少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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最近そっこらじゅうのネット文で「暖める」の日本語が気になる山田です。

「体を暖めるといいらしいのですが……」など、そりゃ「温める」だ。
母の温かみも君の温かい瞳も、入浴で温まるのも「温かい」のほうだ。

温かいの対語が冷。暖かいの対語は寒だと覚えよう。
っていうか、暖かいなんて気温と気象にしか普通使わない。
紛らわしいのは暖かいセーターを着て体が温まるくらいのものだろう。



The future that might have been.3

トラックの荷台に揺られ、いつまでそうしていても飽きない自信があるが、ほどなくして目的の竹林に到着した。

近所に住むおじさんが教えてくれた場所だ。

 

早速長靴と軍手を装備し、タケノコ掘りの準備を整える。

軍手。軍用手袋と呼ばれるそれは用途が広い。もはや軍とは関係がないところで使われることのほうが多いだろうに、いつまで経っても軍手なんだなとちょっと思った。

 

 

「さぁて、お前ら。たくさん採ってご近所にも配る予定だから気合い入れろよー。あと暑くても腕まくりは止めておけ。マダニに喰われるから」

 

長靴に軍手、首にはタオルを掛ける白露姉妹たちにそう告げる提督。

マダニ。艦娘としてあまり馴染みのないものだが、どこからともなく忍び寄り体にくっ付く生き物。

それに気が付くのは早くて本日の入浴時。下手すりゃ明日の入浴まで気が付かないこともあるとか。

血を吸ってパンパンに膨れあがったマダニは6mmBB弾ほどのサイズとなり、肌に喰い込む。適当に掴んで引っ張ると口吻だけを皮膚にめり込ませたまま取れてしまい、感染症などを引き起こすこともある危険な生物らしい。

艦娘にとっていかほど危険かは分からないが、普通に蚊に刺されて痒い思いをするくらいなので、マダニも危ないのだろう。

首元はタオルで、袖口を軍手に入れて足下はスネまである長靴のドローコードを引っ張り侵入を防ぐ。

生足で山に入るなと言われた理由の一つがこれなのだろう。

 

 

そういえば、蚊に刺されたら熱湯だなんてオカルト話が21世紀にもなって話題になったらしいが、蚊の唾液に含まれる痒み成分はヒスタミン。やっけに高温に耐える物質なので、皮膚にかけられる程度の熱湯でどうにかなるようなものじゃない。痒み止めの薬が抗ヒスタミン剤であるのはこれが理由だ。おとなしくムヒに頼れということだな。

もし高温で痒み成分が変質するだなんて言いだすなら、まずは人体のタンパク質が変質してしまうだろう。

最近の子は知らないかもしれないが、水銀で計るタイプの体温計には42℃以上の目盛りがない。人体としての限界がその温度に耐えられないので刻んである意味がないのだ。お湯程度でヒスタミンが変質するのなら、温泉に入った人間は肉の塊となって二度と這い出てはこれないわけだ。

 

つまりこれ、蜂に刺されておしっこをかけるレベルからまったく進歩しない人類の限界を垣間見れる話だと思う。

 

深海棲艦との大戦が始まるよりももっと昔、どこぞの偉人が「うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を)利用するのは難しい」と言ったらしいが、うん十年も前からそれを指摘していたというのだから、彼には先見の目があったのだろう。

 

それとは無関係に、蜂に刺されることでもあれば時雨や村雨にお願いするだけしてみようと思う提督だった。

若く美しい女性にかけてもらえたなら、治るかもしれない。いや、治す。上で名言を残した彼よりも遥かな昔から、それは聖水と呼ばれているのだから、昔の人はきっと経験でそれの効能を知っていたに違いないのだ。

そう思うと今すぐ刺されたい気になってくる。蜂の巣ないかな?

一刻が命を左右するんだ! と言えばここでやってくれる可能性まである。帰宅してからでは無理だ。家には霞がいるからな、多分アイツはそれに根拠がなく無意味なことを知っている。それこそ抗ヒスタミン剤を塗られることだろう。

普段なら、そんなアナフィラキシーの危険と無駄に戦うこともないのだが、今この時点でなら賭けるに値する対価があるわけよ。

ベット! 俺の命! つまりはそういうことだ。

問題はおとなしく腕を刺されるのか、それとも最高のリターンを考えて顔を刺されるのかというところ。リスクはうなぎ上りな気がしなくもないが、顔を跨いでもらえれば命の危険など彼方の向こうだ。

 

 

 

「それで、タケノコは見て分かるものなのかな?」

「うぉ、ビックリした」

思考の彼方にぶっ飛んでいた提督に、初めてのタケノコ掘りを行う時雨が質問をする。彼女はどのような形態で生っているのか見たことがないのだ。地面から生えているというのは分かるが、その形態が分からない様子。

 

危ない危ない。思考がトリップしていた。本当に危ないのは俺自身なのだが、一旦脇に置いておこう。

「タケノコは足の裏で探すんだよ。見て分かるくらい育ってるやつは渋みがあるからな」

「足の裏?」

 

それはなかなかにハードルが高そうだと時雨は思った。

ちらりと横目で竹林を窺うが、ここは山。竹の根や石なんかもあるだろう。その中からタケノコの先っぽを踏み分けて判断しろ、と。

 

脳の中の小人(ペンフィールドのホムンクルス)なるものをご存知だろうか?

簡単に説明すると、脳に割り当てられた各部の機能は体の構造と一致しないという研究で作られたものだ。

脳の割り当てどおりに体を形成したらこうなる。と言い換えてもいいかもしれない。

モデルを見て貰えば一目瞭然だが、人の感覚や機能は手や唇に集中している。逆に、人の足の裏にそんな鋭敏なセンサーなど搭載されてはいないのだ。

 

それをソールの厚い長靴を履いたまま探れとは、提督も無茶を言ってくれる。

しかし、期待されているなら応えなければ駆逐艦の魂が許さない。やってみせましょう。帝国海軍に名前を轟かせた幸運艦の名前に懸けて。

 

時雨が胸の奥でそんな闘志を燃やしていることなど露とも知らず、ちょっとした隙間からすいすいと竹林の中に入っていく提督を追い掛けるようにして後に続く。

 

「サッ◯ロ一番の粉末スープの匂いがするっぽい?」

 

いい感じに直射日光を遮る竹林の中で、夕立がそんなことを口にした。

場違い極まりないその物言いに、白露なんかは「食い意地が張ってるなぁ」なんて答えていたが、言われてみたらインスタントラーメンの粉末の匂いらしきものがする。

 

「そりゃヒサカキの花の匂いだ、ちょうどこの時期に白くて小さくて大量に咲く花。だいたいどこにでも生えてて、ブルーベリーみたいな実を着ける。小さい頃は潰して遊んだもんなんだけどな」

ま、春の匂いってやつだなんて提督は言ったけど、春の匂いが粉末スープの香りというのはあんまり嬉しくない。気分だ。

 

「提督? なんかすでに掘られてるんですけどー」

そう言って指を差すのは村雨。確かに、その指の先を目で追えばすでに掘り起こされた後らしき形跡が確認できる。

 

「こりゃ猪かな? ないとは思うが、猪や鹿を見つけても追い掛けるなよ、狩猟が目的じゃねぇからな」

 

瓜坊と呼ばれる猪の子供は一見かわいいが、その付近には必ず親猪がいるものだ。

そして猪は普通に危ない。奴の突進を喰らって……艦娘なら耐えられるのかな? がっぷり組めば猪相手でも寝技に持ち込める気がしなくもないが、まぁやる意味は特にない。

鹿なんかは気が小さいので、こちら側が発見するときにはすでに逃げの体勢に入っている。あんなでも体重がかなりあるからな。

車で鹿を轢くと下手すりゃボンネットを潰して廃車コースだ。そして鹿さんはそのまま山に帰ってしまうことがあるレベルだと言えば、人類が素手でどうにかできるような話ではないと分かってもらえるだろう。

 

「猪? こんなところにも猪っているもんなの?」

ほほう白露さん。さすがに海の女だね。

あんまり想像できてないようだから教えておくが、猪も鹿も猿も、ちょっと山に入ればいくらでもいるのだ。町のすぐそこでもね。

 

国内産の木にあまり需要が見込めなくなった現在。市街にほど近い森林も高次化が進み、簡単に言うと深い森になっている。豊かに過ぎる自然ってやつだな。

山の獣が街に下りてくるのは、人間が自然を荒らした結果、山や森に餌がなくなったからではない。

それらとの物理的距離が近くなっただけの話だ。環境省の報告では数もさることながら、その生活分布域がここ数十年で2倍以上に広がっている。

 

ひと昔前なら近所のドブにでもいた蛍が姿を消し、その割に猪や鹿など目につくところまで進出してきた。あんまり嬉しくはない。

猪は危ないし、鹿は山を荒廃させ、行き着くところは大雨による土砂崩れ。愛らしい外見に似合わずキングオブ害獣。それが鹿なのだ。

 

 

「そうそう、お前ら「肉」って漢字の訓読み分かるか?」

漢字には2種類の読みがある。音読みと訓読みだ。音読みは中国由来の言葉など、訓読みは我が国オリジナルの読み。そして読んだだけで意味が分かるのはだいたい訓読みだな。

名字に訓読みが多いのもそんなところが理由だろう。

関係ないが、いわゆる大和言葉に「ら行」から始まる言葉はない。来週など、音読みの発音は外来語なのだ。

しりとりでの「ら行」殺しは普通に正しい。

 

 

さて、小学2年生で習う漢字だがこの肉。案外と読めない人が多いのではないだろうか。

これの訓読みは(しし)だ。

古来、食える四つ足の動物はなんでもシシだったのだろう。シシガミさまなんて明らかに鹿系の姿をしてるのにシシガミだものな。

 

そして山に入ってすぐに出会う肉を()(しし)。そうイノシシだ。それほど昔から、山ではありふれた動物なのである。

 

「あ、ほら。それが鹿の糞だ」

「うぉ、踏んじゃう踏んじゃう」

慌てて避ける白露。

コロコロと俵型で散らばっているのが鹿の糞。猪のはもうちょっと繋がった形をしている。

山をうろつくと、いきなり臭くなる領域みたいなところがあったりする。鹿のおしっこの匂いだ。気分の良いものではないので、あまり長居したいものではない。

同じおしっこでもえらい違いだな。いや、別に時雨のを嗅いだことはないのだけど。

 

「好んで踏みたいものではないが、どうせ山を下りたら洗うんだから、あんまり気にしなくていいぞ」

 

糞を意識して転倒するほうが危ない。倒れた竹に刺さる事故なども起きているからな。足下注意。そして前が不注意なら蜘蛛の巣に引っ掛かる2段仕掛け。山は危険がいっぱいだ。

そうは言っても糞を踏んで歩きたい乙女はいないようで、みんな避けて着いてくる。

戦争やってるときはそこら辺もうちょっとアバウトだったのにね。言ってる状況じゃなかったってのもあるけど。

 

 

違和感を覚えたのはそんなときだ。

まさか、そんなまさか。天啓が響いた。コレがそうなのだと。まったくの直感だ。

 

「て、提督! これ、これがタケノコかい?」

 

足の裏に確かに感じる固い突起の感触。

足の裏なんかで判断がつくのかと懐疑的ではあったものの、これなら1度踏めば誰でも分かるだろう。

人間のセンサーってやつは侮れないと、そう思った。艦娘だけど。

 

すぐに提督がやって来て、時雨と変わってその場所を踏む。そしてにっこり笑って親指を立てたのだった。

幸運艦の面目はこれで保ったはず。時雨はホッと胸を撫で下ろした。

 




竹の成長速度は早い。
雨でも降った日にはグングン育ってる。

むか〜し、その成長速度を利用した拷問ってか処刑方法があってだな。
頭を出したタケノコの上に女性を縛りつけ、丸出しの秘穴にそれを充てがっておくとだなぁ。

有名な逸話だが、ホントにあったかどうかは謎。


ところでタケノコといえばメンマだよね。これ、ちょっと前まではシナチクが一般名称だったの知ってる?
メンマ呼びを浸透させたのは一つの瓶詰めの商品。桃屋のアレだ。

シナチクはまんま「支那竹」。支那蕎麦なんかも聞いたよね。
Chinaと自分で名乗ってるものの、なぜか「シナ」と言うと差別的に捉えられちゃう謎。
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