少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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前回の話の後、夜戦で時雨が敵主力艦隊を相手に奮戦し、翌日には金剛が旗艦を吹き飛ばして残存艦は撤退。
ソロモン海戦は成功で終わりました!

本編的にそれは些細なできごとなので書いてないんですよね!
海戦の結果を些細なできごとと言い放つ話ですが、見捨てないでください……。

必要になるのは、作戦後の話なのですよ?




沈丁花の娘3

ソロモンでの海戦は無事に終わった。

遊撃部隊として参加したリンガの艦隊は前線を支えきり、さらには敵主力艦隊撃滅にも大いに役立った。南方にてその存在感を示すという当初の目的は達成できたはずだ。

 

それはリンガのほかにもう一つ。

トラック泊地に身を寄せるあの若い男の隊もそうだ。南方で耳にする彼の活躍譚がまた増えるのだろう。

英雄の艦隊。その話題のおかげで少しリンガが霞んでしまいそうだと思った。

 

 

 

別の意味でなら話題を一身に集めるかもしれないけどな!

 

どうも、俺です。

なにはともあれ、作戦が無事に終わって一安心。沈没艦を出すことなく終えることができたのは本当にありがたい。

霞と鈴谷の柔軟な用兵が功を奏したね。二人が抜けたことで残された前線には負担をかけてしまい、少なくない被害も出たがとりあえずは全員を労って体を休めさせよう。

 

残念ながら俺は休めなくなってしまったんだけどな。

理由はもちろんウチの艦隊司令艦サマ。ラバウルに帰投する前から不機嫌マックスだったのだ。

 

そこで考えた案がある。

もともとブインのやり方は気に食わないものだった。どうせやるつもりだったのだ。ならば慌ただしくしているこのタイミングで、作戦終了の喧騒も冷めやまぬうちにブインの基地へと突撃。これよ。

霞のご機嫌を取るのは並大抵のことではないからね、原因を解決するのが一番の近道だ。

 

お仲間相手に艦隊戦を仕掛けるわけではないので、出向くのは少数精鋭となる。

全力で海戦に取り組んだあと、延長戦に巻き込まれることになったその少数の方には素直に申し訳ないと思っている。

 

 

なんてことを言っている今このときがまさか、すでにブインに到着し、執務室へと案内されている最中だとは思わなかったことだろう。

面倒ごとは早く終わらせるのに限るし、「荒馬の轡は前から」とも言う。俺の経験則だ。

一緒に来ているのは時雨のほか警護艦の綾波と夕立。霞は野暮用で別行動中。

 

さて、ブインの司令官の糾弾を始めよう。

囮艦として貴重な戦力であるはずの艦娘をむざむざ沈める運用など、国力の浪費もいいところだ。

 

 

 

「と、言うわけで。貴方の戦果は艦娘の犠牲の上に成り立つものだ。それを許すわけにはいかない」

「唐突な訪問の上で言いたいことがそれか? 上官に対しての正しい対応とは思えんな。ラバウルの基地司令官の指示かね?」

 

やっぱり天気の話から始めるべきだったかしら?

今作戦での活躍を労ってもらったあと、いきなりぶちかましている最中の俺だ。

 

「誰の指示も受けてはいませんよ。ただ気になるのです。作戦の結果沈めてしまったのか、それともブインでは、沈める前提で作戦を行なっているのか」

「無礼な行いだとは思わんのかね? まぁいい。もちろん沈めるつもりの運用などしていないさ。沈んでしまった彼女たちは、作戦の結果犠牲となった。それは私の不徳だが故意のことではない」

 

そりゃそう言うだろうね。知ってる。

しかし思ったよりもこの人、全然器がでかいらしいな。

はっきりと格下である若造の俺がいきなり訪ねてきて詰問なんてしだしたら、世が世なら無礼打ちされても文句も言えない。

そんな時代じゃなくとも、ここは軍隊だ。

横須賀のじじいやラバウルのおっさんでもなし。よくもここまで許すものだ。

 

とはいえ、ここで問答をするつもりもなければこの男の煙に巻かれて踵を返すつもりもない。

俺がここに来た時点でもうなにもかも終わってる話なのだ。

その気があったにしろなかったにしろ。

証拠があるにせよないにせよ。ちゃんと俺が作って並べてやるよ。

 

 

「いや、貴方は犠牲が出るのを分かった上で今まで攻勢作戦を行なってきた。戦果を挙げるために1番手っ取り早い方法として捨て艦をやったんだ」

「勝手な考えだな。それらはすべて推測だろう。確かな証拠はなに1つない」

 

確かにそうだと、頷いた時雨が言う。

「疑わしきは罰せず。現代社会における司法の大原則だね、だけど……」

 

その言を継いだのは提督だ。

 

 

「私は司法の代弁者ではないんですよ。だから証拠の必要性を特に感じておりません。私にとっては怪しいと思えるその心象で十分だ」

 

 

そう言った男の、感情がこもらない目が恐ろしかった。それを目にした男はハッキリと理解した。

これがこいつの本性だと。

 

 

「貴様ら! 今すぐその若造を殺──うぉおおおおお、ムグッ」

「肩を外されたくらいで大袈裟っぽい?」

 

飛び掛かったのは一匹の獣。

爛々と光る赤い瞳は、虫の脚をもぐ子供のような無邪気さでその男の肩を外し、呻き声をあげる口を塞ぎながら告げる。

 

「提督さんは今、大事な話をしてる。少し黙ってて」

 

 

執務室まで案内してくれた艦娘もブインの秘書艦も、綾波の放つピリピリとした空気にあてられ動けないでいる。

この状況下で、夕立の下敷きになっている基地司令官を奪還できる艦娘はいないだろう。

また直接提督を抑えようと考えても、海の水との意味を持つ宝石の瞳の女を躱してそれを実現することなどできまい。

舌戦を交わすつもりなく、実力によってそれを行使するのなら、このメンバーが入室できた時点で勝ちは確定だった。

だってそうだろう。俺が誰かの作ったルールに従ってやる理由などないのだ。証拠がなければ捕まえられない? そんなことはない。なんなら捕まえてから証拠を用意してやってもいいし、ないならないでも構わない。

目的はこの男を罰することでさえないのだから。

 

 

「夕立、そいつから情報を引き出せ。殺すなよ」

 

ここは戦場だ、敵を前にしたなら尋問で吐かせるなど当然のこと。

ソロモン海戦の折、霞や鈴谷からの流れ弾がブイン所属艦艇の艦橋を誤射で撃ち抜かなかったことに感謝してもらいたいぐらいだ。

 

 

 

そんなときだ。勢いよく扉を開いて、この小さな戦場に飛び込んで来た者がいた。

 

 

 

「さて、最悪の状況……ではないが」

「最低の状況だね」

 

それを目にした提督がそう感想を漏らし、時雨が答えた。

 




名前は「海水」を意味するラテン語。
石言葉は勇敢、沈着、聡明。

地中海の船乗りたちから海の力が宿る守護石として崇められたソレは時雨の瞳の色。


漫画ARIAの主人公の二つ名でもある。
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