少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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「新しい」この漢字を読めない日本人はなかなかいないと思うが、実はこれ、元々の読みは「あらたしい」。

「装いを新たに」だと「あらた」と読むよね。そっちが本当。
発音が難しかったので「あたら」の誤用で広まったらしい。

言葉は使われることで変化する。

ただ、マスコミなどが変に流行らせた「募金をする」はどうかと思う。山田さんたちがするのは普通「寄付」のほうだ。

もちろん本編には毛ほどの関係もない。



お出かけの艦隊

「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」

執務室に入ってくるなり怒号を放つのは霞だ。

「やあ霞。今日も元気そうだね」

「アンタも少しは注意なさいったら」

声を掛けてきた時雨に向き合いながら、仰ぐような仕草で室内に充満している煙を払う。

 

「部屋の中真っ白じゃない、ほら窓開ける。タバコはほどほどになさいよ、体に悪いんだから」

そう言いながら提督の後ろにある窓を全開にする霞。しかし相変わらずまったく風は吹いていないようだ。

チェーンスモーカーである提督と執務室に籠るといつもこんな感じだが、長く二人で過ごしている時雨は気にならなくなっているようで煙に頓着しない。

もっとも、過去を生きた記憶からか大体の艦娘はタバコの煙に嫌悪感を持たないようなので、健康被害を気にしてくれる霞はありがたい存在ともいえる。やっぱりママである。

ここはどこでも吸い放題。時代に逆行する素晴らしき職場かな。

 

 

「アンタ一人の体じゃないんだから、もう少し自覚なさいな」

「なんだ、子供でもできたか? そりゃめでたい。生んでくれ」

 

一瞬の間を空けてから、我に返った霞が言う。

「はぁ!? できてないわよ! 砲撃されたいの?」

後ろから提督の首をキメながらも霞の顔は真っ赤に染まっている。

その様子を眺めていた時雨もジト目でこんなことを言った。

「ちょっと、本妻の前でいちゃつくのはどうなのかな」

「時雨まで一緒になって茶化さないで」

 

ちょっと目を離すと、今なにについて話しているかを理解していないのか、提督が新たにタバコを取り出した。

「なんでこのタイミングで火を点けようとしてるのよ!」

首に絡みついたまま、提督が手に持ったタバコに腕を伸ばしてもぎ取る霞。

だいたいいつもの風景だ。

 

 

 

「はい、軍令部から命令が来てるわよ」

霞が持ってきた書類を受け取り提督が目を通す。

読んでいくうちに提督の顔が面白くなさそうにしかめっ面になっていった。

「なんだぁ、演習と訓練指導? 俺らに教導やれってのか?」

「みたいね、ったく。用があるならそっちが来なさいな」

 

命令の内容は、指定された基地まで赴いてのリンガ選抜チームでの演習。それから訓練内容や艦娘の運用についての見直しと指導だった。他所の基地まで出張って行き、そこで偉そうに教導などしたくはない。艦娘の訓練であるならリンガで受け入れをしているのだ。霞じゃないがお前が来いと言いたい。

こちとら内地から戻ったばかりだぞ。人使いが荒いったらねぇ。

 

 

「さて、本当に教導のためだけにウチをご所望なのかね」

「さあね、この間のアレからウチの艦隊に目を向ける輩が増えてても不思議はないわね」

 

この間のアレとはソロモンでの海戦を発端とした一連の事件のことだ。

誤魔化すことも検討したが、南方海域進出の足掛かりにと結局ありのまま“ウチの艦隊戦”を見せつけることになった。ついでにウチの狂犬っぷりも見せつけることになってしまったので、海軍内でやたらと目立つ存在になった気がする。さらにさりげなく、また俺の階級が一つ上がりもした。

このまま行けば来年には史上最年少の最短コースで大佐だな。アホか。何度も言うが実役停年足りてねぇんだよ。俺が皇族や貴族ならいざ知らず。まったくあり得ない昇任スピードである。

どんな策謀を誰に繰り出せばこんなことが可能になるのか、本当に教えてほしいと思う。

しかし実際に昇任はしてしまったので、真面目に軍人をしている人たちに顔向けできない状態なのだ。もうこのまま放っておいてほしいと思った矢先の基地訪問というわけ。波風は立っちゃうんだろうなぁ。

 

認めようとも、俺たちは目立ってしまっている。

ソロモン海の敵を倒しに行って、そしてブインの基地を倒して帰ってきたのでそれも仕方がない。

司令官がいなくなってしまったブイン基地の後始末をラバウルの加藤司令官に丸投げして逃げるようにリンガまで帰ってきた。早く自分の城に戻ってゆっくりしたかったんだよ。ホームシックだ。悪いか。

その節はご迷惑をお掛けしました。加藤さんには悪いことをしたと思ってはいるんだぜ?

 

おかげで『目立たずコソコソと戦力を整える』リンガの方針はそろそろ返上を余儀なくされているわけだ。完全に自業自得なんだけどな。トラックのあの野郎が羨ましい。せめて精一杯の邪魔をしてやろうと心に決めた。

 

 

「で、出張のメンバーはどうなの?」

「アンタは確定よ」

「やっぱ行かなきゃダメ?」

霞の腰にすがりつき、言外に面倒だと伝えてみるが片手で引き剥がられた。

「当然でしょ。今回は定期演習じゃなくて、軍令部からの名指しよ?」

 

「他は誰を予定しているのかな?」

霞に素気無い対応をされ、拗ねたフリをしている提督の頭を撫でながら時雨が続きを促す。今日も提督をダメにする飴と鞭は活きているようだ。

「今回は公務だからね、司令官が行くんだから時雨も確定よ、秘書艦も連れていないだなんて陰口でも叩かれたら我慢できる自信がないわ」

 

まだ引きずってるのか、こいつもこいつで根に持つ性質(たち)だな。考えてみれば姉さんや時雨を始め、自分に近い艦娘は結構そういうタイプばかりな気がする。努努(ゆめゆめ)気を付けることにしようとちょっと思った。

 

 

「警護艦には夕立を連れて行くわ。あとワタシも当然行くとして、教導するんだから鈴谷、他は阿武隈と六駆でも連れて行こうかしら」

「結構な大所帯になるな」

「だから、遊びに行くわけじゃないんだってば」

腰に手を当ててプチっと仁王立ちの霞。かわいい。相変わらず眉を険しく寄せているが、そろそろみんなも慣れただろう。これで通常モードの霞だ。

 

「移動はどうするんだい?」

「到着までずっと海路よ、司令座乗艦を出すわ。艤装や銃器の類を持ち歩くしね。紛失でもされたらたまったもんじゃないし、騒ぎになるのもゴメンよ」

移動についての質問をする時雨にそう答える霞。結構な人数になるしね、船で海を渡り、その後を陸路にするなら電車かバスを借りるなどしなくてはならない。なら最初から最後まで海路を行ったほうが楽だし安全だ。

どうせ目的地も海軍施設なんだし、海から直通だからな。

 

 

「あれ? 金剛は連れていかないのか?」

霞の腰目掛けてダイブしながら、金剛の名前を挙げなかったことに対する疑問を口にする提督。

「だから、しがみつかないでったら」

 

見事なターンで言葉どおりスルリと提督の腕から逃れる霞も慣れたもので、変わらぬテンポで説明を続ける。

「金剛まで連れて行ったら誰がここの指揮を執るのよ。向こうへの滞在予定期間10日よ?」

 

「そんなに離れるのか? 面倒だ、やめようぜ」

そう言って3度霞の腰にしがみつくが、もう反応するのが面倒なのか、振りほどかれないまま話を進められた。

「アンタが軍令部相手に譲歩を引き出せるなら勝手にやってよ」

「金剛怒るんじゃない?」

反応されないのがちょっと寂しくて、腰にしがみついたまま顔をグイグイ押し付けてみるが、やはり相手にしないことに決めたようだ。完全に無視されている。

 

「大人なんだから、その辺の分別はつくでしょ。ゴネるようならアンタが言い聞かせて」

密着している霞からは良い匂いがする。提督がプレゼントした目にも鮮やかなホットピンク! な容器に入った香水と、その中から仄かに香るのは若さ弾ける霞の体臭ってやつだ。しっかしコイツ腰細いな。いけない気持ちになってくる。

 

「ほら、本妻が見てるったら。いつまでやってんの」

「僕は理解のある女を目指しているからね、気にしてもらわなくても大丈夫だよ」

ダメだ。茶化し返してやろうと思った霞だが、この程度では時雨のぶ厚い仮面を剥がすことはできないらしい。

 

「問題なければこのまま進めるわよ?」

「うん、ありがとう。お願いするね」

 

 

 

提督を引き剥がした霞が執務室を出て行ってから、時雨は研修に来ていた他の泊地に所属する艦娘を思い出していた。

ウチの艦隊はもうずっとこんな感じだが、やはり慣れていないといろいろと面食らうらしい。

その艦娘が研修開始の挨拶に来ていたときだ、そこへ軍令部からの命令書を受け取った霞が、内容を吟味した上で艦隊指針を作成し、その報告に訪れた。

いつものように報告を聞き、僕が了承した。

 

 

後になって、興奮した声の艦娘から問いただされたんだっけ。

 

軍令部からの命令書を艦娘が受け取り、勝手に内容を確認するなんて他の艦隊では考えられない。

艦隊の運用に意見を挟むどころか、その全てを艦娘が考案し、司令官へ逆提案するだなんて想像もできない。

そしてそれらを叱咤するでもなく、確認や質問は司令官を横目に秘書艦が行い、挙句に許可を出すのも秘書艦だなんて! まかり通るハズがないと、そういう内容だった。

 

 

ウチの艦隊で当たり前のように行われる、なんてことないただの日常の一コマだ。

義務と権利を標榜とし、人間と艦娘で歪んだヒエラルキーを持たないよう注力して作られたこの基地のシステムに則って、粛々と作業を進めただけ。

提督の作り上げたそれらはこの海域ではすでに当たり前になっている。それが世界の当たり前になる日はいつ頃なのか、朧げにそんなことを思う。

 

 

「あ、また。霞にどやされるよ?」

夢想していた意識が回帰すると、タバコに火を点けようとしている提督が目に入った。

 

「一応本数には気を付けているんだけどなぁ、書類仕事してるとついつい口が寂しく……。そだな、時雨が代わりになるなら減らせられるかもしれないけど」

「僕で代わりになるのかい? どうしたらいいかな?」

 

軽く重いセクハラを入れただけだが、時雨には伝わらなかったらしい。

「冗談だ、気にしないでくれ。時雨はタバコの匂いとか気になるか?」

「ううん。もう慣れたもんだよ、提督の匂いは安心できるから好きだよ」

 

あら、いい子。頭を撫でてやることにしよう。

さてさて、ただの戦力の底上げを考えているのか、それとも。今度は誰がなにを企んでいるのかなぁ。

 




「君に俺のセイシをかけたい!」


言葉は変容していくものだが、ちょうど今、過渡期にあるのがお寿司の数え方。らしい。
寿司は「一貫」と数えるが、本来なら2つで一貫。1つは半貫と言う。
江戸時代なんかに食べられた庶民の弁当がお寿司だが、当時の寿司はデカかった。食べやすいように半分に切ったのが今の姿なので、2つで1つなのだ。

でも最近は1つを一貫と呼ぶ店なんかもあるらしいね。
らしい。見たことはないんだが、そう教えてくれた人が何人かいた。
回転寿司とかなのかな? 行かないから分かんない。
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