少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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なんかタイトル変わっちゃいましたけど、「沈丁花の娘」の次話です。

もともとのこの話の仮題は「沈丁花は枯れても香し」だったのですが、これ「価値あるものは盛りを過ぎてもその価値を損なわない」という意味なので、本編の内容と合わなかったんですよね……。
別に沈丁花の娘さんがどうにかなる話でもないですしってことで蛇に変更。

では、気にせずにどうぞーー!




ミッドガルドの蛇

立ちはだかるのは戦艦伊勢。

伊勢は佐世保を共にした戦友であり、手放しで信頼できる身内の艦娘だと言える。

しかし、この場で出会うのは避けたかった。そのために手早く済ませようと考えていたのだが、なにもかもまでは上手くいかないらしい。

 

そう、彼女は戦艦なのだ。

国家の威信をその肩に背負う、国家の力そのもの。

彼女の潔さ、その清廉な魂を知っている。

彼女を信頼できるその理由があるからこそ、彼女はこの場の俺を許さないのだ。

 

 

「提督、これはいったいどうしたっていうの?」

 

室内で伊勢が見たものはまるで悪い夢。いや、夢であってほしいと思ったのかもしれない。

夕立にのし掛かられ、拘束されているブインの基地司令官と綾波に気圧されて動けないでいる基地所属の艦娘たち。

 

「わけを、訊かせてもらえるんでしょうね?」

「この男は艦娘を使い捨てのようにして戦果を挙げてきた。その罪は問われるべきだろ?」

 

困り顔で提督を見る伊勢にそう答えた。

艦娘のため、艦娘を思ってのことだ。人道的にはなにも間違っていないと自負しているが、ただ、彼女はそれを飲み込まないだろう。

正しいことは正しい手順で行わなければならない。戦艦である伊勢はきっとそう考える。だからこそ、彼女は信頼に足る尊敬できる女性なのだけれど。

 

「それは軍に報告して裁く問題よ。貴方が暴力を行使してするようなことじゃないわ」

想定どおりの言葉を返す伊勢。

伊勢の考えが正しいことなど分かっているのだ。

しかし、そうして正される未来を待っている暇などこの戦場にありはしない。

 

「それでは間に合わない。この男をここに残しておくと裁かれる前に沈む艦娘がでるんだ。それに、今の状況でこの男が裁かれるとは思えない。これは必要なことだ」

 

艦娘を軍の備品として扱う風潮はあるのだ。

俺だって犠牲なく勝てる戦争があるなんて夢みたいなことを信じているわけじゃない。目的を達成するために命の消費を命令し、また命令されることもある。それが軍隊であることも理解している。

 

だが、命の使い方は考えるべきだとも思っている。

海域の解放や敵本拠地の占拠など、それが戦略に関わるのなら必要な犠牲と割り切ることもしよう。場合によっては友軍を逃すために、なんて危急の状況もあるかもしれない。それであれば、納得はできなくとも理解はできよう。

たとえ身内であろうとも、そのときは沈んでくれと言わざるを得ない。

これは戦争なのだ。

 

しかし、ただの消耗戦。小競り合いで敵艦撃沈のスコアを稼ぐためだけに沈めるのを許すのは違う。

ただ戦果を数え、軍内での昇進や派閥の発言力を増すなんて下らない理由のために沈めていいほど艦娘の数に余裕なんてないのだから。

 

「なんとかするわ! この艦隊に配属されている私がなんとかしてみせる! これは私の責任よ」

 

伊勢だって分かってはいる。責任感の強い彼女は誰よりもそれを分かっているのだ。同胞である艦娘の処遇を、その使われ方を。

彼女がそれに心を痛めていないわけがないのだ。

 

 

「ここは、おとなしく指示に従ってはもらえないかな? きっと、私がなんとかしてみせるから」

組織的にも、また社会的にも優位な立場であろう伊勢は、しかし苦渋の選択を迫られたような顔で呟いた。

良識を持ち、仲間思いで情に厚い艦娘だ。押し潰されそうなその責任感で、逆らうことのできない体制というやつに抗ってきたのも知っている。

 

「提督。できれば、私は貴方と相対したくはないのよ。だけど」

 

 

伊勢は生粋の軍人だ。

護国のためにと建造された国の威信。その魂を宿す戦艦伊勢は、どんな命令であろうとも完遂するだけの忠義を持つ清々しいまでの武人。

そんな彼女のことを、むしろ好ましいと思う。だからこそ許すことなどできはしない。

 

 

「心に負った傷は放置すると傷むばかりだ、お前の両肩に乗った温もりさえも、いずれお前の足を止めさせる」

 

止まるならまだいい。しかし彼女は、歩けなくなっても、動けなくなってもなお信念のままに足掻き、命令との板挟みで苦しみ続けるのだろう。それが彼女の矜持なのだから。

救いたいのは艦娘だ。そして、ブインでそれを行う1番の理由が伊勢と朝潮。

お前を苦しめる環境こそを壊してやりたいから、俺はここに来たんだ。

 

 

「伊勢。お前は俺の艦だ、そいつは誇り高いお前が仕えるに値しない。順番は前後するが、この男は以後に裁かれることになる。今は堪えろ」

 

言うや否や、提督は腰の軍刀に手をやり一歩踏み出す。

 

「提督!」

分かってはくれないのか。

しっかりと話し合うことができたら、彼なら分かってくれるはずだ。そんな風に伊勢は思う。

しかし時間が足りない。足りないままに動く状況でも、彼に手を汚させるわけにはいかない。それだけは絶対。

伊勢が反応し、提督を捕まえようと腕を伸ばしたそのとき。

 

 

 

綾波の左足が伊勢の肩口をそっと押し出すように伸ばされた。

バランスを崩された伊勢は咄嗟のことに驚愕の表情を浮かべるも、提督との間に立ち塞がった綾波に向かって警告する。

 

「提督のことだから、ただの駆逐艦ではないというのは分かる。それでも、戦艦を相手にできると思ってるの?」

 

陸上であっても戦艦の脅威は変わらない。

超弩級戦艦としてこの世に生を受けた伊勢の出力は8万馬力を超える。そこから生み出されるのは溢れんばかりのパワー。そして戦艦を戦艦足らしめているのは強大な主砲に耐える強靭な装甲なのだ。それに支えられた驚異的とも言えるタフネスさ。

それは、いかに綾波が特型駆逐艦として世界の艦艇の歴史をめくった艦の一隻だとしても、抗えるものではないと思える。

 

 

「相手が何者でも関係ありません。ただ、司令官の邪魔はさせませんよー」

しかし綾波は、いつもと変わらない笑顔を浮かべながらも譲るつもりはないと主張し、真っ向から伊勢と対立したのだった。

 

 

伊勢が駆け付けたことで状況が変わったことを感じたのだろう。夕立により床に押し付けられているブインの男が怒鳴るように言う。

 

「こんなことをして、ただで済むと思っているのか! 伊勢! 駆逐艦相手になにをしている! さっさとこいつらを殺せ!」

 

罵声のように浴びせ掛けられたその言葉に顔をしかめながらも、伊勢は一言告げるだけで命令を遂行するために動いた。

 

「ごめん……」

 

スローモーションのような、その流れるような動作は達人のそれだ。音を切るように研ぎ澄まされた一息で腰の物を抜く伊勢。

彼女に刀を抜かせれば、きっと瞬きの間に全てが終わるのだろう。ただ気が付かなかった。気付く暇さえ与えられなかった。それを上回る圧倒的な静寂と張り詰めた空気が、その場を支配していたことに。

 

 

 

抜きましたね──

 

 




この話は1つ目の逸話である佐世保壊滅後すぐから書いていた話。
とりあえず佐世保組が提督の元に集う話から書き始めたんだよね。その割に合流遅くなっちゃったけど。
この話を書いているときはまだ伊勢に改二がきておらず、伊勢が腰に刀を差しているのもあまり話題になってなかったころなんだよなぁ。
改二になった伊勢は中破で刀に手を掛けているので、今さら伊勢が刀を使っていたところで違和感ないね。


本文にあるように、伊勢の出力は8万馬力ちょい。
さて、ここで次世代の艦隊決戦型として計画され、ただ1隻だけの丙型駆逐艦となった島風を見てみよう。
過負荷全力でおよそ8万馬力!

そりゃ1隻だけで後が続かないわけだ。
ちなみに戦艦扶桑は4万馬力。歴史を感じる。


題の「ミッドガルドの蛇」とは、みんな大好きヨルムンガンドのこと。
厨二的思考を持つなら北欧神話は当然好きですよね!

さて、世界蛇とも呼ばれるこの超巨大な蛇は、神々の黄昏と呼ばれる最終戦争ラグナロクで雷神トール(ギリシャ神話でいうゼウス)に討ち取られるが、トール自身もヨルムンガンドの毒により9歩下がった後に死亡。相討ちとなる。

そしてラグナロクによりすべての世界が滅びた後は、新しい秩序の世界が始まると言われているわけだ。


蛇を討伐した後に新世界が構築される系の神話は年代、地域を問わず他にもたくさん。どこの神話でも神様の最大のライバルやってるのは伊達じゃないね!
もしかすると、河川のメタ的表現とも言われる大蛇の討伐とその後は、氾濫なんかで壊滅した街と、それにより運ばれてきた肥沃な土から始まる新しい生活みたいなものを元にしているのかもしれないですなぁ。

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