少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
この時期はまだ肌寒く着込んでいるので寂しい。
せめてスカートなら、春一番の突風でめくり上げられた描写を1000の文字を使って書ききるのに……。
The future that might have been.2
梅の季節が終わり、場所によっては気の早い桜も咲き終わった頃だ。
山間に1本だけで佇む孤高の梅もいい。川べりに植えられた河津桜や旧家の庭先、古びた社に映える八重桜。山々の一部を華やかに染める山桜にあぜ道の脇を埋める菜の花。
なんなら2色の美しい花弁を誇るウチの庭に咲いた源平桃も。
それらは新しい季節の到来を彩り、春の訪れを感じさせる。
豊かな自然を育む生命の季節だ。
「さて、準備はこんなものかな」
軍手に長靴、それから土嚢袋とスコップを軽トラの荷台に積み込んでいるのは、某スポーツメーカーの長袖パーカーにタイトなボトムを穿きこなした時雨。足下にはローテク定番のスター的なクリーム色のスニーカーを履いているが、それも今だけ。現地に着いたら先ほど積み込んだばかりのドローコードの付いたちょっと本格的な長靴へと履き替える予定だ。
いい天気になって良かった。そんな風に思い、晴天に恵まれた空を見る。
そこは抜けるような青空と白く薄い雲だけが漂う世界。視界を動かせば、空気が澄んでいるのか今日は青々とした山たちがすぐ近くに見える。
実際山に囲まれた土地でもあるので、車で十数分も走ればそこはもう山なのだけれど。
本日はその山にて山菜採りだ。
ワラビやコゴミ、ゼンマイなどにはまだちょっと早いが、ちらほらとタケノコが頭を出しているらしい。
春には春の、夏には夏の楽しみがある。そう提督は言っていた。そして春の楽しみ方とは花を愛で、そして山に入ることなのだとか。
僕たち艦娘にそういった楽しみ方をこれからたくさん経験させると言ってくれ、まさにこれからその体験があるわけだ。
タイミングが合うならば山菜の王様であるタラの芽やイタドリなどがあれば嬉しいのだとも言っていたが、こればかりはタイミング次第なので行ってみなければ分からないらしい。絶品だと彼が太鼓判を押すタラの芽の天ぷらとやらを、できれば御相伴に預かりたいものだと思う。
そんなことを思っていると、今回の山菜採りメンバーが集まって来た。
遅れてやって来たのは白露に村雨、夕立。
心配してくれなくてもいいよ? 彼女たちは別に準備を僕に押し付けてゆっくりしていたわけじゃない。
事前の服装チェックに引っ掛かって着替えを強いられていただけだ。
山の子供みたいな服装になった白露と夕立は、長袖カットソーにジーンズ姿。
着替える前の白露はなぜか海の子のような露出度の高い服を着ていたし、夕立に至っては制服のままだったので着替えを命じられるのも当然だと思う。
その後ろで少し恥ずかしそうにしているのは村雨。薄手のZIPパーカーにラインのかわいいデザート色のカーゴパンツというのは別に恥ずかしくない姿だと思うが、彼女なりに満足のいく格好ではないのかもしれない。もっとも、先ほどまでの今から市内でデートですとでも言わんばかりのフェミニンな、360度どこから見てもかわいらしい服装で山に入るわけにはいかないだろう。春らしいカーディガンを羽織り、レースで飾られた真っ白なフレアのロングスカートにヒールの高いサンダルが山菜採りに相応しいとはとても思えないので、やっぱり着替えるよう言われるのも無理はないことだ。
海戦で指揮を執っていたころは頼もしい妹だったが、提督とお出掛けすることもある今の環境になってから途端にこういう失敗をすることが多くなったように思う。侮りがたし乙女妹よ。
時雨を含め、集まったみんなは全員春らしい軽やかな色合いの服に身を包んでいる。
季節に合わせたというよりも、これも提督の指示によるものだ。
山に入るときは明るめの服で。
黒色だとスズメバチに襲われやすくなるらしいし、1番怖いのは猟師による出会い頭の事故なのだとも言っていた。散弾銃程度なら撃たれたところで致命傷にはならない艦娘ではあるが、指にでも当たれば一時自分の指とさよならしなければならなくなる。特に撃たれたいわけでもないし、スズメバチに刺されると当たり前に痛い。避けられるなら避けておくべきだろう。
なので、このメンバーでの黒髪である時雨は帽子も被っているのだ。
「すまんすまん。待たせたな」
最後にやってきたのは提督。
ここに越してきてそれなりに経つが、いまだに制服じゃない提督を見ると胸がキュンキュンする。気付けばぼぅと見つめてしまっていた当初よりはマシになったと思うが、恋する乙女の胸の鼓動は不整脈を疑ったほどだ。
そんな提督は手にしたコンパクトカメラを時雨に手渡し、遅刻を謝罪する。
これからはいっぱいの思い出を残そうと、事あるごとに写真を撮ることにしているのだが、ついついカメラを持ち歩くことを忘れがちになるようで今しがた部屋まで取りに戻っていたところなのだ。
今回のカメラはいつもの大きいやつではなく、ポケットに入れるには少し大きいかな? くらいのサイズ。山で作業しながら撮るならこのくらいが現実的なのだろう。
そのガンダムの形式番号のようなカメラを腰に巻いたオリーブドラブ色のナイロン製ウエストバッグにしまい、これで準備は万端だ。
軽トラックの運転席に提督が乗り込み、事前にジャンケンで取り決めたように、僕と白露、夕立は荷台に上がる。助手席には村雨だ。
幸運艦と言われて胡座をかいていたわけではないが、助手席を逃してしまったのは痛恨の出来事だった。まさかジャンケンでこの僕が負けるとはね、まぁいいさ。次こそ提督の隣を勝ち取らせてもらうと胸の中だけで唇を噛む。
「ふふ、お邪魔します」
狭いスペースに乗り込む村雨。
ふわっと香ったであろう村雨の匂いに鼻を伸ばす提督。
ま、まぁいいさ。次こそ、次こそは。
「ほんじゃ、出発するから。落ちないように気を付けてろよ、特に夕立。立つんじゃねぇぞ」
運転席から顔を出し、提督がそんな注意をする。大丈夫っぽい〜なんて返事をしているが、彼女には前科があるのでしっかりと目を見張らせていなければならない。
よく考えたら、姉も妹も信用ならないタイプだ。助手席のことは一旦忘れ、まずはこの二人が提督に迷惑を掛けないように注意するのが僕に課せられた任務だとしよう。
軽い排気音を響かせながら、妙に広い庭を出て一路山を目指す。
本来なら荷台に人を乗せて走ってはいけないらしいが、田舎ではままあること、大きな声では言えないがそれはそれ、とのことだ。
普通に危ないことだとは思うが、ちょっともったいなくも思う。
暖かくなってきた過ごしやすい春先の風を全身に浴びながら、木々や小川の隙間を走っていくのは気持ちの良いものだ。
家の前の細い道を抜け、家が立ち並ぶ集落に入ると顔見知りのおじさんやおばさんが手を振ってくれた。
この町の人たちは、僕たちが艦娘であることを知っているが、普通の歳若い娘のように接してくれるのが嬉しい。
提督と一緒であればどこにだって着いて行くわけだが、やっぱりここで良かったと、そう思う。
途中の自販機で炭酸飲料やスポーツドリンクを補充する。なんでどこもファンタが売り切れなんだ! と提督が騒いでいたが、この自販機を逃せばもう山までに飲み物を買うチャンスがないので諦めたようだ。
そっと心のメモ帳にファンタ(グレープ)と書き記す。今度、一度飲んでみようと思った。
舗装された道路を離れ、日の光を遮る緑をたたえた山道へと入る。
ガタガタと跳ねる車の振動だけでも楽しいものだ。荷物が飛び出さないように押さえながら、色付いた花や川のせせらぎで目と耳を潤す。
南方の海で見たそれらとは違う。これが僕たちの国。生まれ故郷の姿だと思うと、それだけで胸がいっぱいになるようだ。
鉄板の上で跳ねているのでお尻が痛いが、それでも充実している。見るもの聞くもの全てが美しく、本当にキレイだ。
日本の四季の楽しみ方だ。
スマホばかりの毎日ではつまらないからね!
春は山菜や散歩、ハイキング。
夏には虫捕りに花火、バーベキューに海遊び。
そんな話を体験談もたっぷり交えて書けたらいいなぁ。
そんな生活を艦娘のみなさんも楽しめたらいいな。
なんてことを思いながら、裏では時雨のお尻の穴を玩具箱みたいにするお話を書いている山田さんなのだった。
当然それの公開はない。