少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
細々とした話し合いが終わったあと、彼らの本当の任務が始まる。
「艦これ、始まります」の後くらいの話。
連続して耳に届く射撃音。
その音に合わせて整備された床が、壁がめくれるように剥がれていく。綺麗に並べられた植栽や商品をなぎ倒し、自分の時間を楽しんでいた人々が恐怖の声をその音へ被せ、戦場の音楽を作り出す。
「残弾が
撃ちきったマガジンを交換しながら時雨が言う。手にした拳銃で襲撃者を牽制するが、それもいつまで保たせられるのか。
「さすがに箱で持ち歩いたりはしてないからね。肉弾戦の覚悟もしておいてよ」
それに同調したのは隣で応射を続ける霞。流血の影響か、額には玉のような汗をかいていた。
なぜこんなことになったのか、なぜ僕たちは襲われているのか。
こんな世の中だ。
日常はこんなにも簡単にその薄皮をめくり上げられ、容易く戦場へと変わってしまう。
提督の言葉が思い出される。彼は「貧すれば争いを生む」と言っていた。
世界で頻発する争いのほとんどは、満たされていれば起こらないものなのだと、そう教えてくれた。
満たされてさえいれば、世の争いは今より下らない、血の流れない別のものに変わるのだとも言っていた。
「どちらがいいかと聞かれたら、俺は血の流れる争いのほうがマシだと思うけどな」
それはなぜかと聞けば、彼は「心の傷は放っておいても膿むばかりだ」と、目を伏せて言った。
僕はどちらのほうがいいと考えるのか、その判断は保留にしておこう。
とりあえずは今日のお出掛けを終えて無事基地に帰る。そして、戦争を終わらせたのちに、また考えるとしよう。
───休符───
リンガでの生活を始め、当初の予定どおりに近隣の海運を牛耳る。
そのための第一歩をセレター軍港の責任者との話し合いという手段で踏み出したところだった。
提督は、軍人になっていなければきっと営業マンか詐欺師になっていただろうと思う。そんな話し合いだった。
セレターには所属艦娘の全員で行った。
早速基地を空っぽにしてのお出掛けに思うことがないでもなかったが、だからと言って誰かが一人、二人残されてのお留守番なんてのも御免被りたいと、きっと全員が思ったことだろう。
結局、いっそ全員で出掛けられるのなんて今くらいじゃないか? と言った提督の案に乗り、
セレター軍港にて輸送護衛やルート、頻度などの打ち合わせをし、ついでに輸送班の人員をローテーションでリンガにも回せるように話を詰める。小島で生活していたときにお世話になった、あの輸送班の軍人さんたちを特に所望しているとも伝えることができた。
きっと、数日後には忙しく基地内を走り回っているはずだ。
その後、提督は調達部門の責任者となった阿武隈を連れ、金剛の案内で地元の企業を順に回って顔を繋いだ。今後のお得意さんになる予定だとホクホク顔で出掛けていき、残ったみんなは物資の積み込みを手伝ったり、輸送護衛の話し合いをして過ごす。
そうやってして3日ほどセレターに居座り、本日は街まで出向いてのショッピング。
基地で生活するために必要となる物をまとめ買いしていかなければ、まともな生活も送れないほど足りない物が多い。
今日1日かけてなんでもを買い漁り、さらに1泊して明日は朝から品物を適当な船に積み込んで基地へと帰投する。そんな予定だった。
「今日は街の宿で寝るぞ。ギリギリまで買い物をして、朝にはセレターだ。おっと、部屋については期待するな。倉庫のようにだだっ広いだけがウリの雨風しのげる寝床だと思ってろ」
買い物に出た提督がまず発したセリフがそれだった。
両手いっぱいに荷物が増えるたび、本日の宿と言われた場所へと荷物を置きに戻ったが、そこはまさしく提督の言ったとおりの部屋である。
「これ、今夜も雑魚寝ですかー?」
何度目になるのか、荷物を置きに戻ったとき。すでに買い物疲れの顔をした阿武隈が提督に訊ねた。
「資金的な問題だ。文句あるのか?」
「たまにはゆっくり寝たいんですぅ!」
「いつもゆっくり寝かせてやってるじゃねぇか、寝言を喋るくらいにはゆっくり休めてるよ、お前」
「どの口で言うんですか! あと寝言聞かないでくださーいー! それがゆっくりできないって言ってるんですぅ!」
提督と阿武隈の掛け合いはもう見慣れた風景のようだ。
初めの頃は時雨や六駆のみんながそれぞれフォローに入ったりもしていたが、この二人はこれでイチャついているのだと判断されてからはスルーが基本となっている。
◯ムとジェ◯ーなのだと霞は言っていた。
最初のうちは新生活を彩る買い物も楽しかったが、短期間にこれだけお金を使うと気疲れがすごい。
みるみる減っていく財布の中身を思うと胃まで痛くなってくるようだ。
そんな買い物の中で購入した商品の一つが面白かったので紹介しよう。
それは「跡が残らないピンチハンガー」と呼ばれる物。ステンレスでできており、ちょっとお洒落な物にも見えてくる不思議な商品で、別名をランジェリーピンチとも言う。
そうか、気にしたこともなかったが、洗濯バサミの跡が残ったりするものなんだな。まだまだ俺の知らない知識は多いらしい。
あとの問題は、それになにを干し、どこに干すのかだ。いや、なにを干すのかは分かっている。どんな物を干すのか、と言っておこう。
内地では室内干しをしなければ白い目で見られる世の中らしいが、小島での時雨は日陰ではあったが普通に外に干していたからな。北方? 外なんかに干しても乾かねえよ。
そして順調に買い物は進み、ようやく訪れたのは今回の任務での1番のお楽しみ。
「さて、あらかた買い物は完了だ。あとは個々人にとって必要な私物を見繕うか」
そう言った提督が艦娘たちを並ばせ、「無駄遣いはするなよ」と言いながらお小遣いを渡していく。
金額は驚きの3桁万円近いものだが、それを時雨、霞、金剛、阿武隈、皐月に六駆の四人で等分。
最低限の服飾と化粧品、日用品。もしかするとちょっとした趣味的な物。それだけ買えば資金は手元に残らないだろう。
「こんなに、いいの?」
手渡されたお金を見て心配そうな顔をする霞。その問い掛けには、大丈夫なのか? という意味も多分に含まれていただろうが、必要ならば捻出するしかないのだ。
「お前らほとんど着の身着のままだけしか私物ないだろ?」
しかも着ている服は制服だったりもするのだ。年頃の少女にさせる生活としてはあまりに不憫。身銭を切ってでも彼女たちには笑っていてほしいと思うのは男のエゴでもある。
「好きな物をって言ってやれるだけの金はないが、近いうちに贅沢させてやる予定だ。しっかり買って女を磨け」
そうして、本日の買い出し最終便がいよいよスタートすることになった。
目的のショッピングモールに到着し、ゾロゾロと連れ立って買い物を楽しんでいたが、さすがにこの人数は目立つ。
とにかく艦娘は美人揃いで、男は一人。控えめに言っても飛んでくる視線は突き刺さる系のものが多い。
「二手に別れるか」
「組み分けはどうしマスカ? Second squadのリーダーはワタシでいいカナー?」
買い物を任務のように言うな。もっと楽しいもんだよ?
年齢……の話は置いておいて、本来分けるなら金剛のプランはベストだろう。
しかし金剛には今後必要となる物を買わせなくてはならない。
そう、ドレスだ。
心配しなくても俺は正常だ。
ついにおかしくなった。なんてわけでもなければ、いかがわしいコスチュームなプレイがしたいわけでも、シチュエーションプレイに目覚めたわけでもない。
したくないわけでも目覚めたくないわけでもないが、今回はちゃんとした目的と理由がある。
「いや、金剛には別予算で買わせなきゃならん物があるから、俺と別れると支障が出るなぁ」
「あ、それならワタシが六駆のみんなと買い物しまーす」
うむ。金剛が班長をできないなら、順当にいくと阿武隈班になるだろう。
俺、時雨、霞、金剛、皐月の班と、阿武隈&六駆班。人数的にもバランスはいい。いいが、一言伝えておかねばならんこともある。
「今ちょっと嬉しそうじゃなかったか? 俺から離れられてホッとしてるのか?」
「言いがかりです!」
ちっ、仕方がないので少しの間だけ解放してやる。だがお前はルームウェアを買うんじゃないぞ。そんな無駄な物を買うお金はないのだ。
「むぅ、放っておいてくださーいー!」
二手に別れた一行。
提督サイドがまず立ち寄ったのが化粧品売り場だった。
はっきり言って面白くもなんともない。美しく化粧を施した後の顔なら何時間でも愛でていたいが、それを作る過程には興味がないのだ。
どうせなら服屋にでも行ってファッションショーを見せてほしいと思う。なのだが。
「女性にとっての化粧は装備と同じデス。戦場に行くのに艤装を身に着けない艦娘がいますカ? いないデス。女の戦場はこの日常でも展開されているのデス」
などと熱く語る戦艦がいた。
そうなのか。お前らはどこででも戦っているんだな。
ならば、海戦での俺がそうであるように。乙女の戦場も各艦に任せることにしよう。
どちらも俺が口出しするより、当人たちのほうがその戦場をよく知っているだろうから。
ショッピングモールの略図を確認しながらそう思うのだった。
そろそろ艦これのイベントを終わらせようと思う。
さて、頑張るか。
しっかし世界大恐慌前夜みたくなりましたね。
ホリエモンじゃないですが、コロナ不謹慎厨はその行為が国を殺しているのだと自覚しながら発言したほうがいいね。