少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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朝潮型はガチ。

朝潮型駆逐艦は軍縮条約を破棄した後に造られた艦型。
流れとしては白露型の後の艦だが条約型の白露たちとは違い、その系譜は特型にある。

朝潮たちは駆逐艦に革命を起こした特型の子孫なのだ。
つまりガチ。




〜月に叢雲、花に風。〜2

時雨たちを引き連れ、買い物を続ける提督たち。

戦時中ということもあり、往年の賑わいもなければ充実した品揃えというわけでもないが、それならそうと順応するのが人間である。また先の大戦を戦った記憶と、艦娘になってから戦ってきた経験しかない彼女たちもこのひと時を楽しんでいる様子。

 

 

たまにはこんな時間も悪くない、と霞は思った。

性格的にあまり素直には伝えられていないが、ワタシたちを連れ出して様々な経験をさせてくれる提督には感謝している。

 

そんな満足のいく時間を過ごしているときだった。

 

 

「なに?」

咄嗟に提督を引きずり倒し、自らも身を低くした霞。

演習ではなく実際に狙われるのは初めてだったが、繰り返し行ってきた訓練は無駄ではなかったらしい。耳に馴染むこの音は自動小銃の射撃音。多くの実戦経験者がそうであるように、発砲音を聞けば無意識のうちに体を伏せる。判断するより先に体が動いたのは僥倖。

 

 

「こっち」

民間人の悲鳴が飛び交う中で素早く退避ルートを策定した時雨が合図を寄越す。すでに提督を小脇に抱えるようにした金剛が皐月を連れ立って手近な店へと駆け込んでいくところだった。

 

「なんなのよったく」

兎にも角にもまずは足止めだ。

状況はまったく分からないが、自らの司令官をみすみす危険に晒す真似などできない。

脅威は排除する。敵が何者なのかもその目的も、そんなものは後でいい。願わくば民間の被害が出ないことを祈るばかりだ。

 

階段の陰に身を隠しながらスカートの下に仕込んだ愛用のPPKを引き出す。同時に耳元のインカムで阿武隈を呼び出すと、待っていたかのようにすぐ応答があった。

 

「今、射撃音が聞こえた気がするんですけどー」

「正解よ。アンノウンから銃撃を受けてる、第1射から推察するに訓練された人間のようだけど、ワタシたちに致命傷がないところをみると特殊部隊ってわけでもないようね」

 

特殊部隊とやらがいかほどのものかは知らないが、少なくともこの程度の輩が名乗れるくらい安いものでもないだろう。

艦娘を狙ったのか提督を狙ったのか分からないが、もしソレの指揮をワタシが執っていたなら初撃で確実に目的を達していただろうからだ。

 

「よかったです、被害はないんですね」

「あっ」

「どうかしました!?」

「被害はあったわ、ワタシが背中に喰らってるようよ」

「エエッ、大丈夫なんですか?」

 

興奮していたから気が付かなかったようだ。1度気付いてしまうと撃たれた箇所が痛い、というより熱い。

 

「骨で止まってるみたい、動けないほどじゃないようだし、そんなに大きな銃でもなさそうね。とにかく合流よ、援護なさい」

 

艦娘の処分が目的にしては火力が貧弱すぎる、狙いは提督か。

自分の体を盾にして提督の負傷を回避できたのなら良し。日頃の善行は積んでおくものだ。

 

「遅れてごめんよ」

提督を金剛と皐月に任せ、霞のところまで戻ってきた時雨がバッグから取り出したのは小島で渡されて以来なんとなく私物にしてしまっている提督の拳銃。

 

根拠と共に、狙われているのは提督かもしれないと霞が告げると時雨が言った。

「まだ分からないね、陸上で活動中の艦娘を仕留めるのに必要なストッピングパワーを理解してないだけかも。ウチの艦隊じゃあるまいし、そうそうそんなデータ持ってないだろうからね」

「ストッピングパワーに関してはこっちも満足いく装備じゃないけどね」

 

提督と一緒にいる金剛も拳銃しか持っていないはずだ。彼女たちには提督の身を守ってもらわなければいけないので、護衛の阿武隈らが到着するまで応戦できるのは時雨と霞の二人だけ。

 

「この程度で想定外とはね、作戦部としてあとで始末書を提出するわ」

陸上での襲撃、備えてはいたが油断はあった。でなければ護衛役から離れて行動するなどまったく冗談のような状況だ。

 

 

「痛そうだけど大丈夫かい? 辛いようなら無理しないほうがいいと思うけど」

「あら、一人で支える気かしら? お気遣いありがと。痛いのは痛いけど、大丈夫よ」

 

艦娘で良かったと、こんなときこそ実感する。陸上とはいえ、この程度の銃弾ですぐさま行動不能になることはないし、幸い痛さで動けなくなるなんてこともなかった。

体の小さい駆逐艦娘としては出血が長引けばいずれ活動限界を迎えるが、それだって人間の女性とは比べものにならないものだろう。

残念ながら、試したことも経験したこともないことなので推測の域を出ないわけだが、それについては後で自身のデータをまとめるとしよう。

 

 

「応戦するわよ」

「まず当たらないだろうけどね」

 

そう言って階段の陰から交互に応射を始める二人。

屋内戦も要人救助の訓練も行なっている。訓練で実感した、防衛戦で時間を稼ぐための発砲。必要なのは容易に攻められないことだ。

 

マガジンの交換タイミングが被らないように牽制を続けるが、しかし拳銃の二丁程度で膠着状態を作るには無理がある。

フィクションの世界では万能な拳銃だが実戦ではとても脅威になり得ないことを実感する。せっかくの経験だ。なんとしても無事にこの状況をやり過ごし今後に活かさねばと合わせて思う。

 

 

「MP5くらいは持ち歩くべきだったかな?」

「じゃあまずカバン買いなさいな、入んないでしょ」

そんな軽口を叩き合っているうちにも相手は着実に距離を詰めているようだ。

まさか反撃があるとは思わなかったのか当初は浮き足立っていた様子だったが、今は連携も取れ始め射撃が途切れなくなってきた。このままでは早々に応射することもできなくなりそうだ。

 

「少しマズいかな」

「押し切られる」

 

同時にそう口にする二人。

徐々に迫り来る脅威に嫌な汗が流れる。

時雨のほうは、割れたガラスの破片でも飛んで来たのか頬に一筋の赤を流させていた。

 

司令官との距離が縮まるのは歓迎できることではないが、ここは引くべきかもしれない。

死ぬことはないと思うが、ここで秘書艦と司令艦が揃って拿捕されるなど洒落にもならない。そんな考えが頭をめぐる。

 

 

一歩一歩と近づく決断のときに、新たな連射音が鳴り響き銃弾の雨を降らせた。

 

「遅くなりました、みんな無事ですかー?」

 

無線から聞こえる緊張感のないいつもの声色も、今は騎兵隊の駆けつける足音のように頼もしく感じた。

 

合流した阿武隈と第六駆逐隊。彼女たちはリンガの艦娘で1番陸上訓練を経験している。買い物の邪魔になるとボヤいていたが、そんなことは百も承知でPDW(個人防衛火器)を持たせておいて助かった。

五人はそれぞれ2階の通路に展開し、牽制のために射撃を続ける。

これで地の利を得た。

 

「上から回り込んで!」

「分かりましたー。そちらはどうするんです?」

今後の方針を問われた霞は時雨と顔を見合わせ頷く。どうやら考えていることは同じらしい。

ワタシたちはどこまでも艦娘で、そしてワタシたちならやってやれないことはないと、自身の技術に傲慢とも言える自信を持っていた。

 

 

「ショッピング街の中に川が流れているなんて、まるで僕たちのための設備だね」

「せっかくだから活用させてもらいましょうか。川を遡上して一気に取り押さえるわ」

 

 

「えぇ! 大丈夫なんです?」

「7.62 x 51mmでもなければ何発か貰ったところですぐに行動不能とまではいかないでしょう。動けなくなる前に仕留めるわ」

 

階段の脇を流れるのは人工の川。

水辺であれば能力を発揮してみせるのが艦娘だ。帝国海軍の艦魂を宿すモノとしてSEALsにだって負けるわけにはいかない。特に、ワタシたち2隻は二水戦を経験した誇りがある。どんなところでも航海してみせよう。

 

 

 

「無理をさせるけど、頼むわよ妖精さん」

主機しか身に着けてない状態だ、それでこんな狭く浅い人工の川を最大戦速で航行するには無理もあるが、やってやれないことはない。

ワタシの妖精さんたちは優秀であると信じている。そしてワタシはそれを満足に使いきれている。妖精さんたちと日夜試行錯誤を繰り返して改修したこのシビアな艤装は、ワタシがやれさえすれば必ず応えてくれる。

 

「行くよ」

「いつでも」

 

時雨の合図に肯く霞。

阿武隈たちの援護を受けながら、柵を乗り越え川に飛び込んだ二人は両腕で頭部をカバーしながら一直線に駆ける。

 

まさか川の上を滑るように攻め入ってくるとは思わなかったのだろう。敵の反応が遅れた。

相手との距離を半分まで詰めてからようやくの応射があるが、頭上を抑える阿武隈たちの働きもあってそれも散発的。

それにしてもだ。自分で言うのもなんだが、よくもこんないたいけな少女の姿をしたものに銃を向けられるものだと思った。

 

 

腕に3発、腹部に1発。相手を殴り飛ばすまでに当たった弾の数だ。

ちょっと泣いてしまうくらいには痛かったがそれもワタシだけじゃない。腕が飛んだわけでも足を落としてきたわけでもない。一人で泣き喚き、蹲っているわけにもいかないのでそれも後回しだ。

 

時雨のほうも似たようなものだろうと思っていたが、後で確認したら腕に1発貰っただけだという。これが幸運艦かとやるせない気持ちに少しだけなった。

 

 

そうやってしてたどり着いたワタシたちの領域。

懐に入り込めば小銃など使えない。肉弾戦でリンガの艦娘に勝てるものか。

 

相手が小銃を向けるより早く、時雨の上段回し蹴りが決まった。

時雨の足はよく伸びる。足癖の悪さは一級品だと、霞は得意の後ろ回し蹴りで相手を沈めながら思った。

 

最後に残った男が小銃を構えて引き金に指を掛ける。男の他に立っているのはもうワタシたちだけ、たった二人の少女にこれだけされれば頭に血が上りもしよう。

それは分からないでもないが、さすがにこの至近距離でフルオートを喰らうのはマズい。

引き金を引く指より早く蹴り倒すのはいくらなんでも不可能だ。ならば、まず守るべきは頭部。顔面への直撃さえ防げれば活路も見出せるかもしれない。

すでにボロボロの両腕だが、果たしてちぎれ飛ぶのが先か相手の弾が尽きるのが先か。できれば腹部で残弾すべてを飲み込むのはごめん被りたいが、覚悟はしておかねばならないだろう。

 

 

運命を告げる音。辺りに最後となった銃声が響いた。

 

 

その音と共に倒れたのは男のほうだ。

最後まで向き合っていた男は、その背中側から後頭部を一撃で仕留められた。

 

今回の襲撃で唯一の死亡者となった男。それを戦果に変えたのは阿武隈だった。

彼女が人間を殺したのはこれが初めてのことになる。葛藤もあったかもしれないが彼女は撃ってくれた。

軍務に忠実だったのか、それともワタシのことを考えてくれたのか。それは分からないことだが、おかげでワタシはお腹から(はらわた)を取りこぼすことを回避できたわけだ。

 




マリーナベイ・サンズざんす。

朝潮型では艦内電流が交流になっている。
次級の陽炎型では従来の直流電源に、そして夕雲型で完成形。再び交流化された。

霞さんの艤装は信頼性に欠ける電装などを見直した霞仕様のカスタマイズが施されている。それにより性能の向上があったが、いまだに不安定なので衝撃を受けるとイキナリ落ちることがある。
今のところ、交戦中に突然艤装が沈黙しても眉一つ動かさず冷静にリカバリできる変態にしか使えない。
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