待ったぁぁ、なんで今鈴谷のお尻叩いた?」
立ち上がるついでに柔らかいお尻を叩いてやっただけだが、清純鈴谷には荷が重かったようだ。
「危ねぇな、そんなデカいもん振り回すな、俺が落ちたらどうすんだよ」
「知らないよ、落ちて骨折でもすればいいじゃん」
ここがビルの屋上だと忘れているんじゃあるまいかと思ったが、どうやらそれは覚えているらしい。
わかっていて落とそうとしているなら本当に危ない奴だ。
「こんな高さから落ちて骨折で済むようなら深海棲艦とも戦ってやるわ」
「提督は空中戦なら分があるんでしょ? 試してみなさいよ」
それは俺じゃないし、そもそもそいつは空中戦でも負けていたはずだ。
鈴谷へのセクハラは時と場合を考えてやらなければ、文字どおり命に関わるのだと学習した。
「しっかしどうなの、これは非人道的かな?」
幾分か冷静さを取り戻した鈴谷が小悪魔的スマイルを浮かべ、一仕事を終えた新しい相棒を大型ケースに仕舞いながら提督に問いかけた。
「さあ? 救助の手助けにでもなればと思って窓撃ち抜いただけだし、火事で死んだんだから事故死じゃないか?」
対物ライフルでぶち抜かれたなら即死するだろうが、バックドラフトに巻き込まれた人間がどのように死を迎えるのか、生憎とそのような知識は持ち合わせていない。
ただ、戦死ではないのだから人道的も非人道的もないだろう。事故とは常に不条理で、誰の身にも起こりうるものだ。
「他の子には頼めない任務だねぇ」
「お前には付き合ってもらうからな、心配ならカウンセリング受けとけよ」
「要らないよ、鈴谷これでも尽くすタイプなんです。兵士の戦争なんて視野狭窄くらいでちょうどいいんじゃん」
バッグを肩に担ぎ上げて、恋は盲目ってやつかなーと、笑った。
「どったの?」
気付けば提督と目が合った。改まって見つめられると少し恥ずかしい。顔が赤くなっていないことを祈ろう。
「あれ、鈴谷がかわいいこと言ってるなって」
「あれ、提督の目は開いてないのかな? 鈴谷はいつだってかわいいはずなんだけど」
どんな笑顔でも素敵なヤツなのだが、自然体で笑う鈴谷は本当に魅力的だ。背負ってる物騒な物に目をつぶることができれば、街を歩く青少年の九割を振り向かせられるだろう。残りの一割は残念ながら特殊な性癖を持っているに違いない。
「で、兵士鈴谷さん的にはどうだったの? その銃」
「艤装なしで使うにはちょっとしんどいね、でも実戦でも問題なく使えるよ。癖も覚えたから次は頭も狙えるねぇ」
大型銃を軽々と持っている鈴谷がしんどいと言ったところであまり信憑性はないものだ。ひょいひょいと持ち歩いて使う類の物でもないしな。
とはいえ、ビル風の強いここで長々と話していても得ることはなにもないだろう。
まだまだ桜の咲き誇る季節ではないが、この強い風が鈴谷のスカートをめくり上げ、別の意味での美しい花が顔を覗かせやしないかと期待もしたが、それも望めそうにない。
なんでだか、コイツのスカートはやけに防御力が高いのだ。さすが戦術行動の申し子と呼ばれる鈴谷なだけはある。
隙だらけで大胆に見えるのに、その実ガードが硬いところなどは非常に鈴谷らしい。
風の精霊が起こすイタズラが望めないのであれば、早々に事件現場から立ち去るのが正しい犯人のあり方というものだろう。
鈴谷の撤収準備が終わったことを確認すると、足を出口に向けながら本日の感想を一言。
「物騒なやつ」
「女の子はちょっとくらい刺激的な方がかわいいんですよーだ」
そう言って鈴谷が右腕を絡めて歩き出す。そのまま引っ張られるように屋上を後にするが、このまま基地に帰るだけというのも味気なく、またもったいない気持ちにさせられる。
「甘味処でも寄ってくか」
「お、わかってるじゃん」
グイグイと胸を押し付けるように密着する鈴谷。俺の腕が見えなくなりそうだ。
こいつの純情がわからないが、とりあえず今は右腕に意識を集中させよう。甘味一つでこの感触が味わえるなら毎日でも連れ出してやりたいと思った。
その場合、物のついでで暗殺される方々には申し訳ないが、一年も続けたら世界もちょっとは平和になるだろう。
ずっと先の番外編でした。
彼女が仲間になるのが今から楽しみですね!(他人事)。
小ネタ
【 他人事(ひとごと) 】
もともとは「人事」でしたが、これだと人事なのか人事なのか前後の文脈で判断しなくてはならず、それは親切じゃないねってことで「他人事」が使われることになった。
ね、分かりづらい。
そんな経緯から「ひとごと」は「人事」でも「他人事」でも間違いではないが、上述したように親切な文章を書くなら「他人事」のほうがより良いと思う。
「他人事(たにんごと)」は完全なる誤読。
100年後にはセーフかもしれないが、今はまだ間違いなので注意。
ラヴィジュールは、ちょっと大人な意識が芽生える年齢でも手が出しやすいお値段設定が嬉しいランジェリーブランド。
「マジか」なデザインのアイテムもあるが、下品ではないセクシーなアイテムもある。
なにが言いたいかって、イラストレーターの皆様方にはぜひ下着にこだわっていただきたい!(血涙)。
特にブラジャー。十代半ばを過ぎて、それなりのサイズをお持ちな女性でブラを着けていない人がいたら、それはエロいというより逆に怖い。
家庭環境とか本人のいろいろとか、妙な心配をしてしまうじゃん。
悪いわけではないか、二十代好青年脱いだら白ブリーフくらいの違和感がある。
そして、エロと下品は別物であると知ってほしいのだ。