少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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「時雨の好きな食べ物ってなに?」

「唐突だね、朝食の目玉焼きはほとんど固焼きの半熟、味付けは塩コショウで、付け合わせのベーコンはカリカリまで焼かないでほしいね。スープはコーンスープよりもジャガイモのポタージュがいいかな。そうだ、一緒に出されるフォークなんかの金物にも気を付けてほしいんだよ! 18-10以上の食器じゃないと金気が気になるからね」


「それは司令官の好みでしょうが」


前話が微妙だったので慌てて投下の番外話!を昨日投稿し忘れた。



〜夫唱婦随の不即不離〜

「待たせといていいわよ、どうせ私用のくだらない話だから」

 

 

新たに長波を迎え入れて数日。元来人懐っこく社交的な長波はなんの問題もなく基地に溶け込んだ。

初めてリンガに足を踏み入れたときは、その妖精さんの多さと基地で働く人間の数に気圧された様子も見せたが、それにもすぐに馴染んだ。今ではその両者とも、一緒に食事したりバカ話をできる相手も見つけたらしい。

 

長波を艦隊に招くことになった最大の理由は基地の内政だ。陸上訓練の合間にせっせと書類仕事を仕込まれている。おかげでリンガに来てからはまだ1度も海に立てていない長波だが、まだしばらくそれは後回しになりそうだ。

 

南遣艦隊総司令艦の、その懐刀と呼ばれることになるのはまだ数年先の話。

 

 

 

本日の長波は、管理部に割り当てられている部屋にて霞に指示されている書類を作成していた。

基地に慣れるには基地を知るのが1番だと、任された仕事は基地内で働く人員の管理。

彼ら彼女らの部署や規模、責任者の評価からその人件費までを把握して適切な運用をしろだなんて、つい先日合流した新人に任せる仕事ではないと思う。おかげでここに来てから毎日のように面談を繰り返し行うハメになっている。

 

そうやってしてまず完成したのは、炊事洗濯掃除などを担当してくれている近隣住民を主体としている部署のファイル。しれっと妖精さんたちが混ざっていたので苦戦を強いられたが、難しく考えることはないと開き直ってからは順調に仕事が進んだ。

 

彼女らも一人として数えて人員に入れてやったのだ。気ままにふらりと移動していき、気が付けば別の作業を勝手に始めているイメージのあった妖精さんたちだが、意外なことにアンタの仕事はここで野菜の皮むきだ! と指示すると素直に従っていた。合わせて、違う仕事がしたくなったときには責任者に報告して指示を待てと伝えると、それは見事な返礼で応えてもくれたのでこれで良かったのだろう。

飽き性だが結構なんでも器用にこなす妖精さんたちだ。今後の運用を見ながら適切な期間でローテーションしてやれば問題なく機能していく気がする。

 

初仕事としていきなり頭を殴られたくらいのインパクトはあったが、ともあれ完成した書類を霞に確認してもらう。

そんな折だ、提督が入り口のところで霞に向かってにこやかに手を振りながら笑顔を向けていたのは。

 

 

 

それをチラリと横目で確認した霞は、しかし見事にスルーして長波の作成した書類を良くできていると感心しながら確認を続けた。冒頭のセリフはそのときのものだ。

 

私用ならば司令官を待たせてもいいのかと疑問には思ったが、霞がそう判断したのならいいのだろう。最初は戸惑ったが、ここはそういう風にできている。

 

「なんで私用の要件だって分かったんだ?」

一瞬なにを問われているのかわからず虚を突かれた霞だが、その質問内容を理解してもすぐには言葉が出てこなかった。

 

「なんでなんだろ」

つい指をアゴに当てて考えてしまう。

 

 

焦れた提督が部屋に入ってきて声を掛ける。

「おーい、無視すんなよ」

「どうせ私用でしょ、この書類だけ確認したら終わるから」

そこまで言って、霞は現在の時刻を思い出す。

 

「ちょうどいいわ、閉められる前に食堂行っててくれない?」

そろそろ食堂が閉まる時間で、下手をすると夕食を摂り損ねるところだった。どうせ司令官もまだ食べてはいないだろう。

 

「すぐ?」

「すぐよ」

それだけ聞くと司令官は部屋を出て行き、扉を閉める前に先に注文しておくから遅れるなとだけ告げた。

 

提督を使いっ走りみたいに扱うこのやり取りにも慣れないが、あの男と霞はこれで上手くやっているらしい。

どれだけ邪険に扱われても、こうやってして霞を構いに来るのがその証拠だろう。

なので、胸中にあったのはそれとは違う新たな疑問だ。

提督の背中が扉の向こうに消えるのを見届けたあと、長波が口を開いた。

「いいのかい?」

「なにが?」

「今週のメニューまだ見てないだろ?」

 

リンガの食堂で出される夕食は日替わりのセットと週替わりのセットが1つずつ用意され、どちらか好きな物を選んで注文できる。本日はそのセットが変更になる日と教えられていた。

 

「なに悩んでるんだよ」

霞はますます考え込むような仕草をして、ついには止まってしまっていた。

 

「なんでだろ、一緒に食べるときは同じ物を食べてる気がするけど、普段は自分で選んでるんだっけ」

思い返してみると覚えがない。ただ嫌いな物を食べている記憶もないので、自分で選んでいるのかもしれない。

 

「アイツ、ワタシの好物とか知ってるのかしら」

なんだ、ただの惚気なんじゃないかと長波は思った。提督が霞の好みを知っているのか、霞の好みが提督に寄っているのかは知らないが、どちらにせよ惚気には違いない。

控えめに言って、犬に食われちまえ。そう思う。

 

 

まあいいわ、そう言って書類の確認作業に戻る霞。

待て、最初の疑問の返答がまだだぞ?

「で、私用だって判断した理由は分かったのかい?」

「あぁ、それね」

書類から目を離さないまま霞が答える。

考えてみたら考えるまでもない、至極簡単な理由だった。

 

「呼ばれなかったからよ」

「どういうことだい?」

「仕事の話なら呼び出されるのよ、相談や打ち合わせなら執務室、大勢で話し合いの場を持つなら会議室、現物を見ながらじゃないと分からないときはその都度現場にって具合にね」

「あぁ、そういう」

「そ、考えたことなかったけど、アイツから来るときは個人的な要件のときだけね」

 

なるほど、タネを明かされれば単純なものだ。しかしそんな風に、誰にでも分かるほどキレイに分類される行動原理が日常で自然に起きるものなのだろうか。

 

「それ、提督は意識してやってるのかねぇ」

「さあどうかしら、無意識なら彼らしい配慮だと思うし、意識してやってるんだったらアイツらしい計算だと思うけど」

 

そこまで言ってから、霞は書類の決裁欄に自分の印を捺く。

「問題ないわ、さすがに飲み込むのが早いわね、これから楽させてもらえそうで有難いわ」

「こっちは慣れない書類仕事で一杯いっぱいだ」

話しながらでも霞の仕事は早い。これの補助をしろなど、今後は大変な生活を強いられそうだと苦笑いするしかない。

 

 

「書類仕事に慣れたらさっさと司令艦認定の試験を受けてもらいたいんだけど」

「なんだいそりゃ?」

「ウチの艦隊で幹部艦娘になるための近道よ。今のところ駆逐艦で認定持ってるのはワタシと村雨だけだけど」

 

海上訓練も後回しになってる状況で、この上さらに勉強をさせようと言うのか。初っ端から先が思いやられることばかりだ。

まぁ、期待されたらどうせ応えるんだけど。

 

「これ以上なにをやらせようってんだよ」

「その名のとおり司令艦よ、アイツも言ってたんでしょ? 艦娘の指揮を執れる子が欲しいの」

「はぁ、ホントに駆逐艦が指揮執ってるんだね」

「別に駆逐艦が執るべきと言われたわけでもないんだけどね、ここは駆逐艦が1番多いから」

 

話には聞いていたし、基地内での霞の立場は実際にこの目で見ている。

しかしここで作戦に参加したことはまだない。事務作業をしている霞の姿しか見ていない現状、指揮を執る艦娘。それも駆逐艦だ。実感はまだ湧きにくい。

 

「私みたいな新参者が指揮を執るのに問題はないのかい?」

「まったく問題ないわ、ここでは能力と役職だけが全てだから」

 

言ってる間にも手は止まらず、机に広げられていた書類や決裁印など自分の仕事も次々処理していく霞。こりゃ提督が心配するわけだ。仕方がない、せいぜい霞の役に立ってやることにするか。長波がこの艦隊でやりがいを見つけた瞬間だった。

 

「それじゃあ行きましょうか」

「うん? どこに?」

「食堂よ、長波もどうせ食べてないんでしょ?」

「食べちゃいないけど、提督と食べるんだろ? 私が同席してもいいのかい?」

「どうせ三人分頼んでるわよ」

 

アイツもアイツで苦労性らしい。妙に気の回る二人は似たもの同士だな。

親友であり戦友でもある霞が、文句も言わず……文句は言ってるか。それでも彼を提督として信頼しているのは見てたらすぐに分かる。

あの男の害になるものなら体を張って、そのなんでもを取り除いてやりたいという気概さえ感じる。

 

提督と食卓を一緒するだなんて他の基地では考えられないことだが、ここの水は良く馴染む。霞にそこまで思わせる男だ。飯がてら交流を図るのもいいだろう。私に好き嫌いがなくて良かったと思いながら、霞と二人で部屋を出た。

 

 

 




「時雨の好きな食べ物って知ってる?」

「唐突だな、朝食ならほとんど固焼きの半熟目玉焼き。アイツの味付けは塩コショウだ。ベーコンはカリカリまで焼かないのが好きで、スープはコーンスープよりもジャガイモのポタージュ派。そうだ、食い物じゃないが、結構鼻が利くやつだからな。フォークなんかの金物にも気を付けてやったほうがポイント高いと思うゾ」


どうも。番外編を挟まないと死んでしまう病を患っている山田さんです。あ、お薬は結構です。

長波サマ。
強烈な持ち物を携えているが、お腹も素敵だと思う。
朝霜は子供特有の細っこい体つきをしてるけど、長波サマはどこもかしこも柔らかそうだよね。両者ともに甲乙つけ難い。

しかし長波サマのウリはそこじゃあないね!

あの人間力、女子力。
実際にクラスや職場など、身近にいたらめちゃくちゃ魅力的なのは長波サマだろう。

そんな長波サマは霞や島風と組ませたくなるね。なぜかこの話では白露とヤンチャチームを組んでることが多いけど。
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