少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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佐世保の謎を残したまま新章突入。



第1章 南方の小島
小島での生活


そこは、なにもない島だった。

 

海辺には申し訳程度の浮き桟橋があるが、これでは駆逐艦サイズの停泊も難しいと思われる。

海から上がったすぐには、農家の裏庭で脱穀機やコンバインが収まっていそうな倉庫風のドックが一つ。坂の上には、司令部というにはアットホームな感が否めない、ちょっと予算をケチり過ぎちゃった南国の別荘風建築物があり、その右奥には浴場らしき建物が見える。

 

先日まで着任していた佐世保鎮守府と比べると、これが同じ海軍の施設なのかと俄かには信じ難い。

もっとも、佐世保壊滅からおめおめと生き残った、敗残兵である自分だけが所属する泊地としては、このくらいの規模でお似合いなのだと思う。これが僕たちへの期待の表れ。現状の評価というなら受け入れよう。

 

 

あ、自己紹介が遅れたね。この度、正式に提督の秘書艦となり、そして唯一の所属艦となった僕は白露型駆逐艦の時雨。

あの佐世保鎮守府壊滅を生き残ったあと、押しかけ秘書艦としてどこにでも着いて行くのだと、半ば脅迫に近い行動を持って勝ち取った戦果が、彼と二人だけで配されたこの南方の小島。

 

ここまで僕らを乗せてきてくれた輸送船を見送り、荷物を引きずるようにして坂を上ると、桟橋からも見えたこじんまりとした小屋のような家に到着した。

佐世保から着いてきた妖精さんたちの大多数は飛び跳ねるようにドックの方へと消えていき、居残った少数が僕と提督の肩に乗っている。

彼女(?)たちは僕らの恩人であり戦友だ。彼女たちの助力がなければ、僕たちは佐世保を生き残ることができなかっただろう。

 

 

そんな妖精さんたちは通常基地から移動することなく、ただ赴任してきた司令官や艦娘を受け入れるだけだ。そして司令官の資質や基地を包む空気によって、いつのまにか増えたり減ったりする。今回のように妖精さんを引き連れての異動は稀有な例だと思う。

おかげで、小さな島の小さな艦隊にしては妖精さんの数が多い。

 

 

さて、玄関を開けると右手に取って付けたかのような調理スペースがあり、左手には応接スペース、その奥には執務に使っていたらしい机が置いてある。そして机の右側には、6畳程度の部屋があるだけの1DKだった。

なにやら「さすがにダンボール一つってことはなかったか」と聞こえた気もするが、きっと気のせいだ。

 

 

「よし、今日からこの泊地を小島、ここを小屋と名付けよう」

そう言ったのは僕の新しい提督。大体僕と同じ感想を持った様子だ。

彼は佐世保の件で中尉に昇進したばかりなので、提督と呼ばれるような階級ではもちろんないのだが、今後の期待を込めて僕は提督と呼んでいる。本人は嫌がっているようだが、これは僕からの親愛の証だと思って諦めてほしい。

 

「そうだね。泊地や司令部と呼ぶのも大げさに感じるからね」

そう返答したが、なにも悲観しているだけじゃない。

提督曰く、懲罰人事だという転属命令により足を踏み入れることになった僕たちの新天地。四大鎮守府でエースと呼ばれた僕は、また一から。そう、ここから始めるんだ。

 

まずは荷物を置いて一息つこう。僕はともかく、提督は慣れない船での長距離移動で少し船酔い気味だ。自身の力以外の方法で移動する経験があまりなかったから気付かなかったが、新幹線といい船といい、どうやら僕は乗り物に強いようだ。そして提督はあまり強くないのかもしれない。

 

 

新たに小屋と命名された建物の、その一つしかない部屋を開けると、ただ仕切られているだけといった簡素な作りの室内。そこにはやけに不釣り合いな、大きなベッドが置いてあった。素直に表現すると、ベッド以外はなにもなく、またベッド以外の物を置くスペースも存在しない。

 

「これ、艦娘はどこで寝てたんだ?」

小屋に入って数分も経たないうちに探索は終了してしまったが、部屋が一つとベッドが一つ。それ以外に寝床らしいものは見当たらなかった。

「うん。引き継ぎ資料ではこの応接スペースで寝起きしていたみたいだね」

応接といっても、執務机の前にソファとテーブルを詰め込んだだけのスペースだ、当然寝られる場所などどこにもない。

 

「寝るとこないじゃん」

「そのソファのようだよ」

「ブラックだなぁ。やっぱりこの国の軍隊はおかしい。通常兵器が意味を成さず、艦娘に縋らなければ一歩も海に出ることができない人類が、どうしてここまで艦娘を蔑ろにできるのか」

ブツブツと呟く提督だったが、意を決したようにこちらを向くと、改まったように話し始めた。

 

「あー、時雨」

「なんだい?」

急に畏まられると緊張してしまう。佐世保以降二人で行動することも多かったが、本当の意味で二人きりになったのは初めてだからだ。

 

「寝室は時雨が使ってくれ」

「……えっと」

「体を休めるのに睡眠くらいはしっかり取ってもらいたいし、女の子だからな。私室の一つも必要だろう、俺はソファで寝るから」

はたして提督の口から出た言葉は予想外のものだった。

 

「待ってよ提督、そんなことさせられるわけないじゃないか。申し訳なさすぎで寝ていられないよ」

なにを言っているんだろう。上官を差し置いて自分が寝台を使用するなど考えられないことだ。二人きりになって、彼からの初めての指示に従わないなんてことになっているが、仕方がないことだと言い訳をしておきたい。

 

「俺も同じだ。お前をソファに寝かせて自分だけグッスリなんて無理だ」

「僕は船だよ? そんなに気を使ってもらわなくても大丈夫だから」

 

大体、佐世保鎮守府でさえ与えられていたのは駆逐隊のみんなと過ごす狭い四人部屋だったのだ。プライベートな空間と言えば自分の寝床だった二段ベッドの下段だけ、ここのソファとさして変わらないスペースだ。

多分ソファで寝るのも苦にならないし、なんなら夜だけここにハンモックを張らせてもらえれば、それでも十分なのだ。

 

 

しかし提督も折れなかった。

 

「俺はお前のことを兵器だ船だなんて思っていない。意思疎通ができるのだから、種は違えど対等であると思ってる。っていうか女の子だろ! そんなにかわいいんだから、ただの船だなんてわけあるか」

「いや、かわいいって……」

 

艦娘を人と同じように扱う人間がいることを知識の上では知っている。そして提督は良くも悪くも海軍擦れしておらず、艦娘と人間とをあまり区別しないというのもわかっている。しかし、自分がこうまで人間扱いされるのは初めてのことだ。

容姿について褒められたのも提督と、横須賀までの道中を付き添ってくれた山崎さんだけのことで慣れておらず、驚きと恥ずかしさで頰が熱くなる。

 

「と、とにかく! 提督をソファで眠らせるなんてそんなのは無理だよ。ここは譲らない」

僕をベッドに寝かせたい提督と、提督をソファで寝させられない僕。

 

 

まさか赴任地での最初の攻防が寝床についてのものになるとは思わなかった。

まったく相反する主張なので落としどころが難しい。白か黒かのハッキリとした勝負。

 

負けるわけにはいかない。そう頑なになった僕とは逆に、提督は深く息を吐いて手を上げた。

わかってもらえたのかと思ったら、提督はこう言ったんだ。

 

 

「わかった、なら最終選択肢に『一緒に寝室を使う』を加えよう」

 

 

 

 

「お前が船なら一緒に寝るのになんの不都合もない。お前が女の子ならベッドで寝かせるくらいの配慮は必要だ。どっちでもいいがお前がベッドに寝るという結果は変えないぞ。お前の選択肢は俺の寝床だけだ」

やっぱり頑なになっているのは提督も同じだった。

 

「す、睡眠時の護衛を兼ねていると考えれば……あり、なのかな。て、提督がそれで気にならないのなら」

上官と同じ部屋で休む。その選択肢は十分あり得ないものだが、提督をソファで寝かせることを思えばまだ……。本当にそうか? ちょっと知恵熱で茹っている可能性も否めない。

 

 

 

ともかく、寝床の取り決めが終わってから二人で一度外に出た。今後の生活のためにどうしても必要になる設備の確認のためだ。

 

「なんで風呂が別棟なんだ? 小屋にくっつけて建てておけよ」

提督がもっともな意見を口にする。

 

小屋の右手は木々が開けており、少し行くともう浴場だ。小屋を見る限り浴場にもあまり期待はかけられないが、近づいて見ると思っていたより奥行きがあるようで……。

 

「大きそうだね」

 

小屋と名付けてきた先ほどの司令部と同じくらいの建築物が鎮座していた。お風呂一つでこの大きさはどうしたものか。この島の価値観は少し変なのかもしれない。

 

 

 

「こりゃ絶景だな」

浴場の奥は切り立った崖になっていて、そこからは美しい南の海が大パノラマで展望できた。

景色を見ながらぐるりと無駄に大きい浴場を一周し、いざ中に入ってみる。

そこにはちょっとした脱衣所があり、その奥に浴室に繋がる扉があった。

 

「なんだこりゃ」

どこぞの温泉地だと言われても信じるだろう、扉の向こうにあったもの。無駄に立派なこれは……。

 

「岩風呂だね」

「岩風呂だな」

 

前任者の趣味が窺えるこれは後から増設したに違いない。

 

「これは燃料の無駄だな」

「この広さはさすがにね」

温泉地の岩風呂と比べると小さいのだとは思うが、それでも燃料や水を貴重品とする戦場の泊地にあるレベルのものじゃない。

さて、どうしたものか。

 

さっそく浴室の清掃を行なっている妖精さんたちを横目に、二人は建物を後にした。

 




無駄に大きな湯船。
油の一滴は血の一滴と言われる貴重な燃料に、南の島ではこれまた貴重となる水。

ここから導き出される未来とはっ!
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