少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
カラーコードは#f2a0a1。
RGBだと242, 160, 161。
なにを指す色かと言われたら、霞の……。
ところで日本語って面白いよね。
山田さんが外国人なら、何年経ってもこんな文章を読める気がしない。
「日が一つ明け一月一日。本日は日曜日」
襲撃のあとは
ほんのわずかな時間であったが、人類の開発した暴力の技術はなかなかにその威力を発揮していた。
なにかを作るのにはそれなりの時間を要するものだが、それを壊すのはこんなにも短い時間で事足りると考えるとやるせないものを感じる。
「コラテラルダメージを確認して」
それらを見ながらしかめっ面の霞が指示を出す。
コラテラルダメージ。作戦行動で巻き添えを喰った民間被害のことだ。
幸いなことに流れ弾を喰らった民間人はいないようだが、施設や店舗、陳列されていた商品などはひどいことになっていた。
「大丈夫か? いいから、お前らはこっちで休んでろ。金剛、二人の応急処置を頼む。阿武隈は襲撃者の拘束を」
金剛と皐月に両脇を囲まれた提督が身を隠していたお店から顔を出し、血に塗れてボロボロになった時雨と霞を見て言った。
特に霞は何発も被弾しているようで、その制服には鮮血の染みを滲ませている。
金剛と皐月に二人を任せ、阿武隈らと共に襲撃者の元へと移動する提督。
完全武装の女の子たちに警護される男の姿は、ここが非日常の世界であることを端的に示していた。
「死者一名、これだけ乱射された割にはキレイに片付いたな」
「すみません。ワタシがもっと早くに展開できていたら、その被害も防げたはずでした」
しょんぼりとした阿武隈の頭をグリグリと右手でかき混ぜながら、提督は「お前は最良の選択をした。霞を護ったそれは満点だ」と力強く言う。
目をつぶったままでそれを聞いていた阿武隈が顔の緊張を少しだけほぐし、「前髪に触らないでください」と言って提督の手から逃れた。
さてさて、問題はこれからなわけだ。
襲撃など問題のうちにも入らない。ウチの娘さんたちは優秀だからな、鎮圧だけならそれほど難しいことではないのだ。今回は時雨と霞がダメージを負った。そのことについては必ずどこかに責任を取らせてやるつもりだが、その責任元が重要だ。
一つの死体と拘束された五人。その顔を見るなり嫌な気分になった。
「どうやら日本人のようだね」
そう呟いたのは後ろ手にさせた襲撃者の親指をタイラップやインシュロックなど様々な商標で呼ばれる結束バンドで縛っていた響。
女児とも言える外観年齢の女の子が、スカートのポケットからたくさんの結束バンドを取り出す姿にも慣れないな。なんて、軽く現実逃避気味に考える。
「一般人じゃないわよね、陸軍かしら?」
次いで言うのは雷。
服装や装備を見た限りそうだろうね。頭が痛いことだが、これは身内の恥と言うやつなのだろう。
これなら現地ゲリラや反体制派、なんなら陸軍を装った謎の組織とかのがよっぽど良かった。
実際のところ、これは薬物中毒の陸軍さんなのかな? 人類対深海棲艦として、人間社会一丸となって、なんてのは理想であり頭の華やかな考えだ。
実際にはいろんな闇を内包している。今回の事件はその一つの形だとも言えるわけだ。
主戦場が海となったことで、主力はもちろん海軍である。政府が表立って海と陸空に対して明確な上下を示したことなどないが、口さがない世間の人々からどう思われ、なんて言われているかなど想像力を働かさなくとも分かるだろう。
無責任な民が彼らを追い詰め、彼らのプライドをへし折った。だからと言って、なら仕方がないと言ってあげられるものではもちろんないのだが、業の深いことだな。
俺個人としては、陸軍はとても良くやっていると思う。
戦うことに特化した海軍だってやってることは艦娘の運用だ。陸軍ほどじゃないが、海軍内にだって根っこの同じ問題が渦巻いている。
それでも海軍は海に出る。なら陸は?
俺たち人類は海に住んでいるわけじゃない。陸上で生活する民の避難や救難活動。なんなら艦娘の存在しない最低の現場で深海棲艦の上陸を防いで日々被害の数字を計上しているのだって陸軍さんだ。
海軍の余り物となった微々たる予算で満足に装備を整えることなく自力で脅威と立ち向かうことを余儀なくされた陸軍が、それを無駄な税金、無能の戦死者などと叩かれてはたまったものじゃないだろう。
バックグラウンドを鑑みれば思うところはある。あるが、それも国民にとっては意味のないこと。なんの言い訳にもならない。
今回のことも、さすがに日中堂々と繁華街で起きた事件だ。揉み消すことなどできまい。
日本の海軍が最速でそれを治めたというのが不幸中の幸いだったと思うくらいで関の山。
先の大戦で、米国が戦っていたのは国民と議会だったなんて話もあるが、まったくそのとおりだ。
些事を考えることなく一心不乱にただ戦うことだけを実施できたら、戦争なんて今よりずっと楽になるんだろうなぁ。
────────
「傷痕は直したほうがいい?」
犯人たちをセレター軍港の方々に任せ、ようやくリンガに戻った一行。
被弾した時雨や霞を工廠に投げ込み、物品の搬入作業に取り掛かってから数時間後。相談したいことがあると未だ入渠中の霞に呼び出されて訪れた工廠内で聞いたセリフだ。
艦砲と比べれば豆粒のような弾丸。
見た目の深刻さとは裏腹に直すのにそれほど時間は掛からなかったようで、時雨はすでに処置を終えて戻っていた。
工廠内には担当の明石と、上着を脱いでその華奢な背中を露わにした霞だけが待っていた。
「この傷はアナタを危険に晒した戒めの傷。それから、司令官を守った証でもある。……ワタシの誇りよ。でも、アンタがキレイな肌のほうがいいって言うのなら直すわ」
二人称の安定しない霞がそんなことを言う。
こいつの中ではこれで使い分けがされてるもんなのかな。
白く幼い霞の背中。その肩甲骨の付け根には1発の銃痕が残っていた。
世の男性の中には傷痕に性的興奮を覚える奇特な方もいるらしいが、自分はそうではないと信じたい。
しかしだからと言って、その痕が気持ち悪いものなのかと聞かれたならそれはないと断言しよう。
霞の背中は、そんなものでは一欠片ほども価値を落とすことなく。変わらず魅力的だった。
「直さなくて平気なのか?」
明石にそう声を掛けると彼女は事務的に答えてくれた。
「組織は直しますので、今後の行動に制限が出たりはしませんよ。あくまで表面的なものです」
なら問題は特にない。
引きつったようなその傷をなぞるようにして提督が言う。
「傷があろうがなかろうが、お前はキレイなままだ」
「そう」
背中に触れる男の指先から体温を感じているかのように目を閉じたまま、霞がそれだけ答えた。
しばらくそうしてから、霞は明石に自らの治療の方針を伝える。
「聞いた通りよ、傷痕は直さなくていいから」
「直せる技術があるんだったら直したいって思うのは技術屋の性ですかねー、兵隊さんの考えはわかりませんね」
「明石だって軍属でしょうが」
「私は戦闘艦じゃないんでねー」
カルテ片手にポリポリと頭を掻く明石だったが、霞の希望どおりに処置を行なうことを了承してくれた。
「時間がかかるか?」
「30分もかかりませんよ」
腕や腹部の修復はほとんど終わっており、あとは仕上げと最終確認だけなのだと明石は言う。
そして、見ててもらっても構いませんけど、裸体の乙女の処置を観察するのは良い趣味とは言えないですよ。なんて言われれば、この場に留まることなどできないだろう。
大人しく撤退を決めるが、その前に言っておかなければいけないことがある。それが「終わったら俺の部屋へ」という霞への指示。
「お前のおかげで俺は傷一つ負ってない、褒めてやんなきゃな。今日はお前の誇りを肴に一杯やるか」
提督の言葉に霞が答えるより早く、明石が確認のための声を上げた。
「それ『いっぱいヤル』じゃないですよね」
いきなりの爆弾発言に、砲の撃ちすぎで赤熱化した砲身のように真っ赤となった霞が慌ててそれを否定する。
「はぁ? な、なに言ってんの! そんなわけないでしょうが!」
「冗談ですよ、冗談。体の傷は大したことないですけど、負担はかかってるので早めに休むようにしてくださいね。夜間には熱を持ってくるかもしれませんから、ヤルにしても1回や2回くらいで……霞さんはまだ体も成長しきってないですからね」
「だから、シないったら!」
今にも明石に飛びついてその口を塞いでしまいかねない、そんな落ち着かない霞だ。
いいけど、あんまり動くなよ。チラチラ見えてんぞ。
桜色よりまだ赤い、色っぽくなってしまったうなじを見せつけながら、霞は「部屋で待ってなさいな」とだけ告げて提督を工廠から追い出す。
部屋を出て行く後ろ姿に、明石が声を投げ掛けた。
「今日は霞さんに飲ませちゃダメですからねー!」
明石が言うなら仕方がない。
上機嫌のときだけ霞が嗜む、彼女のお気に入り特級酒黒松白鹿の出番はまたの機会にしておこう。
そういえば、明石加入の話がスコンと抜けてたね。
連合国の最優先攻略目標になっていた2隻のうちの1隻が明石。
深海棲艦にも執拗に狙われていたので、提督が拾ってリンガで匿ってます。
黒松白鹿は霞のお気に入りのお酒。普段はまったく飲まないけど、記念のときだけこれを飲んでる。
帰らずの特攻作戦「天一号」実施時、可燃物やら不用品を艦内から撤去しているとき「帰ったらみんなで飲むから、そのまま乗せておきなさいな」と言われたお酒。
霞と一緒に九州沖に沈んだお酒だ。
あと「治す」じゃないのは仕様です。